A.ランゲ&ゾーネの限定新作「ツァイトヴェルク・ハニーゴールド “ルーメン”」実機にみる11年越しの"合体"~往年の"ルーメン"との集合ショットも掲載

 By : KITAMURA(a-ls)


ブランドの公式デヴュー日である10月24日に、記念の意味も込めて発表された「ツァイトヴェルク・ハニーゴールド “ルーメン”」。発表当日にはプレスリリースの引用で速報的に紹介したが、この度、早くも実機を見ることができた。






まず目をひくのは、ルーメンといえばプラチナ・ケース的なイメージがあった旧4作以来の"約束事項"を軽やかに打ち破り、史上初のハニーゴールドを纏った"ルーメン"の登場という点である。



思えば、ハニーゴールドの原型「ハニーカラー・ゴールド」も、ルーメンの元祖「ツァイトヴェルク ルミナス」も、その誕生はA.ランゲ&ゾーネにとって特殊な年となった2010年[註1] のことだった。
その当時は、まさか11年後にこの2つの"発明"がひとつに合体し、多くの愛好家に注目される限定モデルになるなど予想だにしなかった。



ハニーゴールドは白色灯の下ではイエローゴールドぽく、自然光だとホワイトゴールド的に見えるとよく言われるが、今作は気のせいか、さらにWG寄りに感じられる。
バックルはハニーゴールド尾錠。ハニーゴールドの超硬質という属性のためにD-バックルは作られない方針とのことだ。つまり、作れないのではなく作らないというのは、仮に無理して作ったとしても、その手間や工賃を価格に反映させるととんでもないプライスになってしまうためということなのだろう。



初代「ルミナス」以外の全ルーメンを集めてのショットも撮影。



初代が集められなかったので、ツァイトヴェルク同士としての相違点を細かく論じることはちょい難しい。
なので下に昔の画像も追加しておく。



ディスク表示も黒地白抜きのままだし、日の裏の仕上げの視認性を比較してもさほど大差は感じられないので、ちょっと厳しいマニアックな言い方をすれば、これはやはり"ルーメン"というよりは"ルミナス"なんだと思う(笑)。


"ルーメン"を発光させる際にはA.ランゲ&ゾーネ謹製の「ブラックライト発生装置」の使用を推奨!



さて、それ以上に、ツァイトヴェルクとしてのより大きな注目点は、ムーブメントの進化だろう。
予備動作の有無や、裏から覗くパーツ形状の違いなどから、以前からムーブメントの微調整の痕跡は指摘されていたのだが、ブランド側が正式にそれを認めることはなく、WATCH MEDIA ONLINEのインタヴューでも"個体差"という見解で一貫していた。
が、今回ついに、先に発表された「ツァイトヴェルク・デイト」からの成果である、ツイン・バレル/72時間パワーリザーブ/時送りプッシュボタンなどの機構をツァイトヴェルクのムーブに移植した、第二世代キャリバー L043.9の搭載を公言したのである。



以下は、ツァイトヴェルク(第一世代のハンドヴェルククンスト・左)と「ツァイトヴェルク・ハニーゴールド "ルーメン"(右)」との裏比較である。



明らかに異なる"景色"ではあるが、その具体的な変更点とその効果については、本サイトのCCFan先生の将来的分析に期待したい(笑)。

今後、通常品のツァイトヴェルクのムーブメントも順次第二世代となっていくのか、その辺りは機会があればデハース開発部長に尋ねてみたいところだ。



さて最後に、この作品についてのインプレッションだが、自分としては、新しいムーブを積んだツァイトヴェルクの第一号機であり、プラチナ以外の貴金属ケースにトライした初の"ルーメン"であるという、ふたつの歴史の基点となるモデルなので、ブランドの大事な記念日に発表された意義は大いにあると思う。



