A.ランゲ&ゾーネの2020年新作から、「ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーター」にみる"ランゲらしさ”という機構分析

 By : KITAMURA(a-ls)



通常、年初の新作発表から数か月が経つこの時期であれば、新作の紹介はもちろんのこと、実機画像やインプレッション、ブランドによっては日本での新作発表イベントのレポートなどを書いているはずなのだが、今年はまったく異例の事態となっている。

自分の守備範囲であるA.ランゲ&ゾーネさんについても、Watches&Wondrsで発表された新作は「オデュッセウス」と「ツァイトヴェルク・ミニッツリピーター」のそれぞれホワイトゴールドケースだが、なにせ新作実機を見ていないので、その続報については何とも書きがたい状況だ。



でも、考えてみると、新作のこの2作は機械としてはすでに過去にも触れている作品なので、たとえ実機が未見でも機能については書けることは書けるわけで、もしかしたらA.ランゲ&ゾーネさん、新型コロナ感染拡大前の段階では当然もっと多くの新作が発表予定だった中、W&Wの中止が決まり、新作はネットでの公開となったことを受け、急きょ一番レヴューが書きやすそうなこの既発2作に絞ったのだとしたら、それはまた至極妥当な判断だったと思う。


もちろん、素材感や装着感など書けない部分もあるし、完全に"復習"となってしまうが、ランゲの新作続報が全然ない今、ここではまず「ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーター」について、他ブランドのリピーターとはどこが異なり、どこにランゲらしさがあるかなど、ブランドからの資料や、2015年のPTケース発表時に書いた個人ブログ記事を少し改編して引用しつつ、改めて振り返ってみたい!



【技術解説~Technical supplement】
まずは、「ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーター」の肝であるデジタル表示と打鐘についての技術解説を、A.ランゲ&ゾーネの資料から見ていこう。

新感覚の時間表示を提案するツァイトヴェルク ファミリーの中で、「ツァイトヴェルク・ミニッツリピーター(2015年発表)」は「ツァイトヴェルク・ストライキングタイム(2011年発表)に続き、時を音で知らせる第二のモデルとして登場しました。その画期的な機構は、A.ランゲ&ゾーネの技術革新力の証左でもあります。

この時計を開発するにあたっての最大の難関は、ツァイトヴェルクの時刻をデジタル表示する瞬転数字メカニズムと、その数字を論理的かつ合理的な打鐘数に変換して時を奏でるミニッツリピーターを連係させることでした。
この野心的な構想を実現するために、開発技師たちは時計技法の未開の地に足を踏み入れることになりました。

この機構には、文字盤に見える数字と打鐘数が一致するというメリットがあります。
12時59分には時を低音で12回、正10分を重複音で5回、そして分を高音で9回打ち鳴らします。


●12時59分のサウンド実写、打鐘の回数を確認してください。

特筆に値するのは、このハンマー打ち機構の信頼性の高さです。
カタツムリ形カムの形状と配置を工夫することにより、時刻を間違いなく読み取れるようにしました。ゴングを斬新な方法で固定し、ハンマー打ち機構を作動させるためのスライダーを廃止した結果、力強く澄んだ音色が生まれました。


【構造と仕組み】
普通のミニッツリピーターでは、ハンマー打ち機構そのものが専用の香箱、輪列および脱進機を備えており、ムーブメントの中にもう一つのムーブメントがあるような構造になっています。
スライダーを操作してゼンマイを巻き上げ、リピーターを作動させます。ハンマー打ち機構を制御するのは、正時、正15分および正分を読み取る3個のカタツムリ形カムです。



