ルノー・ティシエ ジャパン プレミア発表会 レポート~高効率マイクロローター自動巻き「マンデー」を発表

 By : CC Fan

2024年3月19日追記:公式サイトへのリンクをを追加しました

複雑時計ムーブメント開発サプライヤーとして名高いルノー・エ・パピ(現在はオーデマ ピゲ傘下として「オーデマ ピゲ・ル・ロックル」という名称)の"ルノー"の方、ドミニク・ルノーと独立時計師ジュリアン・ティシエがタッグを組み、機械式時計の新たなる分野を追求する新ブランド、ルノー・ティシエを設立。公式発表に先立ち、東京でジャパン プレミア発表会が開催されました。



ブランドのスローガンは、Pushing the Bounderies of the Secular Watchmaking、発明によって時計製造の限界を押し広げる、と言う意味と読み取りました。



ロゴを配したバックと対談用のテーブルが用意されているので、「ここに座るのだろう」と予想して席を取ります。



ブランドの世界観を説明するパンフレットもきちんと作られています。
裏表紙にはInnovation in Excellence、卓越した発明、折り返しにはCrafting tomorrow's timepieces、明日の時計を作る、という別のスローガンも記されています。



ドミニク・ルノーとジュリアン・ティシエの卓越した共同クリエーション。



お二人が登場!
懐から作品を取り出して見せ、お披露目用のプレゼンテーションボックスに納めます。



ジュリアン・ティシエ氏だけではなく、ドミニク・ルノー氏も日本にはこれまで来たことなく、今回が初めての来日だそう。

ルノー・エ・パピで有名なドミニク・ルノー氏はこれまで「縁の下の力持ち」的な存在として大手が自社では開発できないコンプリケーションピースを専門に開発する工房として様々なブランドにムーブメントを共有してきました。
「ルノー・エ・パピ」が技術力の証明としてのブランドとして認知されるようになってからは開発元、として明言されることも増えましたが、非公開の仕事も多く、「自社製」が実はルノー・エ・パピが作っている、と言う事もあります。
少なくとも、ルノー・エ・パピが無ければ「コンプリケーション」の様相は現在と違ったものになっている、と言えるほどの影響力があったでしょう。
そのため、彼はすでに業界の伝説と言っても過言ではない存在です。

一方、ジュリアン・ティシエ氏は伝説になろうとしている存在、と紹介されました。
ドミニク氏とは親子ほども年が離れて、現在31歳になったばかり、ローラン・フェリエからキャリアをスタートさせた彼はより高度なことに挑戦したくなり独立、フリーランスの時計師として様々な開発プロジェクトにかかわっていました。
ルノー氏とのコラボレーションを鮮烈に印象付けることとなったONLY WATCHオークションのファーラン・マリのために制作した「セキュラカレンダー」は、鮮烈な印象を残しました。既に「魔法の手を持つ」と称されるジュリアン氏は32平方メートル足らずの工房に200年前の機械を自らカスタマイズした揃え、時計作りを行っています。

ブランドとしてのルノー・ティシエは、スローガンなどで述べられているように、「既存の概念に挑戦する」ことを目指しているとのこと。
機械式だから~ではなく、機械でもできることがもっとあるのではないか?に発明の力を持って挑戦していきます。
また、独立系にありがちな品質や納期の問題にも言及、作っているのは「プロトタイプではなく製品」であり、注文から2年も3年も待たせるのではなく、お待たせせずにデリバリー出来る体制を整えていきたいとのことでした。
このために優秀な時計師を集めた工房を作る必要があり、現在リクルートを行っているとのこと、しかし大手の工房の優秀な時計師だとしても自分の担当分野だけ行う「分業」に慣れてしまっていることが多いため、二人が「教師」となって指導、一つの時計を一人の時計師が最初から最後まで手掛ける伝統的な時計作りの手法で組み立てを行うようにするそうです。

ブランドの「顔」はもちろん二人ですが、それ以外を支える「チーム」もしっかりとした存在、と感じました。



経営トップ、CEOのMichel Nieto氏からなぜ日本で今回のプレミアイベントを行うことになったか?と言う事が述べられます。

日本のコレクターは審美眼に優れ、時計を構成する要素についてもよく勉強していて、見る目も厳しい。
そのため、その日本で認められれば世界にも認められる、まず日本に挑戦したい、という思いで世界に先駆けて日本でプレミアをすることにした、とのこと。



