セイコーグループ創業者の服部金太郎が設立した服部報公会の第93回(2023年)・服部報公会「報公賞」が決定

 From : SEIKO (セイコー )

2023年(第93回)服部報公会「報公賞」が決定 ~「量子コンピュータ実現に向けた超伝導量子ビット回路の先駆的研究」/
国立研究開発法人理化学研究所 量子コンピュータ研究センター センター長・中村 泰信 
東京理科大学理学研究科教授・蔡 兆申  



1930年(昭和5年)に設立された公益財団法人服部報公会(理事長:田中英彦)は、活動の一環として、工学に関する優秀な研究成果を挙げた研究者に対して、服部報公会「報公賞」を贈呈しております。
このたび、本年度の公募を行い慎重かつ厳正な審査を経て、2023年の報公賞に、国立研究開発法人理化学研究所 量子コンピュータ研究センター センター長、東京大学大学院工学系研究科 物理工学専攻 教授 中村 泰信氏と、東京理科大学理学研究科 教授、国立研究開発法人理化学研究所 量子コンピュータ研究センター チームリーダー 蔡 兆申氏の研究「量子コンピュータ実現に向けた超伝導量子ビット回路の先駆的研究」を選定いたしました。
なお、服部報公会「報公賞」の贈呈式は、10月10日(火)に開催され、賞状並びに賞金1,000万円の贈呈ならびに、本年度の「工学研究奨励援助金」として、15件の研究に対し総額1,500万円が贈られます。






[業績の概要]
従来のコンピュータの進歩が限界に達しつつあると言われる中,量子ビットの重ね合わせにより並列計算を行う量子コンピュータは,ビッグデータの情報処理において桁違いの処理能力を実現できる可能性があり,現在,世界で開発競争が行われている。
中村氏と蔡氏は,超伝導量子ビット回路の創製とその量子コンピュータへの応用分野において,先駆的かつ独創性の高い重要な多くの成果をあげてきた。両氏は,超伝導回路を用いて,0と1の任意の重ね合わせ状態を表現できる超伝導量子ビット回路の動作を1999年に世界に先駆けて実現した。これは世界初の固体素子量子ビットの実現として大きな注目を集め,量子情報科学の観点から極めて独創性と先進性の高い成果であった。2003年には,磁束量子ビットの動作実証に成功し,また,2量子ビットゲートの実現と量子もつれの生成を示し,これらは,超伝導量子コンピュータの研究開発の活発化をもたらした。続いて,超伝導量子コンピュータ研究開発の重要基盤となっている回路量子電磁力学や導波路量子電磁力学という分野を拓く実験成果をあげ,さらに、超伝導量子ビットのコヒーレンス時間を改善するための重要な研究成果もあげ,量子コンピュータの進展に極めて大きな貢献をした。

超伝導量子コンピュータの開発に関しては,D-Wave Systems社の超伝導量子アニーリングマシンやGoogle社の超伝導量子コンピュータなど,量子ビット集積化と高精度化が一気に進んだ。現在,両氏が所属する理化学研究所でも,国内初の超伝導量子コンピュータシステムとしてクラウドサービスを開始している。

このように,超伝導量子ビットの物理を解明し,量子的に制御する様々な手法を実証・発展させるなど,卓越した成果をあげることで,その後の超伝導量子コンピュータの世界的な研究の進展に対して先駆的な貢献をなすとともに,現在も発展途上にある超伝導量子コンピュータの性能向上や基本課題解決のための研究において先導的役割を果たしている。関係する分野全体の工学的進歩への寄与は非常に大きい。

これらの業績により,仁科記念賞(中村氏1999年,蔡氏2004年),江崎玲於奈賞(両氏2014年),紫綬褒章(蔡氏2018年),日本学士院賞(両氏2023年)をはじめとして,内外の大賞を受賞・受章しており、両氏の卓抜した学術業績が伺える。

以上のような研究業績は,中村氏と蔡氏が超伝導量子コンピュータおよび量子情報科学技術の分野において極めて大きな貢献をし,それが世界的に高く評価されている証と考えられ,報公賞贈呈に相応しいと審査委員会において結論した。


■受賞者略歴   

中村 泰信
生年月日: 1968年2月2日
学  歴 :1991年3月  東京大学大学院 工学系研究科 物理学専攻 修士課程修了
博士(工学)

