A.ランゲ&ゾーネの“ルーメン”クロニクル(2010~2018年)と"ルーメン"の意図するもの

 By : KITAMURA(a-ls)
※10/7日追記
この記事、投稿タイミングが1日ばかり早かったみたい。
つい数時間前に、ダトグラフ・アップ/ダウン"ルーメン"の最終動画(的な感じ)がUPされたので、
TOPに追加しときます。


※初めて読まれる方は、下の動画から始めていただいたほうが良いかもしれません。



先日発表されたダトグラフ・アップ/ダウン"ルーメン"。

それにまつわり、A.ランゲ&ゾーネから、実機の動画や、"ルーメン”のヒストリーをまとめたプレスリリースが発表されている。
まずは、発表前段階のチラ見せ動画。



ま、なんとなく、"ルーメン"ぽいのがわかる7秒動画。
ここで謳われている"PASSION NEVER SLEEPS"は、”NEVER STAND STILL"に変わる新たなスローガンなのだろうか?

で、発表後に"更新"されたものが下の動画。



キャッチ・コピーは"THE CHRONOGRAPH THAT NEVER SLEEPS"。どうやらこれらは、ダトグラフ・アップ/ダウン"ルーメン"に限定したスローガンだったようだ。

そして、同時に配布されたのが、これまでの"ルーメン"シリーズをまとめたヒストリカルなプレスリリース。
とりあえず、全文を引用しよう。




A.ランゲ&ゾーネの“ルーメン”クロニクル(2010~2018年)

新たな光で精巧な高級時計の世界を照らし出すA.ランゲ&ゾーネ。暗がりでも表示を読み取れるという明瞭なデザインコンセプトから生まれたマスターピースの数々を 一堂に集めてご紹介します。



光スペクトルの妙
現代科学の知見を取り入れ、暗闇でも表示を読み取れるという明瞭なデザインコンセプトから生まれた一連の時計を、“ルーメン”と名付けました。
その第一弾として2010年に発表されたのが、ツァイトヴェルク“ルミナス”です。それまでに受賞歴のあるツァイトヴェルクの瞬転数字式時刻表示を発光塗料でコーティングしたこのモデルは、またしても衆目を集めることになりました。

2013年には、初めて夜光アウトサイズデイトを搭載したグランド・ランゲ1“ルーメン”が続き、2016年にはシリーズ3作目となるグランド・ ランゲ1・ムーンフェイズ“ルーメン”が発表されました。“ルーメン”モデルはいずれも製作数限定のプラチナケースエディションであり、現在ではコレクターズアイテムとして好評を博しています。
そして2018年10月24日、製作数200本限定のダトグラフ・アップ/ダウン“ルーメン”がこのシリーズに仲間入りしました。


 
モデル  /  発表年 /  Ref. /  ダイヤル   /       限定数
ツァイトヴェルク “ルミナス” / 2010年/ 140.035/ ブラックのPVDコーティングを施した洋銀製タイムブリッジ/ 100本
グランド・ランゲ1 “ルーメン” /2013年/   117.035/   シルバー無垢、コーティングを施したサファイアクリスタル/ 200本
グランド・ランゲ1・
ムーンフェイズ“ルーメン”  /2016年/  139.035F/ シルバー無垢、コーティングを施したサファイアクリスタル/ 200本
ダトグラフ・
アップ/ダウン “ルーメン”   /2018年/  405.034/ 洋銀製、コーティング仕上げ サファイアクリスタル/ 200本





暗がりで発光するのはなぜ?
夜光表示式の時計は、表示が暗がりでしっかりと光るように、表示要素に塗布された蓄光顔料に光を蓄えるための光源を必要とします。
“ルーメン”モデルを開発する際に直面した技術的な問題は、ダイヤルの下にあってムーブメントの部品と重なってしまう夜光表示要素に均等に光を蓄えることでした。A.ランゲ&ゾーネの開発担当者たち思案の末、サファイアクリスタル製ダイヤルに紫外線を透過させる半透明のコーティング層を設けるという解決策にたどり着きました。
このコーティングによって可視領域の光波の透過量を減らしつつ紫外線域の光を透過させ、ダイヤルに表示要素がくっきりと浮かび上がってよく読み取れる状態を維持します。こうして、ツァイトヴェルク“ルミナス”、グランド・ランゲ1“ルーメン”、グランド・ランゲ1・ムーンフェイズ“ルーメン”およびダトグラフ・アップ/ダウン“ルーメン”のダイヤルは、あらかじめ蓄えた光エネルギーを暗闇で発光させることができるのです。

