ステファン・フォルセイ氏が来日。「グルーベル フォルセイ銀座ブティック」でユーザーに直接レクチャー!

 By : KITAMURA(a-ls)


グルーベル フォルセイの時計。

最高級品だけに、なかなか目にすることもできないし、ましてや、実機に触れて操作を体験することなど夢のまた夢・・・。
そのためか、多くの時計愛好家にとってその時計は、"径の大きい高価な機械”というイメージや情報の中にのみあって、何となく自分にとって非現実的な存在となっているのではないだろうか。




しかし2011年のクロノメトリー・コンクールでの優勝や、業界関係者からユーザーまで広く参加可能で最も信頼度の高い「年間ベスト時計賞」とされる「Fondation du Grand Prix d'Horlogerie de Genève」(通称GPHG)の年間グランプリ(金の針賞)を2012年と2015年の2度にわたって受賞するなどの数々の輝かしい事実を見ると、ただ単に"非現実の”イメージに押し込んでしまうには実に惜しい時計には違いない・・・。

そんな非現実的だった時計を現実に体感できる恰好のイベントが、今月10日、(これまたオープンしたこともあまり知られていないが)、銀座のグルーベル フォルセイ・ブティックで開催された。


この日に合わせて、ラ・ショー・ド・フォンの本社から来日したのは・・・・なんと!



ステファン・フォルセイ氏、御本人!!

この天才時計師が、平均2時間、長い方だと4時間半にもわたって、ほぼマン・ツー・マン状態で、自らの時計のコンセプトから哲学、機構やら操作方法を、実に解かりやすくレクチャーしてくれるという"神イベント”が開催されたのだ。


時に熱く!




時に真摯に!




時に精緻に!



1泊3日という強行日程で疲れているに違いないのに、そんなことは微塵も感じさせず、時折ユーモアを交えながら自らの時計を語るフォルセイ氏の人柄の素晴らしさ、そしてその時計の美と凄味とに、やられっぱなしの一日となった。

まず15分程度グルーベル フォルセイの簡単な紹介レクチャーをモニターで見て、後はもう即実践あるのみ(笑)。



テーブルをはさんだ対面状態で、見たいモデルを指名すれば、すぐさま実機が手渡され、それに触れながら質問およびご本人から説明が聞けるというスペシャルすぎる構成。



朝・昼・夕と3回のセッションが行われたのだが、すべてのセッションでゲストからプレゼンの指名を受けたのはやはり、今年のSIHHで発表されたグルーベル フォルセイのエントリー・モデル、シグネチャー1だった。(上の画像でフォルセイ氏の横の壁に展示されているのもシグネチャー1)。ま、エントリーと言っても10万ドル・オーバーだが(笑)、最も現実味のあるピースであることは間違いない。

41.4mm径。古典的な大きなテンプを持つ18,000振動の三針時計。テンプそばに刻印されたDidier J.G. Cretin という銘は、10年以上グルーベル フォルセイのアトリエでテンプ設計などを専門的に行なってきた時計師の名であり、ムーブの表裏とも3Dアーキテクチャーの立体感を実現している。

●Signature 1

この時計は66本の限定。その内訳はPGケースで11本、WGケースで11本、プラチナで11本、さらに来年のSIHHでベールを脱ぐステンレス・スティールで33本。さらにこのSSケースには11本ずつの異なった文字盤ヴァリエーションがあり、この日はフォルセイ氏が持参したパッドで、特別にその一部を見せてくれた。グルーベル フォルセイ初の文字盤色もあり、どのセッションでもかなりの注目を集めていた。



■御本人の説明を聞き、キズミで舐めるように見て、そして理解できたこと

冒頭に書いたように、現実的イメージの彼方にあったクルーベル フォルセイの時計だったが、御本人からの説明を聞き、キズミで舐めるように覗いたことで、だんだん解かってきたことがある。

かの有名なルノー・エ・パピで出逢ったふたりの若き時計師ロベール・グルーベルとステファン・フォルセイが、現在の会社の母体となるムーブメント製造会社「コンプリタイム」を立ち上げたのは2001年のことだった。
なぜ彼らが起業したのか、その理由の多くは当時のスイス時計製造の実情に由来していたそうだ。