ただ、新作といえば"ワクワク"がつきものだが、最近のランゲに関しては"なるほどね"という納得の感覚のほうが勝ることが多い。もちろんこれは個人差があるだろう。もう20年近くA.ランゲ&ゾーネの歴史をリアルタイムで体感してきた場合の今回の"ルーメン"と、2018年の「ダトグラフ"ルーメン”に間に合わず"ルーメンの"新作を待ち望んでいて今作で初体験した場合のそれとの、2つのインプレッションを同列で語ることは、絶対無理だからだ。



それでいいと思うし、まさにそれこそが歴史というものだと思う。
自分の感覚・感情を総てとして他にもそれを求めるような表現も散見するが、自分を離れて、もっと高い視点から物事を眺めてみると、もっとまた新しい楽しみ方が拡がる場合もあるものだ。



とは言え、最近のA.ランゲ&ゾーネはコレクション(ファミリー)・ライン化にハメ込まれすぎていて、どんな新作が出てきても、デザイン的な既視感が強くなってしまうのは、ちょっと残念なところだ。
たとえばパテック フィリップでは基本ライン以上の分類は、コンプリケーション、グランド・コンプリケーションという機能別のコレクション分けになっているので、今年の「5236」(インライン・パーペチュアル・カレンダー)のような、デザイン的にも新しい新作がサクっと登場するわけで、個人的な思いとしては、過去の「リヒャルト・ランゲ・ジャンピング・セコンド」なども、ザイフェルト顔にこだわらずにもっと自由にデザインの発想していたら、さらにワクワク倍増な作品になったに違いないという気もするし、かつてのA.ランゲ&ゾーネは、間違いなく、そういうワクワク度数が非常に高いブランドの筆頭格だったのだ。



おっと、ちと"老害"ぽくなってしまったぞぃ(笑)。
さてさて、この「ツァイトヴェルク・ハニーゴールド "ルーメン"」、過去のルーメン同様、限定200本ということなので、入手へのハードルはかなり高そうだ。でもまぁこれはこれで良かったけれど、心は早くも2022年の"今度こそワクワク新作"への期待に向かっている次第。マニア(の語源はギリシャ語の"狂気"、転じて偏執者の意味となった)の我儘がとめどもないのは世の常なので、あしからずですわ。。。。







【お問合せ】
A.ランゲ&ゾーネ
TEL.0120-23-1845



[註1:ランゲの2010年]
2010年のSIHHはA.ランゲ&ゾーネにとって、ある意味で非常に象徴的な年だった。
前年の2009年夏にブランドCEOを務めていたファビアン・クローネが突然辞職し、当時まだジャガールクルトのCEOだったジェローム・ランベールがA.ランゲ&ゾーネの責任者を兼任することとなった。来たる新作発表の場であるSIHH2010の開幕まで残り僅かとなっていた時期ではあったが、ファビアン政権下で進んでいたプロダクトの多くが凍結され、逆にファビアン政権下で凍結されていたプロダクトのいくつかが、SIHHでの発表に向けて短期間で準備されたのだと思う。
その結果、かなりのバタバタの中で発表されたのが"創業165周年"というやや強引な周年記念セットや特異な限定モデルだったのだが、その165周年セットに採用されたのが現在の"ハニーゴールド"の原型である「ハニーカラー・ゴールド」であり、2010年の限定モデルのひとつが、後の"ルーメン"の元祖となる「ツァイトヴェルク・ルミナス」だった。
つまり11年前に、"エイ、ヤー、ター"的にデヴューしたこのふたつのエレメントが、ハニーカラー・ゴールドは金属組成をやや変更したハニーゴールドへと進化し、ルミナスは蛍光効果以上に『"光透過性サファイアガラス”の採用で日の裏側のペルラージュなどの仕上げも見られる』という切り口を全面に押し出した"ルーメン"と称するといった、それぞれの紆余曲折を経て、いまやすっかりブランドを代表するラグジュアリー・タグとなり、ここに圧倒的な意味合いを持って11年越しの合体を遂げたのである。そしてこの2010年以降、A.ランゲ&ゾーネのプロダクトはコレクション・ライン化が強化され、現在へとつながって行くことになる。