Langeのキャリバーナンバーを読み解く

 By : KITAMURA(a-ls)

A.ランゲ&ゾーネのキャリバー番号についての覚書。


1994年の復興第一作の発表から、瞬く間にランゲがその評価を高めた背景には、もちろん機械式時計としての完成度の高さもあるが、新たなモデルに対して新たなムーブメントを開発していくような、製作優先の姿勢から生まれた個々のモデルが、機械や機構に注目する愛好家の心をつかんだこともその大きな理由のひとつと言えるだろう。

現在までに発表されたモデルの中で、最も新しく開発が始まったムーブメントは、新型ランゲ1用に作られたL121.1である。何故今年の新作ではなく、昨年発表されたムーブメントが一番新しく着手されたものだと解かるのかというと、Lから始まるランゲのキャリバー・ナンバーの中にはそれらの情報が組み込まれているからなのである。




その読み解き方を知っておくと、ランゲの作品に対して別の視点が持てたり、時を遡ってランゲ・ウォッチの開発ヒストリーに思いを馳せることが出来たりと、なかなか興味深い視点が持てるので、過去に自分のブログやWeb Chronosブログで紹介したものを、ここに引用しておく。


LANGEのキャリバー番号の読み解き法


キャリバー・ナンバー読解の非常に印象的なケースとして、2006年に発表された高精度モデル「リヒャルト・ランゲ」と、

その4年後の2010年に限定時計として発表された「リヒャルトランゲ・レフェレンツウーア」(PT50本・RG75本の限定発売)の2モデルを例にとって説明しよう。

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「リヒャルトランゲ・レフェレンツウーア」は、もはやなかなか見ることができないが、 「プッシャーを押した瞬間にスモールセコンドがゼロ位置にジャンプし、それと同時に、縦型ディスククラッチが秒針軸をムーブメントの動力伝達から切り離しすることで、プッシャーを押している間も、時針と分針が精度を維持しながら動き続けることができる」
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・・・という面白い機構を持っていた。

さて、ここからが本題である。

通常わたしたちは、発表年順に時計を見ていく。
この例でいうと、まず2006年に発表されたリヒャルト・ランゲを見ることになるので、4年後の2010年のレフェレンツウーアは、当然その後リヒャルト・ランゲの後に開発されたのだと、何の疑いもなく考えがちである。
機械式時計の場合、新しいムーブメントの開発には数年にわたる歳月が必要とされるケースが多く、それは機械にこだわるランゲの場合、特に顕著となるのだが、そうした開発史を精査する際、ランゲ・ムーブメントの読み解きのルールを知っていると、よりリアルな開発の裏側が見えてくるのである。

このルールを知ったのは、前社長のファビアン・クローネ氏に「ランゲは流行に追従していくのか?」という意味の質問をした時のことだった。
氏は自信満々に、「我々のプロダクトはここ1~2年の趨勢に左右されるものではない。そのどれもが開発から数年がかりのものであるので、最近の流行の影響など受けようがない」と答え、いつから開発がスタートしていたのかを知る証拠として、キャリバー番号の読み解き方法を教えてくれたのだ。


たとえば例として挙げた2つのモデルをキャリバーナンバーで見ると、
まず、リヒャルト・ランゲのキャリバー番号は L041.2 だ。

これは L(ランゲが) 
    04(2004年に開発着手)
     1(同年に開発着手した順番)
     .2(枝番号・マイナーチェンジを行った回数で、これは2号機を表す)
というふうに読み解くことができるのである。


そして次にレフェレンツウーアのキャリバー番号をみると・・・こちらはなんとL033.1。
つまりこれは 
       L(ランゲが)
      03(2003年に開発着手)
        3(同年の3番目のプロジェクトとして開発を始め)
       .1(マイナーチェンジなく初号機のムーブが採用された)

ということを示している。

このキャリバーナンバーの情報からわかることは、レフェレンツウーアはリヒャルト・ランゲよりも、1年早く開発が始まっているという事実だ。

レフェレンツウーアがリヒャルト・ランゲのラインに加えられ発表されたのは、高精度時間計測の分野に属する互いの位置づけの共通性においてであって、「偏心オモリ付大型テンプ」や、ゼンマイの安定した部分のみ使用する「38時間リザーブ」など、精度重視のためリヒャルトに採用された機構の多くがこのモデルにも取り入れられてはいるものの、もともとの開発理念は別のスタート地点にあったのだと推測できるのである。


後に本社のティノ・ボーベ氏に確認したところによれば、デッキウォッチへのオマージュでもあるリヒャルト・ランゲに込められた“精度追究”というコンセプトが、標準時計業務という歴史的な“精度(時間)確認”の意味合いと重なることで、レフェレンツウーアはあらためてリヒャルト・ランゲの系譜に組み込まれたということだった。



では話を冒頭に戻し、新型ランゲ1用に振られているキャリバー・ナンバーL121.1を分析してみよう。
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新型ランゲ1のムーブメント、キャリバーナンバーL121.1


これはL12(ランゲが2012年に)
      1(その年の1番目のプロジェクトとして開発を始め)
     .1(その初号機のムーブメント)

となり、開発から発表(2015年)まで約3年の年月がかかったことがわかる。

この読み解きルールを現行カタログ品に当てはめた時、2012年より以後の開発年数を持つキャリバーは存在しないので、このムーブメントが最も新しく開発着手されたものだと断定できるというわけだ。

ついつい、新作が一番新しい機械であるかのような先入観を持ってしまいがちではあるが、事実はそうとは限らないのである。たとえば、今年の新作である「リヒャルト・ランゲ・ジャンピング・セコンド」のキャリバーは、L094.1なので、2009年の開発着手だ。つまり、去年の新作である新ランゲ1よりも3年も早く開発が始まっていて、今年の発表まで、その完成には実に7年の歳月を要していることがわかるのである。

開発の着手時期がほぼ同じキャリバーでも、当然のことだが、早く完成したものの方が先に発表されるケースが出てきたり、何らかの理由で発表を遅らせたケースなどもあるため、このキャリバー・ルールを踏まえてランゲ・ウォッチを見るとき、単に発表年順に時計を見るのとは異なった視点や疑問や発見が生れてくるのではないだろうか。