筒カナ上で十字型に配置された一の位用分カムが回転し、正15 分用カムが1 時間で1 周します。
正15 分を数えるために正15 分用カムと、14 分以内の分数を読み取る正分用カムが取り付けられています。
正分用カムには、14 の段差が四重に付いています。12 段が付いた正時用カムは上述のカムとは別の軸に取り付けられており、正時になるたびに1 段進みます。これらの時と分を数える極小の多数の段を間違いなく読み取らせるには、精緻を極める調整が必要です。
ツァイトヴェルク・ミニッツリピーターでは、打ち鳴らす時刻を確実に読み取れるようにカムの配置と形状に工夫を凝らしました。正時は時リングで直接読み取ります。一の位用分カムと十の位用分カムは別々の軸に取り付けられています。
一の位用分カムの9 段と十の位用分カムの5段は、それぞれの全周360°に分散して刻まれています。
こうして、打鐘数が文字盤の表示時刻の数字と一致するようにしました。
ハンマー打ち機構のエネルギー源は、時計のゼンマイです。リピーターを作動させると、巻上げ輪列から角穴車が離れます。これにより、リピーター作動中に巻上げ輪列がエネルギーを損失することなく、角穴車がハンマー打ち機構を駆動させる仕組みです。


【洗練された響きを追求】
ランゲの設計技師たちは、理想的な音色が得られるまでムーブメントとケースを隅々まで調整しました。
ゴングの調整には訓練された耳が必要とされ、もっぱら手作業で行います。時計の内部で、2 本のゴングが澄んだ音色で長く余韻を残し、相互に完璧に調和するように調整するのです。

それが達成できるまで、ゴングを何度も取り外しては加工し、再び取り付けて音色を確かめます。時計の組立工程で最も時間のかかる作業は、完璧な音色を追求するこの調整作業なのです。



【考え抜かれた保護機構】


こうして、リピーターは正確に時刻を読み取ることができ、音で奏でる時刻がダイヤル上で読み取る時刻と一致するのです。打鐘数が最も多い12 時59分には、正時の低音12回、正10 分の重複音5回、正分の高音9回の合計31 打となり、リピーターの作動が終了するまで約20秒かかります。(上の動画を参照)。

リピーターの動力は時計のゼンマイから供給されます。したがって、リピーターの作動回数と作動時間によって、パワーリザーブの持続時間も変わります。打鐘プロセスが完全に終了するまで時計が停止しないように、パワーリザーブ残量が12時間以下になると、すなわちパワーリザーブ針が赤い点の左側を指すとハンマー打ち機構が作動しない仕組みになっています。


●パワーリザーブ表示の赤い点に注目


【他ブランドのミニッツ・リピーターとの相違点】  ※ここから先は2015年書いた個人ブログからの改編・引用となります。
A.ランゲ&ゾーネの復興は1990年ですが、復興からこの「ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーター」発表まで、25年もの間、その開発力の高さを自負するあのランゲが、ただの一度もリピーターにトライしなかったということは、普通に考えてもまずあり得ないことでしょう。

詳細には触れられませんが、過去にいくつかのリピーター・プロダクトが陽の目を浴びることなく葬られた(そのうちのひとつは発表寸前の段階にあった!)という風聞があります。
前社長ファビアン・クローネ氏にも尋ねたことがありますが、「(あくまで仮定の話として)もし発表に至らなかったものがあったとしたら、その理由は、主にそれらが、『ランゲらしいリピーターではない』という判断からだろうと述べていました。

では、ここで言う“ランゲらしさ”とは何でしょう。

いわゆるミニッツ・リピーターは、1783年のブレゲの発明以来、その原理という点ではさほど進化はしていません。
発表の瞬間からインパクトを放ったランゲ1やダトグラフのように、確かな革新性を伴った高性能時計を世に問うという姿勢でその歴史を歩み始めたランゲ&ゾーネが、250年近くも前の使い古された原理に基づくリピーターを、ただ単に出すだけであるならば、それはやはり「ランゲらしくない」という判断があったのだと思われます。

そこでまずランゲが選択したのは、歴史的なリピーターを進化させること、すなわちリピーターという機械が抱え続けてきた”弱点”を改善するという発想だったと想像するのです。つまりそうしたアプローチによって製作された時計であれば、そのリピーターはおのずと革新的で「ランゲらしいリピーター」となるに違いないからです。


それがまず、以下に挙げる3点の克服と革新だったのではないでしょうか。

すなわち・・・

①「防水性の確保」。
ツァイトヴェルク・ミニッツリピーターのハンマー打ち機構は、リピーターに付き物のスライダーではなくボタンで操作します。
このボタンを取り付けることにより、3 気圧防水が可能になりました。
スライダーで巻き上げて動力を得る形のリピーターは、そのスライダーという構造上、ケースサイドに空間が生じるため、生活防水すら困難ですが、それを10時位置のボタン操作にすることで、防水機能を持つリピーターという他にはあまり例のない構造を実現したのです。


