AHCI所属のチェコの独立時計師 ルジェク・セリン氏来日 駐日チェコ大使館イベント・浅岡氏訪問をレポート
By : CC FanAHCI(独立時計師アカデミー)所属で、チェコ人初のAHCIメンバーであるルジェク・セリン氏、今回来日し、駐日チェコ大使館で行われたCzech Passion for Noble Designベントで作品を披露しました、また日を改めて同じくAHCI所属の独立時計師 浅岡 肇氏を訪問しました。
貴重な機会に同行させていただきましたのでレポートします。
まずは最新作、アダムローテーション「ADR」を。

こちらは浅岡氏がライティングし、撮影したもの。
セリン氏が装着し、検証を行っているプロトタイプ機で、氏が発明したムーブメント自体が8時間で一回転する機構とペリフェラルローター自動巻きを組み合わせ、「全部乗せ」に集大成として完成させたもので5本の限定生産です。
2019年のバーゼルワールドで発表したカレルローテーションで開発したムーブメント自体がケースに対して回転する機構を備えながら、構造を改良し8mmほど薄くして13.5mm厚ケースに格納しさらに自動巻きにすることも成功しました。
上記の写真でゴールドカラーのムーブメント部分がゆっくり回転、8時間で1周するそうです。
外周部のリング状の錘を使ったペリフェラルローターを備えます、しかしセンターローターに比べると回転中心からの距離が短くならざるを得ず、充分な巻き上げのためには大きな減速比率が必要となる問題があったそうです。
これに対し、ロボットなどで使われる通称サイクロ減速機(住友重機械工業の登録商標、一般名称は「トロコイド系歯形を用いた内接式遊星歯車減速装置」)と呼ばれる機構を腕時計で初めて取り入れました。

特殊な歯形の外歯車と歯数が1だけ異なる内歯車と組み合わせて構成されています。
中心には偏心した入力軸があり、外歯車を内歯車に押し付けて噛みあわせています、この軸は外歯車に固定されておらず、軸が回転しても回転は直接伝わらず偏心で押し付けられる位置が移動するようになっています。
入力軸が回転すると噛みあう位置がそれに合わせて移動していき、入力軸が1回転すると噛みあいも1回転します、内歯車と外歯車の歯数の差は1なので、噛みあい(偏心した入力軸)が1回転すると1歯分だけ元の位置からズレることになります。
入力軸1回転が外歯車1歯分の動きになり、外歯車の歯数分だけ入力軸が回転すると外歯車が1回転します、これは外歯車の歯数:1の減速動作にほかならず、あとは外歯車の偏心を除いた回転を取り出してやれば良いことが分かります。
回転の取り出しは外歯車の開けられた穴へピンが嵌ることによって行います、偏心を逃がすため各々のピンに遊びがあるように見えますが、全体では遊びを最小に抑えています。
動画の方が分かりやすい気もするので、先程の住友重機械工業の動画を引用します。
偏心軸によって噛みあい位置が移動、ゆっくりと回転する様子がわかるかと思います。
大きな減速比であっても少ない歯数のギアを作らなくても良い、1だけ異なるほぼ同じ歯数のかみ合わせで噛みあう量が多くてトルクの許容量が大きい、1段で大きな減速比が作れる…などメリットが多いです。
なるほど、ペリフェラルローターに向いていそうな仕組みです。

この他、既存作品なども持ち込んでCzech Passion for Noble Designイベントにて展示が行われました。

今までの歩みや、CGによる動きの説明なども。

ムーブメントが回転する機構をスケルトンにより強調したRo-18 スケルトン。

左は初めてムーブメントから自製したカラブス、右はスケルトン ラウンド。

逆光気味ですが左がセリン氏、右は彼の息子さんで現在アビエーション(航空)を学ぶ高校生とのこと。

大使館の豪華なホールで…

万博キャラクターのRENE(レネ)も、有名なチェコのガラス細工をイメージしているとか…

日を改めて浅岡氏(東京時計精密)を訪問の図。

浅岡氏と時計作りについての交流です。
セリン氏は17年のキャリアで少しずつ進化してきたこと、「ハンドメイド」を掲げ、手作業の時計作りを大切にしていますがそれは昔のものをそのまま作るのではなく。前述したような新開発の機構の研究も行うこと、問題もたくさん出るが一つずつ対処していくことの大切さを語ります。
前述の通称サイクロ減速機の話題もここで出て、浅岡氏より「ハーモニックドライブ(波動歯車装置)と似たような仕組み」とも、噛みあいの移動に変換する・差を取り出す…と言ったところは共通性があります。
「年産は?」「1年で0.3本(3年で1本)」とも。

そして浅岡氏のアトリエを案内。
現在ジュネーブに向けて鋭意製作中…

真空管アンプとレコードプレーヤーについて質問するセリン氏。
チェコでは真空管が現在でも作られています。

会議室に戻ってアダムローテーション「ADR」を拝見…と思ったら浅岡氏が物撮りのセットアップ開始。
冒頭の写真が撮影されました。

東京時計精密特別編集冊子「Precision」を見ながら。「この緩衝装置は珍しい」と語るセリン氏。

ジュネーブでの再会を約束?
ありがとうございました!
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