オメガの軽量なスポーツウォッチ「シーマスター アクアテラ “ウルトラライト”」を見る 金属の可能性

 By : CC Fan
2020年12年4日:誤字と構造の理解が間違っていたのを修正しました

去年オメガから発表された
、重さわずか57グラムの軽量なスポーツウォッチ、シーマスター アクアテラ “ウルトラライト”。
登場直後に、編集長もブログで取り上げ、その技術的な内容から手に取ってみたい!という作品でした。

先日、実機を拝見することができたのでレポートします。



最大の特徴はヒゲゼンマイや脱進機のパーツにシリコン(ケイ素)素材は使っているものの、それ以外のケースやムーブメントには、高分子樹脂素材ではなく金属を使ったうえで、前述した57グラムという重さを実現していることです。
これは軽量で強度に優れたγ‐TiAl(ガンマ-チタンアルミ)合金のケースと、軽量なチタン合金地板を用いたムーブメントによって実現されています。

ガンマ-チタンアルミのガンマというのは金属組織の名前のγ相を活用して強度を確保しているという意味になります。
半分近く(40%以上)がアルミで、冶金と適切な熱処理によってチタン分子とアルミ分子がγ構造(面心立方構造)に整列することで強度と耐熱性を確保する…という事は調べてなんとなくわかりましたが、それ以上はさっぱりです。
イメージとしてはチタンの結晶の中にアルミ原子が「つっかえ棒」の様に入り込むことで結晶の変形を防いでいる…と言う感じでしょうか。

これに比べると、時計の素材で有名なグレード5チタン(64チタン・Ti-6Al-4V)は別の相であるα相とβ相が混ざったようなα+β合金です、強度はγ相に劣り、また比重の高いチタンの割合が多いため重量でも不利になります。

では、なんでそんなに素晴らしい素材なのに、オメガが使うまであまり一般的じゃなかったのか?というのは、コストと加工性の問題で、主な用途がある程度のコストよりも性能が優先される航空機エンジン用のタービンブレードという事からも分かります。
オメガの工業力で加工と熱処理によって強度はもちろん美観的にも素晴らしいケースを実現していました。

また、文字盤も同じγ-TiAl合金で作られており、全体の統一感が図られています。



ムーブメントは8振動・コーアクシャル脱進機を備えた8928 Ti、名前の通りチタン合金製の地板とブリッジを持ちます。
このムーブメント、実際に見るまではどういう輪列かわからなかったのですが、実物を見て理解しました。

BARREL ONEとBARREL TWOと記された二つの香箱の出力を並列に使用するツインバレル構造で、香箱を連結している中間車(連結ピニオン)がムーブメントのセンタ―にあり、これが筒カナへの出力軸になります。
この中間車は小径のピニオン部分しかなく、本来の2番車はCO-AXIALと書かれた下に見える軸で、オフセット2番車です。
2間車には2つの香箱間の伝達によるトルクがかかっているため、トルクなしで歯車の遊び(バックラッシ)が表面化する針飛びや置き回りの問題は発生しにくく、オフセット輪列の省スペース効果も両立します。

修正:オフセット2番車ではありますが、連結ピニオンが出力軸ではなく香箱から別輪列で出力するインダイレクト配列でした。

2番車→3番車と加速したのち、ムーブメント中央の連結ピニオンと同軸の4番車に到達し、この4番車がセンターセコンドを直接回します。
更に、コーアクシャルガンギ自体は変更せずに回転速度を8振動相当にするための変速車(5番車)を経てコーアクシャル脱進機に入力されます。

ツインバレルの構造を活かして歯車が重ならないようにし、コーアクシャル脱進機を高振動化させるための変速車もうまく使って無駄な歯車無しでセンターセコンド化を成し遂げた流石の設計です。



γ-TiAlの刻印も。
15気圧防水のケースバックはオメガの特許技術、バヨネット構造のナイアードロックにより刻印がズレません。



サテン状のケースサイドはなめらかです。
組成的にはもっとアルミっぽいのか?と思いましたが、イメージとしてはグレード2(純チタン)に近い感触でした。
チタン感は感じますが、粗さは感じませんでした。



特徴的なリュウズ。
ノック式ボールペンのように軽く押すことでポップアップし、その状態で巻き上げ、更に引くことで時合わせを行います。
ネジ込みと違いネジをかけなくてよいのでより扱いやすいでしょう。



ベルトはバネ棒で自由に回転するのではなく、埋め込まれたインサートによってケースに対して一定の角度で止まるタイプ。
カンタロスがこのタイプで、時計本体が動かず、ブレスレットのような一体感が出るので激しい動きのスポーツウォッチ向けだと思います。



軽いことは大体の問題を解決する…と言うのは言い過ぎでしょうか。



ハイテク高分子樹脂素材が大流行ですが、まだまだ金属にも可能性は残されている…と言うオメガの矜持と理解しました。

スポーツに本気で使える機械式時計をオメガのクオリティで作るとこうなるという事でしょう。



【お問合わせ先】
オメガお客様センター TEL:03-5952-4400