ブレゲの大作「クラシック ダブルトゥールビヨン 5345 “ケ・ド・ロルロージュ”」の駆動システムを探る

 By : CC Fan

ブレゲが発表した2020年のハイライトになるであろう大作、「クラシック ダブルトゥールビヨン 5345 “ケ・ド・ロルロージュ”」、その実機がブレゲブティックに入荷、拝見する機会を得ました。
もちろん、拝見するからにはそのシステムを理解したいと考え、「推測」した結果、おおむねそのシステムが理解できたのでレポートします。



前作となるギロッシェ文字盤を持つバージョン(右)と比較しながら拝見、今作(左)では、機構がオープンになったことでムーブメント見せる前提の意匠が施されています。
香箱のブリッジはブレゲのBロゴの意匠を持ち、公転運動するムーブメントの可動部分のプレートもギロッシェで仕上げられています。
基本的なシステムは一緒ですが、今作ではリュウズに過剰なトルクを抑制するトルクリミッタを装着、手巻き香箱の巻きすぎによるゼンマイの破損を防ぐ安全策が加えられ、ムーブメントの信頼性をより向上させています。
文字盤がある前作でも見えないムーブメントはキッチリと仕上げられていましたが、今作では見えることを前提にさらに仕上げのレベルを向上させ、素材も見えることを前提とした選定が行われたそうです。

二つのトゥールビヨンを支える1本のブリッジが通常の時計の短針(時針)に相当し、トゥールビヨンが1分に1回転する(自転)と共に、ムーブメントの可動部分が12時間で1回転する(公転)することで時刻を表示します。

このとてつもない公転運動はどのように実現されているのでしょうか?



今作のみを見てみると、二つのトゥールビヨンのほか、香箱も二つあり、なんとなく針の付け根を中心とした点対称な構造になっていることが分かります。
構造が分かりやすいので…



いつも通りの文字入れです。
二つの輪列を1と2と名付け、それぞれの部分の名称を入れました。

まずは香箱からトゥールビヨンに至る一般的な計時輪列を追います。
香箱からのトルクは二番車と三番車で構成される加速輪列を通ってトゥールビヨンに至ります。
このトルクの流れは緑色の矢印で示した経路で、輪列の終端部であるトゥールビヨンの脱進作用によってトゥールビヨンが1分間で1周する速度に制御されるため、輪列は設計されたスピードで回転します。

後述する公転運動で香箱も移動するため、巻き上げは唯一動かない中心部から行う必要があります。
このトルクの流れは黄色の矢印で示した経路で、中央部の歯車から巻き上げ輪列を伝わったトルクは香箱芯側から香箱を巻き上げ、それぞれのコハゼが逆回転を防止します。
二つのトゥールビヨンの速度はほぼイコールですが、厳密には異なっています、そのため同じ動作時間でも香箱の回転量は異なり、必要な巻き上げ量も二つの香箱で異なることになます。
これは、両方をフル巻きにするためには異なる量を巻かなければいけないことを示しています。
この問題に対し、一つの歯車から巻き上げるシンプルな解決策として、片方を香箱を自動巻きのにスリップ香箱にし、さらに二つの巻き上げ輪列のギア比を変化させ、スリップ側の方が常に多く巻かれるようにして先にフル巻きになるようにしています。
両方が巻き上げ→スリップ側がスリップして手巻き側だけが巻かれる→両方がフル巻きという状態変化によって常に両方の香箱をフル巻きに巻き上げることができます。

最後に公転(オービタル)運動を行うための輪列です。
輪列全体はトゥールビヨンの脱進作用によって制御されていて、公転運動に必要な低速で高トルクという条件に最も適した香箱から回転を取り出します。
トルクの流れはオレンジの矢印で示した経路で、取り出された回転は輪列を経て中心部分に設けされた差動歯車機構にそれぞれ到達します。
この輪列は計時輪列のように極端に加速させるのではなく、香箱の回転数(8時間/回転程度)をほぼ1で伝える中間車に近いギア比で、バックラッシ(歯車の遊び)によるあいまいさを無くすためにバネで予圧を与えるゼロバックラッシギアになっているようです。
差動歯車機構で二つの回転を足し合わせることで平均とし、地板に固定された歯車に対して回転させることでムーブメント可動部のプレートが時計回りに回転、12時間で一周する動きを実現します。

可動部が滑らかに動くために可動部の直径とほぼ等しいベアリングがショックアブソーバー付きで地板に固定されており、可動部を滑らかに回転させるためのサポートを行っています。

可動部が12時間で1回転するように動くため、これに針の意匠をつければ時針になります、更にこれを12倍に加速すれば分針になります。
しかし、このままでは時間を合わせる機構がなく、可動部を駆動するための強いトルクがかかっているため、通常の筒カナのような摩擦で滑らせる機構は使うことができません。

そのため、先程の基準位置になる「地板に固定された歯車」を動かすことで基準自体をずらして時合わせをします。
全ての構成要素が歯車によって滑りゼロで噛み合っているため、過大なトルクがかかっていても滑ることはありません。



これは前作の時合わせ・巻き上げ・可動部(時針)から分針の動きを作るの3機能を行うムーブメント側の輪列。
大部分のメカニズムが可動部に載っているため、こちらは比較的シンプルな構造です。

オービタル駆動輪列はゼロバックラッシギアでバックラッシなし、時合わせ輪列も筒カナのような摩擦で滑るあいまいな部分がないため、両方向に快適に調整でき、針飛びぼありませんでした。



今作ではムーブメントに初代ブレゲが工房を構えたケ・ド・ロルロージュの建物がエングレーブされています。
前作で可視化していた歯車は大部分が隠されていますが、ブレゲの作業机の窓付近の部分だけ開口させ、可動部(時針)から分針の動きを作る歯車を可視化し、ブレゲが作業しているようなイメージを作り上げています。



会場に飾られていたオリジナルのイメージ。



このあたり?

ムーブメントが公転運動することを前提に、時合わせのシステムも既存の構造ではなく最適化した…と理解しました。
摩擦に依存する筒カナがないのは、これに起因する置き回りなどの問題も起きないという事です。



プラチナ製のケースはドーム型の風防と組み合わせ、視認性を向上させるとともに金属部分を低くすることで低重心にしています。
ベゼルレスのデザインにすることでベゼル分の重量が無くなるためプラチナながらより軽快な装着感です。



ベゼルと通常の風防の前作、餅比べてみるとすぐにわかるほどの重量差があります。
プラチナの「心地よい重さ」は前作ですが、日常的に使えるのは今作だと思います。



ケースサイドはブレゲ伝統のコインエッジ。
ドーム風防の丸さが伝わりますでしょうか。



ストラップはストーン加工と名付けられた石のような意匠を持つ、なんとラバーストラップで日常的に使う事を考えたような作りです。
裏面は鮮やかな青色でした。

コンプリケーションと言えど使う事を考えているのは好印象です。



冒頭の写真を再掲。
伝統的な前作に対し、伝統を守りつつ革新を目指した今作でしょうか…



工房の建物と、宇宙のイメージです。

今回、これだけのコンプリケーションであるにもかかわらず自由に操作することができ、機構に対するブレゲの自信を感じることができました。
仕組みも理解できて満足です!



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