MB&F レガシー・マシン サンダードーム 驚異の高速回転3軸 規制装置 TriAxを探る

 By : CC Fan
突然、まさに雷のようなインパクトで現れたMB&Fのレガシー・マシン サンダードーム(Legacy Machine Thunderdome)、”トゥールビヨンを超える”独自の新機構TriAx(トライアックス?)を装備し、最速の複合回転を実現しています。



3軸は内側から、それぞれ8秒、12秒、20秒で1回転という驚異的な高速スピードで回転します。

TriAxは非常にシンプルではありますが、新しい考え方が使われており、MB&F曰く、”レガシー・マシン サンダードームの回転機構について、既存の用語を使って適切に説明することは難しい。クドレの作品には、カルーセルのスプリットトレインによる動力伝達やトゥールビヨンの固定ホイールなど、双方の重要な要素が組み込まれており、トゥールビヨンやカルーセルといった、回転式脱進機の既存のカテゴリーには分類できない”と述べられているように、あらゆる部分で改善や最適化が行われており、既存の知識を当てはめるのではなく、ステップバイステップで一歩ずつ理解していく必要があると思い、MB&Fより3D CADによる解説用図を提供いただきました。
これを一つずつ見ていけば必ず理解できると思いレポートしたいと思います。

まず、これを作ったエリック・クドレ(Eric Coudray)氏という時計師について。


COPYRIGHT TEC GROUP J.SAILLARD

ジャガールクルトで3Dトゥールビヨンの先駆けとなった、ジャイロトゥールビヨンの開発にかかわり、その後いくつかのブランドで多軸トゥールビヨンを手掛けて経験を積み、現在はムーブメントサプライヤーのテック・エボーシュ(TEC Ebauches)に所属しています。
多軸トゥールビヨンを得意とし、他のブランドでも球形多軸トゥールビヨンを開発しています。

彼に加え、仕上げの監督をヴティライネン先生が行うというまさに”ドリームチーム”でレガシー・マシン サンダードームは作られました。



各部の構造が最適化されているため、一目では類似性がわかりにくいですが、理解の助けになると思いますのでヴィアネイ・ハルターのディープスペーストゥールビヨンの解説もあわせてご覧ください。
ただ、説明の都合で軸の番号付けが逆になっている点だけはご注意ください。

ではCAD図を見ていきましょう、まずは全体像です。



TriAxは3つの回転軸を持ち、8秒で1回転する緑色の第一軸(Axe de rotation cage No1)、12秒で1回転するオレンジ色の第2軸(Axe de rotation cage No2)、20秒で1回転する青色の第3軸(Axe de rotation cage No3)です。

軸に対してケージが回り、外側のケージに固定された固定歯車にケージ内の歯車が噛んで回転することで内側に動力を伝えるというトゥールビヨンの基本構造は同じですが各部を最適化することでより構造をシンプルにしています。

では一番内側、ケージNo1から見ていきましょう。


ケージNo1に含まれるものはケージ本体のほか、半球状のテンワ、シリンダーひげゼンマイ、ひげ持ち、ポッター脱進機(後述)のアンクル、ケージを回転させるための歯車です。
これが中央にあるボールベアリングを介してケージNo2に対して回転します。

通常のトゥールビヨンにあるガンギ車や固定4番車(相当)に噛みあうピニオンはなく、部品点数が減っています。
このシンプルさと8秒で1回転する高速回転を実現したのがポッター脱進機です。

ケージNo2とNo1を合体させた図を見てみましょう。



ポッター脱進機は19世紀にアルバート・H・ポッターがトゥールビヨン向けに開発した変形アンクル脱進機で、通常のトゥールビヨンの固定4番車(相当)とピニオンが噛みあい、ケージの回転によってガンギ車を回転させてアンクルを駆動する仕組みの代わりに、固定したガンギ車にアンクルをケージの回転によって押し当てるというものです。



上面から見るとこんな感じで、ガンギが回転する代わりに各停止位置に相当する場所にあらかじめガンギの歯が待機していて、そこにケージの回転によってアンクルが突っ込んでいって停止される構造になっています。
テンワの振動数は6振動/秒で、アンクルの特性で2振動(1往復)に1歯進み、ガンギの歯は24歯なので、24/3=8秒でアンクルは1周することがわかります。
この機構により、8秒で1周という高速回転を実現し、最内周ケージの構造を最小化していることがわかります。

