ブランパン、2種類のメティエダールモデル 台湾ブティックエディション「雲豹」を公開~エナメルとポーセリンについての忘備録付き

 From : BLANCPAIN (ブランパン )


最近お会いする機会のあった時計愛好家の方に、エナメルとポーセリンの違いについて簡単にお話したところ、非常に納得していただいたことがあった。その際に、"意外と皆さん、エナメルとポーセリン、磁器、陶器、七宝などの区別にお暗いのでは"と思い、いつかまとめのブログでも書こうと思っていたのだが、たまたま、ブランパンさんから恰好の素材が出てきたので、メモ程度ではあるが、ちょっと記しておこうと思う。

ポーセリンの和訳は磁器。陶磁器という名称で一緒に語られることもあるが、陶器と磁器も別物で、一番の大きな違いはその原料である。大雑把に言うと、陶器の原料は土(よく練った粘土)で、これを高温(800~1200°)で焼いて固めたもの。基本的に焼き上がりは土の色味が出て全体に厚みもあり、釉(うわぐすり)を塗って焼くことで彩色を施すことができる。
一方の磁器は、磁石(陶石)というガラス質を多く含む石を砕いた粉末(もしくは白色粘土にガラス質の長石、珪石を加えたもの)を原料として、焼きしめるには陶器よりも高温(1200~1400°)が必要。地肌は白くなる。

エナメルの和名は七宝もしくは琺瑯で、金属製の素地にガラス質(釉薬)を塗布し、高温(800°前後)で焼いたもの。粘土状で成形可能な陶磁器との大きな違いは、金属の素地がないと自立できない点である。

しかし、これらはあくまでも大雑把なもので、磁器と陶器を素材ではなく用途で区別する文化を持つ国(イギリスやアメリカなど)があったり、エナメルという言葉をとっても、皮革のエナメル加工や歯のエナメル質、ポリ塩化ビニール製品をエナメルと呼ぶ習慣や、樹脂を使ってエナメル的な仕上げ感を得るコールドエナメル技法など、多くの異なる使用例が存在することが、事態を非常に複雑にしている。

また、日本語に訳された時点では、七宝は美術用語、琺瑯は工業用語だったのだが、セイコーのように七宝と琺瑯を区別して、それぞれに違う定義・解釈をしている例などもあり、時計業界で使用される七宝、琺瑯、エナメル、ポーセリンといった用語の明確な区別・定義はとても曖昧となっている。
たとえば、下記のブランパンの場合、ブランドが持つ洗練されたミニアチュール(細密画)技法を、エナメルの原料でもある釉薬を用いた画法であることから、陶磁器の世界では単に絵付けと呼ぶ工程ではあるが、あえて"ミニチュアエナメルペインティング"いう特別な呼称を与えている。

こうした、用語の分類や、素材によるさらなる細分化や特長についてより詳しく述べるには、吸水性や透過性、硬度、打音など、まだこの100倍くらいの文章量が必要と思うが、今日はこのくらいにして、ブランパンの高度なメティエダール技法を読み解いていただこう。

以下、プレスリリースからの全文を掲載する。








ブランパンのメティエダールコレクション 2020年新作 「雲豹」、 2種類のメティエダールモデル・台湾ブティックエディション
Ref. 6124-1919-55B / Ref. 6615-3616-55B



メティエダールコレクションとは、マニュファクチュールブランパンが展開する文化を巡る旅。世界に開かれたブランパンが紡ぎ出すユニークな作品たちは、卓越した時計製造技術と芸術的な技巧を融合させて自然を讃えてきました。今日、ブランパンは台湾に旅立ち、台湾の歴史に結びついた動物界の不思議である雲豹に2種類のモデルを捧げます。


台湾固有種の雲豹は台湾人の心に住む大切なシンボルです。
原住民のパイワン族はこの豹をスピリチュアルなアイコンだと考えてきました。絶滅こそしていないものの、目にすることは至極稀です。ブランパンは手作業による装飾技術を駆使してこの象徴的な豹を表現しようと考えました。



ブランパンが実践している芸術的な技法は、雲豹同様に時計製造界でも希少なもので、ミニチュアエナメルペインティング(細密画)などは世界でも一握りの時計ブランドでしか行われておらず、シャクドー(赤銅)のようにブランパンのみが実践している技法も存在します。



