アトリエ・ド・クロノメトリー ジャパンプレビュー レポート

 By : CC Fan
以前ににAy&Tyさんがレポートしたアトリエ・ド・クロノメトリー(Atelier de Chronometrie:AdC)という独立系メゾン、オーナーごとの要望を反映したユニークピースを作成するという工房の特性上、実機を拝見できる機会も稀でしたが、シェルマンさんが日本の伊勢丹新宿店での扱いを開始し、拝見する機会を得ましたのでレポートいたします。



今回はCo-founder & creative directorのSantiago Martinez氏とCommunication and management directorのMantse Gimeno氏がコレクションとともに来日しました。



左がMartinez氏、右がGimeno氏。

時計の前に、工房の成り立ちからお話を伺いました。
アトリエ・ド・クロノメトリーはスペインのバルセロナを拠点とする工房ですが、もともとスペインには時計の文化はなかったそうです、しかし1970年に現在まで続く時計学校が設立され、徐々に時計産業が立ち上がってきた…とのこと。

時計学校の卒業生にはアストロノミカルクロックを得意とする独立時計師Josep Matas氏もおり、氏は実力を認められ独立時計師協会(Académie Horlogère Des Créateurs Indépendants - AHCI、通称アカデミー)のメンバーだったそうです。
"AHCIに興味はないのか?"という質問に対しては"現時点では興味はない"との答え、これは独立時計師のMartinez氏という個人ではなく、アトリエ・ド・クロノメトリーというブランドとして作品を作っているという自負からです。

工房は4人のチームで、ロックバンドに例えていました。
"一芸に秀でている"ことはもちろん必要ですが、バランスが取れて安定した作品作りのためにはチームプレイが必要で、ロックバンドのような調和が必要です。
Martinez氏はクリエイティブ・ディレクターとして作品全体の方向性・デザインを決定します。

Gimeno氏はマーケティング・コミュニケーションとして企画・財務・管理などもマルチにこなします。
作品が良かったとしても、デリバリーができなかったり、コストが折り合っていないようなものでは本末転倒と考えており、しっかりと継続して作品作りが行えるように目を光らせているとのこと。

残りの二人は時計職人メビウスとエドワルド、二人ともバルセロナ時計学校の出身で、メビウスは39歳で懐中時計の修復のキャリアを持ち、0から部品を作る技能があり、エドワルド(エド)は26歳と若手ながら一流ブランドで経験を積んだのちアトリエ・ド・クロノメトリーに合流したとのこと。

このチームに加え、地元バルセロナのサプライヤーと協力して作品作りを行っています。
ケースや革ベルトも、スイスの一流ブランドにも納入していたサプライヤーとからの供給です。
唯一、文字盤とムーブメントだけはスイス製、文字盤はジュネーブのGILWATCH製で、アトリエ・ド・クロノメトリーでデザインした設計図をもとに依頼し、ユニークな文字盤を作っています。
ムーブメントはオメガの266をベースにしていますが、後ほど述べるようにあくまでこれは"土台"に過ぎず、別物と言っていい出来です。

Martinez氏がアトリエ・ド・クロノメトリーを創業したのは、ラグジュアリーファッション業界でキャリアを積んでおり、ヴィンテージウォッチのコレクターで、趣味が高じてヴィンテージウォッチショップのニマンドクロケットというショップを10年前にオープン、上質なヴィンテージを扱っていましたが、さらにヴィンテージの黄金時代である1930~40年代を思わせ、凌駕する作品を作りたいという思いでアトリエ・ド・クロノメトリーを創業したそうです。
規模を追うことは考えておらず、4人のメンバーの自己資金だけでスタート、CNCは使わず手作業だけで年産10本ほどを目標に作品を作っていく体制で、今後も投資を入れるつもりはないとのこと、良くも悪くも投資で人が変わってしまう会社が多いと感じるので好印象です。

大原則としてそれぞれの作品はユニークピース、つまり一つの仕様は一つしか作らないことを掲げています。
これは、オーナーが求める(アトリエ・ド・クロノメトリーの時計として相応しい)仕様をできる限り叶えたいという姿勢の表れで、オーナーとのコミュニケーションで仕様を決めてから作品作りに取り掛かるのが基本的な流れです。
文字盤も一個作りが基本で、同じ文字盤は再生産しないそうです。



ムーブメントもベースは同じながら、様々な加工・仕上げを変えることで、それぞれがユニークになっています。
スモールセコンドやセンターセコンドも選べます。

ベルトはヴィンテージらしいカーフのヴィンテージレザーとヌバックの組み合わせ、クロコよりも時計のキャラクターに合っています。



"クロノメトリー"として個人的に注目するのはやはりテンワ、エボーシュの既成のテンワではなく、自社で作ったオリジナルのテンワを搭載しています。
当たり前のように緩急針のないフリースプラング化、偏心錘(マスロット)で慣性モーメントを調整して歩度調整を行います。
ステンレスやチタンなど様々な素材に挑戦しているとのことで、いろいろ挑戦していきたいとのこと。



ピンボケしてますが、マスロットとスポークの形が違うのがわかりますでしょうか?
テンワのブリッジはいかにもクロノメーターと言った接地面積を最大にする形状なのも見逃せません、なるべく広い面で地板に設置させ、安定させようという意図が読み取れます。



オメガの266は"あくまで土台に過ぎない"という言葉通り、すべてがやり直されており、実用機然としたベースエボーシュとはまるで別物。
CNCを使わないことにより、手作業で様々な仕上げを施すことができるのと同時に、プロブラム作成などの"大量生産のための初期投資"が要らないので小回りが利くとのこと。



センターセコンド用の出車が搭載されたムーブメント。
仕上げやメッキもリクエストによって好みの仕様を選ぶことができます。



コート・ド・ジュネーブ仕上げ。



こだわりのポイントという古典的なデザインのコハゼ。
小気味のいい巻き味で、大きなリュウズと相まって巻くのが楽しくなりそうな感触でした。
適度な重さもクロノメーター的。



文字盤もクロノメーター然としたシンプルなもの。
控えめに入れられたアトリエ・ド・クロノメトリーとバルセロナのロゴが誇らしげです。



高精度機らしい大きなスモセコの文字盤。



個人的に一番好みだった計器然と美しさが同居した文字盤。



メタルブレスレットも用意しているそうです。
今までのコレクションはヴィンテージらしい37mmケースで制作されていましたが、シェルマンさんからのオーダーで今回初めて35mmケースが作られたとのこと。
ゴールドケース・ブラック文字盤に対してシルバーケース・ホワイト文字盤が一回り小さいのがお分かりになりますでしょうか?

最後に同行したKIHさんにモデルになってもらったリストショットを…







オーナーに寄り添った素晴らしい作品作りを行うアトリエ・ド・クロノメトリー、実現したい時計の明確なイメージ・アイディアを持つ、我こそはという方はぜひ挑戦していただきたいです。

特徴的なメンテナンスについても、高精度機としての性能を保つためメンテナンスは3年ごとを推奨、クロノメーター精度を保証するための14日間の精度測定を毎回行うという念入りなもので、バルセロナの工房で行います。
これだけ手厚いメンテナンスにもかかわらず、輸送と保険にかかるコストは必要なものの作業自体の代金はいただかない!という破格の対応です。
これについては間違いではないか?とご本人とシェルマンさん両方に確認しましたが、どうやら本当にその方法でやりたいとのこと…これも素晴らしい挑戦です。

ありがとうございました!

関連 Web Site

Atelier de Chronometrie
http://www.atelierdechronometrie.com/

シェルマン
http://www.shellman.co.jp/