スイス時計製作におけるローマン・ゴティエ(Romain Gauthier)の可能性とは。神戸&東京での来日イベントのご案内も!

 By : KITAMURA(a-ls)
※11/22付で画像を一部差し替えました

マニファクチュール・ローマン・ゴティエ 
工房見学レポート


10月初旬ながら気候はすでに冬並み…。
そう聞いていたので日本から厚着をかなり詰め込んできたのだが、到着日から気温が急上昇したそうで、本当に雲ひとつない秋晴れのジュウ渓谷~あまたの名作時計や巨匠を輩出してきた、まさに“機械式時計のゆりかご”とも言える地の湖畔と緑の中を、車で走ること約一時間・・・・。

やがて、こじんまりとした清潔な建物が見えてくる。
ル・サンティエにある彼の工房マニファクチュール・ローマン・ゴティエ、それが今回の目的地である。
ローマン・ゴティエ氏の笑顔に迎えられ、最初に通されたのは彼のワーキング・ルーム。そこから丸一日。
見学させていただいたマニファクチュール・ローマン・ゴティエ、それは驚きの連続だった!


今回の見学で理解した点・知り得たことを、いくつかのパートにまとめてご紹介していきたい。
そしてそれこそが、なぜ今わたしたちがローマン・ゴティエの時計に注目しているか、その理由に他ならない。


●工房到着後に最初に通されたローマン・ゴティエ氏の執務室。2013年に受賞したGPHG「金の針賞」のトロフィーがさりげなく置かれていたのに感動!





◆今、なぜローマン・ゴティエの時計製作が注目されるのか。

この問いに答えるには、まず彼の経歴を知らなければならない。
端的に言うならば、ローマン・ゴティエは一般的な、いわゆる時計師の経歴を経ていないという事実の中に、その答えはある。

ローマン・ゴティエは、1975年にル・サンティエで生まれた。ヴァレ・ド・ジュウ(ジュウ渓谷)の美しい自然と、伝統あるスイス高級時計製造技術を常に身近に感じながらも、彼の興味は時計製造だけにとどまらず、その精密機構の基盤となるエンジニアリング自体へ向かったのだった。技術学校に進んだ彼は、精密機械の製作者/コンストラクターとしての学位と資格を取得。1997年に機械プログラマー/オペレータとして最初の仕事に就くや、たちまちに才能が認められ、事業部門の管理を任され、その部門をヨーロッパで最も効率的かつ設備の整った生産施設の一つへと成長させた。
この頃からローマンは、幼いころから親しんでいたジュウ渓谷の伝統的な時計製造と、自らが学んできた現代的なデザインや革新的なマイクロエンジニアリングとを融合させることを思い立つ。

「若い頃には時計を作る気はありませんでした。これに対しては機械をよく知るというバックグラウンドを得たことが、とても重要でした。つまり、自社で製造できるということが、ブランドの保障となっているのです。」

働くことで培ったノウハウを、地元伝統の高級時計製造に対する妥協のないアプローチと結びつけることで、類まれなタイムピースを創出できると考えたのローマンだったが、しかし彼は決して焦らなかった。
まず当時の彼に唯一不足していたキャリアである経営学を身に付けるため、2002年にMBAの課程を修了。非常に高い評価を得たMBA修了論文のテーマこそ、「ローマン・ゴティエ・ウォッチのための事業計画」だった!
この2002年からの3年間、ローマンは密かに自身のブランド設立の準備に取り組み、2005年に起業、そして2007年のバーゼルフェアにおいて、自社製ムーブメントを搭載した「プレスティージ HM」を発表したのだ。


「私は、自分が製作しようとする全てのものの基盤となるのは優れたムーブメントであると考えていました。だからこそムーブメントの開発から始めたのです。」


その後2010年に「プレスティージ HMS」を、さらに2013年には「ロジカル・ワン」を発表。この作品が時計界のオスカーと称されるジュネーブ・ウォッチ・グランプリにて、ベスト・メンズ・コンプリケーション賞を受賞する。それはブランド設立からわずか8年という快挙であった。