蓄光顔料を直射日光または青白い電灯などの人工光源に90分ほどさらせば、顔料を完全に活性化できます。採用した蓄光顔料は、何度でも繰り返し光を蓄えることができます。ランゲが開発した半透明ダイヤルコーティング法は、2013年に特許取得しています。




ツァイトヴェルク “ルミナス”
2009年に発表されたツァイトヴェルクは、瞬転式数字で時刻を表示し、優雅なダイヤルデザインに溶け込んだ新しい時の表情として話題になりました。
1分ごとに瞬時の遅れもなく数字式表示がカチッというかすかな音をたてて進んでゆき、やがて時表示が切り替わる瞬間を迎えると、あたかも大きく振りかぶるかのようにして、一挙に3枚の数字ディスクが一段先に進みます。この 革新的な時計に対し、ジュネーブ時計グランプリで最高位の賞である「L' Aiguille d'Or」(金の針賞)が授与されました。
ツァイトヴェルクの次の進化について尋ねられたランゲの開発技師たちは、この時刻が切り替わるワクワクする瞬間を暗闇でも見られるようにしたいと答えています。その発想は特許を取得した半透明ダイヤルコーティングへとつながり、燐光を放つツァイトヴェルク “ルミナス”が生まれました。ブラックのPVDをコーティングした洋銀製タイムブリッジが時分表示をくっきりと際立たせるフレームとなり、この時計のデザインを一層魅力的なものにしています。
プラチナ製ケースにブラックのアリゲーターベルトとプラチナ無垢製バックルを組み合わせることにより、明暗のコントラストを前面に押し出すというコンセプトが明確に表現されています。





グランド・ランゲ1 “ルーメン”
グランド・ランゲ1“ルーメン”では、A.ランゲ&ゾーネのトレードマークとも言える要素がひと際存在感を主張します。
初の夜光アウトサイズデイト表示を搭載しただけでなく、一部に半透明のサファイアクリスタルを使用したダイヤルからはその機構にも目が届きます。
グランド・ランゲ1“ルーメン”の開発にあたり最大の難関となったのは、日付が切り替わった直後にも日付表示が十分に光るようにするにはどうするかという問題です。その解決策は、意表を突くものでした。白色の蓄光顔料を塗布した十字プレートに黒色で十の位の数字をプリントする一方、一の位表示用ディスクの素材にガラスを採用し、ブラックで数字をプリントして発光する プレートの上で回転するようにしたのです。
このアイデアによって、周囲の光条件が悪いときの視認性が向上しました。外周部分と時分表示およびスモールセコンドの表面は、ブラック仕上げのシルバー製です。グランド・ランゲ1“ルーメン”では、時インデックス、パワーリザーブ表示のインデックスならびに時針、分針、スモールセコンド針およびパワーリザーブ針も夜光性です。





グランド・ランゲ1・ムーンフェイズ “ルーメン”
グランド・ランゲ1・ムーンフェイズ“ルーメン”では、ディテールにも趣向を凝らしたムーンフェイズ表示とランゲ独自のアウトサイズデイトの両方が神秘的な光を放ち、暗闇でも最善の視認性を提供します。
ムーンフェイズ表示は2層構造になっています。 紫外線を通す半透明のコーティングと施したガラスプレートにレーザー光で月と星々を切り抜いたムーンディスクが蓄光顔料を塗ったプレート上で回転するようになっているのです。蓄光顔料は、ダイヤルとムーンディスクを通過してくる光を蓄えることによって、発光します。このムーンフェイズ表示は、一旦きちんと調整すれば、122.6年おきに1日分修正するだけで済みます。







ダトグラフ・アップ/ダウン “ルーメン”

2012年に発表されたダトグラフ・アップ/ダウンは、時計史に残る技術を集積したモデルと言えるでしょう。
専用調速機、プレシジョン・ジャンピング・ミニッツカウンター、フライバック機能およびパワーリザーブ表示が収められたムーブメントは、最高度の時計技法を体現しています。ブランドの特徴であるアウトサイズデイトと二つのサブダイヤルが正三角形を描くように配置されたダイヤルには、キャリバーと同じように美しさを意識してデザインされたことがうかがえます。
限定モデルのダトグラフ・アップ/ダウン“ルーメン”は、暗闇でも三角形に配置された表示要素が浮かび上がり、人々の注目を集めることでしょう。
A.ランゲ&ゾーネのコレクションの中でダイヤルの表示機能がすべて夜光性になったクロノグラフは、このモデルが初めてです。







