ジャガー・ルクルト 「レベルソ」~ あるアイコンのストーリー

 From : JAEGER-LECOULTRE (ジャガー・ルクルト )


今年、誕生90周年を迎えたレベルソは、ウォッチ・シーンにおいてもっとも有名なアイコニック・ピースのひとつである。このアニヴァーサリー年にあたって、ブランドがその歴史をまとめた資料を作成しているので、この機会に紹介しておきたい。



レベルソ:1931年から続くタイムレスなストーリー

レベルソは90年前に誕生しました。この90年間で社会や嗜好は変わり、テクノロジーは進化し続けてきました。
しかし、レベルソは変わることなく現代的で、妥協なく、常に自分らしくあるために大胆であり続けています。ここ30年間では、機械式腕時計の製造の復活や芸術的技巧の発展により、誕生時には想像もできなかった可能性を実現しています。稀に見るアールデコデザインの例として、レベルソは真の意味でアイコンとなりました。2021年、ジャガー・ルクルトは、長年愛され続ける稀有なタイムピースにオマージュを捧げます。




あるアイコンのストーリー
レベルソの物語は、ポロの競技中で身に着けても壊れない腕時計を製作するという挑戦とともに始まりました。
1930年、時計ビジネスを通してジャック・ダヴィド・ルクルトとパリの企業であった ジャガーSAの両方を良く知っていた、起業家のセザール・ド・トレーがインドを旅行しました。そこでは、イギリス軍の将校たちがポロの競技を行っていました。
腕時計のガラスとダイヤルを保護する方法を見つけて欲しいと試合中に依頼されたトレーは、反転できるケースのアイデアを思いつきました。彼は、ジャガーのつてを頼ってルクルトにその製作を持ちかけ、フランスの工業デザイナー、ルネ・アルフレッド・ショヴォーがケースのデザインに携わりました。


●特許出願時の図解資料




1931年3月4日、パリの特許庁が「支軸をスライドさせて完全に反転できる腕時計」の特許出願を受理しました。7月にはショヴォーのデザインに権利が付与され、11月にトレーはレベルソという名前を登録。革新的なデザインをできるだけ早く市場に送りたいと切望していたトレーとジャック・ ダヴィド・ルクルトは、ビジネスパートナーシップを結び、すぐに生産を開始しました。最初のタイムピースは、特許出願から9ヶ月未満で販売されました。


●first-reverso-1931年

すぐに成功を収めたレベルソは、アールデコスタイルの真髄を表現するもの、そして現代性を体現するものとして、多種多様な職業のお洒落好きな人たちが身に着けるようになりました。
ケースは、オリジナルのステイブライト製とゴールド製が用意されました。


●ファースト・レベルソのケース・ヴァリエーション-1931年


また、レディスモデルは、手首以外にも、ペンダントやハンドバッグクリップとして身に着けることができるオプションが付いていました。


ペンダントのレベルソ-1931年

より強い個性を求める人々のためには、鮮やかなカラーのラッカー仕上げダイヤルをオーダーメイドで作ることができました。また、ケースの裏面は、エングレービングやラッカー仕上げでパーソナライズすることができました。


●クラッシックなレベルソ-1943年

しかし、第二次世界大戦後に嗜好が変化するにつれ、レベルソへの関心は失われていきました。
最初のクォーツ時計によってスイスの時計産業がかつて経験したことのない大きな危機に陥った1969年には、 レベルソはほとんど忘れ去られていました。
しかし、クォーツ時計が席巻する中、イタリアの ジャガー・ルクルトの販売者であるジョルジオ・コルヴォが残っていた最後の200個のレベルソの ケースを購入、そのケースに機械式ムーブメントを搭載して、製作した200個すべてを1ヵ月以内に売り切りました。



そして1975年、ついにレベルソは公式に再生しました。
ジャガー・ルクルトはケースを自社で生産することを決定し、1981年に、ジャガー・ルクルトのエンジニアのダニエル・ワイルドに、現代的な技術基準に合わせてレベルソを新たにデザインすることを依頼しました。しかし、クラシックなデザインというレベルソのステータスを考慮すると、外観の変更はごくわずかにしなければなりませんでした。

1985年に新しいケースが発表されました。このケースは、(当時の最新の)CNC技術を使用し、ジャガー・ルクルトで初めて機械加工されたものでした。防水性と防塵性を備え、新しい反転機構と新たにデザインされたラグアタッチメントおよびキャリアを備えるこのケースを構成する部品の数は、オリジナルの23個から55個になりましたが、様式的には全く変わりませんでした。



誕生から60年の1991年、レベルソは“一つのスタイル、一つの腕時計”から完全な一つの コレクションへと変化を遂げ始めました。1994年には、2つの時間帯をユニークに表現した レベルソ・デュオが製作されました。表ダイヤルには現地時間、裏ダイヤルにはホームタイムが表示されます。


