クロノグラフとアポロ13号~打ち上げから50年、オメガ スピードマスター クロノグラフが刻んだアポロ13号の運命の14秒

 By : KITAMURA(a-ls)


5年前に個人ブログに書いた「クロノグラフ」という文章から、少し長くなるが引用。


クロノグラフは機械式時計の“華”である。

時計のムーブメントをその裏側から見つめ、そこに組み合わされた金属パーツを美しいと感ずるか否か。
大袈裟に言えば、人類はここで2つのタイプに分類されると言える(笑)。



その際、精密機械としての時計のムーブメントを最も美しく見せるのは、複雑に湾曲したクロノグラフパーツであり、もしもそれらを美しいと感じられるのならば、あなたにとっての機械式時計の魅惑的世界は、まだまだ延々と、限りなく広がっていくことだろう!



現在のアジアのユーザー、特に中国市場においては、クロノグラフはほとんど使わない機能として、あまり好まれないと言われている。
有名ブランド各社が、この“あまり使われない機構”に、なぜこれほどの技術力と開発費を注ぐのか。それはたぶん、クロノグラフが機械式時計の端的な美観の象徴であると同時に、機械式時計におけるクロノグラフの歴史に内包された多くのロマンが、時計人の”血”を突き動かすからのような気もする。

19世紀の半ばにクロノグラフという任意の時間を計測する複雑な機能が案出され、やがてそれが懐中時計に備わるまでのストーリー。
さらにそれを腕時計に載せるためには、それぞれのパーツを小型化する必要があったが、当時殆ど手造りであった部品製作の技術ではそれは不可能と言われた。

職人たちはいかにしてその難題を超越していったのか、また、精度を出すために、壊れにくくするために、安価にするために、技術者がどれだけの知恵を絞ったのか、それらはどれも書籍一冊を費やしてもまだ足りないくらいのストーリーを秘めている。

さらにニ度の世界大戦を経て、クロノグラフはますます必須の機能となった。
航空機の時代、文字盤に新たなメーターを加えることで、複雑な計算尺の役割をも果たしたのだ。位置と方位、燃料と時間、音と距離、そしてドクターには脈拍も計測可能とした。

やがてクロノグラフは航空機から宇宙飛行へと飛躍する。
過酷なテストをクリアし、NASA(アメリカ航空宇宙局)の唯一の公認クロノグラフとなったオメガのスピードマスターは、アポロ11号のパイロットとともに月面に降り立った最初の腕時計となった。



また、オメガのスピードマスターとアポロ計画の偉大なエピソードとして忘れることができないのは、1970年に月に向かったアポロ13号である。機は酸素タンクの爆発という大事故に見舞われ、電気系統に致命的な損傷を負い、地球への帰還軌道から外れつつあった。このまま軌道がズレれば、永久に宇宙を彷徨い続けるか大気圏にぶつかり燃え尽きてしまう。生還のチャンスはただ一度、指定された時間に正確に14秒間だけエンジンを噴射して軌道を修正することだった。

しかし自動誘導システムが破損していたため、その14秒は手動で計るしかなかった。そんな状況下、宇宙飛行士が持っていた計測手段はただひとつ、オメガ スピードマスターのクロノグラフのみ。アポロ13号のクルーたちはそのクロノグラフ機能の14秒に、自らの生命と運命を託したのだ・・・。


時々ふと考える。

自分がいちばん好きな時計の機構ってなんだろうか・・・、と。




さて今からちょうど50年前の今日、1970年4月11日は、この運命のアポロ13号が打ち上げられた日だ。
月面着陸という大偉業を成しとけたアポロ11号や続くアポロ12号などと違い、ミッションとしては失敗ながら、予想外の事故の中で乗組員全の無事帰還を果たしたアポロ13号のフライトは、"成功した失敗"と呼ばれている。

さて長ぁ~い前置きとなってしまったが、というわけで今回は、アポロ11号のように50年周年を祝すことはなくとも、時計という存在におけるクロノグラフという機構が果たした50年前の功績に対し、オメガからリリースが発行されているので、ご紹介したい。


以下、オメガからのメッセージ&リリース


「このご時世、皆さま大変な日々を送られているかと思います。
ほんのつかの間ですが、50年前、はるか30万km以上も離れた宇宙で起こった事故を乗り越え、
“成功した失敗”と語り継がれるストーリーをお楽しみいただければ幸いです。」



1970年4月11日13時13分、打ち上げ

今から50年前の1970年4月11日、アポロ13号が打ち上げられました 。


●ケネディ宇宙センターから打ち上げられたアポロ13号。乗組員をはじめ地上で見守る 誰一人として、この後待ち受ける出来事を予想できなかった

ベテラン宇宙飛行士であるジェームズ ・ ラべルを船長とし、乗組員たちは月を目指し出発しました。人類にとって3度目の月着陸を遂行し、アポロ計画成功の歴史に新たな 1ページを刻む予定でした。ラベル船長、司令船パイロットのジャック ・ スワイガート、そして月着陸船パイロット のフレッド ・ ヘイズの 3人の宇宙飛行士は皆、オメガの 「スピードマスター プロフェッショナル」 を着用していました。この 時計は、1965年からNASAのすべての有人宇宙計画の公式装備品の 1つだからです。