続いて、ロジカル ワン シークレット(2014年)、インサイト マイクロローター(2017年)を発表。これらの作品は、クラシカルで洗練されたもの、現代的でカジュアルなもの、そして極めて優美な芸術的作品まで、誉れ高きオート オルロジュリーに許されるあらゆるスタイルを網羅し、そのどれにも革新的なアイデアと最高の仕上げが施された自社製ムーブメントが搭載されているのである。



つまり、生まれ育ったジュウ渓谷の伝統的な時計製造を尊重しつつも、彼の創りだす時計は、時計師とは異なるエンジニアリング視点からの時計設計、部品製作、仕上げ、組み立てがなされるという、非常に新しいコンセプトに満ちている。それこそが今、ローマン・ゴティエとそのマニファクチュールがスイス時計製造業界において異彩を放つ大きな理由なのだ。



※【マニファクチュール・ローマン・ゴティエとは】
ローマン・ゴティエが類まれなタイムピースを製作できるのは、彼が着実につくり上げていった、スイスのル・サンティエにあるマニュファクチュールのおかげです。 このマニュファクチュールでは、熟練した職人たちと昔ながらの時計製造工具が、経験豊かな技術者たちおよび最先端の製造方法と融合し、ローマン・ゴティエの時計に搭載するムーブメントの設計から製造、装飾、組み立て、調整に至るまでの工程すべてを一貫して行う設備が整っています。 これらのノウハウは、妥協のない品質および優れた精度を約束するだけでなく、ローマン・ゴティエのタイムピースに最高の美しさと唯一無二の魂をもたらしています。





◆最上のクオリティーは【製造】から生まれる。

もし他の誰かがロジカルワンの設計図を手にいれ、しかるべき工場に部品を発注し、それを組み立てたとしても、たぶんその贋ロジカルワンは動かないだろう。
その理由は簡単だ。ローマン・ゴティエの作品は、その部品の精度や管理が、ローマン・ゴティエ基準であることが前提で設計されているからだ。ローマンゴティエの時計の部品の多くが、誤差の許容範囲プラス・マイナス2ミクロン(1mmの1000分2)とされている。

「管理ができていれば、無理に全品検査をする必要はありません。最初の設定から誤差範囲内に収まるようにすればよいのですから。良く始められたものは、良く終わります。」



機械で製造すると聞くと、工程がすごく簡単になったように思えるかもしれない。しかし、機械があるだけでは何もできない。そこにはスペシャリストが書くプログラムが必要で、正しく無駄のないプログラムを書くには、過去の経験をもとに常に考えなくてはならないと彼は言う。たとえば応力(外からの圧)を計算するソフトはないので、人間の知識からプログラムを書くしかないのだ。



「機械とはエンジニアの考えや設計者のコンセプトを実現するためのツールなのであり、部品ひとつを切削するにも、メカニックに対する知識と経験があれば、様々なエンジニアリングを通じて、常に考えながら時計を作れます。高い精度を保つには、高性能の機械が必要なことはもちろんのこと、加えて、知識と操作技術、動作環境、その総てが揃わなければならないのです。それによって同じ精度を保つことが出来るのです。」



ひとつ目も二つ目も、作品のすべてが同じ精度を保つこと、これは、ブランドの根幹である。年間生産本数は、現時点で60本以下だが、ローマン・ゴティエのシビアな基準でそれを満たし続けたうえで、最終的な目標本数を訊ねると彼は、
「80本から100本くらいかな」と答えた。

売れれば売れるほど多くの時計が必要となる。だがそれを実現するにはより多くの人件費や設備投資が必要となり、さらに多くの時計生産が必要となる「成功→生産数の増加→管理低下」という、成功した独立系時計師が陥りがちな負のスパイラルからも、ローマン・ゴティエは自由でいられる。

なぜなら彼は部品製作メーカーとしての絶対的な名声を得ているからだ。

自らは一度も営業したことはないが、部品製造の分野ではすでに名声を確立していて、多くのブランドがローマンゴティエに
オファーをしてくる。ローマン・ゴティエと同等もしくはそれ以上の工作機械を持ってるようなブランドでも、設計図を形にできず、ローマンの経験・知識・ノウハウを頼りにくるのだ!