・作業の機械化が進み、伝統的な手作業が減ってきてしまっていた。
・新機構の研究開発は停滞し、トゥールビヨンの開発すら進んでいなかった。
・複雑時計はデリケートな機械とされ、振動や衝撃に脆く、実用性に乏しいものだった。

これらを改善・解決するためには摩擦・摩耗を徹底的に軽減する技術を極めなければならなかった。
そのためには、ビスの1本まで自社生産する工程が必要になった。
加えて、たとえ既存の機構であってもそこに彼ら独自の工夫を加えて、さらなる高精度や便利さを求めた。

結果、グルーベル・フォルセイのタイムピースには他にない発明や技術が凝縮されることになった。つまりは高額にならざるを得なかった。

そしてまた、仕上げへのこだわりもあった。
通常、仕上げの工程は”フィニッシュ”と呼ばれるが、グルーベル・フォルセイはそれを”デコレーション”と呼ぶのだ。
この一事をみてもその意識の高さが伝わるが、同じように仕上げにこだわるブランド、ランゲ&ゾーネと比べると、ランゲは美しい工芸作品の如くそれらを仕上げるが、グルーベル・フォルセイのそれを例えるならば、尖端的な構造物の如き美しさというか、つまり美観に加えて、実用的と安全・安定性を加味した仕上げ(デコレーション)が行われているようなイメージなのである。

実際、時計製作において彼らが最も重視するキーワードは、「手仕事」「機構」「アーキテクト」「パフォーマンスの信頼性」だという。その通りだ。使いやすく壊れない複雑時計ほど素敵なものはない。
対面でのセッションで、フォルセイ氏は何度か、30センチ以上の高さから時計をトレイへ落せて見せた。
「ほら、大丈夫だろ」といって微笑み、そして同席するセールス・マネージャーのエマニュエル氏に小声で「Sorry…」とつぶやく。あとでカタログでその時計をみたら、なんと83,937,600円というお値段であった(笑)!!



■時を刻む彫刻家、過行く時の振付師、ムーブメントの建築家、
絵筆の代わりにねじ回しを使う彼らのキャンバスは鋼であり、金属である


精度と機構を深く見つめた作品ゆえ、毎回毎回一つの時計を発明していくようなその妥協のないコンセプトは、上のような言葉で、しばしば芸術家の如く評されてきた。しかし、このような情緒的な面が、驚くほど論理的・科学的な面とともに構築されていることを決して見逃してはならない。

前述のシグニチャー1に次いで注目度が高かった 「トゥールビヨン 24セコンド ヴィジョン」は、24秒でキャリッジが1回転する、いわゆる”高速トゥールビヨン”だが、キャリッジ軸の傾き角度と回転速度の研究を積み重ねた結果、25度に傾けたキャリッジの軸を一周24秒の高速で回転させると、その遠心力で重力が分散され、最善のパフォーマンスが生まれ、時計の精度と安定性が格段に向上するという実験結果を形にしたものなのである。


●Tourbillon 24 Secondes Vision

トゥールビヨン・キャリッジは一見すると8時位置だが、正確には8時43分の位置にある。
なぜかと言うと、キャリッジを傾斜させたことで生じてしまう"厚み"を、ケースバックのドームの中に収納しているのだが、このドームが人間工学的に最も無理のない腕位置にあたるよう設計されているからだ。
まずその位置を決めてから、次にキャッリジ上部のスモールセコンドとの位置バランスを考慮し、そしてようやくムーブの設計に取り掛かったという。そのため、装着しても全く違和感がないばかりか、このドームのおかげで生まれる腕の接地面と時計との空間が空気の通り道となり、時計着用時には避けることのできなかった、汗ばむ感じを解消してくれてさえいるのだ!


