パテック フィリップ普遍的名作の変遷

 By : Kamine

2020年の新作として「手巻き永久カレンダークロノグラフ」Ref.5270.のYGモデルが発表されました。

 

 

今回は、パテック フィリップ社の長い歴史の中で脚光を浴び続け、数々の伝説を生んできたグランド・コンプリケーション部門の普遍的名作である永久カレンダークロノグラフの変遷を辿りたいと思います。

 

 先ず、5270のルーツを辿れば、1941年発表のRef.1518まで遡ります。

 

 

1518は、汎用時計としては世界で初めて永久カレンダーとクロノグラフ機構を搭載したモデルです。

ムーブメントはヴァルジュー社のキャリバー23VZをベースとした名機で、それは、フィリップ・スターン名誉会長が、20世紀中の最も重要なモデルと位置付けた程の伝説的なモデルなのです。

 

そして次に、Ref.1518の後継機として1951年から1985年までの長きにわたり生産されたのが、このRef.2499です。

 

 

生産年数が長いため、何度かマイナーチェンジがされており、製造年代の外装的特徴により大きく4つの世代に分類されます。生産年数は長いですが、その間に実際に生産されたのは、わずか349本。その稀少性のため、いまだに、コレクターに探し求められているモデルです。

こちらの写真が第一世代のモデルで、Ref.1518のデザインがそのまま踏襲されています。ムーブメントも同じキャリバー23VZが搭載されています。

 

パテック フィリップ社は、創業以来、現在まですべての時計ひとつひとつにスターン社長サイン入りのこのサティフィケイトが添えられジュネーブ本店で固有ナンバーと共に管理されています。

 

 

このサティフィケイトは言わば出生証明のようなものです。

 

続く第二世代以降の外観的特徴は、プッシュボタンが角型から丸型に変更された点です。針の形も、リーフ型からドフィーヌ型に変更されました。

※個体によっては針の形状や、インデックスの形状が、第一世代の特徴と混在している物があるようです。

 

  

第三世代では、外周のタキメーターが無くなり、よりすっきりとした文字盤の意匠になりました。クラシカルからモダンへと、文字盤デザインの改良が、時代の変遷を感じさせます。

 

 

最終形態の第四世代は、外観的特徴は第三世代とほぼ変わりませんが、風防にサファイヤクリスタルが採用されたため、ベゼルの厚みが少し増して特徴のある逆ぞり型の形状になっています。

 

 

それにより、時計の厚みが、よりタイトに見えるようになり、この機種の特徴の一つになりました。

 

 

こちらの写真のプラチナモデルは、1985年の生産終了を記念して1987年に発表されたモデルで、生産数はわずか2本の稀少モデルです。

そのうちの一本は、世界的ミュージシャンであり、筋金入りのパテックコレクターで有名な”エリック・クラプトン”が所有し、その後、2012年のオークションで最終的に350万ドル(約3億5千万)で落札され大きな話題となりました。

 

 

因みに、もう一本はジュネーブのパテック フィリップ・ミュージアムに所蔵されており、事実上、世界の市場に存在するのは、たった一本限りです。

 

 

 

先述した名機Ref.2499の後継機が、、下のRef.3970。

 

 

こちらも名品中の名品で、ここまでくるとこの年代的にもかなり有名な機種になっています。

 

3970も18年間の生産の中で大きく3つの世代に分けられますが、第一世代は裏蓋がスナップバック式、第二世代はスクリューバック式、第三世代はサファイヤ・クリスタルバックとなっており、第三世代に至ってはスクリューバックの噛み合いが深くなり、防水機能も高まりました。

 

また、特筆すべきは、ベースムーブメントがキャリバー23VZから、ヌーベル・レマニア社の2310に変更されたことです。レマニア2310を手掛けたのは、名設計者アルベール・ピゲで、このムーブメントは40年以上にわたり、最良のクロノグラフ・ムーブメントとして、多くの名品に搭載されました。

パテック フィリップ社は名機と名高い2310モジュールの、クロノグラフ作動の確実性をより高めるために、ブリッジやキャリングアーム、ドライビングホイールなどに手を加え、衝撃への強度を高めるため、コラムホイールにシャポー(帽子)を被せました。

 

 

また、心臓部の調速装置は、緩急針を廃し、ジャイロマックス®テンプを搭載するなど、全面的なモディファイを施し、丹念に改良を重ねたのが、本機に搭載されたキャリバーCH 27-70 Qです。(18000振動で60時間のパワーリザーブ。)

 

 