その最大の具体例が、ローマン・ゴティエとシャネルとのコラボレイションだろう。あのハイブランド、シャネルがそのクオリティーとブランドの発展を維持するため、ローマン・ゴティエ社の資本の一部を取得しているのだ。 この投資は、ファッションの分野で、シャネルの子会社PARAFECTIONが刺繍のアトリエ、ルサージュを含めた11社の「メティエダール」傘下においていることと同様なのだという。 今回の原稿を書くにあたり、シャネルの広報から以下のようなコメントを戴いた。

「私たち(シャネル)の最終目標は、シャネルの主要なノウハウを維持することです。傘下の全ての会社が、完全な秘密保持のもと、他のメゾンの仕事を請け負う完全な自由を持っていなければ意味がありません。
ビジネスの複雑さを踏まえると、100%独立することにこだわらず、パーツの品質や供給、生産時間を保証することが最も重要になってきます。
シャネルの発展をより確かなものにするために、パーツ(歯車、回転パーツなど)とアソートメント(ヒゲゼンマイ、アンクル、ガンギ車)の主要なサプライヤーとのつながりを強化しています。 21世紀のオート オルロジュリーを代表する会社のひとつ、ローマン・ゴティエ社です。シャネルのサプライヤーとしての協業は2011年の出会いから生まれました。
彼らの技術的な専門性は、私たちに強い印象を与えました。事実、ローマン・ゴティエ社は、ムーブメントパーツの機械製造において、卓越したレベルの技術を有しており、 私たちはすぐにローマン・ゴティエ社にムーブメントパーツの一部の製造を委託することになったのです」 と。

シャネルの時計に関して、すべての時計はシャネルの子会社であるG&Fシャトラン社で製造されているが、このコラボレイションの素晴らしい点は、逆にローマン・ゴティエの側の不得手な部分、ケーシングやジェム・セティングをG&Fシャトランに製造委託している点である。

●すべてのシャネル・ウオッチを製造している、シャネル傘下のG&Fシャトラン社

今回の旅では、ローマン・ゴティエ氏を通じ、滅多に取材の許されないG&Fシャトラン社の工場見学も許された。
ここではセラミックの製造工程など、たいへん興味深い見学が出来たので、機会を新ためてレポートをする予定。



◆最善のベストクオリティーはハンドクラフトとテクノロジーの融合

ここまでを読んでいただいたことで、ローマン・ゴティエはゴリゴリの機械至上主義と感じた方もいるかもしれないが、それは大いなる勘違いである。一見矛盾するように思えるが、彼ほどハンドクラフト(手作業)の尊さを知っているエンジニアもいないのである。
それを証明するのは、スイス独立時計師の巨星、フィリップ・デュフォー、その人だ!
スイスに伝わる伝統的な手作業を愛し、それを後世に伝えることに多くの時間を割いているデュフォー氏が、現在はまるでローマンの後見人のごとく、彼を支えていることからも両者の考えの緊密さがわかるだろう。
前述したMBAの修了論文の執筆に際して、「時計の精度に関する経済効率」など、様々なテーマで教えを乞うたところ、どんなことでも丁寧に教えてもらったことから深い付き合いが始まりったのだという。
この見学の日も、マニファクチュール・ローマン・ゴティエの見学を終え、食事に行こうとなった時、ローマンが「ちょっとしたサプライズに付き合ってくれるかい?」と、わたしたちを案内したのが、なんとフィリップ・デュフォー氏の工房だった!!