ブランパンのクラフトマンシップは広範に渡り、長い歴史を象徴するものとなっています。ル・ブラッシュの「ファーム」にあるメティエダールの工房では、文字盤に描く雲豹のテーマを追求する上で、ブランパン定番の5つの技巧(ポーセリン技術、ミニチュアエナメルペインティング、赤銅、エングレービング、ダマスキネ技法)が採用されました。

ブランパンの職人が緻密に作り上げた類のない2つのモデルには、森に生きる雲豹が表現されており、俊敏で器用な雲豹が自由に木の中に隠れます。幹と葉は細部まで念入りに絵付けと手彫りが施されましたが、当然ながらそれは、気高い雲豹についても同じ。制作には赤銅に加えて、ポーセリンのエナメルペインティングやエングレービング技法が用いられており、斑点が雲を想起させる黄褐色の毛並みは圧倒的なリアリティを備えています。

ブランパンの職人たちは、エングレービングが施されたモデルに、絹リボンのように細い金糸を使って豹のひげを一本ずつ埋め込みましたが、これはダマスキネ技法に従ったものです。アーティストの手によって命を吹き込まれて完成する文字盤は、美しさと完璧な技巧の融合からしか味わえない感動を与えてくれます。



ポーセリンにエナメルで描かれた雲豹を囲むのは、ダイヤモンドがセッティングされたベゼルを備える、直径33mmのホワイトゴールド製ケース。



搭載されたムーブメントは自社製自動巻きキャリバー1154で、タイムピースのケースバックからその精緻な仕上げを堪能することができます。エングレービングとダマスキネ技法を施したシャクドーモデルは、45mmのレッドゴールド製ケースに収められています。伝統的に装飾性の高いタイムピースに好まれるサファイアクリスタルのケースバックからは、コート・ド・ジュネーブのモチーフを施した手巻きムーブメント15Bが顔をのぞかせます。


ポーセリン技術とミニチュアエナメルペインティング
ミニチュア エナメルペインティングとは、ル・ブラッシュの「ファーム」でブランパンのマニュファクチュールの職人たちが行う多彩なエナメル技法の一つ。エナメルペイントを文字盤に施す工程は特に複雑で、絵付けの下準備として表面を制作するところから作業は始まります。



ブランパンのエナメル文字盤は、長時間の乾燥と焼成の段階による一連の工程を経て精巧に仕上げられます。主に石英、長石、陶土で構成される粉末状のポーセリンは、まず水と混ぜ合わされます。そうして得られたパルプ状の液体をろ過し、すべての残留物と不純物を除去した後、文字盤の形をした鋳型に流し込みます。
型から取り出した後、文字盤を24時間乾燥させ、同じく24時間かけて1000℃で焼成します。
窯でのこの最初の手順は文字盤を硬くするものであり、エナメル加工のための下準備となります。

この後、エナメルを文字盤1つ1つに手作業で正確に塗布していきます。
その後、1300℃で2回目の24時間焼成を行い、ポーセリンをガラス化します。これによって光沢のある半透明の輝きが生まれ、永続的な安定がもたらされます。
文字盤の準備が完了すると、絵筆を入れる前にデザインのスケッチを用意します。何枚もの習作を重ねて検討することもよくあります。ブランパンの職人たちは、単体でのデザインはもちろん、文字盤に配される他の要素との関係性も考慮しながら、最適なバランスを探っていきます。

デザインレイアウトが決定したら、次のステップは色作りです。
エナメルパウダーをベースにした物質を松根油に混ぜていきます。エナメル職人は、自らが必要とするニュアンスを得るために独自のパレットを作成します。色調にはブランパンが考案した特別な調法に由来するものもあります。



色作りが終わると、いよいよ絵付けが始まります。腕時計の文字盤は小さいため、職人たちは驚くほど細い筆で描いていきます。この色自体がエナメルなので、窯を用いて1200℃で焼き上げる必要があります。



こうして完成した文字盤はそれぞれが一点ものとなり、ポーセリンにエナメル絵付けが施されたブランパンの時計のオーナーは、この世に1本しかないモデルを所有することになります。



