A.ランゲ&ゾーネ ヴィンテージ懐中時計"訳あり品"博物館・第一夜~ケースを失ったムーブメントたちの行方
By : KITAMURA(a-ls)A.ランゲ&ゾーネ ヴィンテージ懐中時計"訳あり品”博物誌
昨年11月に開催したWATCH TRADE OLINE #2に、個人的なコレクションから、約100年以上の年を経たランゲ&ゾーネのヴィンテージ品を何点か出品した。
もともとはWATCH TRADE OLINEをWMOサイトに常設化するためのリニューアル費用を捻出することが目的だったが、実際ヴィンテージ品にどの程度のニーズがあるのか見当がつかないため、『ランゲ・ヴィンテージ"訳アリ品"的特集』として、特殊な理由のために、相場よりも比較的リーズナブルな価格で手軽に扱えるものを数点、試験的に出品したところ、思いのほか興味を持っていただけたような結果をいただいた。
巷で言う"訳あり品"の売り立てというと、足が足りないカニだったり、形が不ぞろいな野菜だったりするのと同じように、どこかマイナス要因を含んだ個体で、リスト中にも当然その部分を明記していたのであるが、見方によっては、ヴィンテージ品収集の際の"注意書き集"のような内容になっていたので、WATCH TRADE ONLINE#2の期間終了後にアクセス不可扱いとなったリストを、「記事化してほしい」というお声もいただいていたこともあって、テレビなどもスペシャルな特番ばかりやってるこの正月気分の中、ちょっとトライしてみた。
まとめてみると、ALSやDUFといったランゲ懐中時計の規格に関する話や、ALS規格にある1Aクォリティから1Cクォリティまでのランク付けについてなど、ヴィンテージ・ランゲのマニアックな知識としても役立ちそうな読み物にもなっており、ブログとしても成立するのではと思っている次第である。
訳アリ品の主要原因
それは、いつの時代にか、もともとの所有者が懐中のオリジナルのケース(18金や14金、900銀など)を貴金属として転用・販売してしまうなどの理由で、時計のケースとムーブメント部分が分かれてしまい、ムーブだけが残ってしまう場合が生じることにある。
2度の大戦や世界恐慌など、食料の価値が貨幣価値を上回った時代や、貴金属が一番確かな価値を持った時代を生き抜いたヴィンテージ懐中の試練ではあるが、"訳アリ品"の多くは、この残ったムーブメントの再利用が原因となる。
それらを後の時計師が腕時計に改装(リケース)したものをマリアージュと呼ぶことがあるが、中には腕時計とは違う様式に転用されるムーブメントもある。
第一例目がまさにそれだ。
❶ランゲ懐中 DUFクォリティー 改装・テーブルクロック Ref,68423
ケース素材: 不明
サイズ:径=80mm 高さ=85mm

もともとは1910年製で14Kのローズゴールドケースに収めされていたのだが、現状はコンパクトなテーブルクロックに改装されている。
それだけでもかなりの"訳アリ"品だが、これはさらにエナメル文字盤がメタル文字盤に変更されている。20世紀前半まではエナメルよりも金属の文字盤のほうが製造が難しく高価だったので、ある意味、非常に珍品であるともいえる。

長所を挙げるすると、ブルースティールが美しい針はオリジナルで、心地よいチクタク音も愉しめる。

また、裏スケになっているので、4分の3プレート、サンバースト仕上げの香箱や、スワンネックの調速機などを、いつでも手軽に鑑賞できる。

公けの機関であるグラスヒュッテ時計博物館からのアーカイブ(ZERTIFIKAT=ミュージアム発行のクォリティー認定書)を取得ズミのほか、製造時のランゲ社からの出荷台帳のコピーも付属。
もしオリジナルの14金無垢ケースのままの懐中時計であれば、かなりの高額がついただろう。
難点はパワーリザーブが約17時間と短いこと。




現状は、日差+6分ほどなので精度調整の必要もあるが、卓上で日々、目からも耳からもランゲ懐中を愉しめるのは貴重と思う。頒布可能品。
❷ランゲ懐中DUFクォリティー・リケース Ref.23000
ケース素材:ニッケル
サイズ:径50mm