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●2015年発表のPTケースのオリジナル「ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーター」


②「デシマル・リピーター」。
15分を1つの単位として、高音と低音2つゴングを組み合わせて10分の位を告げる、今となってはややわかりにくいという弱点でもあった伝統的なリピーターの時打ちに対し、前述の解説の繰り返しになってしまいますが、デジタル表示されている時間を、時・10分の位・1分の位の順にゴングを打つデシマル方式を採用したことで、誰もが簡単に、感覚的に時間がわかるリピータとなっています。

下の動画は、通例のリピーターとデシマル・リピーターの鳴り方を比較していますので、確認して見て下さい。



開発部トップのトニー・デ・ハースは言います。
「文字盤も針もないツァイトヴェルクのリピーターを考えた時、デシマルはごく自然な発想だった」。

工場長ティノ・ボーベも
「どこにもないリピーターという観点からデシマル・リピーターに着目し、結果としてそれを搭載するのはツァイトヴェルクが最適だった」

と、ランゲの“開発2トップ”は出発と着地とを入れ換えて語ってくれましたが、昔からランゲには“偶然から生まれた美しい必然”を理想的なストーリーとする傾向がありますので、ここは両人の両説を「はいはい」と受け入れておきましょう(笑)。


③「リピーター起動時にリューズ操作が規制される」。
想像してみてください。リピーターが鳴っている最中に、リューズを引き上げて時分針を動かしたり、起動用プッシャーをもう一度押すとどうなるかを(笑)。
作動したリピーターはギアの位置から”時分”を読み取ってハンマーを打ちますが、その最中にその基盤となっていた”時分”を動かしてしまうわけですから、普通であれば重篤な故障が引き起こされ、かなりの確率で時計は本国送りです(笑)。
このような恐ろしいプレイによって、”どういうことが起こるか”を現行のリピーターで試した方はほぼいないとは思いますが、実はこういう箇所も、古来からリピーターの弱点ではありました。
しかしこのランゲのリピーターには、複雑なメカニズムをスムーズに連動させるために複雑な安全機構が組み込まれています。リピーターが作動すると同時にリューズと主動力の輪列を強制的に切り離し、リピーターが鳴り終わるまで数字ディスクが進むのを防止します。
リューズを引き出して時刻合わせをできないようにするメカニズムが、こうした故障につながる問題を解決しているのです。



ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーター考察【しかもまだ前編(笑)】_b0159560_22125357.jpg

そしてこれもまた至極当然ですが、リューズが引かれた状態では、逆にリピーターのプッシャーがロックされ、起動不能となります。


もちろん、上に挙げた①~③を個々に見れば、ランゲ以前にもいくつかの先例はあります。しがし、2世紀にもわたって引き継がれたリピーターの大きな弱点を一気に3つとも改善した時計は(2015年時点で)過去にも例がありません。
その点からも、「ランゲらしいアプローチを持つ、比類のないリピーター」という、かなりハードなアウトラインからスタートした時計の着地点こそが、このツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーターだったと思えるのです。


A.ランゲ&ゾーネはこの時計の開発段階で、6つもの特許を取得しています。
そのうちの3つが上記の②~③に関連するもので、すなわち、「リピーター作動中に輪列を切り離す仕組み」と「その際に作動するギアとラチェット(空回りする)・ホイール」で計ふたつ(註:ドイツ語と英語のやりとりだったため具体的な詳細は異なる可能性もあるかもしれません)。さらに「デシマル・リピーターに関連するもの」でひとつです。

