シチズン 前人未踏の年差±1秒の精度を実現したCaliber 0100 開発者インタビュー/第四回【全体・総論編】

 By : CC Fan

改めて「クオーツ時計のスゴさ」をお伝えするコンセプトで、前人未到の年差±1秒という外部情報に頼らないアナログ式光発電時計として初めて実現した超高精度エコ・ドライブムーブメントCaliber0100開発者テクニカルインタビュー。

初回は高精度のコア技術である8MHz ATカット水晶について、第二回は水晶振動子と組み合わさることで年差±1秒を実現するための半導体とシステムの構成とそれを確認する測定器第三回は実際に「1秒の美しさ」を表現するために60個のインデックスに秒針の先をぴたりと合わせるための機械(機構)についてお伝えしました。
最終回の今回はプロジェクト全体に対してと、特定のカテゴリーに含まない細かい質問についてお伝えします。

いつもと同じく、Q(質問:私が質問した内容)、A(回答:シチズンさんからの回答)、C(コメント:私の補足説明・解説)という形で基本的に一問一答に必要に応じて補足を追加する方式で進行いたします。



Q:今までのインタビューで、素晴らしい取り組みだという事を実感しました、このムーブメントは是非ずっと作り続けてほしいです!
エコ・ドライブはソーラー発電で充電が可能なため、ほぼノーメンテナンスで「ずっと使える」ことも魅力の一つではあるとは思うのですが、末永く使うためにやはり定期的に点検やオーバーホールは行った方が良いのでしょうか?

A:The CITIZENはずっと使っていただくための取り組みの一つである、シチズンオーナーズクラブに登録していただくことで保証が延長され、モデルにより、最長10年間の無償保証が適用されます、このCaliber0100搭載モデルでは1年・2年・8年の節目になる年に、いわば「健康診断」として、無償点検のご案内をお送りさせていただいております。また無償保証期間以降もできるかぎりの長期修理対応に取り組んでおります。
公式見解としてはなんらかの不具合を感じられたら場合はオーバーホールを推奨するという形になります。

C:高度な技術力が必要なムーブメントの常として、メーカー修理が推奨されるのは最近では当たり前で、その付加価値として通常1~2年の無償保証期間の「延長」や初回の点検無料をアピールポイントにするブランドも増えていますが、The CITIZENブランドスタート時から続く、最長10年の「保証延長」と3回(モデルによって回数は異なる)の無償点検はなかなかありません。

無償保証と共にThe CITIZENのサイトにて掲載されている「無償点検」の項目は13工程。
ムーブメントこそ分解しないものの、ほとんどオーバーホール並みの検査を施して異常がないかを確認する念の入れようです。
「時計の価格というのは目に見える製品としての価値だけではなく、それを維持するためのサービスも含めて考える」という、哲学に沿って考えると本当に素晴らしいサービスだと思います。



Q:今回の和紙モデルはデュラテクトプラチナという今までのCaliber0100搭載モデルに使われていたデュラテクトαとは異なる方法ですが、これは名前の通りプラチナが入っているのでしょうか?

A:はい、プラチナを含む表面コーティングで、プラチナの色調を活かしながら、硬度1000Hvですり傷が付きにくい表面を実現します。

C:色合いとしては既存モデルのチタン+デュラテクトαとも、ステンレス+デュラテクトαともまた違った、少し冷たい?感じのするシルバーカラーでした。
プラチナ箔を使った和紙文字盤との色味の統一感という意味では個人的に一番好みでした。



Q:このプロジェクトは、シチズンのコア技術であるエコ・ドライブ「ありき」で始まったプロジェクトだったのでしょうか?

A:基礎研究から始まり、様々な可能性を検討した結果としてエコ・ドライブに行きつきました。
これは、高精度を実現するとともに、「計時を止めたくない」という思いがあります。
電池式のクリストロン・メガは、確かに年差±3秒を実現しましたが、電池寿命が1年程度しか持たないため、その高性能を完全に活かすまえに電池が切れてしまい、結局は時合わせが必要となってしまいました、エコ・ドライブであればソーラーによって動き続けることで、年差±1秒による高精度の恩恵を止まることなく受けることができます。

C:クリストロン・メガの電池寿命は「約1年」、当時としても寿命は短かったようです。
精度を保つために内部に不用意に触られないように電池は別ケースにするという対策を施しており、電池交換以外の調整は全てメーカーで行う前提で、別ケースにした結果、裏蓋をあけなくてもコインで開けられる電池ケースを採用、結果的に電池の交換はやりやすくなり、電池寿命の短さに対する対処療法となりました。

しかし、ズレる前に電池が切れてしまい、結局メンテナンスが必要なのであれば、その時に時合わせをすればよいわけで、何のための高精度なのか?という問いに対する答えが、環境からエネルギーを得ることでエネルギー切れを起こさないエコ・ドライブとの組み合わせと理解しました。


クリストロン・メガの背面。
コインで開ける溝が設けられた大きな蓋が電池蓋、電池交換ではここしか開けることが許されない。
右下の小ねじは周波数調整と測定用の開口部。



Q:今から見てもクリストロン・メガは「尖って」いました。
やはり、現在としては「実験機」や「レーシングカー」ではなく、ちゃんとした「実用機」をつくってこそシチズンでしょうか?

