モンブラン サスペンデッド「エグゾ」トゥールビヨンの構造を見る

 By : CC Fan

機械式コンプリケーションの花形と言ってもよいであろうトゥールビヨン、本来は固定されているテンワ・ガンギ車・アンクルと言った脱進機の構成要素をケージ(籠)を呼ばれるユニット内に納め、固定された4番車相当の歯車の周りを回すことで、常に姿勢を変化させ姿勢による歩度の変化である姿勢差を打ち消すことを目指した機能です。

ケージを上下のブリッジの支点で支える通常のトゥールビヨンのほか、上側のブリッジを省き「浮いているような」表現を実現したフライングトゥールビヨンなどが代表的ですが、モンブランの「エグゾ」トゥールビヨンは通常のトゥールビヨンともフライングトゥールビヨンとも一味違った機構で、気が付いたときは「この手があったか!」と驚くような構造でした。

過去にも実機は何度か拝見していましたが、気が付いた状態でもう一度見たい!と思っていたら、渡りに船で機会がいただけたのでレポートします。



モンブラン スターレガシー サスペンデッド エグゾトゥールビヨン リミテッドエディション
ヴィルレマニュファクチュールのテクノロジ―によってつくられた特許取得済みのエクゾトゥールビヨンシステムに加え、テンワをより張り出させた「サスペンデッド」構造によりまるでテンワが浮かびながら回転しているような視覚効果を実現しています。

アベンチュリンダイヤルが「星空」のイメージを強めます。



「エクゾ」トゥールビヨンとは何でしょうか?
一見するとこの機構は上下のブリッジで支えるトゥールビヨンに見えるかもしれません、しかしこのブリッジの中心にある緩衝装置付きの石が支えているのはテンワの天真そのものであり、トゥールビヨンの軸ではありません。
エクゾトゥールビヨンではトゥールビヨンケージと共に回転するのはアンクルとガンギだけで、テンワ本体は上下の固定されたブリッジで支えており、ケージに重量はかかりません。
この構造を「エクゾ(Exo:ギリシャ語で外部または外側)」と呼んでいます。
まさに、テンワはトゥールビヨンの「外側」にあるのです。

ケージで引っ張るために、ヒゲ持ちも振り座と同じ側にあり一番上がテンワ、次がテンワ側のヒゲ持ち、その下に振り座という特殊な構造のテンワを使い、フィリップスカーブで巻き始めと巻き終わりが同じく内側にある巻き上げヒゲがケージに引っ張られる構造になっています。

ケージの回転に伴ってケージ側のヒゲ持ち、すなわち振動の「基準位置」が動くことにより天真の受けが固定であってもテンワはケージと一緒に回転するという仕組みは以前解析したTriAxと同じ考え方で、テンワとひげ持ち、振り座の位置を入れ替えることで上側にはテンワのみ露出させるという構造も同じです。
しかし発表された時系列を考えるとモンブランの方が先行しています。

この構造に気が付くまではちょっと変わったトゥールビヨンぐらいの認識でしたが、気が付いてからはがぜん面白く、見逃していたことを後悔するような興味深い構造です。
この構造の最大のメリットはフライングトゥールビヨンでも必須だった「上側」ケージが省けることによりケージの上下を繋ぐ柱が不要になるため、ケージを上から見たときの面積一杯までテンワを広げることができること、そして回転するケージの重量にテンワ全体の重量が加わらずヒゲ持ちを動かす(+ヒゲゼンマイを僅かに伸ばす)だけのエネルギーで良いためエネルギー効率が良いことです。

事実、このケージ直径14.5mmのトゥールビヨンケージに納められたチラネジテンプは59mg平方cmの慣性モーメントを持ちます。
大きなテンプと安定した精度で有名なユニタス(ETA6897)のテンワが直径14mmで慣性モーメントが63mg平方cm…という事を考えると、この数字の大きさが伝わるでしょうか。
更にトゥールビヨンを回すためのトルクも確保した上で約50時間のパワーリザーブを確保しています。