そして、残る3つの特許を吟味していくと、このリピーターの特性は、より一層際立ってくるのです。

まずは、「See it, Hear it(=見たままに聴こえる)」機構に関する特許です。
デシマル・リピーターも似たようなニュアンスを持っていますが、この特許の意味するものは、作動したリピーターは常に時計の表示時間分のゴングを打ち、もしその際に表示時間と実際時間のずれが出たとしても、リピーター終了後にディスクが瞬転してそれを修正するというものです。
たとえば、12時59分50秒くらいにリピーターを作動させた場合、鳴らされる音は低音が12回、重音が5回、高音9回で、ハンマーがゴングを打ち終わるまで20秒以上かかります。つまり、リピーターの作動中に、時間は確実に1時00分となってしまうわけです。
その時、この賢いメカニズムは、鐘を打ち終わるまでディスクの動きを止めて待っているのです。しかしその間も秒針はずっと動き続けていて、ゴングが鳴り終わった瞬間(この例で言うと、たぶん1時0分13秒くらい)に、ディスクが瞬転して時分を合わせ、時計の精度を落とさない仕組みになっています。こうしてどんな場合でも、表示時刻とリピーターが奏でる時刻は一致し、常に“見たままが聴こえる”という特許です。


秒針が60を過ぎても分のディスクは動かず、リピーターが鳴り終わった瞬間に分ディスクが進むことを確認してください。


続いて5つ目の特許・・・。
実はこれが、本作リピーターのなかなかに微妙な問題を浮かび上がらせるのですが…、そのことに触れる前に、まずこの時計の外観を見てみましょう。
径は44.2mm・厚みが14.1mm・WGケース。

これらの数値はベースキャリバーを同じくする、このリピーターの前身機ともいえるツァイトヴェルク・ストライキング・タイムとほぼ同じです。
いくらリピーターとはいえ、45mmを超えることは避けたかった。できればストライキング・タイムと同じ程度の大きさに抑えたいという、その判断は正解だったと思います。

しかしその結果、開発陣は大きな犠牲を強いられます。
根本的なスペースの不足という難題の中で、リピーター機能に独立した動力を与えることを断念せざるを得ず、ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーターは主動力からのトルクを得て作動する機構になっているのです。

その結果どういうことが起きるかと言いますと、主動力はフル巻き上げで36時間のパワーリザーブを持っていますが、しかしユーザーがリピーターを鳴らすたびに、主動力のパワーを喰っていきますので、その残量はどんどん減っていくことになります。たとえば最も多くのゴングを打つ12時59分の鐘を鳴らした場合、パワーリザーブで言うと2時間分に近いトルクが一気に放出されてしまうのです。
もしもユーザーがリピーターを頻繁に鳴らしてパワーリザーブがゼロになってしまったとします。万が一、その動力切れがリピーターの作動中に起こった場合、リピーターは途中で停止することになりますが、この複雑機構にとってそれは非常に危険な事態で、おそらく致命的な故障の原因となります。



古来のリピーターはスライダーによって起動する別動力で動いているものが多いうえに、どんなに場合でも、リピーターは完全に鳴るか(オール)、全然鳴らずにリピーター動力が解け終わるか(ナッシング)、その2つにひとつの動作しかしない“オール・オア・ナッシング”という機構によって保護されているので、リピーターが鳴っている途中で停止する事態などは、まず起きないのです。(註:停止による故障はないが、“ナッシング”中に、動力が解け切るのを待たずにもう一度スライダーを引いてしまうのが、いわゆる“二度引き”と呼ばれる行為で、それはリピーターの故障原因の上位を占めています…)。

つまり、これは皮肉な話ですが、古来のリピーターの問題点を多数克服してきた「ランゲらしいリピーター」であるツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーターですが、革新を求めたがゆえに、古来のリピーターでは解決ズミの“脆弱点”を、新たに抱え込んでしまう可能性が出てきたわけです。

長々とお待たせしました(笑)、そしてここでようやく5つ目の特許である、「パワーリザーブが12時間を切ったら、リピーターは作動しない」という機構が“発明”される必要があったのです。パワーリザーブ残量が12時間地点に付けられた赤いドットを下回った時には、リピーターのプッシャーは反応しないという、おそらくリピーター史上非常に稀な「規制のあるリピーター」時計が誕生したわけです。



 

こまめにリューズを巻き上げる必要のあるリピーター時計というものが不便なのか、それとも、使ってみると意外と気にならないものなのか、つまりここを欠点として重く見るか、はたまたひとつの機能として評価するかどうかは、個々それぞれで分かれるのではないかと思います。

