YOSUKE SEKIGUCHI's History Part3

 By : 小柳時計店

なぜユール・ヤーゲンセンだったのか

現在(20211月現在)関口氏が制作されているムーブメントは、彼がこよなく愛する“Jurgensenスタイルと呼ばれています。

1800年代にルクルト社が多数ブランドに供給していたとされるベースで、当時ユール・ヤーゲンセンが制作していた時の残されていた台帳によると、時計師ユール・ヤーゲンセンと一緒に数人の時計師が数年掛かりで一つの時計を作り上げていたという“Jules Jurgensen”の懐中時計のムーブメントが基本となっています。

関口氏は、なぜ1800年代の古いスタイルのムーブメントを今作ろうとしたのか。

「一言では説明できません。」

「ジュネーブ、ヴァレドジュウ仕上げの素晴らしい機械もたくさんあります。 一方、ヤーゲンセンのムーブメントで特に感じるところは、装飾も素晴らしいながら、とにかく堅牢であることでしょうか。」

「例えばパテックやバシュロンなどジュネーブの時計は強いて言うと、洗練されとても美しいのです。でも誇り高すぎて貴族的で、現実離れしすぎているように感じるのです。
確かに時計愛好家の方々からすればそれが魅力でもある事は十分分かります。私のような時計学校にも行かずスイスでは、外国人であるという私の引け目なのかも知れませんが。

「本当にきれいなんですが、どうも私には親しみが湧かないのです。」

「一方私はヤーゲンセンの奥に感じる良い意味での無骨さ、飾り気のない信念のあるエボーシュの安心感にホッとします。 」

「意地悪くなく、心底良い人であるように。」

「その男性的力強さもあるムーブメントに、とても繊細に仕上げられた、か弱くも凛としたアンクルとガンギ、さらにそれに支えられる巨大なテンプ。その対比、ギャップのある調和が私には魅力に見えるのです。」

「 今日もル・ロックルの時計学校のムーブメントを整備しましたが、全く同様な魅力があります。そのメリハリ、頑丈さと脆さ、オーケストラの低音に支えられた、たった一本のソロバイオリンの輝きの美しさ。」

「それは正に重厚な受けに守られた、か細いながら精度が一番重要であるガンギ車、アンクルの輝きと同じであるように感じられます。 」

「ジュネーブ時計は縁の下の力持ちまでキラキラしすぎて全員の自己主張が強すぎるそんな気がします。 」

「ひとつの例えですが、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲です。」

ここまで愛情と思いを込めて作る時計師は

決して多くはありません。

このような気持ちを持って作り出される時計。

持つ者の心に響く時計になります。

その流れを受け継ぐものとしてユール・ヤーゲンセンも喜んでいることでしょう。

そして、関口氏はユール・ヤーゲンセン”の意志を感じる為でしょうか
とある腕時計を秘蔵コレクションとして使用されています。

それがこの時計で、1871年にル・ロックルにあったユール・ヤーゲンセンのアトリエで作られた、個体ナンバー《No.12096》です。

当時は小径の懐中時計として作られたムーブメントで、関口氏が手にした時は天真が折れておりそれを修理し、さらにネジなどの研磨も行いそれ以外は傷も含め、敢えて当時の仕上げのままを残し現行のウルバン・ヤーゲンセンのプロトタイプ用ケースに、針も現行のウルバン・ヤーゲンセンの針を使い実直堅牢な意匠のまま腕時計として復活させた時計です。
そして文字盤は、もちろん当時のままのオリジナルのグラン・フー・エナメル文字盤。 

このモデルは、関口氏が華美な装飾をすることなく、本来ヤーゲンセンが持つ時計としての美しさに惹かれる関口氏秘蔵コレクションの一つです。