A.ランゲ&ゾーネ、デ・ハース開発部長インタヴュー、『創業175周年記念モデルは3種の限定新作」と予告!!

 By : KITAMURA(a-ls)


訳あって現在まで、秘匿してきたのだが、実はWATCH MEDIA ONLINEは7月にA.ランゲ&ゾーネの開発部長、アンソニー・デ・ハス氏へのリモート・インタヴューを敢行していた。

ベールを脱いだ新作「タイムゾーン」の話を訊くことが主な理由であったが、その取材中に、A.ランゲ&ゾーネ創業175周年記念モデルの発売に関する発言がもたらされるという僥倖があり、そしてその時が迫った今、このインタヴューの封印が解かれることになった次第である。

WATCH MEDIA ONLINEでも速報したが、間もなく、上海で開かれるWATCHES & WONDERS(September 9th to 13th 2020 / West Bund Art Center 。参考記事→https://watch-media-online.com/blogs/3453/)、そこがキイポイントになる。


ではまずはインタヴューからハイライト部分をピック・アップしてみよう。



――世界的なコロナ禍の中ですが、現在、グラスヒュッテの工房はどのような様子ですか?
『A.ランゲ&ゾーネの工房は今、 2つのチームにわけて働くようにしています。
ウイークAとウイークB という2つのチームに分けているので、生産量は通常の50%になっています。 チームAが月曜から金曜まで働いたら、週末に社内を完全にクリーニングして、次の週からチームBの人たちが働きます。 そしてデザイナーや設計士は、主に自宅からリモートで作業をしています。 」

――思いもかけないことに、この2020年は海外渡航が制限されるという状況が起きてしまっていますが、こういう年に「タイムゾーン」を発表するということに、躊躇する気持ちなどはありませんでしたか?
『確かに海外渡航は制限されているので、おっしゃる通りだと思いますが、それでも私たちは繋がっていますよね。
実際に、移動するということは困難になっていますが、でも世界中は繋がっているし、今もこうして私たちは会話しています。私にとってこの「タイムゾーン」がすごく便利なのは、いつ誰に、どこの国の人に電話してよいかを知ることができることです。日本人のみなさんを深夜にたたき起こすということをしなくて済みます。(笑)
旅行や移動はできないですけど、時計の開発および発売のロードマップは、今回のコロナが騒ぎになるずっと何年も前から描かれています。
もちろん、今年は新作を出さないという決断もできたかもしれないですけど、でも、私たちは繋がっているんだということを、まったく違う形で再認識できた今だからこそ、逆に「タイムゾーン」を発表した意味があるのではないかと思います。』

――新しい「タイムゾーン」を作るにあたって、もっともこだわった点というのはどこですか?
『ひとつは、デイナイト表示がサブ・ダイヤルにインティグレートされていることです。前のモデルは、メインの方よりもちょっと外れた位置にデイナイト表示があって、それが自分にとっては一番気になっていたので、この点を改善できたこと。
そしてふたつめは、タイムゾーンを出して15年が経つのですけど、ランゲ1ファミリーの中では唯一、昔のランゲ1のムーブメントをベースとして搭載されているモデルなので、今回は新しくするという、ある意味での必然性があったということです。』

――新型「タイムゾーン」は新しい「グランド ランゲ1」のキャリバーをベースとしたのですか?
『ベース・ムーブメントが何かという考え方は、私たちはまったくしていなくて、確かに脱進機とテンプが薄いので、「グランド ランゲ1」の思想を取り入れてはいます・・・。機能が盛り込まれると、やはりムーブが厚くなるので、フラットな薄いものを使うのがいいと思ったんです。 そこは「グランド ランゲ1」に倣っているんですけど、なにかこう…あれをベース・ムーブメントとしてタイムゾーンに取り入れたとか、そういうわけではないです。』

