リシャール・ミル 「RM 35-03 オートマティック ラファエル・ナダル」の「スポーツモード」を「推測」する~差動歯車を使った可変偏心ローター

 By : CC Fan


先日発表されたリシャール・ミルの新作、「RM 35-03 オートマティック ラファエル・ナダル」
、今までも一流のアスリートが実際のスポーツ中に装着できるエクストリームなタイムピースにこだわってきたリシャール・ミルが、自動巻きに新しい発想を持ち込んだコンプリケーション、「バタフライローター」を提案しました。

百聞は一見に如かず、まずは動きを見てみましょう。



機構が動くことにより、ローターが一般的な自動巻きローターの形と蝶(バタフライ)のような形で変化しました、これによりローターの偏心量を変化させ、自動巻きの巻き上げ効率を変化させています。
通常時は通常の自動巻きのように巻き上げ、激しいスポーツを行う「スポーツモード」の時は二つのローターがやじろべえのように釣り合って偏心を打ち消すことで、ローターが動きを拾いにくくし、過剰な巻き上げを防止する、という仕組みです。

自動巻きは重心が偏った偏心錘を使い、人間の動きからエネルギーを取り出してゼンマイを巻き上げる機構です、充分に巻き上げるかどうかは装着者の行動パターンに依存し、各社それぞれの狙いで錘の重さや偏心量、巻き上げ機構などを設計してはいますが、なかなか万人にマッチするというものではないようです。
また、巻き上げ効率を上げれば良いかというとそうでもなく、一般的な自動巻きはフル巻きになっても巻き上げは停止せず、ゼンマイの端が滑ることによって過剰な力を逃がすスリッピング香箱によってゼンマイの破損こそ防止しますが、香箱とゼンマイの間で滑ることによる摩擦が発生し続け、過度の摩擦は香箱の破損に繋がります。
特に、日常生活で充分巻き上げるような設計を激しい動きを伴うスポーツで使うと過剰な巻き上げが発生します。

リシャール・ミルはこの問題に対し、それぞれのオーナーの生活パターンによって巻き上げ効率を変えられる可変慣性モーメントローターという提案をしてきました。
これは自動巻きローターに搭載された可動錘を動かすことで、巻き上げ効率を変更することができる機構です。
しかし、調整には時計師によるサービスが必要なため、オーナーが簡単に変更するというより、長年の経験で調整していくような性質でした。

もう一つはパワーリザーブインジケーター的に巻き上げ量と放出量を測定する差動歯車機構から制御されてローターを切り離すデタッチャブル・ローターという仕組みです。



この機構では「巻きすぎる」前にローターが切り離され、ある程度放出されたらまたローターが再接続されることで過剰な巻き上げを防止していました。

今回の「バタフライローター」は前者の可変慣性モーメントローターをユーザー自らコントロールできるようにしたものと見做すことができそうです。



激しい動きの時だけローターを変形させ、偏心をキャンセルするような配置にして巻き上げ効率をわざと低下させることで過剰な巻き上げを防止します。
スポーツが終わったらスポーツモードをOFFにすることで、ローターが通常の自動巻きの形に戻り、また効率よく巻き上げるようになります。

…ここまで聞くと、「どうやっているのか」を知りたくなります、実機写真こそNGではありましたが、実際にタッチ&トライを行う機会を頂くことができ、スケルトンのおかげで内部構造も一目瞭然で理解できましたのでレポートします。
私が好きな「遊星歯車機構」を使った「差動歯車」でした!



というわけで、「いつもの」です。
左のドローイングから、ローターと噛み合う歯車を抜き取ったのが、右の図です。

半分ずつのローター(青・橙)は同軸の独立して回転可能な軸に固定されており、それが独立に回転可能な伝え中間車(青・橙)を経て、連結遊星車(黄色)で連結されている構造です。
途中で多少加速・減速していますが、最終的に片方の半分ローターからもう片方のローターへのギア比は1:1になるようなギアが選ばれているため、二つの半分ローターは一定の間隔(位相)を保ったまま、同じ速度で回転します。
なので、中間車の片方から巻き上げ用の動力を取り出せば普通に自動巻きとして使えることが分かります。

あとは、何らかの方法で二つのローターの間隔(位相)を変えてやればバタフライローターが実現できます。


それを実現するのが、遊星連結車の「公転」の動きです。
モード切替ボタンが押されるとカムの作用により、遊星連結車が90度ほど移動します。
この動きによって、遊星の公転→遊星の自転→伝え中間車→半分ローターの回転という経路で力が伝わり、ローターが閉じる方向に動き、ローターが蝶の形から一般的な自動巻きローターの半円状に「変形」します。

更に、ONの時は遊星歯車はカムによって固定されていましたが、OFFの時はばね要素によって常に緑色の矢印の方に引っ張られる力がかけられており、この力が変形時と同じ経路で伝わることでローターを一体化させ、衝撃などで離れさせなくしています。

制御自体はカム式クロノグラフのような往復運動するカムによって行われており、感触もコントロールされているのか、ローターを押し付けるバネによる軽い衝撃が操作に対するフィードバックとして機能していました。

「今からスポーツするか」というのを一番理解しているのはユーザーなわけで、下手に自動ではなく、手動にすることでユーザーに操作してもらうというのは戦略としては良い方法だと思います。



シンプルに「やりたいこと」が実現できる良い方法だと思いました。




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