エングレービング、赤銅、ダマスキネ技法を施した文字盤
赤銅は日本古来の芸術で、侍たちが刀の小さな部品の装飾に好んで用いていました。
ブランパンの職人たちはこの技法を用いて、ユニークな文字盤を製作しています。この技法が時計製造に導入された背景には、タイムピースと調和する新しい芸術の技巧やユニークな装飾パターンを絶えず追求するマニュファクチュールの革新的な精神がありました。

赤銅とは金と銅の合金の色を変化させる技法であり、自然な黄色やオレンジ色の色合いから、ニュアンスをもった黒やグレーが得られます。大抵の場合、表面は黒やグレーに深みと質感を与えるために再処理されます。基本的な作業としては、文字盤のディスクの形になった合金を緑青(ろくしょう)と呼ばれる酢酸銅(灰色がかった緑色)の温かい水溶液で煮込み、求められる色合いが得られるまで浸漬させます。

伝統に基づくこのノウハウは、最も基礎的な形式で行っても試行錯誤を重ねる必要があり、このディスクは緑青液から取り出す度にすすぎ、その色合いは再度液体へ浸す前に吟味されます。完璧な色合いが得られた時点で、赤銅は完了します。この技巧は水溶液への浸漬が中心ですが、ブランパンはそれに加えて、エングレービング、ダマスキネ技法、彫刻などの別の芸術的な技巧を組み合わせました。また、文字盤のディスクに描かれたデザインにさらなる色合いと深みを与えるために、赤銅の工程は作業の様々な段階で繰り返し行われる場合がほとんどです。

ブランパンの赤銅ダイヤルは一つ一つが一点制作であり、着色やエングレービングよりも大きな差異が芸術的な独自性に表れます。2つとして同じデザインはないため、それぞれのデザインが特別な一点ものになります。雲豹が施された文字盤は、まさにその好例と言えるでしょう。
こうしたタイムピースの制作は、まずポーズと背景の装飾を紙でスケッチすることから始まります。



豹のイメージは、他の前景の要素と一緒に、非常に精密な道具を使って手彫りされたゴールドのアップリケで表現します。これらのアップリケもまた別の塩溶液に浸漬し、豹の毛皮の斑点を模した色合いを出します。文字盤の表面にアップリケを固定して装着する際には、文字盤にあらかじめ開けられた穴に非常に細いピンを挿入します。



それからピンの裏側を丁寧に打ち込み、しっかりとはめ込まれるように固定します。歴史を眺めると、赤銅を用いた工芸品の多くにはダマスキネ技法が施されてきました。



この古来の技巧では、表面に溝の形をしたデザインを彫り、その中に柔らかい金を打ち込んでいきます。伝統的に接着剤は一切使用されません。打ち込む工程で金のフィラメントが固定され、滑らかに磨かれていくのです。赤銅、エングレービング、ダマスキネ技法を組み合わせた作品によって、ブランパンは時計製造の世界で独自の輝きを放っています。ブランパンは、この芸術的な技巧の融合を実践している唯一のメゾンなのです。





【仕様】
Métiers d’Art Porcelaine
Ref.6124-1919-55B

[CASE]
18Kホワイトゴールド、ベゼルダイヤ1列セッティング、サファイアクリスタルバック
ケース径:33.20 mm
ケース厚:9.15 mm
防水:3 bar*
ラグ幅:18.00 mm
CARAT WEIGHT:0.941カラット

[CALIBER]
1154
径:27.40 mm
厚:3.25 mm
パワーリザーブ:100時間
石数:28石
部品数:190
Unique pieces
Seconds · porcelain dial with enamel painting · self-winding




Métiers d’Art Shakudō
Ref. 6615-3616-55B

[CASE]
ケース径:45.00 mm
ケース厚:8.30 mm
防水:3 bar*
ラグ幅:23.00 mm

[CALIBER]
15B
径:36.10 mm
厚:2.20 mm
パワーリザーブ:40時間
石数:20石
部品数:117
Unique pieces
Hand-decorated and engraved gold-damascened Shakudō dial ∙ hand-winding




【お問い合わせ先】
ブランパン ブティック銀座
電話番号:(03)6254-7233
Website:https://www.blancpain.com/ja