●レベルソ・デュオ-1994年


1997年には、ダブルダイヤルの原理を女性らしく解釈したレベルソ・デュエットが発売されました。


●レベルソ・デュエット-1997年



スタイル&デザインのストーリー
アールデコ時代全盛期に誕生したレベルソは、当時の精神を見事に体現していました。この時代は、すべてが輝いて活気に溢れ、音楽や芸術から建築、ファッション、スポーツまですべてが変わり、芸術の世界では耽美主義が席巻していました。
世の中ではシルバーダイヤルが流行していたときに、初代レベルソのモデルはブラックダイヤルを採用し、インデックスとコントラストをなしていました。そのブラックダイヤルは素晴らしい視認性を持つと言われ、“未来のダイヤル”と呼ばれました。



間もなく、目立つカラーダイヤルを備える美しいデザインのバリエーションが登場しました。
カラーダイヤルの腕時計が珍しかった時代に、鮮やかなレッド、チョコレートブラウン、バーガンディ、ブルーラッカー仕上げのオーダーメイドのダイヤルが導入され、より現代的で個性的なレベルソが登場しました。当初から、女性のために様々な金属素材を採用したケースや、サイズを変更したモデルは、コルドネブレスレットを取り付けて手首につけたり、ペンダントやハンドバッグクリップに変身させたりすることができました。

しかし、ケースの直線の形状を強調する水平方向のゴドロン装飾、ケースサイドが継ぎ目なく伸びているように見える三角形のラグ、そして、一目見ただけでは反転できると分からない、キャリアに完璧にフィットしたケース、といった核となるデザイン要素に決して妥協はありませんでした。オリジナルの長方形ケースの形状が、デザインの成功を決定的にしました。ケースの横と縦の長さの比率は、黄金比に基づいています。黄金比は、古代ギリシアで発見されたユニークな数学的関係であり、人間が本能的に最も美しく心地よいと感じる比率です。



現代のレベルソには、ハイコンプリケーションが搭載されていますが、このモデルの揺るぎない成功は、基本的に時計製造の機械的な複雑さにあるのではありません。その価値は、独創的なコンセプトとそれを完璧に実現していることにあります。
フォルムと機能が巧みに統合され、実用的な目的を超えて、独自の道を進むことができるという特殊なニーズに見事に応えます。しかし、これは反転式機構そのものの複雑さやその独創的な技術が退化するということではなく、キャリアの中でケースをスライドする感覚の喜びや、ケースがカチッとはまったときの満足感を生み出します。また、可能な限り最高のエレガンスを演出して本来の目的を達成するということもレベルソにとって重要です。


クラフツマンシップのストーリー
レベルソのデザインには、予期せぬメリットがありました。何も描かれていない金属の裏面は、当初は純粋にダイヤルへのダメージを避けるための機能的な解決法でしたが、ラッカー仕上げやエン グレービング、エナメル装飾を使用したモノグラムやエンブレム、個人的なメッセージなど、パーソナライゼーションに理想的なキャンバスとなりました。腕時計のオーナーは、自分だけの宝物としてこの装飾を隠しておくことも、ケースを裏返して見えるようにすることもできます。



ジャガー・ルクルトのミュージアムコレクションに所蔵されている1930年代からのモデルの中には、ブリティッシュ・レーシング・ドライバーズ・クラブのエンブレムを装飾したレベルソ、イートン・カレッジの紋章をあしらったレベルソ、そして、飛行士アメリア・イアハートがメキシコシティからニューヨークまで飛行し、記録を樹立したことを記念した1935年製レベルソがあります。
インドのカプールタラーのマハラジャは、エナメル加工のケースバックに妻の肖像を細密画で再現したレベルソを50本依頼しました。これらのタイムピースはすべて紛失したと考えられていますが、 ジャガー・ルクルトは、1936年まで遡るコレクションに、トリプラ州のマハラニ(王妃)、 カンチャン・プラヴァ・デヴィと思われるインドの美しい人物の肖像画が描かれた、類似した レベルソを所有しています。


20世紀半ばから嗜好が変化し、デザインのあらゆる領域において装飾が拒絶されるようになってくると、エナメル装飾、細密画、ギョーシェ装飾などの伝統的な芸術的技巧が姿を消し始めました。そして古い世代の職人とともに技巧が消え去りました。幸運にも、1990年代の機械式時計製造の復興により、永遠に消滅する前にこれらの技巧への関心が再び高まりました。



1996年、メゾンは、グラン・フー・エナメルで装飾した、現代で最初のタイムピースを発表しました。以前はジャガー・ルクルトの時計職人であり、マニュファクチュールのエナメル装飾を行う自社工房を設立したミクロス・メルクゼルが製作したレベルソの4本セットには、アール・ヌーヴォーの巨匠アルフォンス・ミュシャの細密画が各ウォッチに見事に再現されました。エナメル装飾は、現在まで、レベルソ・コレクションの象徴となり、ジャガー・ルクルトは、自社工房にエナメル装飾のアトリエを所有するごく少数のマニュファクチュールの一つであり続けています。



