ローラン・フェリエ、スモールメゾンから生まれる時計の魅力の秘密~Q&A補足レポートから読み解く

 By : KITAMURA(a-ls)

ここ数年の時計産業の大きな流れの中にあって、独立系ブランドへの認知や評価は大きな進歩を遂げたのは間違いないが、その中でもハイレベルなウォッチメイキングと独創性によって独自のポジションを築いているのがローラン・フェリエだろう。
スイス時計産業の長い歴史からのエッセンスを感じさせるようなクラッシクなフォルムでありながら、その内部には先端技術を尽くした高精度な機械が包まれているという、まさに時代を超越した存在感を放つ時計を生み出しているローラン・フェリエーーその真髄を見極めるため、昨年10月にWATCH MEDIA ONLINE読者有志と共に工房を訪ねた際にも、伝統や歴史から受けたインスピレーションを現代の技術や素材で実現するという時計製造へのこだわりを、改めて強く感じさせてくれた。
(参考:https://watch-media-online.com/blogs/7669/ )





GPHGメンズ・ウォッチ部門でいきなりのグランプリを獲得した「クラシック トゥールビヨン」による鮮烈なデビューから14年、独立系ブランドというスタンスを活かした妥協のない時計造りによって日本でも徐々にその知名度を高めているローラン・フェリエだが、実際、最近その名をよく聞くようになり、気になっている方も多いのではないだろうか。
この度、創始者ローラン氏の息子でありムーブメント開発部門の重要人物でもあるクリスチャン・フェリエ氏が来日し、様々な面からブランドとその時計を語るトーク・イベントが日本各地で開かれるなど、日本市場への積極的なアプローチもいよいよ新展開を迎えようとしている。



その模様は後日レポートするが、これに先立って昨年末に、スイス本国のセールスマネージャーであるロバート氏が来日し、ユーザーおよびプレス向けにもプレゼンテーションが行われた。そのこと自体は別に珍しくもないのだが、驚いたことがひとつある。

そのプレゼンテーションの場で数多く投げかけられた質問のうち、いくつかの問いに対して、後日、実に丁寧な補足回答を、わざわざレポートにまとめて送ってきてくれたのだ。
プレゼンのQ&Aの場で、「本社に確認してお返事します」という回答は割とよくあるが、答えはかえって来たり来なかったりで、質問した側もそんなに重くは受け止めていないことも多いのだが、ここまで真面目に取り組んでくれるというのが、まさにこのブランドの姿勢なのであり、そしてその姿勢が、時計に対してもユーザーに対しても同じだからこそ、伝わるものがあるのだろうと感じた次第である。



ローラン・フェリエの時計は一見やはり高額なのだが、それはこうしたブランドの真面目な姿勢が、デザイン、高精度、仕上げなどのあらゆる部分に注ぎ込まれた結果だと知ることができるレポートであり、その回答の中にはブランドの根幹につながるものも多いので、ここにその一部を引用しご紹介しようと思う。




<12 月12 日ローラン・フェリエ ブランドプレゼンテーション>

【機構について】
――なぜ、ローラン・フェリエの時計にストップセコンド機能がないのか?
『当初はストップセコンド機能を入れることを研究していました。しかしこれはテンワとヒゲゼンマイに作用する機能のため細心の注意を要します。もしかするとオーナーの中には時計の秒針を止めた状態のままにする人がいるのではないか、その場合ヒゲゼンマイに負荷がかかったままになってしまうと考えると、完全には安心できませんでした。最終的にメリットよりもデメリットの方が多いという評価になり、正当な理由がない限り、時計の信頼性を損なうリスクは取らないという判断になりました。』



――ロングブレードラチェット機構の機械的なメリットは?
『この機構は時計を巻き上げる時に非常に心地よい音とスムーズな感触をもたらします。時代とともにより小さな設計が採用されてきましたが、その結果「感触」は失われました。私たちの手巻きキャリバーの中でロングブレードラチェット機構は重要な部品です。確かに長い棒状の金属パーツの角をすべて均一に丸く仕上げるのは難しい装飾ですが、高級時計製造のやりがいを引き出します。』