――今回はイエローゴールが限定ですが、そこには何か特別な理由はありますか?
『新しい試みです(笑)。 皆さんもご存知だと思うんですが、A.ランゲ&ゾーネは、「ランゲ1」でもほかのファミリーでも、新しい基幹モデルが出ると必ず3つのカラーで出すのが当たり前のことになっていますよね。イエロー・ゴールドと、ピンク・ゴールドと、白系ではホワイト・ゴールドかプラチナです。
でも、その中でもイエローゴールドは、あまり人気がなかったんですよ。たとえば、ひとつのファミリーで3色あったら、ヨーロッパでもアメリカでもイエロー・ゴールドはあまり売れない。営業から『YGは要らないよ』って言われてしまうくらいだった。でもやっぱり、製造する側からすると、これまでの伝統を重視するというのはA.ランゲ&ゾーネの姿勢として大切なこと、大事なことなので、販売数は少ないかもしれないけど、イエローゴールドは絶対に作りたいという想いがありました。
なので、"じゃあもうYGは限定にして、最初に作ったものが出たら終わりということにすればいいのでは"と、限定になりました。』



――最近はプラチナ・ケースの限定が多くて、A.ランゲ&ゾーネの中ではプラチナは特別な素材になっているような気がするのですが。
『まぁプラチナは高いし(笑)。 それだけじゃなく、ハニーカラー・ゴールドとプラチナというのは、削ったり成形したりがとても難しい素材で、やっぱり、製造にも時間と手間とコストが掛かる。そういった意味でとても手間がかかる素材なので、あまりたくさん作れないという理由でリミテッドにする傾向があります。 まあプラチナとハニーカラーについてはそういうことなんですが、 でも今回のイエロー・ゴールドの件では、ちょっと面白い現象が起こっていて、2週間前にこのモデルを発表したのですが、この2週間の間にものすごい問い合わせが殺到しているんです。私たち開発部では、『こんなになるなら、イエロー・ゴールドをリミテッドにしなきゃよかったよね』というぐらい、すごい件数の問い合わせが殺到しています(笑)。 』

――今回の「タイムゾーン」ですが、個人的には、WGの黒文字盤で針がルミナスではないところがとっても気に入ってます。
『ありがとう。(日本語で)ドモ、アリガトウ、ゴザイマス!』



――これは意識的なデザインだったのですか?
『これに関しては、たまたま出来上がったものがルミナスじゃなかったということではなく、蛍光針を使わないというのはきちんと最初から意図したものです。でも、将来的にはルミナス針のモデルが出るかもしれないし、逆に"蛍光針のほうが良かった"と感じている方もいるかもしれない。もちろん好みの問題かもしれませんが、今回のデザインが素晴らしいと言ってくださる意見はすごく嬉しいです。ありがとうございます。』

――4月の新作についても少しだけ伺いたいのですが、「ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーター」の音が良くなっていると、解説の動画で仰っておられましたが、ケースの変更以外に何か特別な改良は行われたのでしょうか?
『その質問自体が答えになっています。技術的に音を大きくするために何かをしたというわけではなく、ホワイト・ゴールドを使ったことで、響きの質が変わったために、あたかも音が大きくなったような印象を与えているんだと思います。』



――ハンマーをブラックポリッシュしているのは、音に影響はない?
『ハンマーのブラックポリッシュは、あくまでも審美性の理由であって、音量とか音質には影響はないです。』 

――将来的に、素材などの変化によって、もっと音が変化する可能性はあるということですね?
『原則として、A.ランゲ&ゾーネの時計というのは、リピーターに限らず、どのモデルでも、経験から学んで常に改善されていくというのは皆さんご存知のとおりだと思います。長い間の経験を積み重ねていくと、以前は最善と思って作っていたものでも、今ならもっと良いものができるんじゃないかと考えます。
その時に開発者や開発部門だけではなく、製造部門と開発部門が密に連携します。また時計師たちにも、こうしたほうがいんじゃないという意見があれば、いろいろ盛り込んでもらったりします。やはり長年時計を作っていると、考え方も技術も発展していくので、そういった意味で今後も何らかの改善が加えられることは充分考えられます。それは「ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーター」だけではなくて、「ランゲ1」などの他のモデルでもそうです。
あともう一点、「ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーター」がやはり特別なのは、ミニッツ・リピーターなのに防水性があるということです。音の質がとても良くなったことで、ミニッツ・リピーターなのに防水性があるという他にはないこの特性が忘れられがちなのですが(笑)、我々にとってはそこが最もアピールしたい点です。