マニュファクチュールのエナメル職人に、エングレーバー、ジェムセッター、ギョーシェ装飾職人が加わり、2016年にメティエ・ラール®工房が設立され、最終的に全員が一つの大きな工房に統合されました。芸術を表現するためのキャンバスとしてレベルソが持つ大きな可能性が明らかになると、工房の職人達は、ますます緻密で壮大な装飾を製作しました。ハイジュエリーモデルでは、ケース全体にバゲットカットのダイヤモンドがインビジブルセッティングであしらわれています。コルドネブレスレットはダイヤモンドで全く新たにデザインされ、ケースバックはスノーセッティングであしらわれたダイヤモンドが一面に輝くデザインに一変しました。最近発表されたレベルソの芸術的なモデルが示すように、創造性の可能性に限界はありません。




革新のストーリー
1991年のレベルソ・ソワサンティエムは、クォーツ危機後の機械式時計製造の復活と同時期に発表され、時間を表示する以上のはるかに高いポテンシャルを持っていました。このモデルを通して マニュファクチュールはハイコンプリケーションにおける専門技術を再開発しようとしました。ただし、従来の複雑機構には円形ムーブメントが使われており、全く異なる構造の長方形ムーブメントでは、より高い難易度が求められました。



レベルソ・ソワサンティエム専用に開発されたキャリバー824は、中央の針で表示する日付表示とパワーリザーブ表示を搭載していました。ソワサンティエムに続いて、1993年にはジャガー・ ルクルト初の腕時計型トゥールビヨンであるレベルソ・トゥールビヨンが発表されました。そして、1994年には、レベルソ・ミニッツリピーターが発表されました。ジャガー・ルクルトが腕時計のためにミニッツリピーターを初めて小型化したキャリバー943は、世界初の長方形のミニッツ リピータームーブメントでした。1996年、クロノグラフのカウンターを長方形のフレーム内に配置できるようにするため、裏面に複雑な表示を備えたレベルソ・クロノグラフ・レトログラードを発表しました。この2年後にはレベルソ・ジオグラフィーク、ミレニアムとなる2000年にはレベルソ・カンティエーム・パーペチュアルが続きました。このピンクゴールド製の限定モデルは、当然ながらコレクターの垂涎の的です。



2000年以降も革新は続きます。レベルソ・セプタンティエムのために開発され、2002年に発表されたキャリバー879は、当時は非常に珍しかった8日間のパワーリザーブを備えていました。その5年後、レベルソ・グランド・コンプリカシオン・トリプティックにキャリバー175が搭載されました。一つのムーブメントに18の異なる機能が搭載され、常用時、恒星時、永久カレンダーを表示する3つのダイヤルなどが含まれます。この3番目のダイヤルは時計のキャリアプレートにセットされています。また、レベルソには、ジャガー・ルクルトのユニークな2軸のフライングトゥールビヨンが搭載されました。最初は2008年のレベルソ・ジャイロトゥールビヨンに、そして2016年のレベルソ・トリビュート・ジャイロトゥールビヨンにも再び搭載されました。



そして2012年、ジャガー・ ルクルトはレベルソ・ミニッツリピーター・リドーを発表しました。このモデルでは、劇場スタイルの一組のカーテンが動くことによってチャイム機構が動作し、カーテンによってダイヤルが見え隠れします。

その始まりから、革新と数え切れないバリエーションの90年間を通して、レベルソは、決して自らのアイデンティティに妥協することなく自己改革を続けてきました。レベルソは、多才で時代を超越した、変化しつつ不変でもあり続けるカメレオンのような存在であり、世界で最も有名な腕時計の 一つとなりました。
しかし、レベルソは単なる腕時計ではありません。レベルソは、真の意味で20世紀のデザインのアイコンとして、間違いなく認められています。




[レベルソ]
1931年、ジャガー・ルクルトは、20世紀のデザインのクラシックとなるタイムピース、レベルソを発表しました。ポロの激しい試合にも耐えられるように作られており、すっきりとしたアールデコ調のラインと独自のリバーシブルケースを備えたこの時計は、瞬時に識別することができます。誕生から90年間、レベルソはアイデンティティに妥協することなく自らの存在を常に変化させてきました。50種類以上のキャリバーが搭載され、何も描かれていないメタルの裏面はクリエイティブな表現のためのキャンバスとなり、エナメルやエングレービングなどで装飾が施されました。今年、90周年を迎えたレベルソは、変わることなく、その誕生にインスピレーションを与えた現代の精神を象徴し続けています。
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