外装だけでなく、搭載されるムーブメントも、その時代の英知が結集されており、その変遷も非常に興味深いものがあります。

 

 

 

18年の長きにわたり生産された3970の後継機がこちらのRef.5970で、角型ボタンの復活と、タキメーター、リーフ針が使われており、Ref.1518や、Ref.2499等へのオマージュが強く感じられます。

こちらの生産期間は意外と短く7年間(2004~2011)。最後のレマニア社製ムーブメント搭載モデルとなり、惜しまれつつ生産終了となりました。

 

因みに、エリック・クラプトン氏は、近年の写真でも、Ref.5970を着用しています。

 

 

オークションピースとなったRef.2499/100をはじめ、長年その時代に沿って、パテック フィリップのこのシリーズを着用している様子を随所に見ることができます。

 

2011年、パテック フィリップ社は、合理的にすべてを見直し、満を持して、完全自社開発、自社製造の手巻きクロノグラフムーブメントに、永久カレンダーモジュールを組み込んだキャリバーCH 29-535 P S Qを搭載したRef.5270を発表しました。

 

 

定評のあったCH 27-70と比較しても、多くの点で、それを凌駕する革新的なムーブメントで、クロノグラフに関する6つの技術特許を有しており、計時精度、信頼性、耐久性、操作性とあらゆる面で、厳格なパテック フィリップ・シール認定基準を満たす、比類ない完成度の永久カレンダー搭載クロノグラフとなりました。

 

 

一新されたムーブメントもさることながら、文字盤も、12時下のカレンダー窓の大きさが従来のものと比べて拡大され、クロノグラフの30分針と小秒針のインダイヤル位置を少し下に変更されました。針の数を減らし、4時位置に独立した閏年表示、7時位置に昼夜表示のパネルを入れ込むことで、文字盤をよりすっきりと現代的にし、ユーザーにとっても視認性を高める配慮されました。

単にデザインだけでなく、ユーザーに対する思いやりと言う点でも、パテック フィリップの律義さが感じられる設計といえるでしょう。

 

 

ここまでの年数を経ても特徴的な逆ぞりベゼルの形状はそのままで、長年のルーツを踏襲しています。

 

 

2014年には早くも文字盤のマイナーチェンジが行われ、レイルウェイからタキメーターとなり、ぐっとスポーティーさが増しました。

 

 

翌、2015年には再度、文字盤に変更が加えられ、タキメーターの内周にレイルウェイが復活しました。これにより文字盤がより狭く整い引き締まった印象になります。

 

そして更に、WGのみだったケースバリエーションに、RGも追加されました。

 

 

WG生産終了→2017年
RG生産終了→2018年

 

2017年には長年生産されたWGモデルが生産終了を迎えます。RGの革ベルトモデルも生産終了となり、入れ替わりで、プラチナケースのゴールド・オパーリン文字盤タイプと、RGのブレスレットモデルが発表されました。

 

 

永久カレンダー搭載クロノグラフのシリーズでは初めての組み合わせとなる、プラチナケースとゴールド・オパーリン文字盤は、現行品でありながら、伝統的なヴィンテージの趣を醸しだしています。

もちろんパテック フィリップのプラチナケースには6時位置の側面にダイヤモンドが一個埋め込まれています。

 

RGのブレスモデルの文字盤は、エボニーブラック・ソレイユで、少しワイルドで精悍な印象。

 

 

ケースに完全に統合されたドロップ・リンク・ブレスレットは、ゴールドで組み上げられた造作の美しさと、完璧な装着感を持ち合わせています。重みはありますが、全体的に行き渡る重量バランスは、実に心地良いゴールドウォッチの重みを堪能することができます。

 

これまで辿りました、永久カレンダー搭載クロノグラフの歴史的変遷は、パテック フィリップ社グランド・コンプリケーションの顔として、時代ごとの複雑時計製作チームの英知が宿り、多くの逸話には枚挙のいとまがありません。

 

それらを踏まえて、あらためて新作のRef.5270Jを改めてご覧いただければ、より深く、その素晴らしさをより一層感じていただけるかと思います。

 

 

この時計の凄みは、初代のRef.1518からのDNAを永々と受け継いでいるという点。まさに世代を超えて「Beyond Generations」を体現した時計と言えることだと思います。

 

2020年新作 グランド・コンプリケーション
永久カレンダー搭載クロノグラフ
Ref.5270-001
18KYGケース
ケース径41㎜、ケース厚12.4㎜
シルバー・オパーリン文字盤
3気圧防水


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