オリジナルのポッター脱進機は通常のガンギ車をテンプと同軸に固定する設計だったようですが、内歯のリングを使うことでさらに効率化しています。
曰く、”外向きの歯を備えたガンギ車をテンプと同軸になるように固定するのではなく、逆向きの歯を備えたガンギ車をレバーフォークと同一面になるように固定している。こうした構造は、現代の時計製造においては1例のみ存在するが、単軸機構において採用されたもの”とのことで、1例のみ存在するのはフランクミュラーのサンダーボルト・トゥールビヨン(5秒で1回転)の事だと思われます。
調べた限りでは、こちらはポッター脱進機との関係は書いてないようですが…
ただ、どちらもポッター脱進機によるすさまじい速さを雷(サンダー)に例えているのは面白いと思いました。

ケージNo1とNo2、テンワを合体させます。



テンワの軸は下側はケージNo1の軸受けで支えられますが、上側はケージNo.2から伸びたブリッジで支えられています。
テンワを半球状にすることによっってブリッジの形状を無理がない形にし、場所を取るシリンダーひげゼンマイをテンワの中に収める設計になっています。
これにより、テンワの上側に軸以外何も出ていないので、上側はケージNo2の軸受けで固定しても特に問題はありません。
ひげゼンマイの位置を決めるひげ持ちはケージNo1に固定されるため、テンワはケージNo1の回転に従って動きます。



ケージNo1を駆動する歯車は図の下、ケージNo2を駆動する歯車は向かって左にありますが、ケージNo1とNo2を組み合わせただけでは噛みあう固定歯車が居ません。
これは固定歯車は両方ともケージNo3に備えられ、より速く回る部分はできる限り軽くするためと余計な中間車を省くためです。

ケージNo3と組みあわせてみましょう。


ケージNo3の二つのクラウンギアにケージNo1とNo2の駆動用歯車が噛みあったのがわかるかと思います。
第3軸が回転すると向かって左にある第2軸の駆動用歯車が回り、第2軸も回転します、第2軸が回転すると下側にある第1軸の駆動用歯車が回り第1軸も回転します。
第1軸の回転速度が脱進機によって制御されることで、全体が設計されたスピードで回るようになります。

第3軸は上記の図ではすべて水色ですが、実際には固定(相当)と回転部に分かれています。



黄土色の部分が固定(相当)で、第2軸に対する固定ギアです。
それに対し、青色の部分が回転する部分で、第1軸用の固定ギアと第2軸用の軸受けを持っています。
これにより、固定部分をなるべく遅い回転数の部分に移動させ、より高速回転する方はシンプルにするという設計が実現しています。

固定(相当)と書いているのは実際には黄土色の部分も回転するからです。
機能的にはここが回る必要はないですが、動きのダイナミックさを求めるとここが動かないのは面白くないということと、高速回転に必要なトルクを分配して供給するというカルーセル的な考え方によって回転させているようです。
青色部分と黄土色部分は同一速度の段付のギアから駆動されますが、段付きでギア比が異なり、速度の差が実際の速度になります。

設計上のポイントとして、軸の設定があります。


再び、ケージNo1,No2,No3を組み合わせた図です。
この図ではすべての軸が同一平面に居るタイミングを表していますが、直交している第1軸と第2軸に対し、第3軸はズレており偏心していることがわかります。
これと、周期が重なりにくい8秒、12秒、20秒という設定によって、天真はよりランダムな姿勢を取ることができ、姿勢差のキャンセル機能を高めているようです。


3次元空間上の天真の取りうる姿勢を重ね書きした図です。
充分にランダムかつ、1点に重なってはいないことがわかります。

各部がしっかりと考えられており、曰く、”TriAxでは、各回転軸に1つのケージを関連付ける合理的(かつ煩雑)なシステムではなく、3軸に2ケージを関連付ける異例の構成”というのが、大げさではないことがわかります。
これはぜひ動いているところを見てみたい…

最後に同じくMB&Fから提供いただいたロングバージョンの動作する動画を…



私も完全には理解できていませんが、ステップバイステップで見ることでかなり理解が進みました。
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