セイコー「Star Time」の構造を探る~1本のみ製作のスペシャルモデルに込められた品質保証

 By : CC Fan

セイコーが10年にも及ぶ大谷翔平選手とのアンバサダー起用を記念した特別モデル、「Star Time」を発表しました。

制作された「本物 」は既に大谷選手に贈られ、その手元で時を刻んでいるそうですが、試作(マスターサンプル)を使った特別展示が7月17日~20日の間、「Star Time展~セイコーが挑んだ開発の舞台裏~ 」として、セイコーハウスで一般公開されました。この展示会のプレス内覧会にお招きいただき、特に機構のことについて色々伺ったのでレポートします。



特徴的なのは5枚のディスクを用いた表示、内側から24時間・1,000時間・10,000時間・100,000時間・1,000,000時間の5枚のディスクで極めて長い経過時間を表示します。
このカウントの「起点」は大谷選手の希望により、2023年12月14日に設定、セイコーで合わせた状態で大谷選手に贈られたそうです。

ディスクは針というより文字盤に近い素材と作り方だそうで、文字盤のように均一な塗装で仕上げ、エッジ部分をダイヤカットすることで美しいコントラストを生み出しています。



1本だけ、ではありますが、セイコーの名を冠する限り量産品と同様の品質保証(QC)を経て製作され、あまり触れられたくない落下試験も行っているそう。
ケースは既存デザインの流用ではなく、をのプロジェクトのために1からデザインと製造がおこなわれ、ラバーストラップも専用に型から起こしたそうです。

具体的に100万時間(140年)、という長きにわたって動かすためにムーブメントは計時を行うベースムーブメンントにディスク表示を行う表示モジュールを追加する、というモジュール形式が取られました。

この方式があれは相対的に動きが速く、摩耗しやすいベースムーブメントが「減った」としても交換できます、表示モジュール側は極めてゆっくり動くため、ベースムーブメントに比べれば長持ちしそうです、また後述する調整・検証においてもこの分割が役に立ちます。



「ベースムーブメント」についてはオフィシャルなことは言えない…そうなので、この写真からご推察ください。
ローターには星の軌道をイメージした意匠とロサンジェルスのLA、大谷選手の名前、そしてこの時計の起点である2023年12月14日が刻まれています。

今回、写真を撮り忘れてしまいましたが、このムーブメントに「SEIKO」のロゴが刻まれているのはアツいですね…(↑はオフィシャル写真なので見えない?)



ディスクの重なりをイメージした専用のボックスも制作されました。
ディスク部分がアルミでめちゃくちゃ重たい、とのこと。

さて、気になるのほ表示モジュールで100万時間までの減速をどうやっているか?ということ。
これについてはとくに特別な機構ではなく通常の分から時を作る減速輪列と同じような方法で24時間→(3/125)→1,000時間→(1/10)→10,000時間→(1/10)→100,000時間→(1/10)→1,000,000時間と減速して表示しているそうです。

ただ、この大きな減速比ゆえ、バックラッシ(歯車の遊び)の影響は大きく、原理上は24時間を戻し方向に回せば逆に動くはずですが、バックラッシが埋まるまでに「長い期間(具体値は非公開)」が必要なため、現実的に調整は進み方向のみになります。
ただ、時計を止めてしまって進める、はあるでしょうが戻したいという事はあまりないと思うので必要充分じゃないでしょうか。
この構造のため、組み立て時にもバックラッシをつめる方向で組み立てる必要があるそうです。



本当に140年動くの?と意地悪な質問に対する答えがこちら、表示モジュールの24時間計を早回しして、100万時間分を3日足らずで回す専用の検証装置です。
これによって検証が行えるほか、コンピューター制御で任意の日数分進めることもできるそうで、メンテナンス時に止まっていた時間分進めて調整して大谷選手に返す、という用途にも使えるそう。

この検証装置もこの時計専用に開発されたものだそうです。



1000時間ですら動いていることは目視できないでしょうが、着実に積み重なっているという意味で極めて哲学的な作品と言えるのではないでしょうか。

また、1本づくりの非売品であっても「作って終わり」ではなくちゃんと動き続けることの検証・メンテナンスを考えた構成と「作った後のこと」もちゃんと考えているのが流石のセイコー、理解しました。
これからもセイコーと大谷選手のよい関係が続く象徴として「Star Time」が動き続けてほしいものです。


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