オメガ 「デ・ヴィル トゥールビヨン ナンバード エディション」のセンタートゥールビヨンムーブメントCal.2640の構造を「推測」する

 By : CC Fan

オメガから満を持して発表された複雑機構、「デ・ヴィル トゥールビヨン ナンバード エディション」。
(個人的にはコーアクシャル脱進機の量産は下手な複雑機構よりもはるかに難しいと思っていますが…)



1994年から作り続けられるセンタートゥールビヨンムーブメントの系譜を受け継ぐ最新作で、コーアクシャル脱進機をはじめとした各部の構造が最新にアップデートされるとともに、今までのモデルでは巻き上げ用(通常の位置)と時合わせ用(ケースバック)に分かれていたリュウズが1つに統合され、一般的な時計と同じ操作感覚になりました。

トゥールビヨンムーブメントとしては初めて耐磁性能と精度を保証するマスタークロノメーター認定を取得、通常の耐磁時計でも耐えられないような15,000ガウスの磁場の中でもトゥールビヨンが動き続けるという驚異の性能を保証します。

前述の通り、オメガのセンタートゥールビヨンは歴史のある機構ですが、あまりちゃんと理解していなかったので今回いい機会だと思い、いつものように「推測」してみたいと思います。


文字盤の観察でわかることは、インデックスと文字盤表面の間に空間(隙間)が空いているという事が分かり、針はセンターのトゥールビヨン周辺リング部分にも外周のインデックスの下の空間にもつながっておらず、まるで浮いているように見えます。
そして、わかり辛いのですが、トゥールビヨン周辺リングには何かを受けるための溝が切ってあるのが確認できます。

ここからわかることは、透明素材(サファイアクリスタル)のディスクに針が取り付けられ、一見すると針が浮いているようなミステリークロックの手法を使って時分が表示されているという事です。
これはこのモデルからではなく、過去のセンタートゥールビヨンムーブメントもサファイアにエッチングで針を形成し、表示するという手法は一緒でした。
しかし後述するように今回のムーブメントCal.2640は駆動方式が変わっていると考えられます。


いきなり私の考えを書くと、前作のセンター トゥールビヨン ムーブメント(Cal.2635A)ではセンター部分に集中していた香箱・トゥールビヨン・計時と表示用の輪列・時分ディスク駆動をムーブメント地板全体に分散させることで重なりを減らして薄型化したムーブメントと結論付けました。

写真引用が微妙なので、前作はオメガのサイトでご覧ください。

香箱からのトルク伝達を見ていきましょう。

香箱はダブルバレル、二つの香箱の巻き上げ・出力を連結する部分に差動歯車機構を噛ませ、巻き上げ量-放出力を測定して残りパワーリザーブを表示するパワーリザーブインジケーターを実装しています。
片側の香箱から2番車に噛み合い、3番車、トゥールビヨンとトルクが伝わり、終端のトゥールビヨンの脱進機能により輪列全体の速度が規制され、これが時間を測定する計時作用です。

計時輪列から分岐した表示用輪列はさらに加速し、終端のピニオンで時針と分針のディスクを外周から駆動します。
文字盤全体のディスクの外周部を小さなピニオンから駆動するのは、大きな減速比の減速歯車と同じなので、その前に必要なだけ加速させる必要があるわけです。
ディスクは文字盤外周にある3点の支持部で支えられ、滑らかに回るように支持されています。
これに加え、先に見た文字盤のトゥールビヨン周辺リング部分でも支持され、ガタが無いようにしています。

外周部には文字盤そのものと駆動部の目隠しを兼ねたインデックス部を固定するための高ナットの2種類が見えます。

計時輪列と表示用輪列はムーブメントを一周してリュウズの近くに戻ってきているため、リュウズから調整用の輪列を噛み合わせて時合わせをすることができます。
前作のムーブメントでは表示用輪列が巻き上げ用リュウズから離れていたために時合わせは別のリュウズでした。


心臓部、コーアクシャル脱進機を用いたコーアクシャルトゥールビヨンです。
チタンとシリコンをはじめとする非磁性体の素材を使うことで強力な磁場下でも動作する耐磁性能を実現しています。