❶と同様、リケースされたDUF懐中だが、こちらは1893年に14Kローズゴールドケースで製作されたオリジナルの風合いを意識した形をとどめている。
ちなみに、懐中時代のランゲのクォリティーには、グレードの高い順にALSクオリティー、DUFクォリティー、OLIWと3つのカテゴリーがある。

DUFは、DEUTSCHE UHREN FABRIKATIONの略で、ALSクォリティーのディフュージョン・ラインとして、一般市民でも頑張れば手に入るような価格帯で販売され、ランゲ懐中のニーズをヨーロッパ中に拡大した名機コレクションである。

本作のおすすめポイントは、なんと言っても、そのなめらかな3層エナメル、美しい金のルイ針、(たぶんリューズも金)などオリジナルパーツの多くが健在で、色味も当初のローズゴールドケースの風合いを残してリケースされていること。

また、裏スケでリケースされたことで、通常のケーシングでは簡単に見ることが難しかったサンバースト仕上げされた香箱やテンプの動きを鑑賞できるのはもちろんのこと、


いわゆる、"キリ番”のリファレンスを持っているのも素敵な一品。

現状日差は 1分で合格範囲。パワーリザーブは約31時間。
有り難くも落札していただいた一品。

オマケとして、ALSとDUFの見分けについてふれておこう。
これはすごくシンプルで、文字盤のロゴ配置が異なるので非常に容易に見分けがつく。

●同じ3層エナメルの文字盤だが、右がALS、左がDUF。
また、ムーブ裏にもALSであれば「A.LangeSohne Glashutte by Dresden」という銘が、DUFには「DEUTSCHE UHRENFABRIKATION Glashutte」の銘がそれぞれエングレーブされているので、これもわかりやすい。

●右がALSのムーブ裏、左がDUFのムーブ裏。
❸ランゲ懐中ALS・1Cクォリティー・マリアージュ(Ref.48618)
ケース素材: スティール
サイズ:径 47 mm(リューズ含まず)

❶の説明でも触れたが、懐中時計の貴金属(18Kや14K、900銀など)のオリジナル・ケースが失なわれた後、残ったムーブメントを腕時計に改装したものを、ヴィンテージ・ランゲのマーケットでは"マリアージュ(=合体・結婚)品”と呼び、ジャンク品扱いをせず、ひとつのコレクターズ・アイテムとして流通している。
※ちなみに、某フリマアプリやオークションサイトなどにも、三大ブランドやランゲ、ブレゲなどの懐中時計を時計に改装したものが、"アンティーク品"という名目で多数出品されているが、9割方がフェイク(贋物)という残念な事態になっているので注意して欲しい。
このランゲ懐中は、1904年に、もともとは18Kケースを持つALSクオリティー(1C)として制作されたが、現在は腕時計に改装されている。

この作品のさらなる"訳アリ・ポイント”は、ALSクォリティーのムーブメントであるにもかかわらず、文字盤の表記がDUF(Deutsche Uhrenfabrikation Glashutte)となっている点だ。

このように、本来の約束事を違えたものは、どうしても評価が下がってしまうのだが、後付けされたこのDUF文字盤は三層エナメル構造で、非常に出来がいいのが、かえって不憫だ。


裏スケからのぞく、サンバースト仕上げ、スワンネック、4分の3プレートは、間違いなくALSクォリティー。

現状の日差は±1分以内。
こちらも、有り難いことにご入札いただいた。

今夜はここまで。
第二夜は、ランゲ・ヴィンテージ懐中の真贋の見極め方の基礎を含め、WATCH TRADE ONLINE#2の出品リストの後半をまとめる予定。
興味ある方はお楽しみに。
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COMMENTS
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コメントありがとうございます。
また、お返事が遅くなってすみませんでした。
お尋ねの、1A、1B、1Cのこと、当ブログの続編となる原稿にまとめましたので、よろしければご覧になってください。
https://watch-media-online.com/blogs/3932/
文字盤とムーブメントの銘が「A.Lange&Sohne Glashutte by Dresden」であれば、シルバーケースでもALSクォリティといえます。また、もう一点、ケースに彫られている番号と、ムーブに彫られている番号が一致していましたら、間違いのない完品です。
他にも何かご質問ございましたら、遠慮なくお尋ねください。よろしくお願いいたします。
当方が10年前グラスヒュッテで購入したものがケースはシルバー 文字盤ともにA.LangeSohne Glashutte by Dresden
これだけでALSクラスといえるのでしょうか?