●ふたりが揃うとこんな子供みたいな笑顔! デュフォーさんのアトリエにて。


約1時間ほど、工房のほとんどの機械を動かして、その役割を説明してくれたり、よく見学に来る小学生にクオーツと機械式時計の違いを教える影絵の仕組みやら、デュフォーさんの面白く有難いお話しも、また別の機会にまとめてみたい。

●そしてデュフォー氏も食事に参加、ふたりでわたしの時計をキズミでみて、またまた楽しそう(笑)。

デュフォーさんは、すべて手作りを旨とするが、「手で作っても仕方のない部品もあって、ちいさなビスとかね、それはマニファクチュール・ローマン・ゴティエに発注するのさ」と笑って語ってくれたが、仕上げに関するローマンのスイス的なこだわりなど、ふたりはジュウ渓谷の歴史というDNAで繋がり解かりあう因子を共有しているのだ。



「作品の違いを作るのは文化です。そしてそこにスイスを入れていかなければ、スイスの時計は生き残れないのです。他の地では作っていないものを、わたしたちスイスは作り続けていかなければならない、そしてそのためにはスイスの伝統と文化とを、その時計の中に組み込まなければならないのです。違いを作るのは"頭と手”なのです!」

この弟子の言葉を、目を細めて聞いていたフィリップ・デュフォー師の表情はとても印象的だった!

いま、大手のブランドは、手作業には限界があることに、あまり触れたがらない。
フィリップ・デュフォー、ローマン・ゴティエという、時計作り全体を理解するスペシャリストにとって、ヴァレ・ド・ジュウの未来はどうあるべきなのか、時計作りの将来はどうあるべきなのか、手作業はどこに活かすべきか、装置がいかに重要であるか・・・。
山積みの疑問に対して、彼はこう語った、
「どんな問題でも解決策はある。時間はかかるかもしれないが、知識と忍耐があれば、解決できると信じています。」

ローマン・ゴティエの大いなる挑戦はまさにこれから未来へと続くのである!






ここでお知らせ。

◆「マニファクチャリング(製造)とは何か?」
 神戸(11月25日)&東京(11月27日)、今回の来日でその秘孔を公開!

時計製作への造詣、工作機械のノウハウなど、彼のコンセプトを現実のものとするマニュファクチュール・ローマン・ゴティエを展示するエキシビションが、神戸と東京で開催される!!

エンジニアリングを極め、それを故郷の伝統の時計作りと融合させたローマン・ゴティエ氏が、マニファクチャリングについて、自身の時計製作哲学について、あらゆる問いに直接お答えます。


◉神戸イベント

と き;2017年11月25日(土) 12:00~18:00
ところ;カミネ 元町店2F

※スイス マニュファクチュールの至宝 “ローマン・ゴティエ” 氏の来日を記念し、ローマン・ゴティエ氏に直接カスタムオーダーできる特別な1日イベントを開催。
日本に輸入するのは極めて難しい希少なスイスワインとフロマージュを楽しみながら、ワンオフモデルのご相談や、ここでしか聞けない本格派機械式時計の裏話や質問など、ゴティエ氏と直接お話しできるまたとない機会に是非お越しください。

問合せ:カミネ 旧居留地店
Tel.078-325-0088
Open.10:30-19:30  
E.mail. info@kamine.co.jp



◉東京イベント

と き;2017年11月27日(月) 15:00~18:00
WATCH-MEDIA-ONLINE 読者優先ご招待
平日昼間(15時~18時)という、来づらい時間帯ですみませんが、まだご参加枠に余裕あります。
機械式時計における、新しい方向性を感じることのできるローマン・ゴティエの作品にぜひ、自由に触れてほしく思います。
わたしa-lsも会場におりますので、10月の工房見学などで知り得たことを、出来る限りお話ししたく思います。

問合せ:https://watch-media-online.com/blogs/1046/ 参加希望の方は左記の記事をご覧いただくか、メール、ツイッターでお申し込みください。
※折り返し、招待状をお送りします。
E.mailでの申し込み: info@watch-media-online.com
Twitterからの申し込み:https://twitter.com/als_uhruhr/status/932468307348799488



「世界の時計愛好家にご好評をいただいております。
スイス・マニファクチュールウオッチ「ROMAIN GAUTHIER」。この時期にRomain Gauthier 氏とともに最新作などを交えて皆々様と楽しいひと時を過ごしていただきたく、WATCH MEDIA ONLINE読者のために会場を用意させていただきました。この機会に、是非皆様のご来場を心よりお待ち申し上げます。」(ブランドより)




See you soon !

https://twitter.com/als_uhruhr/status/932468307348799488