[主要経歴]
1992年4月  日本電気株式会社 基礎研究所 研究員
2001年6月  同主任研究員
2001年9月  デルフト工科大学(オランダ)客員研究員 ~2002年8月
2005年6月  日本電気株式会社 基礎・環境研究所 主席研究員
2012年1月  東京大学大学院 工学系研究科 物理工学専攻 教授
2012年4月  東京大学 先端科学技術研究センター 教授 
2014年2月  理化学研究所 創発物性科学研究センター チームリーダー
2021年4月  理化学研究所 量子コンピュータ研究センター センター長 現在に至る
2022年4月  東京大学大学院 工学系研究科 物理工学専攻 教授 現在に至る
[受賞歴]
1999年   応用物理学会講演奨励賞
          サー・マーティン・ウッド賞
        仁科記念賞
2003年   TR100, Technology Review Magazine, MIT
2004年   Agilent Technologies Europhysics Prize
2008年   Simon Memorial Prize
2014年   2014 Thomson Reuters Highly Cited Researcher
        江崎玲於奈賞
2018年    超伝導科学技術賞
2019年   応用物理学会業績賞(研究業績)
2020年   応用物理学会解説論文賞
        APS Fellow
2021年   朝日賞
        Clarivate Highly Cited Researchers 2021
2022年   Micius Quantum Prize 2021
2023年   日本学士院賞


蔡 兆申                        
生年月日:1952年2月8日
学  歴:1983年5月   ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校物理学研究科博士課程修了
理学博士

[主要経歴]
1983年10月  日本電気株式会社入社 マイクロエレクトロニクス研究所研究員
2001年 4月  日本電気株式会社基礎研究所主席研究員
2001年 4月  理化学研究所 フロンティア研究システム チームリーダー
2007年 4月  日本電気株式会社ナノエレクトロニクス研究所 主席研究員
2012年 4月  理化学研究所 基幹研究所グループディレクター
2014年 4月  理化学研究所 創発物性科学研究センター チームリーダー
2015年 4月  東京理科大学 理学部物理学科教授現在に至る
2021年 4月  理化学研究所 量子コンピュータ研究センターチームリーダー現在に至る
2022年 4月  東京理科大学研究推進機構総合研究員教授現在に至る
[受賞歴]
2000年 APS Fellow  
2004年 仁科記念賞
2008年 Simon Memorial Prize
2010年 応用物理学会フェロー
2013年 Quantum Innovator Award
2014年 応用物理学会論文賞
超伝導科学技術省(特別賞)
江崎玲於奈賞
応用物理学会解説論文賞
2018年 紫綬褒章
2021年 朝日賞
2023年 日本学士院賞




【お問い合わせ】
公益財団法人 服部報公会 事務局
〒104-0031 東京都中央区京橋一丁目4-10
TEL 03-3275-3166 / FAX 03-3275-3165
ホームページ: https://www.hattori-hokokai.or.jp/ 



[服部報公会]
昭和5年(1930年)、株式会社服部時計店(現セイコーグループ株式会社)の創業者初代社長・服部金太郎が、その70回の誕辰にあたり、国家、社会の恩に報ずるの念をもって、私財3百万円を投じて設立した公益事業団体であります。服部報公会では、1931年(昭和6年)に第1回報公賞を贈呈して以来、毎年授賞を行って現在に至っており、今年で第93回目の贈呈になります。現在は広く工学の進歩に貢献する研究を対象として公募をしており、特定の工学分野に限定していない点が大きな特徴として挙げられます。会の目的とするところは、社会の福祉を増進し公益に資することであり、このために次の事業を遂行することとしました。
1. 国家及び社会に対し有用なる発明発見または研究を成就したるものに対する感謝及び賞金の贈呈。
2. 一般学術の特殊なる研究又は調査の奨励、援助。
3. 教育その他の公益事業に対する援助。
4. その他の本財団の目的を達成するために必要なる事業または出版を為すこと。
設立当時の役員は、理事長桜井錠二博士、理事に湯浅倉平、大河内正敏、矢野恒太、篠原三千郎の4氏、監事に穂積重遠、清水賢一郎の両氏が当り、評議員には学界ならびに政、官、財界の諸名士が名を連ねました。その後、服部金太郎が昭和9年に歿すると、嗣子2代社長 服部玄三は、設立者の遺志を継いで、さらに私財3百万円を寄附し、ここに会の基金は6百万円に増強され、当時屈指の民間公益事業団体となりました。会の発足以来今日に至る間に、我が国は、第2次世界大戦をなかにはさんでしばしば激動の波に洗われましたが、この間においても、会の事業は一度の中断もなく遂行されてまいりました。 しかし戦後の激しいインフレの昂進によって、従来の基金をもってしては事業の遂行が困難になりましたので、創立者の遺業に関係の深い会社のご協力や個人のご寄附によって逐次基金の増加を図り現在に至っております。なお、当会は平成24年1月に公益財団法人へ移行いたしました。
報公賞は、1931年(昭和6年)の第1回目より2022年に至るまでに、118件(134名)を、そして工学研究奨励援助金は、3,004件を贈呈して参りました。