手仕事交流イベント、「ドイツ時計とスチームパンク」イベント訪問レポート

 By : a-ls


先週、ドイツ愛好家にとって、とても興味深い催しがあった。

A.ランゲ&ゾーネやモーリッツ・グロスマンを通じて工房見学などをされた方はほぼお世話になっているドイツ語通訳、そしてジャーナリストやコーディネイトの仕事などもされている宮田ツィーマー侑季(YUKI ZIEMER‐MIYATA)さんが中心となり、ドイツ流手仕事によって作品を紡ぎだしている4人のマイスターの作品を紹介する一日限りの催し、「ドイツ時計とスチームパンク」が横浜で開催されたのだ。



その4人とは、
工芸作家のシュテファニー・ローン(樹脂、蝋、陶磁器、エナメル。吹きガラス、木、シルバーやゴールドなどあらゆる素材を自由に接合するクリエイター)氏。

切子ガラス作家のイエルグ・ウェスカルニス(マイセンクリスタル社在籍)氏

グラフィックデザイナー&イラストレーターのマリオン・ヴィーナ氏

そして4人のうち唯一このイベントのために来日したのが、元A.ランゲ&ゾーネ、元モーリッツ・グロスマンという経歴を持つ時計師&設計士、イエンス・シュナイダー氏である。

イエンス・シュナイダー氏といえば、A.ランゲ&ゾーネのマイルストーン的な作品のほとんどすべてに関与してきた人物で、グラスヒュッテ好きの方なら、一度はその名を耳にしているであろう人物。

●イベントでデモ作業を見せるイエンス・シュナイダー氏


ランゲやグラスヒュッテ・オリジナルの前身であるGUBを経て復興A.ランゲ&ゾーネにプロトタイピストとして入社。初代"プール・ル・メリット”のプロト製作(設計したルノー・エ・パピとの共同作業)などの成果を積み、設計部門へ異動後にはダトグラフ・パーペチュアルなどを手掛け、画期的なデザインを持つツァイトヴェルクの設計を最後にA.ランゲ&ゾーネを退く。その後はモーリッツ・グロスマンに移り、アトゥム、ベヌーの設計を手掛け、グロスマン・ウォッチの基本を作り上げた方なのである。

そのシュナイダー氏がどんな時計を持ってきたかというと、意外なことにそれは腕時計ではなく、ハーフセコンド・クロック(振り子 )時計なのであった!



それも、上の画像を見ていただければお分かりのように、電気コイルの中に永久磁石の振り子を通すことで生まれる磁力の反発によって、振り子の振動を一定に保つという、電気制御による機械式クロックなのである。

シュナイダー氏のクロック好きは有名で、グラスヒュッテ時計博物館の正面に展示されてあるヘルマン・ゲルツの天文時計をレストアしたのもシュナイダー氏だった。あまりにも熱心に多くの時間を割いたため、当時のA.ランゲ&ゾーネの上層部から関わることを止められたほどだったというし、グロスマン時代の氏の作業台の上にあった時計も、自身でレストアしたATOの電子式振り子時計だったと記憶している。

「個人的には腕時計よりもクロックがずっと好きでした。クロックにも深い歴史とその良さがありますが、現代では良質のものを作るブランドが少なく、クロックに興味を持つ人も極端に少ないことをいつも残念に思っていました。なので、自分ひとりで作るなら、断然クロックだと心に描いていたことを実現させたのです」

機械のベースはフランスのルシアン・ブリリエで、そこにシュナイダー氏が仕上げを加え、さらに歯車の内側を大きくくりぬき、細めのリムにしてポリッシュを加えるなど、ムーヴを覗いたときの見栄えにメリハリを与えるている。もちろんそうしたすべてが手仕事で施されている。

●来場者に理解しやすいように、クロックの木製の外枠ケースを外して説明してくれた。

●外枠を外した画像、安定性を保つため背板には大理石が採用されている。


外形はおそらく、アドルフ・ランゲが工房設立前に試験的に作ったとされ、かつてシュナイダー氏がオーバーホールしたこともある、ハーフセコンド振り子時計(当時の工房やエミール・ランゲの書斎にかけられ、現在はグラスヒュッテ時計博物館に所蔵)へのオマージュではないか、だったらいいなぁ~とか、ロマンを馳せたくなる作品。


●グラスヒュッテ時計博物館蔵のA.ランゲ銘の振り子時計と初期のA.ランゲ工房。壁にかけられている時計に注目。


●文字盤中央から覗ける機構、針の仕上げなど、手仕事ならではの温かみを感じさせる作品。

「もし大きな倍率のルーペでみれば、たぶん私の手仕事の痕跡がわかると思います。そこには皆さんが普段見慣れている高級時計ブランドのムーブメントのような完璧さはないかもしれません。曇りもキズもない完璧さ。実は個人的にはその完璧さに冷たさを感じて好きではないのです。どこか力を抜いているような自由なところがあっていいと思う。自分の人生もそんな感じが好きなので、それが表れているかもしれません。逆にいえば、私の手で仕上げた跡というものを、よくご覧になって、それを愉しんでいただきたいです」



「チタンを加工することにとにかく苦労しました。硬いために糸鋸の歯を何本ダメにしたでしょうか。板を正確に平らにするのもたいへんでした。いまだに難しいと感じているのが精密調整です」



ムーブの歴史や製作過程などを一冊にまとめた本を使い、いろいろな細部まで説明してくれた。
掛時計の場合、水平が少しでも動くと精度に影響するため、置き時計という形にならざるを得ないのだが、このイベント中に複数台の注文が入ったという。


●ドイツからお持ちになった作業工具類。イベントでは針の型抜きを実演してくれた。


その他、スチームパンクの作品。




今回は初めての試みということで動員のイメージがつかめず、完全な招待制イベントとしたようだが、ドイツでお世話になって宮田さんのファンとなった日本人は数多く、あっという間に予定人数に達してしまったということだ。

なので、ぜひ次回は複数日で開催していただき、ドイツ流の手仕事のモノづくりを広めていただいたり、できれば日本の手仕事ともどんどんコラボレーションしていただきたいものである。知らぬ間にうちの家人がチームスパンクの日本スタッフとなって会場のフラワーアレンジをしてたりして、アセったりもした・・・・。




ケータリングのケーキまで"時計”をモチーフに!




帰りは中華街に繰り出し、ご一緒したゲストの集合写真。見事に全員ランゲ(笑)。




夕食は中華だったとはいえ、ドイチェドイチェな楽しい一日だった!



会期を延ばすなど、より多くの方が参加できるようグレードアップした第2回に期待です。