――時刻合わせの際、リューズのひと巻きで針が約60 分動く。多くの時計は30 分程度なので、ローラン・フェリエの時計は長いと思うが何か目的があるのか?
『私たちは単純に、時刻合わせの際にこの方が快適だし不利になることはないと思いました。改めてお伝えすると、私たちのリューズは非常に正確で快適に巻上げます。』



――マイクロローターの巻上げ効率が改良されているようだが、いつ頃から変わったのか? また何か変わったのか?
『特に大きな変更はありません。何事もそうですが、新しいキャリバーを完全なものにするには時間がかかります。私たちの場合、それはナチュラル脱進機でした。というのも私たちの誰も経験したことがなかったからです。ウォッチマシンでさえ測定することができなかったのです! しかし、私たちのテンプ、ヒゲゼンマイは時間とともに着実に向上してきていることは特筆に値します。』



――トゥールビヨン ダブルバランススプリングで使われているヒゲゼンマイはブレゲオーバーコイルではなく、平ひげか?
『平ひげです。2つのひげゼンマイの目的はブレゲオーバーコイルとまさに同じで、よりうまく機能するということです。』

――トゥールビヨンのガンギ車もニッケルリン仕上げとのことだが、マイクロローターと同様にLIGA製作か?
『その通りです。私たちはトゥールビヨンに14年間同じ素材を使い続けており、長い間、その機能性に非常に満足しています。』




【デザインについて】
――クラシックトラベラーのプッシュボタン、デザインインスピレーションはどこから得たのか?
『私たちはプッシャーを目立たなく、ケースに馴染むようなデザインにしたいと考えました。そのゆえ、視覚的なバランスのために長さがあり、プレスはかなり短いです。また、ボタンをしっかりと押せるように爪を固定するための小さな窪みが、ボタンの中央にあります。』

――スポーツ・オートの日付窓:窓左側のスロープデザインを見ると、車のボディにある通気口からヒントを得ているように見えるが、何か関連はあるか?
『よく細かいところまで気づきましたね。でも残念ながら違います。このアイデアは、3時から9時までの文字盤全体のバランスを作ることです。日付窓が小さいと視覚的に調和しないからです。』




【ブランドについて】
――ファブリック・デュタン時代とサプライヤーは同じですか、またはブランド設立後に変わってきているか?
『いくつかはまだ継続していますし、ほとんど不可欠なサプライヤーもいます。また、ニーズや要望に応じて新たに組んだところもあります。ローラン・フェリエは「マニュファクチュール」ではありません。ムーブメントの開発・設計、そして部品はすべて自社の設計ですが、その製造は多くのサプライヤーと組んでいます。』

――シリコン部品のサプライヤーはどこですか?
『スイスで一番有名なところです』

――文字盤、ケースのサプライヤーは?
『(具体的な社名は言えませんが)ケースはジュウ渓谷で、文字盤はモデルによって違いますが、ジュラ山脈とジュネーブの間辺りで作られています。』

(ブランドより、「マイクロメゾン」という表現についての補足)
『ローラン・フェリエはいわゆる「マイクロメゾン」ではなく、あえて言うなら「スモールメゾン」です。マイクロメゾンは年間生産数が数十本という規模ですが、ローラン・フェリエは420本(2023年)を生産しています。』



いかがでしょう。少ない文章ですがその端々からにじみ出る、ブランドの真面目さが伝わったでしょうか。

この世界で長い歴史を刻んできたローラン・フェリエがイメージするエレガントで優美な曲線から成るケースのフォルムに、最先端の技術を身につけた息子のクリスチャン・フェリエらが設計する極めて高性能な独自開発のムーブメントが組み込まれるという"二世代構造"によって、まさに時代や世紀を超えた独特のバランスで成り立つローラン・フェリエの作品は、今後ますます注目度が高まる違いない。



【お問い合わせ】
ローラン・フェリエ日本総代理店
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