ただ、ここまでを振り返ってみて、確実にわかることがあります。
それは、ブランド各社が公然と、最も繊細で微妙な機械(言い換えれば”最も故障しやすい時計”)として扱ってきた“ミニッツ・リピーター”というモデルに対して、ランゲが加えた“進化形”は、「防水」にしろ「リピーター作動時のリューズ操作の規制」にしろ「パワーリザーブによるリピーターの規制」にしろ、そのほとんどがリピーターを壊れにくくする工夫であることがわかります。気兼ねなく安心して使えるリピーター。操作上の故障の可能性が考えられそうな点には、あらかじめ規制をかけるなど、先回りした対策が施されているリピータなのです。
これは流麗なデザイン性を重視するスイスの時計産業のそれとは明らかに異なっています。

ドイツ人にとって「良いモノとは実用的であること、すなわちそれは壊れにくく、長持ちするモノ」なのです。

たとえどんなに洗練されていようが、どんなに高価だろうが、壊れやすいモノは良くないものであるという、ドイツ人のDNAに刷り込まれた(それはドイツ車を思い浮かべても頷ける)、実にゲルマンな、とてもザクソニーな、そして呆れるくらい実直・頑固・職人的なランゲの根源(オリジン)が、この「ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーター」からは窺えると思います。



さて、最後に残った6番目の特許です。
そしてそれこそが「ゴングの取り付け方に関する特許」で、ここからようやくリピーターの本分である“音”の領域に触れていきたいと思いますが、その前に、ランゲがいつ頃からこのミニッツ・リピーターの製作に取り掛かったのかを確認しておきましょう。

ランゲの時計に関して、通常の場合はキャリバー番号から製作着手年を推測できるのですが、このリピーターのキャリバー番号はL043.5(=2004年に製作着手した3番目のキャリバーの5つ目のヴァージョン)、つまり、L043.1であるツァイトヴェルクをベースキャリバーに、その5つ目ヴァリエーションという扱いになっているため、正確な開発開始年がわからないのです。整理しますと、「L043.x」というツァイトヴェルクのベースキャリバーからの派生の関係は以下のようになっています。
L043.1 ツァイトヴェルク(2009) ツァイトヴェルク・ルミナス(2010)
L043.2 ツァイトヴェルク・ストライキングタイム(2011)
L043.3   ??
L043.4 ツァイトヴェルク・ハンドヴェルクス・クンスト(2012)
L043.5 ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーター(2015)
L043.6   ??
L043.7 ツァイトヴェルク・デシマルストライク(2017)
L043.8 ツァイトヴェルク・デイト(2019)



3つ目と6つ目のヴァリエーションが世に出ていない“ヌケ番号”となっていますが、こうした枝番が抜けるケースは非常に稀なので、これが何を意味するのか現段階では不明です (笑)。
仮説としては・・・、
「ムーブメントの改編製作がボツとされたツァイトヴェルク・モデルがあった」と、まぁ・・・想像できるのはこんな感じでしょうか。
※どなたか枝番が抜けた他のモデルでのケースをご存知の方は教えていただけると勉強になります!

その場合、“抜け番モデル”が、将来製品化される可能性はまずないと思われますので、どういう機構のツァイトヴェルクであったかは、永久に謎です。
ただ仮説として、それがミニッツ・リピーターの“ボツ・ヴァージョン”だったりした場合、そのキャリバー分の開発費なども発売作品に加算され、その定価を押し上げている一因とはなったでしょう、ま、これはあくまで仮説ですが・・・。


さて、だいぶ寄り道しましたが、このリピーターの不明な開発年について、2015年に開発陣に質問したところ、「4年前」という回答を得ました。
ということは2011年、それはまさにツァイトヴェルク・ストライキングタイムスが発表された年です。
ゴング&ハンマー搭載モデルの成功を確実なものとして、その次段階として、ついに満を持してミニッツ・リピーターに取り掛かったことがわかります。


 
ここら辺から話は本筋になってきますが、普通に考えれば、先進機として世に出したツァイトベルク・ストライキングタイムスのハンマー&ゴングは、時打ち時計としても安定していたわけですから、そのまま継承するのが自然でしょう。