そして、いよいよ初作マンデー(Monday)が発表されます。

この作品で挑戦したことは自動巻きの巻き上げ効率、今までのマイクロローター自動巻きでは効率が悪く、止まってしまう事も多かった、と弱点を認めたうえで、より効率よく巻き上げるためのドミニク氏のアイディアをジュリアン氏が実装したそうです。
プラチナ製の錘を持ったマイクロローターに備えられたスピナースラターと名付けられた機構が、今までは捨てていたエネルギーも回収、喩えとしてテニスボールを壁にぶつけると速度が失われてしまうが、適度な弾性を持つラケットのガットで受ければエネルギーをいったん吸収してから放出し逆向きの推進力にすることができる、という例が挙げられました。
個人的にはふんわり理解ですが、機械のロスや機構の都合で捨てざるを得なかった細かい動きや瞬間的な衝撃からもエネルギーを回収できるようにした?と読み取りました。

もちろん特許を取得しようとしている、とのことだったので、「特許番号教えて!」と質問しましたが、現在はまだ特許公開にまで至っていないため番号がなく、調べることは出来なさそう。ただし、手続き自体は終わっているため、特許が取れるのは確実だし、出願に先立ち3社の専門的なエージェンシー(調査会社)に依頼して先行特許を調査したところ、類似のアイディアはなく間違いなく革新的なものと考えている、とのこと。

そして時計を拝見(ただ文字盤は試作ヴァージョン)。



9時位置の開口部は「主役」たるマイクロローター機構を可視化しています。
マイクロローターとしては珍しい、回転錘を前後から挟んで支持する両持ちの構造になっています。
また、スモールセコンドが4時位置、と言うのも珍しいです。
これは機構とデザインの両方から決まっているとのこと。



製品版のダイヤルは微細な文様を型押しした上の画像のものになるそうです。



ムーブメントのデザインも主役のマイクロローターを強調したデザインです。
特徴的な手法として香箱の角穴車にハンドエングレーブとグラン・フーエナメルによる装飾が施されており、金属光沢の中にアクセントを加えています。



計時輪列はマイクロローターを上手く避けて大きな2番車を格納、4番車をスモールセコンドをズラすことで格納した「素直」なスモールセコンド輪列です。

それぞれのブリッジ・地板はキッチリと仕上げられています。



ほぼフル巻き状態だったのでマイクロローターの動きはあまり確認できず(これ、この後のイベントで見せるのはどうするんだろう…とは思ったり)。

ジュリアン氏に何か効率の良さを伝えられるようなエピソードはない?と伺ったところ、「プロトタイプを装着してアトリエに向かうために車を数十分運転していたら7時間分ぐらい巻き上がっていた」という例を示してくれました。
スイスは左ハンドルなので左手に時計をつけている場合、ほぼハンドル操作の比較的小さい動きしかしません、その状態でも7時間分が巻きあがっていた、と言う事です。
また、角穴車の意匠により読み取れるのか!と言うのも発見でした。

仕上げやパーツは古典的な仕上げですが、機構は革新的で今の技術がないと作れないものを作る、と言うのは非常に共感できる姿勢です。

「マンデー」という作品名は、これが始まりの作品(ヨーロッパは週の始まりが月曜日)であるとともに、ドミニク氏のアイディアがすでに7つあり、それらを順に作っていく、という心意気の表れだそうなので、次作「チューズデー」から7つめの「サンデー」までを作り終えた後はどうするのかという問いに…「次はホリデイ(祝日)?」と言うジョークも。
実際にはアイディアは次から次へと生まれてはいるものの、まずは7つ、と言う事でもあるようです。

色々見どころがあるルノー・ティシエ マンデー、個人的にはやはりマイクロローターの効率を上げる仕組みが知りたい!



【お問い合わせ】
ルノー・ティシエ ジャパン
 





【オマケ】
ジュリアンが着用していたのは、オンリーウォッチが"中断"されたため、現在は手元にあるというファーラン・マリの「セキュラカレンダー」。

これはルノー・ティシエで製品化しないの? と聞いたところ明確にノーで、あくまでオンリーウォッチのための専用設計、とのこと。

オマケ2。


一方、ジュリアン氏がセキュラカレンダーなら、と言う事でドミニク氏はドミニク・ルノー DR01。
これも実機が見られるとは…



公式サイト
Renaud Tixier | Redéfinir le monde de l'horlogerie