ゼニス デファイ インベンター シリコンの特性を活かした一体型で高振動の脱進機を搭載したピース

 By : CC Fan

※2019年3月31日追記:動作している動画を追加しました。



バーゼルワールドでゼニス(ZENITH)はシリコンの特性を生かした一体型脱進機構を搭載したデファイ インベンター(DEFY INVENTOR)を発表しました。
以前に発表された、10本のみのデファイ ラボ(DEFY Lab)で得られた知見をベースにし、改良されて一般発売を行うピースです。
ラボ(実験室)から生まれたインベンター(革新者)という事なのでしょう。

なんといっても特徴的なのは、複数の部品で構成されている脱進機をわずか4パーツ(上下のグリッド・シリコン製の発振器本体とガンギ車)に統合したゼニスオシレーターと名付けられた脱進機構です。

まず、テンワとヒゲゼンマイ、アンクル、ガンギ車に相当する部分はフォトリソグラフィで一体成型された複雑な形状のシリコン製プレートと同じ素材のガンギ車です。
このプレートは外周部の支持とヒゲゼンマイを兼ねた細い部分が"しなる"(弾性変形する)ことにより、軸が一切ないにもかかわらず慣性モーメントとバネ定数で決まる固有振動数で振動します。
弾性変形のみで動作し、軸と穴石のような擦れ合う部分がないため摩擦は影響せず重力方向によって摩擦が変化せず、動作するためにアガキ(遊び)も要りません。
また、ヒゲゼンマイのように重心が移動するような構造でもないためこちらも重力の影響を受けず、姿勢差を小さくすることができたそうです。
アンクルに相当する部分も一体成型されており、ガンギ車との間で脱進動作を行います。



次に、テンワのブリッジとアンクルのブリッジに相当する部分を追加した部分は、オシレーター 上下のグリッドです。
このグリッドはオシレーター自体の支持と弾性域以上の変形を起こしてしまうような衝撃が加わった時に変形しないようにする規制ガイドピンとなっています。
細い部分に静加重を与えることで緩急調整を行う機能もあるようです。

そして、すべてをくみ上げると一枚板のモジュール型脱進機構となります。
このモジュール全体で擦れ合う部分はシリコン製のガンギ車とプレートのアンクル相当の部分のみ、他は弾性変形で動作し、ガンギ車とプレートのアンクル相当もシリコン同士の衝突で注油が要らないため全体が無注油で動作するそうです。
オーバーホールの際も、この部分はほぼメンテナンスフリー(逆に触る場所がない)になるだろうとのことでした。

シリコン製プレートの外周に開けられている長穴が衝撃時などの動きを規制するための規制穴で、下側グリッドのピンが入ることで可動範囲を決定します。
通常動作時には触れないので特に問題はありません。




ほぼ文字盤一面に広がるグリッドがデザイン上のアクセントになっています。
脱進機構が文字盤一面を覆ってはいますが、振り角が数度しかないため、中央の時分針以外の軸も通せそうですね…

振動数は18Hz(36振動/秒、129,600/時)という超ハイビートですが、その分振り角は数度しかなく、振動の品質(Q値)が高いため、腕時計サイズの香箱でも必要エネルギーを賄え、50時間のパワーリザーブを実現しています。
一見してわかるのは運針の滑らかさ、機械式時計はスイープ運針とは言うものの、脱進機の動作速度で"コマ送り"しているようなものなので、振動数が違う時計を見比べると滑らかさに差があります。
36振動はほとんど連続動作しているように見える滑らかさ、逆にシャッタースピードが遅い写真では撮影中に針が動いてしまってブレます…

上下のグリッドはメタリックな質感。
6時位置のガンギ車が高速にブン回っているのも観察できます。



それぞれは平面ですが、取り付けに高さがあることで立体的に見える構造です。



脱進機構は文字盤側にまとめられているのでケースバック側は通常の時計とあまり変わりません。



現在500個ほどのシリコン製プレートが製造済み、さらに増産する体制を整えているそうです。

実際に動作している様子を動画でどうぞ。



ガンギ車がブレードの"爪"に引っかかりながら動いている様子がわかるかと思います。



Cal.9100という名前と18Hzがフィーチャーされたブース内の展示。



ブース外壁にはスローモーションでガンギ車の挙動を知ることもできる展示も。

シリコンを単純な素材の置き換えではなく、特性を生かして最適化したという点で間違いなく革新であり、特に、軸構造を極限まで減らし弾性変形のみで動作するのが素晴らしいと思います。