しかし、ストライキング・タイムとミニッツ・リピーターのハンマー&ゴングの形状を比べると、かなり異なっているのです。

下の画像をご覧ください。
左がストライキング・タイム、右がミニッツ・リピーターです。
片や真円に見えますが、新作の方はまるで鍵穴を覗いた形のように湾曲しています。この形はあくまでも上から見たもので、実際のゴングは高音と低音の2本が高低差をつけて取り付けられていて、先端の一部分が重なっている見えていることになります。
ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーター考察【サウンド編】_b0159560_16354012.jpg

この形状に変えざるを得なかった原因は、リピーター機能をコンパクトに収めるためと思われます。
先にも触れましたが、ストライキング・タイムからのサイズ・アップは極力抑えたかったことにも関係してくると思われます。

では、このゴングの形状変化はサウンド面にどのような影響を持つのでしょうか。
デ・ハース部長に尋ねましたところ、
「いろいろな試験を行い、(音の)波形や数値を計測したが、ストライキング・タイムのゴング(=円形)と全く変わらないことがわかった。」と答えていただきました。
しかし音の心臓部分であるゴングの形状が、スペースの関係で大きく変更されているのは、良い音を出すという観点からはちょっと不安ではあります。
これはあくまでもイメージですが、真円のほうが音は均等に響くような気もします。ただトライアングルのように角を持つ打楽器もあるので一概には断定できません。

では、音に関して、ストライキング・タイム以上の、ミニッツ・リピーターならではの工夫はないのでしょうか?
そこでようやく、ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーターが獲得した6番目の特許が登場します。
「ゴングの取り付け方に関する特許」です。

文字盤上に可視化されたゴングの、その終端部分は機械側に深く潜り込んでいて、ケース全体を”増幅器として鳴らす”役割に貢献している…という特許です。

最近はこのツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーターのように、ゴングを文字盤側から可視化できるモデルがいくつか発表されています。
たとえばオーデマピゲの「ミレネリー・ミニッツ・リピーター」(下の画像参照)などもそうですが、

ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーター考察【サウンド編】_b0159560_11174661.jpg

そのタイプの時計を注意して見ていくと・・・、
たとえばこの「ミレネリー」の場合は、表の時間表示サイドと裏の機械サイドを仕切る文字盤などの要素を小型化することで、表と裏の境いを取り払っています。
この機構が意味するところは、ケース全体をゴングが振動する“鳴り”の空間とする、そのための工夫としてのゴングの可視化でもあるのです。

では文字盤によって表と裏の空間がほとんど仕切られている時計では、表側と裏側、どちら側にゴングがあったほうが振動増幅スペースとして大きい、すなわち有利かという話になりますと、たいていの時計の場合、裏のスペースの方が表のスペースよりも広いはずです。とはいえ、ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーターのゴングを裏側スペースに移動した場合、数ミリ規模のケースのサイズ・アップはまず避けられませんし、機構上もたいへん難しいでしょう。

そこで考えられたのがこの「ゴングの取り付け方」です。その意味するところは、文字盤側に見えるゴングの末端を機械側まで潜らせることで、時計ケースの表裏両側の空間を音の増幅スペースとして利用するという"発明"です。



ところが、会場で実際に音を鳴らしたとき、この特許の最も際立った点は、実は音ではなく、ケース全体に及ぼす振動そのものでした。
極端な話、もし耳の不自由な方がこの時計を腕につけてリピーターを鳴らしたとしても、その打刻数を数えることで容易に時間を知れるであろうほど、確実な振動が腕に伝わってきました。これはこの特許の思わぬ副産物と言ってもいいかもしれません。

つまり、ミニッツ・リピーターの最重要部分である“サウンド面”について、ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーターは、前身機であるストライキング・タイムの真円系ゴングの経験が活かせない、未知の形状のゴングという変化を受け入れなければならなりませんでした。また、振動スペースの狭い文字盤側にゴングがあることをデメリットにしないよう、新しいゴングの取り付け方を“発明”もしました。
それでもまだこの時計のサウンド領域が完璧ではないことは首脳陣も理解しているでしょう。
とても澄んだ美しい音色を聞かせてくれますが、大きな音量を求める方にはやや物足りないかもしれません。もちろん、これらを克服すべく改良を重ねた結果が、今回のWGケース・ブルー文字盤のヴァージョンということなのかもしれませんし、ゴングの素材や構造、ハンマーの形状といったドラスティックな変更が加えられて、音質や音量が劇的に改善されている可能性もないとは言い切れません。



