モリッツ・グロスマン、針の手仕上げ実演イベントとバーゼル新作展示

 By : KITAMURA(a-ls)

針を自社製作しているブランドは多くはない。
剣のような厳しさと、手仕上げによる滑らかさ、非常に印象的な針をその特徴とするモリッツ・グロスマンは、創業以来、針を自作している数少ないブランドのひとつでもある。

先日、グラスヒュッテ本社からフッターCEOと針職人のマティーナさんが来日し、東京ブティックにて針の手仕上げを再現するイベントが行われた。

女性針職人のマティーナさん(左)とイベントに参加したユーザーに挨拶するフッターCEO(右)



針製作の流れを大まかに説明すると、まず金属の板金から、針の型を抜くところから始まる。
これはさすがに手仕事ではなく、ワイヤー放電加工機で切り抜くのだが、0.25mmという髪の毛よりも細いワイヤーが放電現象を利用して切り抜くこの機械は、非常に細かい部材の切り抜き加工が可能なため、今日の時計製作には不可欠といえるものになっている。


●型抜き後の板金と針


次に、切り出した針に強度を加えるため、焼き入れと焼き戻しを行う。焼き入れは1000度近い高熱を加え、それを220~300度のベンゼン・オイルに数時間浸し冷却することで焼き戻す。これらも機械による作業だ。

さてここから先が手作業により仕上げとなる。
木製の柄のついた器具に針を装着して、まずはダイヤモンドのヤスリによる研磨加工、続いてペーパーヤスリでの研磨加工を行う。この段階で針の表の両幅になだらかな円い稜線を描きながら、その先端は極限まで繊細に尖らせるなど、熟練した技術者による研磨と加工が施される。



手作業はさらに続き、バフにあたる木製の回転盤を使っての磨き、これで面取りを施しつつ、艶やかな光沢に仕上げていく。木製回転盤のほかにフェルトやコットン、時によってはヤギの毛なども使用されるという。

スチール製の針の場合には、さらにもうひと手間、焼き戻しによる色付けが行われる。
小さなフライパンのような道具に針を入れ、アルコールランプで炙ること数十秒。


グロスマンの針はブルースティールではなく、ブラウンバイオレットもしくはブラウンである。これらの色を得るには限られた温度範囲で、限られた秒数だけ加熱する必要があるため、熟練した職人たちの経験や勘が欠かせない。


そして、見事なブラウンバイオレット針に焼き戻された。
マティーナさんも満足の笑顔。

針を仕上げる手仕事は、1本あたり2~3時間を要するという。また、自社針の製作という、この工程を確立するまで9カ月にもわたる試行錯誤があったそうだが、その甲斐あって、今やこの針はグロスマン・ウォッチの象徴としての存在感を持つまでになった。機械は早く正確に物を作り上げるが、それを人が美しいと感じる領域に高めるには、どうしても経験や感性に裏打ちされた手作業が必要となる。機械そしてマイスター、ともに21世紀の最高技術を用いて、手作業の極みとも言える19世紀グラスヒュッテの感触を再構築するグロスマンの物創り。そこには決してブレのないことを、彼らの代名詞となりつつある「針」を通して伝えてくれた良いイベントだったと思う。


では、ここまでの過程をモリッツ・グロスマン製作の動画で復習(笑)。



そして参加されたユーザーさんたちも研磨を加工を実地に体験。



ちなみに、体験者が着ているウォッチメイカー・コート(白衣)は、ブランドから各自にプレゼントされた。これは嬉しい。
体験された方の中には、ご存知の方はご存知の、このお兄様も!!




ここでいったん休憩。
フィンガーフードとソーセージ・ブレッドのサービスの後、いよいよ皆さんのお楽しみ、フッターCEOと高橋店長のプレゼンテーションによって、バーゼルワールド2017で発表された新作実機が披露された。


やはり一番関心を集めていたのは、アトゥム・エナメルと、そのジャパンリミテッドだった。

この2モデルについては、プレスリリース記事を以下に掲載しているので、
https://watch-media-online.com/news/480/ (アトゥム・エナメル・プレスリリース)

https://watch-media-online.com/news/650/  (アトゥム・エナメル・ジャパンリミテッド・プレスリリース)

ここではその2つの大きな相違点について触れておこう。


●現場にはアトゥム・エナメルのPGが未着だったので、4本の比較ショットはモニター画面を写したものを使用。左から、アトゥム・エナメルRG、ジャパンリミテッドRG、アトゥム・エナメルWG、ジャパンリミテッドWG。文字盤の色味の違いがお分かりいただけるだろうか。



大きな相違点は5つだ。
①最大の違いはエナメルの色味。アトゥム・エナメルのホワイト・エナメルに対し、ジャパンリミテッドのRGはクリーム・エナメル、ジャパンリミテッドWGはアイボリー・エナメルという微妙に風合いの異なるエナメルが採用されていること。
色味の濃さで示すと、クリーム・エナメル>アイボリー・エナメル>ホワイトエナメルとなる。
②アトゥム・エナメルは12時のインデックスだけが青だが、ジャパンリミテッドはすべて針と同色の、ブラウンバイオレットに統一されていること。
③スモールセコンドの表示に違いがあること。
④ジャパンリミテッドの長針の後端、カウンターウェイトと呼ばれる部分がカットされていること。
⑤ジャパンリミテッドには懐中時計風の青ヒゲゼンマイが使われていること。

ただし、④に関しては、希望があれば、カウンター・ウェイト付の針にすることは可能だそうだ。
では実機写真!(ちなみに、このジャパンリミテッドの長針もカウンターウェイト付のもの)

●左と中央がジャパンリミテッド、右がアトゥム・エナメル

実内でエナメル文字盤を撮るのは非常に難しいよぉ・・・。
●ジャパンリミテッドの2モデル。

写真ではなかなか違いが判りずらいと思うが、PGのクリーム・エナメルの風合には、通常のホワイトエナメルにもポーセリン・ダイヤルにもない”深み”を感じた。パテック フィリップが今年の新作に"クリーム・エナメル・ダイヤル”を搭載した5078と5178を発表しているが、両者ともにドンツェ製なのか、やはりイメージ的にも非常に近い色味に思えた。



強いて言えば、ジャパンリミテッドWGのアイボリー・エナメルが、19世紀当時の懐中時計の文字盤に近い風味と言えるかもしれない。ただ、どれを選ぶかと問われると、こればかりは個人の好みによるし、クリームやアイボリーに個体差が出ないとも言い難いので、なかなかに悩ましいところではある。


さて、今回はひとまずここで。
ちなみに、本サイトでは、グロスマンの新作モデルについて、すでにバーゼル直後に速報的にお伝えしているが、
https://watch-media-online.com/blogs/555/

次回はそこで紹介しきれなかったテフヌート・ラインの新作モデル、「ツイスト」、「スリーピング・ビューティー」などを中心にレポートする予定。

(次稿に続く)




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