●Tourbillon 24 Secondes Visionのケースバック

さらにまた工芸的な面から言うと、このモデルの文字盤のインデックスには、シャンルベ技法によってグランフー・エナメル象嵌が、さりげなく使われているのだ!
また、ステファンが左手に着けていたのが、先のミュンヘンタイムでお披露目したばかりで、来たるSIHHでの注目ピースとなるであろう24 Secondes Vision のプラチナケース+サーモンピンク・ダイヤルというピース(下の画像・左)。
これも要チェックだ。



※2015年に「Tourbillon 24 Secondes Vision 」がグランプリを受賞した際に、個人ブログに記事を書いているので、もし良かったらそちらも参照して欲しい。 http://alszanmai.exblog.jp/25047274/



次にリクエスト頻度が高かったのはGMT。チタン製の地球儀がひと際目を引くが、この地球儀の開口部を太陽に見立てると、その位置からホームタイムとローカルタイムの昼夜がまったく感覚的に理理解できるほか、ローカルタイムの設定法も実にシンプルで、裏面にはサマータイム実施の有無が即座に視覚的に理解できる機構も備わっている。

●GMT


ブティックにはこの時計用の豪華な御箱も展示してあるので、ものはついでに、ぜひみて欲しい。







■名作たちの群像とフォルセイ氏語録


●Invention Piece 3(表裏とも)

――興味はあるのですが、正直、数千万円の時計を購入することはまったく現実的ではないのです、申し訳ないが・・・。
という告白に対して。
「もちろんです、それは誰しも当然の感覚です(笑)。だからこそ、こうして私たちの時計に触れて、知って、感じていただくことから始めたいのです。」



●Quadruple Tourbillon à Differentiel Sphèrique(表裏とも)
クアドルプル トゥールビヨン ディファレンシャル スフェリカル





●24 Secondes comtemporain (Diamond set tourbillion)

「レディースウォッチを出さないのか」という質問に対し
「確かに、24 Secondes Visionを着用して下さっている女性オーナーもいらっしゃいますが、"大きいけれど女性にもお似合いですよ”とか、"ダイヤモンド・セッティングではいかがでしょう”といったセールストークじみた言い方は好きではないのでハッキリ言っておきます。今、レディースウォッチにも取り組んでいます。まだ完成は先かもしれませんが、近いうちに必ず発表します」


●Double Tourbillon 30 Technique
ダブルトゥールビヨン 30 テクニック




下の画像は超貴重! フォルセイ氏が特別に持ち込んでくれた、門外不出のアート・ピースだ。
2014年にパリのLegitimeで、14人のコンテンポラリーアーティストとRobert Filliouをしのび”帽子”をテーマにしたエキシビションでグル―ベルとフォルセイが創作した時計。 


●QP a Equation Millesime

コンピューターメカニズムと名付けられた物凄い永久カレンダーシステム+均時差計を搭載する1本。
西暦と均時差を含む全てのカレンダー操作がリューズのみでOK。普通の永久カレンダーでは絶対に不可能な、リューズを戻すことで日付を繰り下げていくこともできちゃうのだ。ちなみに、フォルセイ氏が落して見せてくれていたのがコレだった(もちろんこれはデモ機なのでご安心を)!



知れば知るほど納得感が深まるグルーベル・フォルセイだが、見疲れるまで時計とじっくり対面したのは久々で、ホントに印象的な一日となった・・・。



ステファン・フォルセイ氏のお人柄は素晴らしく、またブティック・スタッフの皆さん、セールスマネージャーのエマニエルさん、本当にお世話になりました。

下の画像は同席させていただいたゲストの方との記念撮影・・・ちょっとしたトゥールビヨン祭(笑)。時計を並べはじめたら、フォルセイ氏はその意図を即座に理解して笑ってくれたし、ラトラパンテが大好物とも言っていた。


銀座ブティックでは今後もこうしたプレゼンイベントを定期的に開く予定とのことなので、興味を持たれた方はブティックに連絡するか、もしくはこの記事のコメント欄に連絡先をお残しください。
いやぁ実に愉しかった!
そして、ぜひまた参加して、グルーベル・フォルセイをもっともっと知りたくなったイベントだった!






【問合せ】
グルーベル フォルセイ 銀座ブティック
104-0061
東京都中央区銀座6-4-6 花の木ビル 1F
03-6264-5685
www.vitaelucis.com

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