A.ランゲ&ゾーネ、SIHH新作モデル・レポート、ツァイトヴェルク・デイト

 By : KITAMURA(a-ls)

SIHH2019が幕を閉じておよそ2週間、ブランドごとの速報的なレポートも一段落してきたので、個別モデルの印象や機構の解説などに進んでいきたい。

まずはA.ランゲ&ゾーネの唯一の新機構モデル、「ツァイトヴェルク・デイト」を見てみたい。

注目すべき点は、ツァイトヴェルクに単にデイト表示を加えただけではなく、ツァイトヴェルクのデヴューから10年目の節目を記念するモデルという位置づけにふさわしい大きな改善を加え、著しく実用性が向上している点である。



ひとつめは、パワーリザーブが大幅に延長されたこと。
これまでのツァイトヴェルクのパワーリザーブは36時間。つまり、一日巻き上げを忘れると止まる。確かにロング・パワーリザーブが当たり前になりつつある今の時代、これでは実用性に欠けるといわざるを得ない。
それが倍の72時間となった。要は香箱を2層構造にしたわけである。

しかも従来のツァイトヴェルクでは、いったん時計が止まると、時刻合わせが大変だった。2時位置のリューズを引いて、1分ずつ送る(もしくは戻す)という作業をしなければならなかったからだ。
この新作には、ツァイトヴェルク・ユーザー、ほぼ全員の願いであった時表示だけを先に進める役割のプッシャーが4時位置に付いたのである。

動画で見てもらうとわかりやすいだろう。
4時位置のプッシャーを押して、時刻表示を4時から8時に換えている。



つづいて8時位置のプッシャーを押して、外周リングのデイト表示16日から25日へ動かしたのち、再び4時位置のプッシャーを操作して、時刻を2時まで進める操作を記録している。

この便利機能(あって当たり前だけどね)が改善点の2つめだ。

ちなみに、便宜上"プッシャーを押す"と表現したが、正しくはプッシャーを押しその力を弱めたときにディスクが作動する。
つまり、プッシャーが引かれたときに作動するのである。

その理由は、押し込んで作動させることで機械全体にかかる余分なプレッシャーを排除させたかったということで、これは取りも直さず、故障の可能性を下げることにつながる。
ツァイトヴェルク・ミニッツリピーターなどにおいても常々指摘してきた「ドイツ人にとってよい製品とは、壊れにくく、かつ長く使える製品である」という哲学に沿ったものだ。こういう配慮は実にランゲらしい。




3つ目の改善点は、分のディスクが転換する際、以前のツァイトヴェルクに見られた54秒付近での予備動作がなくなったという点だ。
言葉では説明しづらいのでこれも動画で見て欲しいのだが、下の動画の34秒頃、ミニッツ・ディスクがピクッと動く瞬間が"予備動作"である。



その理由を訊くと、「ツァイトヴェルクのモデルとなった、Pallweberのディスク表示時計(昨年IWCもオマージュしたもの)に、もともとこの予備動作があり、ツァイトヴェルクはそれを忠実に再現したのだが、意外と不評だったので、改良した」とのこと。10年前に聞いた話と多少ニュアンスが違うのだが(笑)、ま、進化したということで深くは突つかないことにする。

実はこの改善、昨年あたりに出荷されたツァイトヴェルクには既に施されており、そのため、裏側の景色もオリジナルとは多少とも異なってきている。公に発表されることなく、ツァイトヴェルク自体が第2世代ともいうべき進化を遂げているのだ。

●オリジナル、いわば第一世代の裏


●最新作ツァイトヴェルク・デイトの裏

ここ数か月以内にツァイトヴェルクを購入された方がいたら、第一世代と比較したいので、ぜ、裏側の画像を投稿してほしいところです!!


上記の3点が、ツァイトヴェルクの10年目の大進化と言える。
ここまでくると、もはや新ムーブと言っても過言ではないのだが、キャリバー・ナンバーは「L.043.8」、つまり、2004年に製作着手したムーブメントの、8つめ改良バ―ションであることを意味する枝番号処理になっている。

ランゲのルールでは、新キャリバーにはその製作着手年が明示されるが、基幹キャリバーからの微変更であれば枝番処理で済ませている。これはシュミット体制になってから多くみられるケースだが、かなり大きく変更された新作のムーブでも、その着手年代を明らかにしたがらない傾向がある気がする。





さて、いよいよデイト機構の話。
ここでちょっと妄想する。たとえば12時位置のパワーリザーブ表示を工夫して、そこにアウトサイズデイトが入っていたら、もっとランゲっぽかったのにね、なんていう仮説を立てて、フレンズ・ディナーで隣の席になったティノ・ボーべに、
「最初はさ、なんとかアウトサイズデイトを搭載しようと考えたんじゃないの?」と、その開発秘史を掘り起こそうと試みたのだが、
「それができたら良かったろうけど、ツァイトヴェルクの中を知ってる技術陣は皆、最初から絶対に無理とわかってたから、もう早々に新しいデイト表示方式を考え始めてたよ」という答えだった。

その後、ランゲ・ブースではこのツァイトヴェルク・デイトの組み立て・分解のプレゼンが行われていたので、実証検分すると、上半分はほとんどディスクだらけの大混雑で、「ああ・・・12時位置は、やっぱ無理なのね」と納得。



ついでに言っておくと、この画像で2時位置辺りにある赤いマークがリングごと動いて、ガラスを通して該当の日付を赤く表示する仕組みである。



このデイトは深夜12時ちょうどに瞬時に移動し、リューズによる戻し合わせにも対応する。
これも動画で確認してみよう。





日付を変える検証のため、4時位置の時刻表示を使って11時59分とした後、リューズで進み・戻しを繰り返している。
デイト表示が瞬時に反応していることに注目だ。

デイト用にこの外周リング方式を採用したことで、ストライキング・タイムと同サイズの44.2㎜径になり、ジャストフィットの装着には、ちょっと立派な腕が必要となるが、さほど重たくはないので、取り回しは安定している。



最後にデザインについてひとつ。

通常の場合、ランゲ・ウォッチのデイト表示のデフォルトは「25日」ということになっているが、このツァイトヴェルク・デイトでは、初めて「12日」がデフォルトに採用されている。

その理由は、「25日にすると、9時位置の時刻表示に近すぎてバランスが悪いため、デザイン・バランスの点から、12日したわけで、12という数字に特別な意味はない」ということだった。





●SIHH最終日、25年のドイツ時計製作の集大成として、会場内のアトリウムで「ツァイトヴェルク・デイト」を語る、シュミットCEOとデ・ハース開発部長




限定品ではなく、カタログ品ということで、今後もいろいろなヴァリエーションの期待できるツァイトヴェルク・デイト。
決して入手しやすい価格ではないが、A.ランゲ&ゾーネからの新たなるマイル・ストーン・ウォッチの登場と言えるだろう。







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