オメガ スピードマスター 「ST145.012-67SP(1968年製)」 オークション結果~ブランドが示した誇りと情熱

 By : KITAMURA(a-ls)


先日、「オメガ スピードマスター 「ST145.012-67SP(1968年製)」~或るオークション・ピースに投影された文学と歴史」というタイトル(参考→ https://watch-media-online.com/blogs/5098/ ) で、米国の著名な小説家、ラルフ・エリソン(1913-1994年)が愛用したスピードマスターのヒストリーを、最近の時計オークション市場の異常な過熱ぶりと絡めた記事にした。

時計には受け継がれていくべき重要な意味があると理解し、その時計とともに受け継がれていく感情の重みを文学として描いたエリソンの愛した「スピードマスター」は、まさに文化遺産であり、その思念のこもった時計が昨今の時計オークションの高騰の中で、投機とか資産価値とか、そうした類のよこしまな欲望の対象になるのは忍びなく、『2021年を締めくくる時計オークションにおけるその良心の試金石として、ぜひとも注目していたい』という言葉でその記事を締めくくった。

オークションの結果は $667,800での落札ということで、ここに投機マネーが作用したのかどうかちょっと微妙な決着であったが、この度、その落札者がプレスリリースをだした。そしてそれによってこの貴重な個体に本当に望ましいハッピーエンドが訪れたことがわかり、世の中まだ捨てたもんじゃないと感じたというか、オメガって本当に素晴らしいと心から実感できたのだ。

12月12日開催のフィリップス・NY オークション
ロットNo.138 「オメガ スピードマスター ST145.012-67SP (1968年製)」


その落札者は、オメガ ミュージアムだった!

これによってこの個体は、値段という世俗的な関心から解き放たれるうえ、誕生の地ビール(ビエンヌ)に戻ることができて、ミュージアムを訪れたオメガファンなら誰でも見ることができる。
以下、オメガから発表されたプレスリリースを引用しておこう。




ラルフ・エリソン氏のスピードマスター、オークションで オメガが 落札

この度オメガミュージアムは、著名なアメリカ人小説家であるラルフ・エリソン氏がかつて所有していたスピードマスターを落札しました。歴史的価値の高いこのタイムピースは、ニューヨークで開催されたフィリップスのオークションで大きな注目を 集めました。今回オメガが落札したことにより、このスピードマスターは元々の故郷であるスイスの都市ビールに戻り、ミュージアムで展示されることになります。


ラルフ・エリソン氏は、1952年に出版された小説「見えない人間」でその名をよく知られています。エリソン氏の個人的な苦悩を色濃く反映したこの小説は、20世紀 初頭にアフリカ系アメリカ人が直面していた社会問題をテーマにしており、当時、 ジャンルを超えて大きな反響を生み、高い評価を得ました。1953年、彼は全米図書賞フィクション部門を受賞し、アフリカ系アメリカ人作家としては初めての快挙となりました。

オメガ社 社長兼CEOのレイナルド・アッシェリマンは、
「ラルフ・エリソン氏が所有していたタイムピースを、スイスのオメガ本社に持ち帰ることを大変光栄に思います。彼は絶大な影響力を持つ作家であると同時に、強烈な個性と才能を併せ持った才人でした。人並外れた人生を歩んだエリソン氏と長い時間を共にしたこのスピードマスターは、我々のミュージアムが有するヘリテージ・コレクションの中でも特別な意味を持つ一本となるでしょう。」、と述べています。




エリソン氏が所有していたスピードマスター(ST145.012)は、1968年にアメリカに出荷され、その直後、リバーサイドパークでインタビューを受けたエリソン氏が このタイムピースを着用している様子は今でも写真に残っています。エリソンは1994年に亡くなるまで、25年以上にわたってこの時計を愛用していたことが知られています。彼は、非の打ち所のない洗練されたスタイルでもその名を知られていましたが、 きちんと仕立てられたスーツの袖口の下にはいつもスピードマスターの存在があったのです。

All photographs courtesy of Phillips from phillips.com


オメガのブランド ヘリテージ部門の責任者であるペトロス・プロトパパスは、
「エリソン氏の時計は、アメリカ文学界との貴重なコネクションといえます。この時計からは、彼の活動的な生活の痕跡が実際に見て取れるのです。そして、一人の作家から 長らく愛されてきたその姿は、唯一無二の個性を放っています。私たちは、このタイムピースを入手できたことをとても嬉しく思っています。今後、ミュージアムを訪れるお客様に、このタイムピースが持つストーリーを共有できることを楽しみにして います。」、と述べました。


オメガミュージアムは、スイスのオメガ本社にあります。1848年から続く時計製造の歴史、数々の革新がもたらしたアイコニックなタイムピースなど、オメガの奥深いストーリーを知っていただける場所となっています。

訪れたお客様は興味深い展示や映像などを通じて、宇宙探査、オリンピック計時、オーシャン ダイビングなど、オメガが誇る数多くの情熱に触れることができます。また、宇宙飛行士のジーン・サー ナン氏、元アメリカ大統領のジョン・F・ケネディ氏、そして世界的なスパイである ジェームズ・ボンドが着用していた時計など、世界的に有名な時計も多数展示されています。


【お問合わせ先】
オメガお客様センター TEL:03-5952-4400

(引用は以上)。



自社作品への想いの深さ、歴史を重んじる姿勢、ファンへの感謝とか、ブランドとしての根本にあるべき偽りのないパッションみたいなものを、まさに行動で示したといえる今回のオークション。
2021年の最後にとても良いニュースを届けることができたことを、オメガさんに感謝である。