――それから、まだオデュッセウスのWG実機を見ていないのですが(7月時点の話)、たとえばラバー・モデルを買って、後にレザー・ストラップに換装できたりするのですか?
『コロナの影響で、すべてが遅れ遅れになってしまったのですが、今年の9月か10月にはレザー・ストラップかラバー・ストラップかを選べるようになります。 もともとは、工具やツールを時計と一緒に供給して、皆さんがご自宅で自分で交換できるような構成にしようと思っていたくらいなんですが、ただまぁ、ご自分でやるというのも大変かもと思い、ブティックでやるようにしました。



 ――将来は付け替えられる金属ブレスも出る?
『無くはないと思います。でもそうすると、その場合はまた新しくメタル用の時計を1本買っていただくことになります。レザーとラバーの交換はOKですが、その接合部がレザーとラバー用のと、貴金属のメタルブレス用というのでは、ちょっとそのメカニズムが違うので、レザーとラバーと、メタルの互換性というのは、それは技術的な問題で出来ないのです。

――昨年発表したステンレス・スティールケースの「オデュッセウス」は、非常に手に入れにくいと聞きますが、今度のホワイトゴールドのデリバリーは、ステンレスのように品薄状態にはならないで、順調にデリバリーされるのですか?
『ステンレス・スティールに関しては、ブレスを自社で作っているわけではないのですが、それがコロナの影響で供給が遅れていることが、その大きな原因となっています。
たとえば、今年の1月にサプライヤーにステンレス・スティールのブレスを発注したのですが、そのあとコロナ・ウィルスの感染拡大で各地の工場が閉鎖され、発注したブレスはまだ入ってきていません。その供給が遅れているので時計が出荷できず、納品が遅れるという状況があります。
あと、「オデュッセウス」は誰でもが組み立てられるわけではなく、それ用にきちんと学んだウォッチメイカーしか扱えない、つまり限られた人しか作れないということもあります。もちろん、グラスヒュッテの工房では、ステンレス・スティール・ヴァージョンも一生懸命作っているし、ホワイトゴールドも7月末には出荷が予定されています。』



ーーコロナ禍によってブレスレットが入ってこないので、出荷できないわけですね?
 『そうです。でもこの質問をいただいてすごく良かった。というのは、今、インターネットなどでは、「オデュッセウス」の生産数をわざと減らして、製品の希少価値を高めようとブランド側がマニュピレイトしているんじゃないかというウワサがあるので(笑)、そうではないということを答えられて良かったです。我々にはそういう戦略はまったくないし、時計師たちもこの環境下で出来る限りいっぱい作ろうと頑張っているし、実際、私たちも「オデュッセウス」がこれほど成功するとは思っていなかったので驚きもありますが、A.ランゲ&ゾーネにとってこの「オデュッセウス」の成功は誇りであり、そして喜ばしいことだと思っています。』

――今年はA.ランゲ&ゾーネの創設175周年ですが、何か特別なことを考えていらっしゃるのでしたら、今言える範囲で構いませんので、ヒントだけでもくださいますか?
『考えてます! それが答えです』

―― ヒントは(笑)?
『175周年はね…イベントや、ウォルター・ランゲさんのモニュメントの除幕式を9月にも予定していたのですが、でもコロナの影響でできなくなってしまったのです。
でも175周年モデルは、何かを一本だけ出すというのではなく、3つのモデルになる…(周囲がどよめいたので…)、30本じゃないよ、3つのモデル。それも、いろんな価格帯に当てはまるような3つのカテゴリーのモデルになります。 とてもスペシャルな3種類が、3つの価格帯で出ます。
ケースに特殊な素材を使うとか、文字盤の色を換えるとか、そういうことじゃなく、ホントにもう…この自分でも『ワオ!』と言えるような、出したことに誇りを持てるような、本当に素晴らしいスペシャルなモデルを含む新作が3つ出ます。今言えるのは、以上です!』



いかがだろう?
9月9日と言えば、あと数日!
A.ランゲ&ゾーネの2020年最大のハイライトに
ちょっと期待してしまおうではないか!!