ピアジェ アルティプラノ アルティメート コンセプト ウォッチ プロトタイプを見る

 By : CC Fan
2020年11月24日追記:時合わせシステムのより詳細が分かったので、文末に追記しました。

GPGH2020
にて、見事大賞である「金の針賞(AIGUILLE D’OR)」を受賞したピアジェの超薄型時計、アルティプラノ アルティメート コンセプト ウォッチ。
ムーブメント単体であっても超薄型の部類の2mmという厚みに、ケースまで収めた薄型を得意とするピアジェのマイルストーンともいえる時計で、極限の追求として金の針賞も納得の作品です。

WMOでも2018年のSIHHでレポートしてから2年、コンセプトのみかと思っていたら実際に販売したという事も素晴らしく、ちょうど良いタイミングで日本にやってきたプロトタイプを拝見させていただけましたので、技術的な点からレポートします。
最も強調されたのは、この時計も他のピアジェの薄型時計同様の厳しい品質基準を通っており、決して記録を狙っただけの「飛び道具」ではないという事です。
価格は途方もないですが、ちゃんと使う事を考えた作品です。



ムーブメント地板とケースを一体化した構造で、片側からムーブメントパーツを組み込んでいき、最後に0.2mmの極薄サファイアクリスタル風防で「蓋」をして完成という構造。
その構造による全体の薄さもさることながら、複雑なレイヤー構造に各コンポーネントを埋め込む構造のムーブメントは、結果時にコンポーネント間の高低差がなく「面一」に見えるため、立体物なのに平面に描かれた図面のように見える特異な印象です。



横から見ると現実感がバグる薄さ。
プロトタイプ(コンセプト)モデルではその薄さを強調するためにストレートのラグでしたが、製品版はラグを曲げて装着感を向上させています。

ムーブメント構造としては既存の900Pと910Pのケースとムーブメント地板を一体化して余分な要素分を減らすというコンセプトは一緒ですが、より薄くした分の強度を担保するためにコバルト合金をケースに使っています。
もし、貴金属はおろか、高強度とされるチタン合金を使ったとしても今回の2mmという厚みは実現できなかったそうで、コバルト合金ありきの設計だそうです。
コバルト合金はその高強度ゆえに加工も困難で、CNCマシンが破損することもあったそうです。

構造は公式の動画を見るのが一番分かりやすいと思ったので先ずはそちらを…



通常の時計では厚み方向に重なっている複数の要素を、平面方向に「散らし」重なりを減らして薄くしています。
テンワはボールベアリングを用いた片持ちフライング構造で、通常であれば上側のブリッジに設けられるひげ持ちも下側に設けられています。
外周のフレームが各部品よりもわずかに出っ張ることにより、風防に力がかかって歪んでも部品に風防が触れることが無いようにしています。



その特性ゆえ、ケースバックはソリッドバック、最薄部は0.12mmしかないそうです。
これだけ広い面積があるとエングレーブをしたいという要望もあるそうですが、機構への悪影響を考慮し現状はNGとのことで、レターは外周のみです。
リュウズは四角形の特徴的な形状で、引き出していないときはリュウズの凸部とケースの凹部が噛み合って回転しない構造になっています。
これは後述する「デバイス」での操作のしやすさと巻き芯の保護のための構造と考えられます。



私が構造として特徴的と思ったのはここでしょうか?
3時位置に見える2重の歯車は一般的な時計で言う筒カナ相当の計時輪列と表示輪列の間の摩擦クラッチです。

6時位置の香箱からのトルクは奥側にわずかに見える中間車で、この歯車ユニットに伝わり、上側の大きな2番車相当の歯車を伝って、3番車→4番車→ガンギ車と伝わっていることが分かります。
中間の歯車の芯は摩擦クラッチになっており、リュウズを引いたときは時合わせ輪列に噛み合って筒カナからの操作トルクでスリップして時合わせを行い、通常時は2番車相当と同じ速度で回転して上部に見える表示輪列に時間経過を伝えます。
筒カナは通常文字盤の下に配置されますが、この設計では平面的に散らして厚みを抑えています。

巻き芯と時合わせ・巻き上げ輪列の間には通常の90度で噛み合う平歯車×2ではなく、ネジ構造のウォームギアと平歯車が使われています。
これは人の力を受け止める巻き芯周りの歯車にはある程度の強度が必要ですが、2mmという厚さ制約では細かいピッチの歯車を使わざるを得ず、強度が不足してしまうため、その代わりだと考えられます。
また、ちゃんと設計すればウォームギアは90度で噛み合う歯車よりも伝達効率が良くなると考えられます。

ただし、ほぼ変速比が1:1の平歯車×2に対し、ウォームギアは大きく減速されます。
これは、ウォームギアが1回転してやっと平歯車が1歯進むと考えるとイメージできるのではないでしょうか。
これはリュウズの操作に対して少ししか動かない、言い換えれば、一般的な時計に対しリュウズをたくさん回す必要があることを示しています。

