グランドセイコー、エレガンスコレクション・漆文字盤発売に合わせた田村一舟氏の実演を観る

 By : a-ls

昨日のこと。しばらく雨天が続いていたが、久しぶりに気持ちよく晴れたので、ふらふらと銀座界隈を散策していた、俗にいう「銀ブラ」である。
一時期、「銀ブラ」が『銀座をぶらぶらする』の意味というのは実は誤りで、その語源は、『銀座でカフェー パウリスタのブラジル珈琲を飲む』という意味であるとする説が流れたが、どうやらこの説を唱えているのはカフェー パウリスタ自らであって、その根拠は乏しいのだそうだ。

90年代末にどこかのテレビ番組がこの“新説”を『銀ブラが銀座をぶらぶらするは間違いだ』として紹介したところ、短期間にいくつものテレビ番組が同様の説を、『実はコレって知ってた?』的に紹介し、あたかも真実のように流布したらしい。

メディアがこうした間違いを犯さないよう、テレビ業界にはリサーチャー、編集・出版業界には校閲という部門や外注組織があるのだが、インターネットの普及によって、それらの仕事のやり方はだいぶ変わってきてしまったようだ。

特にテレビ番組のネタ探しを仕事とするリサーチャーの能力の低下は呆れるほどで、ネタ元が他局の番組だったり、ネットだったりするのか、どこか一度紹介された行列店とかがいろんな局や番組で使いまわされたりするのは日常茶飯事だ。

“調べる”と“検索する“とはまったく違うのだ! 
インターネットなんてなかったおじさんたちの若い頃にはなぁ、本屋が我らの“グーグル“だったんだ!!

この半世紀で世の中は大きく変わり、もちろん便利にはなっているしその恩恵もありがたく享受しているのではあるが、昔ながらのものは少なくなってきたなぁ・・・と銀座4丁目の交差点を渡り、ふと和光を覗くと、なんとそこに・・・・・・!




まさに“キング・オブ・昔ながら”と言える、江戸初期から加賀に連綿と伝わる漆芸の頂点、加賀蒔絵師・田村一舟氏の実演のお知らせが!!  (長い“マクラ”にお付き合いいただきありがとうございました)


というわけで、偶然にも、先月にNEWSでも紹介した、グランドセイコー初の蒔絵文字盤を採用したエレガンス・コレクションの発売(3月8日)に合わせ( https://watch-media-online.com/news/2028/ )、最高技術の高蒔絵文字盤をグランドセイコーに供給した田村一舟氏が、製作実演するイベント現場に遭遇したというわけである。



律義極まりないことに、和光名物の時計塔が午後2時を告げるのを待ち、オンタイムで実演がスタート。
まずは主に自作されたという製作のための道具を、「さぁ触ってみて」と、最前に陣取るわたしらにどんどん手渡してくれちゃう。



そして柔和な表情で「これ(下の画像の上に写っている干した昆布のような物体)は何からできていると思います?」とお尋ねになった。



実はその答えは知っており、「く・・・・」と答えようとした刹那、「あのね、クジラの髭なんですよ」と食い気味の正解発表をなされたため、いきがかり上、「へぇー」と驚く(笑)。
ちなみにこのクジラの髭は、漆の上塗りの際に、下絵の際からはみ出た漆をすくい取るヘラとして使う。

さらに、クジラのヘラの下にある右に赤い布が貼ってある筒状の道具は、鶴の羽軸から作ったもので、微細な金粉などを布の目を通して細かに降りかける道具である。これが鶴の羽軸からできているとは知らなかった!


