スピードマスター誕生60周年記念 “オメガ スピードマスター ファンミーティング”

 By : KAIROS
去る6月6日、オメガ スピードマスター60 周年記念 スペシャルイベント“Lost in Space”が開催されたことは記憶に新しいところだろう。実はその数時間前、「オメガ スピードマスター ファンミーティング」と題し、オメガ ミュージアム館長のペトロス・プロトパパス氏による貴重なスピードマスター ミュージアムピースについての話。そしてプロダクト開発担当副社長のジャン=クロード・モナション氏による2017年バーゼル新作のスピードマスター38㎜、トリロジー スピードマスターの話を聞ける機会をいただいた。 
 今回はスピードマスター ミュージアムピースについての話だが、参加したのは著名なジャーナリストや編集者の方々ばかり。私の話など聞いてもしょうがないと思うので、いただいた資料と実機写真を掲載することにしよう。そして最後は特別な時計も見せていただいたことについて記したいと思う。



歴史に残る14本のスピードマスター


1. スピードマスター第1世代 - CK2915 1957年

オメガ スピードマスターは、世界で最も有名なクロノグラフの候補として確実に名前が挙げられます。また間違いなく、世界で最も重要なクロノグラフでもあります。宇宙飛行士によって選ばれ、NASAのテストをクリアして公式時計としての認定を受けて月面で着用された、という他の腕時計の追随を許さない実績を誇っています。1957年、オメガはシーマスター300、レイルマスター、初のスピードマスターを含む《プロフェッショナル》ラインの腕時計を発表しましたが、スピードマスターはどちらかといえば控えめな初登場でした。初めてのスピードマスターCK2915は、地球外での使用のためというよりも、むしろ地球上で求められるスピードを意識してデザインされ、自動車愛好家やモータリスト、レーシング関係者向けに売り出されました。タキメーターが初めてベゼル上に付けられ、ケースデザインの外観の一部を形作るようにデザインされたことは、オメガが成し遂げた数多くの偉業の中でも“世界初”の開発の1つでした。名高い手巻きのキャリバー321を備え、左右対称のケースデザインの優雅な輪郭が際立ち《ブロードアロー》時針を採用した針で誇らしげに時を知らせるスピードマスターは、たちまちベストセラーとなりました。



2. スピードマスター第2世代:宇宙に行った初のオメガウォッチ - CK2998 1959年

1959年には、スピードマスター改良版モデルであるCK2998が発表されました。左右対称のケースとキャリバー321はそのままに、新しい“アルファ”型の針が第1世代の針に取って代わりました。タキメーターベゼルも、今日使われている有名な黒のアルミニウム バージョンで統一されました。CK2998は、マーキュリー計画の宇宙飛行士であったウォルター・″ウォーリー″・M/シラーとリロイ・G・″ゴード″・クーパーが1962年に個人用として購入したモデルです。シラーはマーキュリー・アトラス8号(シグマ7)のミッションにおいてこれを着用し、宇宙で着用された初めてのオメガ スピードマスターとなりました。
この2年後、現在ではよく知られているNASAのテストが行われ、スピードマスターはNASAのすべての有人ミッションにおける公式時計として選定されたのです。


3. スピードマスター第3世代:NASA認定モデル - ST 105.003, 1963年/1964年

スピードマスター シリーズにおける次の展開は重大なものでした。1963年に発表された手巻きのキャリバー321を搭載したST105.003は、NASAに納品され、NASAのテストを受けたまさにそのモデルです。1964年10月にクロノグラフの腕時計の依頼を受けたオメガの北アメリカ代理店が、使用目的も正確に知らず、またスイス・ビエンヌのオメガ本社への報告もないまま、要求された数量のスピードマスターST105.003をNASAに提供しました。これらの腕時計は、他の強豪ブランドのモデル同様、かつて腕時計に課せられたことがない厳しさと評されるテストを、ほとんど破壊される一歩手前まで立て続けに受けました。オメガ スピードマスターは、過酷なテストの中で致命的な故障も起こすことのなかった唯一の腕時計として、要求された使用の範囲内で機能を果たして勝利を収め、NASAはこれを有人宇宙飛行プログラムの公式装備品としました。テストの成功を受けてNASAは、ST105.003をさらに調達し、スピードマスターを公式に宇宙飛行士に身に着けさせました。このモデルは宇宙カプセル外で初めて着用され、さらなる名声を得ました。1965年6月3日、エドワード・ホワイトがこのモデルを自身の腕に着け、ジェミニ4号のミッションにおいてアメリカ初の“宇宙遊泳”(船外活動/EVA)の一端を担ったのです。