2020年の新作実機にまだ触れていません(鳴らしてもいません)ので、現時点で個人的に認識しているこの時計の”サウンド面“での明らかな長所を挙げるとするならば、ゴングとゴングとのテンポ感とそのタイミングです。世の中のリピーターには、重音時にいきなり早くなったり、音が切り替わるときのテンポ感が気持ち悪かったりなど、ハンマー動作に問題を感じるモデルも少なくありません。
2年前に「グランドコンプリケーション」のサウンドを聴いた方であれば、より具体的に納得できるのではないかと思いますが、ランゲのこの打刻のタイミング感は、その分野で現在最も評価の高いパテック・フィリップのリピーター音と比べても、遜色ないレベルと言えます。
あとは音量の問題をランゲがどこまでブラッシュアップできるかが、この時計の進化を左右する大きなカギとなることでしょう。




もうひとつの要素として、「ケース素材」というテーマがあります。
初代のツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーターはPTケース、今回はWGケースです。
このことは、『ケース金属によって“鳴り”に違いはあるのか』、という話にも至るのですが、よく「PGが一番良い」とか「SSだと音が大きい」とか「PTは鳴らない」とか、したり顔で語る方がいらっしゃいますが、自分の経験から得た結論を言うならば、この手の論争はほとんどナンセンスで、リピーター音に影響する要素において、ケース素材の占める部分はさほど大きくありません。ケース素材よりも、ゴングのカシメにかかる荷重やハンマーの動作性のほうがサウンドには影響しますので、同じモデルの同じケース素材のリピーターであったとしても、2個の時計は絶対に同じ音ではありません。
こうしたリピーターの個体差の話については、またいつかリピーター全般について書く機会があれば、その時にじっくり触れてみたいと思います。


そして最後に触れとかなきゃならないのは、けっこう大きな問題である価格(ドイツ価格44万9千ユーロ)に関してです(笑)!

さまざまな機構を持つリピーターであっても基本的には時間表示と時打ち機能という、いわゆるシンプルリピーターであって、その点では他の多くのコンペティターのシンプル・リピーターよりも高額の価格設定であることを、かつてシュミットCEOに質問という形でぶつけてみましたところ、以下のような回答を得ました。

『この時計は、わが社の中でも常に不足気味の資産である“最上級クラスの時計師”を独占していました(笑)。加えて、他のコンペティターのリピーターは昔ながらの同じ原理に基づいていますから、ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーターには、他に比べるものがありません。つまり、ある意味これは“ユニークさ”という価値へ対する価格なのです』


ここまでの流れをおさらいする意味で、開発部のアントニー・デ・ハス部長の2015年と2020年の動画を並べておきます。



●2015年



●2020年。「オデュッセウス」から話始めるので、「ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーター」は3分48秒頃から。




2020年の新作第一弾ということで、まずは「オデュッセウス」と「ツァイトヴェルク・ミニッツリピーター」のそれぞれホワイトゴールドケースという2モデルがベール脱いだわけだが(註:「ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーター」はA.ランゲ&ゾーネ ブティックのみ取り扱いの予定)、今年2020年は何の年かご存知だろうか?


今年は、
アドルフ・ランゲがグラスヒュッテにA.LANGE工房を開いた1845年から数えて100年と3/4世紀、つまり175年目の記念年(ヨーロッパでは25年刻みでアニヴァーサリーを祝う習慣がある)なのである!

また、ブランドが復興を遂げた1990年から数えて、30周年でもあるのである!!

なので今年のどこかの段階で、たぶんそれは99%の確率で10月24日に(笑)、

"あっと驚くような"175周年記念モデルが発表されると思う!

もちろん、10月より前にも新作発表がある可能性も高いので、人類史上まれに見る困難に直面しているこの2020年ではあるが、どうか前向きな時計ライフを愉しめたらと願う次第である!





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