A:技術的にはどんな尖った機械でも作れるとは思いますが、「シチズン」の名を冠する「製品」である以上そこに一定基準の使いやすさや品質は必須であり、あくまで「製品」であるという事を忘れてはいけないと考えています。
研究所レベルで実用性を度外視してでも最高精度を出すような機器はもちろん大切ですが、電力も限られ、過酷な環境に晒される「腕時計」は充分な信頼性を担保するものではなくてはいけません。

C:これは、腕時計は車に喩えると「レーシングカー」なのか、「ファミリーカー」なのか?という問いに繋がると思いました。
レーシングカーやF1カーに自身を喩える時計はいくつもありますが、プロドライバーが操縦すること前提でギリギリまで安全マージンを削ったようなレースカーと同じ基準・同じ思想で、「扱いを理解している人間だけが使う」前提で時計を作ってしまったら、まともに使えず、すぐに壊れて(壊して)しまうのではないでしょうか。
そう考えると、少なくとも一般向けとして市販している時計は「ファミリーカー」であることがスタートラインではないか…と思うわけです。
逆にレーシングカーに近いのは?と考えると、原子時計(原子周波数標準)や、過去にオリンピックで使っていた機械式クロノグラフは「扱い方を理解している人間だけが、リスクを理解して使う」性質なので、レーシングカーかもしれません。

Q:いわゆる一般的なクオーツで使われる一次電池とエコ・ドライブで使われる充電可能な二次電池を比較した場合、絶対的な容量としては二次電池の方が小さいのでしょうか?

A:二次電池の方が小さくなります。
ただし、ソーラーで常にエネルギーが供給されるため、ずっと箱にしまって光に当てないなどの極端な環境でない限り、容量の少なさが直接問題になることはありません。

Q:年差±1秒というのは1秒ステップ運針という表示方法である以上、ある意味「上限」に到達してしまっているとも考えられ、間違いなくマイルストーンであると思います。
ここまで来てしまうと、「やることが無くなってしまう」とも考えられますが、「次の一手」について何かあれば。

A:はい、ステップ運針である以上、誤差が蓄積して1秒以上の差にならない限り、その誤差は明確な差としては見えないため、誤差を年単位で認識することができなくなるほどの精度が実現できたと言えます。
しかし、シチズンのポリシーである「BETTER STARTS NOW」の考え方では、現状に満足し、より良い物を求めるのをやめるという事はありえません。
これ以上の精度を実現できるか、それをどのような形で表現するのか、という事はまだわかりませんが、これからもより良い物をご提供できるよう邁進していきます。

Q:クオーツのCaliber0100に引き続き、機械式のCaliber0200をそれぞれ新世代キャリバーとして発表しました、クオーツと機械式、どちらに注力するかという戦略はあるのでしょうか?

A:シチズンとしては、クオーツも機械式もどちらもより「良い時計」を作るための技術として追い求めていきたいと考え、どちらかに注力するという事はありません。どちらも、です。
それぞれの持つ強みと魅力を伝えていければと思います。

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今回、「クオーツ時計のスゴさ」を改めて伝え、自ら見直すために、現時点での最高峰となる年差±1秒という外部情報に頼らない自律型のアナログ式光発電時計としては前人未到の精度を実現したシチズン エコ・ドライブムーブメント Caliber0100についての開発者インタビューをお伝えしました。

事前に過激な質問リストでお送りしてお願いして、最悪の場合、断られることも覚悟していましたが、インタビューを受けてくださったシチズンさんには感謝してもしきれません。
数多くの「オフレコ」もありましたが、如何に知恵を絞って高度なことが行われているか、一言にクオーツとはいっても「簡単」な「安物」ではなく、相応の技術開発が行われて実現されていることが伝われば幸いです。

本来はより高度な技術を必要とし、それに伴い生産規模も大きくしなければいけないクオーツが「安物」扱いになっていること自体が正に喜劇的というか、機械式を復興したハイエック・シニアをはじめとした「剛腕」がいかに「うまかった」かの証明である、というのはこの連載の最初にも述べましたが、「質の良い物は安く提供したい」というクオーツの善意・サービス精神による、ある意味での自滅もあったのかなと思います。

自由にやらせてくれたWMOでいろいろ好き勝手に書いてきましたが、私は「高級機」が好きなのではなく、「高性能機」が好きなのだな…という事が分かってきて、逆に「機械式ありき」で、客観的な性能がダメダメな所を曲げてまでは褒めたくはないとも改めて実感します。
一番顕著なのは精度で、機械式の精度がクオーツに対して悪いのは「許容」しますが、「良い」とは言いません、精度は良い方が良いでしょう?
逆説的には、機械式が「正しい」から好きな訳でもないでしょう?とは思うのです。

「機械式は無条件にクオーツよりも優れている」、何でもかんでも機械式が良い、と「方法ありき」よりも「適材適所」でお互いに良い所を活かした方がいいとは思いますし、これは私だけではなく、WMOとしても常に考えていきたいテーマの一つです。

そして、まだ見ぬ高性能機がまた生まれることを祈って…

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