4. スピードマスター第4世代:最初の“ムーンウォッチ” - ST 105.012/ST 145.012, 1964年/1965年

NASAの選考プロセスは本社への通達もなく行われたため、オメガはヒューストンで何が行われているかを全く把握しないままでしたが、その一方で着実にスピードマスターのデザインを発展させていました。クロノグラフのプッシャーとリューズの保護を強化するために、ケースのデザインにわずかに改変が加えられました。ケースの右側を少し大きくすることで、プッシャーとリューズの保護が実現したのです。その結果、この「非対称」ケースがスピードマスターの特徴的なデザイン要素として世界中で認識されるようになりました。この時計は1964年に限定された市場向けにST 105.012モデルとして、ダイアルに“PROFESSIONAL”と印字して発表されました。この文字は、オメガのプロフェッショナルラインの腕時計の際立った要素そのものです。キャリバー321を搭載したこのモデルは、1967年にさらにケースへのプッシャーの取り付け方法を少し改良し、ST 145.012へと進化。ST 145.012は、キャリバー321を搭載したオメガ最後のモデルとなりました。キャリバー321はまさに、最後の月面着陸ミッションであったアポロ17号までの6回にわたる月面着陸すべてにおいて、完璧な時間調整を保証したムーブメントでした。


5. スピードマスター ムーンウォッチ:最初のCal.861 モデル・今日の“ムーンウォッチ”の誕生 - ST 145.0422″861″,1968年

ニール・アームストロングとバズ・オルドリンが月面に降り立つ1年前の1968年、オメガはスピードマスターの深化におけるもうひとつの画期的な要素を発表しました。新たなムーブメントです。ST145.022とされた新しいモデルは、名高いキャリバー321を継承するオメガキャリバー861を搭載していました。新しい手巻きのムーブメントは新たなデザイン要素を幾つか採用し、オメガのウォッチメイキング技術の進歩を示しました。製造に関する改善も複数取入れ、新たなムーブメントとそれに続くバージョンは、まさに今日までのスピードマスター ムーンウォッチを動かし続けています。



6. K18 ゴールド製スピードマスター “ムーンウォッチ” 「アポロ11号記念モデル」- BA 145.0422, 1969年

現代における最も重要な出来事を記念して特別に作られたこのモデルは、1969年初秋に最初のナンバー入りとなる特別シリーズ28本が製造されました。受け取った人の名前と共に、他と異なる刻印“To mark man's conquest of space with time, through time, on time (時間と共に、時間が経っても、時間通りに人類が果たした宇宙の獲得を記念して)”が施され、1969年11月25日にヒューストンのホテルワーウィックで開催されたガラディナーにて、当時現役だった宇宙飛行士たちに贈られました。この成功を受け、このモデルは1972年までに全部で1,014本が製造されました。
 


7. スピードマスター “マークⅡ” - ST 145.014, 1969年

スピードマスター マークⅡは、従来のスピードマスター ムーンウォッチのケースを始めてデザイン変更し、オメガのカタログにスピードマスターの新たな第2世代として加えられました。誕生したのは1969年で、選ばれた名前は“マークⅡ”。手巻きのスピードマスターの事実上の第2世代であることを意味していました。特徴的な様々なバージョン(ブラックダイアルを備えたステンレススティール製、グレーとオレンジの《レーシング》と《ヨット》ダイアルを備えたステンレススティール製、ギルトダイアルを備えたゴールドプレート製、18Kイエローゴールド製の非常に希少なバージョン)が用意され、キャリバー861を搭載したマークⅡの樽型ケース、あるいは“パイロットライン”ケースとも呼ばれるこのケースは、秘密ともいえる当時のプロジェクトに端を発しています。