時合わせ輪列・巻き上げ輪列でつじつまを合わせるという方法もありますが、変速のためにはやはり重なりが増えてしまうためほとんどの歯車が1:1に近い構造になっています。
必要なのは時合わせと巻き上げの時であり、常時は要らない、という考えから外部の「デバイス」を用いる方式が採用されました。



これがその「デバイス」です。
PIAGETと書かれた部分が通常のリュウズに相当する速度で回転させられる操作部、先端の樹脂素材の部分が時計を掴む部分です。



先端の4つの凸部分は2mmの間隔で配置されており、ケースをがっちりと掴みます。
リュウズを回転させる凹型の部品が内部に設けられた増速ギアで高速回転することで時計本体の減速分と合わせて通常の時計の感覚で操作ができるようになっています。



リュウズを引き出します。
これは最大限引き出した時合わせモード、本体とかみ合うための凸部が確認できます。

プロトタイプではとっかかりが無かったのですが、製品版では爪をかけるための切りかけがケースバック側に設けられたそうです。



このようにセットして回転させます。
先端部は全て柔らかい樹脂素材でできていて、ケースを傷つけにくくなっています。
これが無くても巻くことはできると思って操作させてもらいましたが、スカスカすぎるので素直にこのデバイスを使った方がよさそうです。

時合わせだけではなく、巻き上げもリュウズを引き出して行うのでこのデバイスで使う前に巻きあげることになるでしょう。
リュウズの引き出し量が多いのはおそらく内部のコハゼやウォームギアの都合だと考えられます。



ALTIPLANOと書かれた香箱上の歯車は角穴車で、向かって左のコハゼで回転止めされているのと、右のウォームギアからの巻き上げ輪列で巻き上げられる様子が分かります。
香箱は一体化したボールベアリング(ベアリングレース)で外周から支持されており、地板側に出力用の歯車(1番車)があり、前述した2番車への中間車に噛み合っています。



中央に見える計時輪列はオーソドックスな両側から石で支持する構造で、終端のテンワがボールベアリング保持のフライング構造なこと以外は普通です。

ボールベアリングを多用した構造のためか、石数は僅か13石であると書かれています。
確かに、この写真で見えている箇所で6個と両面(×2)で、12石だと考えれば、そんなもんでしょう…



文字盤も薄型化のための工夫がなされています。
長針(分針)は実際に針が設けられていますが、短針は歯車と一体化したディスクに短針を描いただけになっています。
さらに、文字盤の一部を削って同じ高さに中間車を配置して高さを稼いでいます。



斜めから見てもやはり現実感がありません。
各要素を取り囲むフレームは風防と機構部品の接触を防ぐ効果もある特許を取得した構造で、デザイン上の特徴ともなっていて独自の世界観を見せます。

このフレームの色や、地板コーティングの色を自由にカスタマイズできる「インフィニットリー パーソナル」というピアジェの取り組みにより、オーナーはブティックに設けられたタブレットベースのシステムにより自分の個性を時計に反映させることができます。



尾錠もコバルト合金製。本体の薄さを活かすために尾錠のみでの展開、確かに下手なDバックルは開く部分だけで2mmより厚いかもしれません…
ストラップは、アリゲーターまたはバルティモラテクニカルテキスタイルが選べますが、本体の薄型にあわせてそれぞれ芯材としてケブラー繊維を使用して強度を確保しています。



腕に載せてもやはり現実感がありません…

特許になるような華々しい要素要素の技術はもちろん、地道な最適化で削っていった結果2mmという厚みを実現し薄型のピアジェの実力を見せつけたアルティプラノ アルティメート コンセプト ウォッチ。
金の針賞おめでとうございます!

2020年11月24日追記:時合わせシステム

写真を眺めていたところ時合わせシステムの詳細が分かったので追加でレポートします。

通常の巻き芯では、先端のツヅミ車がオシドリとカンヌキのレバー操作によって小鉄車に噛み合い中間車を経由することで筒カナをスリップさせて時合わせを行います、しかし、アルティプラノ アルティメート コンセプト ウォッチではそもそも薄すぎてツヅミ車を設けることができず、キチ車相当のウォームギアしかありません。
そのため、オシドリ相当の部品で切り替わる水平クラッチ機構のような仕組みでウォームギアからの接続を切り替えて巻き上げと時合わせを切り替えています。



こちらが巻き上げモード、丸い円が書かれた部品(水平クラッチのキャリングアームに相当)に載った中間車を経由して下側の巻き上げ輪列に接続されています。



時合わせモード、キャリングアームが動いて2番車ユニット中間の筒カナ相当の歯車に噛み合っています。
これにより時間を合わせることができます。

この水平クラッチの移動量を確保するためにリュウズの引き出し量が多いと理解しました。



製品版では水平クラッチの仕組み自体は同じですが、ブリッジの切り方が変わっており、キャリングアームに載っている歯車が1枚に減っているように見えます。
プロトタイプでも実際に動いている歯車は1つで、もう一つは回転しているだけに見えたので、より最適化でしょうか?
感触を覚えているうちに製品版も拝見してみたいものです…

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