●打ち上げ台に向かうため、バンに乗り込む搭乗員たち(上)とジェームズ・ラベル船長(下)


アポロ13号計画でも、 オメガのスピードマスターが必需品の 1つと して宇宙飛行士に支給 されました。1964年にオメガのスピードマスターを初めてテストし、公式装備品として認定した当時のNASAのエンジニアであるジェームズ・ ラーガンは 「オメガの時計は重要なバックアップです。宇宙飛行中に地上との交信が途絶えたり 、 デジタルタイマーが故障するなどの問題が起こった際、 宇宙飛行士が頼れる唯一のアイテムが腕に装着された時計なのです。 もしもの時に 備える欠かせない存在と言えます 」 と語っています。
ラーガンは もしもの時と語りましたが 、 アポロ13号はその"もしも"と直面することになります。 それは、 地上を離れてからわずか 2日目に起こりました。


●月着陸船内のラベル船長(左)とヒューストンの管制センター(右)


“ヒューストン、何か問題が発生したようだ ”

司令船パイロットのジャック・スワイガードの声が管制センターに飛び込んできました 。
酸素タンクが爆発したことにより機械船が機能を失い、宇宙飛行士たちは非常に危険な状況に追い込まれたのです。 月へ向かう計画は直ちに中止され、3人の乗組員たちを地球に無事帰還させることが使命となったのです。


●奥に見えるのが、大気圏突入前に切り離された機械船酸素。タンクの爆発により、大きなダメージを負っていた様子が確認できる

ヒューストンの管制センターが指示した救出戦略は、乗組員たちを月着陸船に移動させることでした 。 しかし問題は、 月着陸船が、3名もの宇宙飛行士が 長期間に渡り滞在するために設計されていなかったのです。
その為、 必然的にエネルギーを節約せねばならず、宇宙飛行士たちはほぼすべての電源を落とすことを余儀なくされました。 暗く凍える環境と対峙することになったのです。
その後数日間、月着陸船の乗組員たちには深刻な問題が次々と降りかかります。 NASAは地上から、刻一刻 と変化し続ける状況を昼夜関係 なくサポートし続けました。 そしていよいよ最後の難関を迎える時、 オメガの絶対的な精度が活かされることとなったのです。
その時、 月着陸船は、 安全な帰還コースから 約60~80海里(約111 Km~148 Km)ほど離れた場所を飛行しており、 その まま行けば誤った角度で大気圏に再突入することになり、 宇宙に跳ね返されて地球に戻ることはできなくなるのです 。


すべては正確な14秒にかかっていた

無事帰還するためには宇宙船の軌道を手動で調整せねばならず、 そのためには エンジンを きっかり14秒間噴射させる 必要がありました。 デジタルタイマーが使用できない状況の中、スワイガートは オメガのスピードマスターを噴射時間の計測に利用したのです。 傍らではラベルが、 地球の地平線を指標と して宇宙船の操縦にあたりました。


●「スピードマスタープロフェッショナル」

ラベル船長は後日 、
「私たちはジャックの腕に着けられたオメガの時計を使うことにしました 。 私の役割は宇宙船を操縦すること で、 ジャックは地球に無事帰還するためにエンジンの噴射時間を正確に測ることでした。」 と話しました 。
このジャックがスピードマスターで正確に測った14 秒が運命を分ける時間となったのです 。


4月17日、生還

前例のないこの軌道修正計画は大成功し 、 4月17日 、 アポロ13号は南太平洋に無事着水しました。 発射から142時間54 分後の帰還でした 。 オメガの時計はその役目を全うし 、 目的通りの活躍を見せたのです。


●打ち上げから142時間54分後の4月17日、無事に南太平洋上に着水し、米軍艦イオージマに回収される様子


同じ年である1970年10月5日、オメガはNASAからシルバー スヌーピー アワードを贈られました。 これは、有人宇宙飛行計画の成功へのオメガの貢献に対してNASAの感謝の意を表したものです。 権威あるこの賞が創設されたとき、 スヌーピー がNASAの非公式マスコットとして選ばれました。 これは、スヌーピーが困難な状況でも希望を持たせてくれる存在であり、 計画の成功を見守る番犬としての役割も担っているからです。


●NASAより授与された「 シルバースヌーピーアワード 」

アポロ13号計画の"成功 した失敗"において、 オメガが担った役割は大きなものでした。 このことは、 スターリングシルバーの襟章が宇宙探査史におけるオメガの功績を示す重要なアイテムのひとつとして、今もその存在感を失うことなく輝き続けていることが裏付けています 。

Photographs : courtesy of NASA from nasaimages.org (時計の写真を除く)




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スウォッチグループ ジャパン オメガ事業本部