8. スピードマスター “マークⅢ” - ST 176.002, 1971年

オメガがスピードマスターを将来の宇宙での使用に備えて磨きをかけていた一方、技術者や時計師による別のグループが、オメガ初の自動巻きクロノグラフ ムーブメントの開発に取り組んでいました。完全一体型のクロノグラフは、定評のあるキャリバー861をベースに作られており、オメガの新しいムーブメントの成果はCal.1040と名付けられて1971年の終わりに初めて発表されました。この新しい自動巻きクロノグラフ ムーブメントは、スピードマスター シリーズとしての販売に向けて導入され、初公開の際に“マークⅢ”という名前が付けられました。

スピードマスター マークⅢにおいて、キャリバー1040は1時間で1回転する中央クロノグラフ分針を採用し、クロノグラフ機能で止めた分針をダイアルの分目盛り上で直感的に読み取れるようにしました。これにより3つ目のクロノグラフ サブダイアルを省略することができたのです。こうしたダイアルのクラシックなレイアウトから脱却して大成功を収め、その後の数多くのバリエーションへと道を開きました。
そのバリエーションの一つがスピードマスター“125”です。これはマークシリーズではありませんが、オメガの自動巻きクロノグラフ キャリバーのクロノメーター バージョンであるCal.1041を搭載しており、当時、世界初のクロノメーター クロノグラフでした。
 

9. スピードマスター “125” - ST 378.0801, 1973年

“スピードマスター 125”は、1848年創業であるオメガの125周年を記念して、1973年に作られました。そのアニバーサリーは、ブラックダイアルに輝く“125”という文字で示されています。このモデルは、もう一つの発展の成果を取り入れていました。キャリバー1041を搭載した、クロノメーターとして正式に認定された世界初の自動巻きクロノグラフだったのです。2000本限定で製作され、それ以来コレクターの間で高い人気を誇るモデルです。

ウラジミール・ジャニベコフは、1978年のサリュート6号でのミッションにおいて、個人で所有していたスピードマスター125を着用していました。



10. スピードマスター “スピードソニック” 〈ロブスター》- ST 388.0800, 1974年

1970年代が進むにつれ、ウォッチメイキングにおけるテクノロジーもまた進歩し、オメガはさらにもうひとつの先駆的なデザインを創り出しました。ミドルケースの中にOリング ガスケットでキャロットを保持し、その中に音叉式キャリバー1255を取り付けたクロノグラフです。“スピードソニック”と、いうふさわしい名前を付けられたこの極めて珍しいスピードマスターの電子バージョンは、一体化したブレスレットとリンクの形から、今日コレクターの間では親しみを込めて“ロブスター”と呼ばれています。



11. スピードマスター “アポロ-ソユーズ” - ST 145.0022, 1975年

スピードマスターの物語は歴史的な出来事を綴り続けていくと思われましたが、これはアポロ-ソユーズ ミッションが計画されていた時に再び現実のものとなりました。この計画は、アメリカとソビエト連邦の宇宙機関が協力して取り組む初めての機会であり、様々な意味で「宇宙開発競争」の終わりを告げ、冷戦の終結の第一歩となったことはほぼ間違いないでしょう。アメリカとソビエト連邦の共同任務の厳しい要求を満たすため、宇宙飛行士たちはミッションにスピードマスターを採用し、結果としてアメリカとソビエト連邦双方の宇宙飛行士が同じモデルのクロノグラフを使用することになりました。

それ以来、ソビエト連邦の宇宙飛行士はサリュート宇宙ステーションへのミッションを含め、スピードマスターを公式ウォッチとして着用しました。

このきわめて重大な出来事を記念して、オメガは1975年にダイアルの12時位置にミッション エンブレムを配し、ケースバックに特別な刻印を施した特別限定エディションモデルを発表しました。このモデルはイタリア市場向けに特別に作られ、それ以来コレクターの間で高い人気を誇っています。


