グランドセイコー「KODO」のユニークピースがPhillipesのNYオークションにチャリティー出品~先天性心疾患の研究に資金を提供するチルドレンズハート財団へ寄付

 By : KITAMURA(a-ls)

今月10, 11日にニューヨークで開催された、PHILLIPS時計オークション。
ラグ・スポの異常な過熱ぶりにはようやく落ち着きが見えてきたようだが、しかしその一方で、伝統あるブランドのドレス・ウォッチや一部独立系に高値が付くなど、時計マーケット全体の好況はまだ続いている。このNYオークションも総売上は29億円を超え、昨年に続く100%の落札率を記録。ちなみに、NYで2年連続の落札率100%を達成するのは、オークションハウス史上初の快挙だそうだ。
落札結果:https://phillips.com/auctions/auction/NY080322


しかしまぁ、「あのモデルが定価の何倍で落ちた」とか、「あのブランドがこれから上がりそうだ」とか、そういうお調子モノなことをここで書こうとしているのではなく、176ロットが出品されたこのNYオークション中、通常のオークションとは別の仕切り、先天性心疾患の研究へのチャリティーという形で、日本製ウォッチの最高峰ともいえるあのモデルのユニークピースが出品されていたことをお伝えしたい次第なのである。

オークション中盤のロットNO.100 に、本年度のジュネーヴウォッチ グランプリにおいて卓越した精度を備えた時計に贈られる「クロノメトリー」賞を受賞した、グランド セイコーのコンスタントフォーストゥールビヨン、通称“KODO(鼓動)”のユニークピース、SLGT001(限定1本)が出品されていたのだ。


©SEIKO

グランドセイコーの10月21日付の短いニュースが事の始まりであった。
『この度、世界有数のオークションハウスであるPhillipsが2022年12月10日から開催するオークションに、グランドセイコーKODOコンスタントフォース・トゥールビヨンの特別モデルが出品されることとなりました。
基本性能はSLGT003と同じですが、ムーブメント、バンドの仕上げや、下記の点が異なります。
■ケース素材:ブリリアントハードチタン ※SLGT003はブリリアントハードトチタンとプラチナ950
■中留素材:ブリリアントハードチタン(一部18Kイエローゴールド)
製品詳細は、Phillipsのウェブサイト(米語)をご覧ください』



そしてPhillipsの詳細を辿ると、『この出品は、先天性心疾患の研究に資金を提供するチルドレンズハート財団への寄付のためのプレミアム・ロットであり、チャリティーのためエスティメートは要問い合せ、入札には事前登録手続きが必要』とある。



この特別な"KODO"であるが、リファレンスはSLGT001とされ、20本限定の通常のグリーバル・モデル(リファレンスSLGT003)とはいくつかの点で異なるユニークピースであるため、ケースバックに「UNIQUE PIECE No.1/1」という刻印がある。さらにそれに加え、落札者には、『グランドセイコー技術チームに会うための岩手県の「グランド セイコー スタジオ雫石」訪問を含む日本への旅行が付属する』とも記されている。



20本限定の"KODO"の価格は4400万円だが、この特別モデルの落札額は果たして…、
「SOLD FOR $478,800(約6550万円)」での落札という、高評価の結果になった。



前述した10月の短いニュース以降、セイコーはこのチャリティー・オークションの結果を含めた続報を、公にはしていない。
欧米のブランドであれば、"子供の先天性心疾患の研究支援のためのチャリティー出品、落札価格は定価を上回る評価、売り上げをチルドレンズハート財団に寄付"などと大きく報じるのだろうけれど、それをしない辺りの奥ゆかしさもジャパニーズ・ブランドらしい所作か。なので、あえてこれをブログで取り上げ、この"快挙"を喧伝する次第である(笑)。


以下は、Phillipsの「作品NOTE」からの抜粋。コンパクトにまとまっているので、ご参考までに。

2020年、グランドセイコーはコンスタントフォース機構とトゥールビヨンを1つの軸に組み込んだコンセプトムーブメント「T0コンスタントフォース トゥールビヨン」を発表した。そしてこのコンセプトを実現するために、デザイナー、エンジニア、ムーブメントやケースの組み立て・仕上げを担当する職人など、さまざまな分野の専門家が結集。キャリバーを構成する340個の部品一つひとつが再検討され、必要な場合には生産に向けて再設計、再エンジニアリングが行われた。その結果、誕生したのがキャリバー9ST1である。
キャリバー9ST1は、従来のコンセプトムーブメントよりも小型化されただけでなく、コンスタントフォース機構により、高い精度をより長く安定させることに成功した。さらにキャリバー9ST1は、6つの姿勢と3つの温度で48時間にわたるテストが行われその精度を証明。これはグランドセイコーの基準の2倍であり、さらにそれぞれのムーブメントを34日間かけて評価しその精度を確認している。



多層構造のケースには、グランドセイコー独自の合金であるブリリアントハードチタンを採用。通常モデルでは、外装ケースとベゼルの外装構造のみに使用していたこの素材を、SLGT003ではケースの内外装部品に使用することで、徹底した軽量化とこのモデルならではの心地よい装着感を実現。ブリリアントハードチタニウムは純チタンのように軽く、ステンレスの2倍の硬度を持つため、傷に強いのが特徴で、グランドセイコーに使用されている他のチタンよりも色が鮮やかで、ザラツ研磨の表面がより際立つ。



ブリッジや地板など、ムーブメントを構成する多くの部品にシルバーメッキを施し、KODOの新しい美意識を表現。パワーリザーブやキャリッジの秒トラックには、T0コンセプトムーブメントの美しさを受け継いだイエローゴールドのアクセントが施されている。

KODOのネジのデザインは、キャリッジの6本のアームを模したもので、デザイン性を高めると同時に、組み立てを容易にするための工夫が施されている。またSLGT001のネジは、SLGT003のようにミラーポリッシュではなく、手作業でブルーに焼き戻されている。

コンスタントフォース・トゥールビヨン機構のキャリッジには、軽量化と効率化のためにチタンが採用され、陽極酸化によるブルーイングも施されている。陽極酸化とは、チタン製のキャリッジに電解処理を施し、人工的に酸化皮膜を生成させる表面処理のことで、酸化チタン膜は光の屈折率によって発色するため、酸化膜の厚さを変えることでさまざまな色を作り出すことができる。これもまた、初代コンセプトT0のスタイリングを踏襲している。



クラスプのブリリアントハードチタンには、グランドセイコーの優秀なエングレーバーが手作業でGSの文字を特別にエングレーブしている。ストラップには、かつて武士の鎧に使われていた耐久性の高い素材と同じ伝統的な加工を施したカーフストラップを採用。ストラップの表面には、手作業で漆が塗られ、繊細な光沢を放つマルチコーティングが施されている。色はこの作品のために特別に作られたブラウンである。
本製品には、グランドセイコー国際保証書(5年)が添付されている。


※©のクレジットのない画像はすべてPhillips サイトより転載