完璧に仕上げられたブリッジとトゥールビヨンに充分な高エネルギーを伝える大きな2番車と3番車。
大きな力がかかる2番車の軸の太さはとても頼もしく感じます。



モンブランが買収したミネルヴァの銘とマニュファクチュールがあるヴィルレの地名が彫りこまれています。
この緩衝装置がついている石は天真の下側の支えで、トゥールビヨンケージはドーナッツ状に逃げることで天真を上下のブリッジで支えています。
この構造をもう少し分かりやすく伝える方法はないか?と思って調査したところ丁度良い特許書類が見つかりました。


これは後述する「メタモルファシス」に使われた特許CH 713649 B1の図面です。
天真(43)は一番長く、上下に貫通していることが分かります。
テンリン(45)は一番上に配置され、ヒゲ(44)が通常とは反対側の下側ケージにあることが分かります。
ガンギ車(47)と振り座は同じ高さに配置されています。
天真はケージには直接接触しておらず、ケージはドーナッツ状に天真を避けていることがこの断面図からも伺えます。

11・12・14は後ほど紹介する「メタモルファシス」システムの一部です。



斜めから見るとサスペンデッド構造により、テンワがより浮いているような表現になっています。
ケージの一部を延長したスモールセコンドインジケーターも通常であればテンワより手前にあるためテンワを遮りますが、エグゾトゥールビヨンでは遮りません。



ベルトはないものの、ホワイトのギロッシェ文字盤バージョンも拝見。
今思い返せば裏から光を当ててトゥールビヨンの構造をよりはっきり見せるべきだったか…



拡大するとトゥールビヨンケージから伸びたスモールセコンド針がガンギとアンクルのカウンターウェイトを兼ねているという事が分かる構造です。



ちょっとピンボケではありますが、サスペンデッド構造の様子。
文字盤からテンワが3.2mm離れることで、まるで浮いているような効果を生んでいます。

さて、このエグゾトゥールビヨン、WMOでも何回か採用されたタイムピースは取り上げており、このタイムピースのニュースSIHH2019で「メタモルファシス」と組み合わせたピースKIHさんによって書かれていました。

「メタモルファシス(変身)」コンプリケーションは独立時計師とのコラボレーションで開発するタイムライタープロジェクトによって開発されたもので、可動する文字盤によって二つの表情が切り替わる機能です。
百聞は一見に如かず、上記記事の動画を再掲します。



「メタモルファシス」により文字盤が閉じ、トゥールビヨンとミニアチュールペイントの地球の文字盤にスモールセコンドとワールドタイム表示が現れます(より詳細はニュースもあわせてご覧ください)。

先程の特許図面をもう一度見てみましょう。



12はメタモルファシスシステムで開閉する文字盤、11は開閉する文字盤にかかれた追加のスモールセコンドインデックス、14は軸を逃がすための穴、そして42はスモールセコンドを挿すための針になっているケージの一部、でメタモルファシスによってトゥールビヨンの機構を可視化するか、それとも隠してテンワが浮いていてスモールセコンドが見えるか、を切り替えることができます。

構造としてはサスペンデッドエグゾトゥールビヨンと同じベースムーブメントの上に「メタモルファシス」コンプリケーションが載っているような構造とみられ、裏から見たときの構造はトゥールビヨンが12時位置にあるか6時位置にあるかを除いて非常に似ています。


同じく「メタモルファシス」コンプリケーションの特許。
専用の香箱をスライダでチャージすることで動き出し、60度ずつの扇状の文字盤が動いて「変身」する仕組みです。


変形の様子。
それぞれの文字盤は高さが変えられており、同じ位置に2枚が収まることで開いた状態になります。



変形完了の図。

基本構造はガバナーで制御されたオートマタというリピーターやソヌリに準じた機構ながら、同じ回転方向の香箱から開くと閉じるの逆方向の回転運動を作る仕組みなども非常に興味深いです。

「時計専業」ではないとはいえ、その豊富な資金力とミネルヴァの遺産を手に入れたことで着実に手堅い開発を進めるモンブラン。
決して専業ブランドに見劣りすることのないヴィルレコレクションや、手堅いルロクルコレクションと層の厚みも魅力と改めて感じました。

今回拝見したエクゾトゥールビヨンは10月ぐらいまで日本に滞在し、各種イベントに登場予定とのこと。
多くの方に見てほしいというメッセージを頂きました。

是非ご覧ください。

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