12. スピードマスター “X-33” - TS 186.1998, 1998年

1995年の終わり、宇宙飛行士のコミュニティー内で、最新の目的に合うように設計された宇宙飛行士用の腕時計が必要である、という決定が下されました。これが後のスピードマスター X-33の始まりでした。宇宙飛行士や軍隊の一流パイロットによる2年にわたる大規模なテストを経て、この腕時計は、ミール宇宙ステーションからヒューストンの宇宙管制センターを通じて生放送で一般公開されました。
今もなお、スピードマスタープロフェッショナルとX-33は、国際宇宙ステーションにしばしば携行されています。

  
*実際にNASAで使用されたものです。


13. スピードマスター “アラスカ プロジェクトⅡ” - プロトタイプ, 1972年

NASAのために完璧なスペースウォッチを作るという極秘プロジェクトを継続していたオメガは、新しいプロトタイプ「アラスカ プロジェクトⅡ」を製作。宇宙での極端な温度に対応するために、取り外し可能な大きな赤い耐熱シールドを取り付けたアラスカ プロジェクトⅠの特徴を幾つか継承したムーンウォッチスタイルでした。前作と同様に、太陽の熱をより反射するために、ホワイトダイヤルが採用されました。また、対称に配されたサブダイアルのロケット型針、夜光マーカー、放射線状に配されたサブダイアルの数字、0~55の数字を記したベゼルも新たに取り入れられました。

*“アラスカ”はオメガが定めたコードネームで、NASAに関与するすべてのものを指し、常に極秘扱いとされていました。



14. スピードマスター プロフェッショナル“999” - SU345.0224, 2000年

宇宙へのあくなき挑戦を続け、人類と宇宙の歴史的な時間を刻んできたオメガ。
漫画・アニメーションの世界を通して、宇宙への強い憧れと夢を表現してきた松本零士氏。“限りない宇宙への夢”---この永遠のテーマを追い続ける両社のコラボレーションにより、2000年に日本限定1999本誕生したのが「スピードマスター 999(スリーナイン)」です。ムーンウォッチとして名高いスピードマスター プロフェッショナルの裏蓋には、松本零士氏の代表作「銀河鉄道 999」に登場する神秘的な美女″メーテル″を中央部に、“999”の文字を上部に刻印。また下部には松本氏のサインと限定ナンバーが刻印され、まさに新たな2000年代に夢を託したモデルでした。

 と、ここまで。
 上記は皆さんご存知の日本限定 999 モデル。ペトロス氏はこのコラボレーションに並々ならぬ思いがあるようだった。
 しかしこの日はこのモデルが用意されていたのではなく、別の貴重な時計を見せてくださいました。それがこちら。



 通称″Ultraman"モデル。公式ではないがコレクターの間ではこう呼ばれている。 ST145.012-67 1968年頃の製造だという。そう、コレクターの方や感の良い方はお気づきだろう。
 センタークロノ針がオレンジ色→帰ってきたウルトラマンで怪獣攻撃隊MATが着ていた服の色なのだ。そして番組内では鮮明にこのスピードマスターが映っている。更にその主人公もカーレーサーを目指していたというが、宇宙とカーレーサーの設定、まさに偶然ではないはず。
 そして筆者は、その前のウルトラマンでも映像が出ていたことを尋ねると、ペトロス氏は明快にこう答えてくれた。
「実はウルトラQから使われていました。Mr.円谷が時計コレクターという事もあり、使用されたのでしょう。ただオフィシャルではないけどね。」と嬉しそうな笑顔が印象に残っている。

 「ん~、奥が深すぎる。60年という歴史を歩んできたスピードマスターには、世界各国にどんな逸話があるのだろう?」、と筆者は心の中で叫んでいた。そしてシーマスター、レイルマスターも同様であろうと。
 筆者は時計について知らないことが多く、勉強の毎日であるが、今回もただただ感心させられてしまった。そしてオメガについてもっと知りたいと思ったのは、筆者だけではないはずだろう。

 オメガ スピードマスター、それは人類の夢と希望と共に歩み、今なお世界中で伝説を作り続けている。
 「世界で最も有名なクロノグラフの候補として・・・」と冒頭であったが、いや違う。世界で最も有名なクロノグラフであり、最も多くの歴史を持つクロノグラフである。それを実感した1日であった。

オメガ マーケティング部、関係部署の皆様、ありがとうございました。

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