グランドセイコー、「THE FLOW OF TIME」 東京展開催中~時の流れを眺めて

 By : KITAMURA(a-ls)


本サイトでも既報だが、2018年4月ミラノデザインウィークで発表されたグランド・セイコー、 「THE FLOW OF TIME」の東京展が10月20日(土)から27日(土)まで、polygon青山にて開催されている。



開催の前日、そのプレス発表会にお招きいただいた。

会場に流れるのは、ほどよい暗さの中を浮遊する音楽、そして寄せては返す波のように繰り返される映像・・・。



日本人の感性が欧米人の心をとらえるのは、なにも最近のアニメやラーメンに始まったわけではない。19世紀に開国した日本から流れ出した様々な感性は、ジャポニズムと呼ばれ、ゴッホをはじめとするヨーロッパのアーティストや職人、そしてそれらを愛でる上流階級層に大きなインパクトと影響とを与えた。

その影響のひとつに、古来からヨーロッパには厳然あったアーティストとクラフトマンとの境界、つまり芸術家と職人との障壁に、多少なりグラデーションを生じさせたということがある。芸術も工芸も作品という同じ括りの中にはあるのだが、名を残すのが芸術家、技を残すのが職人というイメージがあった。そうした概念の変化にジャポニズムは少なからず影響を与えたし、それがなければ、たとえばガラス工芸を芸術にまで高めたエミール・ガレの名などは現在に残らなかったかもしれない。

その点わが日本は、今でこそ江戸後期の最高芸術のひとつとされる浮世絵などに顕著だが、絵師、彫り師、摺師、そして販売元といういわばプロデューサーまで、作品の完成度を追求する芸術家(絵師)・職人(彫り師、摺師)、はたまたコンセプター(販売元)までが、各々の能力・才覚を集結した、そんな作品が世に溢れ、しかも庶民がそれを楽しむという鷹揚さがあった。


さて、今回の「THE FLOW OF TIME」である。


自分の中では時計師とは芸術家以上に芸術家でなければ時計師たりえないというイメージがあるのだが、世間一般では職人仕事の権化のように思われているに違いない機械式時計の世界。かたや、総合プロデュースの桐山 登士樹氏をはじめ、映像を構築したデザイナーの阿部 伸吾(ディレクション)・大木 大輔(撮影)両氏や、オブジェ制作を含めたインスタレーション・デザインの吉泉聡氏、そしてサウンドを担当した高橋 琢哉氏らの、いわゆるのアートの世界。こうした両世界のコラボレーションを成立させるにおいて、グランド・セイコーの誇るスプリング・ドライブは、まさに格好の素材だったと思う。


あまり書いてしまうとファーストインプレッションのインパクトが薄れてしまうかもしれないから、ぼんやりとキーワード的なことを列挙すると――、

縦の時系列にある時計の製作工程を同一時間軸に並べた12個のオブジェ、
季節も時間も朝夕もその終わりなく"たゆとう"色やディテールを繰り返すミニマリスティックな映像、
イメージのさくら、イメージの天空、イメージの滴(しずく)・・・・・映像と音と旋律とゆらぎ、、
さらにはそれらを"ひぐらしで"俯瞰できる、超越的な"縁側"と呼ばれていたスペース・・・・。

イメージこそ盛りだくさんだが、実は展示はミニマリスティックで、
空っぽに近い空間が、展示物によってではなく、空(から)と間(ま)と、
その理解のほとんどが、見る人の感性に委ねられている・・・・。

煎じ詰めれば、時計の展示なのに、茶道や華道や香道などのそれに近い、
実に日本的な空間を感じるのだ。







実際ミラノでは、どの展示も決まった順路や見るべきものが目白押しの中、このグランドセイコーのスペースに足を踏み入れた方の多くが、床や"縁側"に座ったまま、しばしじっとまどろんでいるような光景があまた見られたという。



しかし今回はミラノの完全復元ではないそうだ。
12個のオブジェは直線でなく、文字盤や針の軌道のように自然に湾曲していたり、ヨーロッパでは最も東京的なイメージが強いとされミラノ展の映像に採用されていた渋谷のスクランブル交差点の映像が、東京展では銀座のあのランドマーク、和光の時計塔に換わっていたりして、そういうこぼれ話を伺いながら、わたしも取材を忘れて、ぼぉぉぉぉぉ~っと長居してしまった。

また、別コーナーには、スプリングドライブと通常のメカニカルウォッチの比較コーナーもあるので、文系のかたはもちろん、理系のかたも楽しめるようになっていると思う。





10月27日(土)まで開催されているので、
ぼぉぉぉぉぉ~っとしたい方は是非お出かけください。



【開催概要ーExhibition Overview】
会場:polygon青山 
    東京都港区北青山3-5-14 青山鈴木硝子ビル B1
会期:2018年10月20日(土)–27日(土) 
時間:10:30–19:30
入場料無料


■特設サイト
https://www.grand-seiko.com/jp-ja/special/milandesignweek/2018/tokyo