フライング構造のトゥールビヨンケージは硬化皮膜処理を施したチタン製、ケージ下部は固定4番車を完全に覆い隠すカバー状になっており、時分針と同様に「どこにもつながっていない」ミステリークロックのような効果を狙っていると考えられます。

固定4番車と同軸2重ガンギは直接噛み合わず、変速用の5番車を経てガンギに伝わります。
これはコーアクシャル脱進機のガンギは8歯(ダニエルズのころから変わらない経験則による最適値)と一般的なレバー脱進機のガンギと歯数が違い、振動数が同じならより速く回転するため、そのための調整です。
同軸2重ガンギは知見を反映した放射状の歯を持つ固定式最新世代と同じもので、アンクルの止め石で脱進制御され、テンワとガンギの回転が同じ方向の時はガンギが直接テンワの振り石を叩くダイレクトインパルス駆動、逆方向の時はアンクル経由で力の方向を反転して伝えるインダイレクト駆動として力を伝達します。

トゥールビヨンでアンクルの配置が苦しくなるスイスレバーと違い、元からダイレクト駆動のためにガンギ車と天真が接近しているコーアクシャル脱進機はトゥールビヨンでも余裕のあるレイアウトになります。
これは同じくダイレクトインパルス駆動(のみ)のデテント脱進機も同様です。

テンワは緩急針のないフリースプラング仕様、ヒゲゼンマイは計算によって求まった最適形状を超高精度で実現するリソグラフィによるシリコン製です。
緩急調整とバランス調整はテンワに設けられたチラネジでテンワ自体の慣性モーメントを変化させることで行います。
もちろん、マスタークロノメーター認定の規格内の精度を実現しているのでしょう。



すこし、気になったのはブリッジの分割です。
表示輪列と計時輪列のブリッジは分離していますが、計時輪列側がずいぶん大きく、同時に調整しないといけないところが多そう…と思ったのですが、よく観察するとトゥールビヨンを押さえているブリッジ(カバー?)と計時輪列を押さえているブリッジはパワーリザーブインジケーターのところで分割できるようになっています。
これであれば、まず3番車までを調整し、トゥールビヨンを組み込んでからトゥールビヨンブリッジを固定することで順を追って組むことができそうです。

また、パワーリザーブの差動歯車機構は文字盤側から個別に調整できるようになっているようです。

ムーブメントがゴールド色なのはコーティングではなく、素材自体がオメガが開発したセドナ™ゴールドと言うパラジウムを加えて赤が強く、変色しにくくした独自素材でできていることに由来します。
真鍮は(割)金の代替品として使われることもあるので、逆に真鍮で作られるムーブメントを(割)金で作るという事もできる…はずですが、コストや生産工程の都合なのか、ごく一部に実例があるだけでほとんど行われておりません。
特別なムーブメントにふさわしいスペシャルさを求めたと理解しました。



「色味を合わせる」どころか、「同じ素材」なので当然マッチングは完璧。
ケースサイドには同じく変化しにくい独自のホワイトゴールド、カノープス™ゴールドを用いてアクセントを添えて調和させています。



リュウズのオメガロゴ(Ω)もカノープス™ゴールドにより、鮮明に映えます。

この仕組みを踏まえて公式の動画を見てみましょう。



光の当たり方によって針部分とインデックスの反射が異なる瞬間があります、これはインデックス部はベース素材そのものが反射していますが、針部分は駆動用のサファイアディスクが反射しているためです。

如何でしょうか、結構理解は進みましたが、まだわかっていないところがあります。
それはスペック上「50石」と言う穴石の数。
表面に露出している石を数えると文字盤側13石(トゥールビヨン除く)、ムーブメント側16石、トゥールビヨン8石、合計で37石です。
残り13石はトゥールビヨンの支持とか、差動歯車機構のキャリアの軸受けでそれぐらい使うかな…?

願わくば、以前のように「答え合わせ」できることを祈って。



【問合わせ先】
オメガお客様センター TEL:03-5952-4400