上の画像は、蒔絵に欠かせない金粉。それぞれミクロン単位の粒であるが、驚くべきことに、その粒はすべて球状に加工されているそうだ。今やこの技術を持つのは、金沢に1社、銀座に1社、日本全国でわずか2社だけなのだそうだ。

そして高蒔絵の大まかな説明をしていただき、


いよいよ実演に入る。
黒漆の塗りが済んでいる文字盤に下書きされた白い枠線の中を、金粉を混ぜた漆で描いていく。
この地板の素材は木ではなく真鍮だ。漆と金属の相性は良くないのだが、かといって、木では湿気などによって狂いが生じる可能性があり文字盤にはむかない。
そこで試行錯誤を重ね、下塗りの漆に金属などを混ぜることで、木にも劣らない固着を真鍮素材上に完成させたそうだ。



GS製品としての高い精度が求められるため、通常の高蒔絵の作業では使わない、30倍もの電子顕微鏡を使用しての作業となる。

「12」の文字を漆で描くのに約20分ほどかかる。
使用している筆はわずか10数本の毛をまとめたもので、これも自作品。

次が高蒔絵という名前の由来にもなっている"蒔く"行程。漆には接着性の高い膠(にかわ)の成分が混ぜ込まれているので、その上に金粉を"蒔く"と漆の上に金色が高く盛り上がってみえることになる。

これが高蒔絵と呼ばれる所以である。



そして蒔いた金粉を筆で払い、漆の上以外にある金粉を落とす。


さらにこの後、金粉に磨きをかけて輝きと艶を出していく。
ここで使う道具は、鯛牙(たいき)と呼ばれる、なんと鯛の歯を串の先に装着した、もちろん自作しかあり得ない道具。



拡大画像だと大きく思えるが、実寸はインデックスよりも小さく、その作業は精緻を極める。




実演では省略されていたが、文字盤に残った細かな金粉を除去する作業(1日ががりになることもあるそうだ)や、漆が渇くまで待つ時間など、完成までには膨大な手間と時間がかかるのである。



楔形のインデックスは銀色で描かれるので、プラチナの粉末を混ぜた漆を使用するとのこと。

展示されていた実機。
実演に興奮していたためか、ボケボケですみません。



左のモデルが黒漆、右のモデルは透漆(すけうるし)という技法によるもの。

黒漆とは生漆(きうるし)に鉄粉を混ぜる(化学反応をおこす)ことで生じる独特の深みのある黒色の漆。
一方の透漆とは生漆の中にある水分を飛ばすことで褐色に変化させ、それを重ね塗りすることで、色合いの深みを生じさせる技法である。

実演で使われた文字盤には、スモセコとパワーリザーブが描かれていないことに気づかれた方もいるかと思うが、さすがにあそこまでの細かな表示はタンポ状のプリントを使用する。しかし通常の文字盤用のインクでは漆との相性が悪いため、これまた試行錯誤の末、インクにも特別な漆を配合してあるとのことだった。


ちなみに、英語では「ジャパン」と呼ばれ、まさに日本固有の工芸とされる漆芸だが、漆自体の生産にはこれまた恐ろしい手間がかかるため、国内の漆生産者が次々と撤退・廃業し、今や漆の90%が輸入に頼っている状況なのだという。

10%しかない国産漆は高品質かつ貴重なため、そのほとんどは文化財や寺社仏閣の修復に使用され、市場にはほとんど出回らないのが実態なのだそうだが、しかしグランドセイコーは素材にもこだわり、今回のエレガンス・コレクションの文字盤に使用されている漆は、すべてが国内産の高品質な漆なのだ。



うーん、技術開発や材料の確保にそんなに手間とかコストがかかっているからゆえの、この価格(320万円 税)なのね・・・・。



こちらは田村一舟氏"監修"の漆文字盤プレサージュ。
でもお値段はGSの10分の1以下。
ん~・・・、じぃえす・・・・。
悩ましい。。。。








伝統工芸士 加賀蒔絵 田村 一舟(たむら いっしゅう)氏
1957年(昭和32年)生まれ。石川県金沢市在住。
清瀬一光師に師事し金沢に伝わる伝統蒔絵「加賀蒔絵」を習得後、世界に類を見ない独自の細密技法を生み出しました。漆器のみならず、加賀蒔絵をあしらった高級万年筆や腕時計を発表、その極めて緻密な技術による精緻な美しさが、世界的に高い評価を受けています。(SEIKOのHPより)




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