プレスリリースは以上であるが、その中で繰り返し強調されているのは、"ルーメン"の蓄光による視認性である。
時折、"ルーメン"のシリーズを、A.ランゲ&ゾーネによるスケルトン・ウォッチのシリーズと思っている方がいるが、それは大きな間違いである。

頑丈で壊れにくい道具を愛でるゲルマン人気質は、時計においても堅牢なケースや、一枚の地板でがっちり固定して部品の安定性を高める3/4プレートという発明を生んだ。
それは同時に、かれらが実用性を重視ということも意味する。航空機(戦闘機)の発展過程において、20世紀前半の2つの大戦もあっていち早く空軍を編成したドイツは、パイロット・ウォッチの視認性を高める夜光針や夜行文字盤の開発に積極的に取り組んだ歴史がある。

現在でもドイツ式のパイロット・ウォッチの伝統を引き継ぐモデル(B-Uhr)が脈々と製作されていることからもわかるように、ドイツの航空時計は完全に一つのスタイルを確立しており、ゲルマンの誇りとするところなのである。

片やスケルトン・ウォッチは、道具を美しく鑑賞にも耐えうるものに昇華させんとするフランス・スイスの美意識を強く反映している。躯体を薄くし、部品にも装飾的な彫金を施すのだが、部材としての強度は下がるが美しさは増すというこの発想は、ゲルマン人の最も受け入れがたいところなのだ。

“ルーメン”の共通点とは、その時計の見えなければならない重要部分、すなわち、時分・デイト・ムーンフェイズなどを夜間でも視認できるようにし、その実用性が損なわれないようにしている点にある。
ツァイトヴェルクのデジタル時分表示、グランドランゲ1のアウトサイズデイト、どちらもディスクによるもので、それらを夜光化するには転換時にすでに蓄光している必要があった。そのため文字盤の透明化をはかり、結果、通常は目にすることのない日の裏側の仕上げが臨めるようになったわけだが、これはいわゆるスケルトン的な解釈ではない。




"ルーメン"の意味するところ、それはすなわち、究極の実用性なのだ。

これについては過去、グランド・ランゲ1"ルーメン"が発表された際にも、似たような趣旨で書いたことがあるので、そちらもお読みいただければ幸いである。

https://alszanmai.exblog.jp/19627799/


よく、A.ランゲ&ゾーネが絶対にやらないことの例えとして、ステンレス・スティール・ケースが挙げられるが、それでさえ幾つかの例外が認められている。だがこれまでA.ランゲ&ゾーネからスケルトン・ウォッチは、一個たりとも出されていないのである。

今回の"ルーメン"について、デザイン的に面白くないという声も一部から上がっている。
おそらく、ダトグラフ・アップ/ダウンをベースとするため、夜光化すべきパーツが、時分針、クロノ針、タキメーター・リング、積算計、スモールセコンドなど、かなり多くの部分に渡ること、とりわけ、文字盤の外周全体がグリーンに発光するため、黒文字盤というイメージが薄れてしまっていること。


同時に、光らせるべき部分が多いということは、蓄光時の透け感も薄くなるわけなので、それらが前述したようなご意見につながるのだと思う。



ひとつだけ言えること、それは、視認の究極を求める"ルーメン"において、夜光パーツは最初から決定済みなので、デザイン云々という尺度で作られてはいないということだ。

武骨さと最先端技術の邂逅であるからこそ、このダトグラフ・アップ/ダウン"ルーメン"は真にドイツ的なのだ。
加えて、安易な工芸性を求めることなく、職人が愚直なまでに丁寧に仕上げたことによって生まれたダトグラフ・ムーブの機械的な美観というDNAをダイレクトに継承するこの作品は、近年稀にみるほど、実は"ランゲ"的な作品であると言えるのではないだろうか。


さて最後に、ダトグラフ・アップ/ダウン"ルーメン"の情報が行き渡ってから公開された、全454パーツの最新アセンブリー動画を観ながら、今宵も定例のゼンマイ巻き上げ業務に勤しむのであった・・・。






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