A.ランゲ&ゾーネ「グランド・ランゲ1」~WATCHES&WANDERS 2022新作からの私的注目作その②

 By : KITAMURA(a-ls)

その①を書いてからちょっと時間が空いてしまったのだけれど、「WATCHES&WANDERS 2022新作からの私的注目作」その②は、"我が陣営"から「グランド・ランゲ1」を挙げたい。

今年の新作での注目と言えば、誰もが「リヒャルト・ランゲ・ミニッツ・リピーター」か「オデュッセウス」チタン・ケースを挙げるだろう。自画自賛っぽくなるが、事前に書いたランゲ新作予想記事で的中&ニヤピンを果たした上記の限定2作ではなく、新作のうち唯一当てられなかったカタログ・アイテムの"新型"「グランド・ランゲ1」に注目したのはなぜか。
実際、2022年新作の発表を見た際、この"新型"「グランド・ランゲ1」を数合わせの新作のように思われた方も多いと思うのだが、よくよく分析してみると、実はこの作品にこそ、2022年以降のランゲの姿勢というか、大事な方向性のひとつが浮き彫りにされていると感じられたからだ。



そしてそれは、「ランゲ1」という絶対的アイコンの陰であまり陽の目を浴びる機会のなかった「グランド・ランゲ1」というモデルが、ついに獲得した最前線モデルとしての位置付けへの注目でもある。



「グランド・ランゲ1」のオリジナル・モデルは2003年に生まれた。
以来、このモデルのおよそ20年にわたる歴史を追いかけてみると、そこには「ランゲ1」という絶対アイコンの存在の陰にあって、ランゲ・ウォッチの方向性の変遷の中でその型を変えてきた紆余曲折の姿が見えてくる。

その姿を辿る旅――いざ書き始めてみたら思いのほか長くなってしまったが、どうか最後までお付き合いいただければと願う。



2022年の"新型"「グランド・ランゲ1」の最大の変化は、その厚みを0.6mm削ってきた点にある。
わずか0.6mmではあるが、実機を腕に載せたてみると、この0.6mmの意味をまさに実感することになる。これまで数多のランゲ・ウォッチを付けてきたが、その中にあっても群を抜くフィット感がそこにあったのだ。


●実機画像


最初に確認しておくべきことは、今回の「グランド・ランゲ1」の変更にあたっては、ムーブメントには手を加えずに、インデックスや風防やケースバックのガラスの厚を削りに削って生み出された0.6mmであることだ。



この0.6mmに込められた意味と「グランド・ランゲ1」の波乱万丈の歴史――まずは今から19年前の2003年、「グランド・ランゲ1」誕生の時まで遡ってみよう。

「グランド・ランゲ1」が誕生した理由、というか誕生させなければならなかった理由がある。それはズバリ、ランゲ1の唯一の弱点とも言える拡張性の乏しさによるものだった。
38.5mm径・10mm厚のケースサイズ内にぎっちりとムーブメント・パーツの詰まった「ランゲ1」には、大規模な別機能を積めるような余白がなかったのだ。その拡張性は、アウトサイズ・デイト機構の余白+0.4mmの厚みに収納された「ランゲ1・ムーンフェイズ」(2002年発表)が精一杯で、もはや限界を迎えていた。

そこで、将来的なランゲ1派生モデルの受け皿として、2003年に「グランド・ランゲ1」が作られたに違いない。実際、この2003年には早速、「グランド・ランゲ1」をベースとした伝説のリミテッド・エディション「ルナ・ムンディ・セット」が発表されている。

●グランド・ランゲ1 ルナ・ムンディ セット


"41.9ミリ"という最適解

こうして「グランド・ランゲ1」は、「ランゲ1」と同系の同寸ムーブ(L901。枝番は2)を搭載しつつ、ケース径を41.9mmとし、38.5mm径のランゲ1と較べて、3.4mmもの新たな余白を生み出した。


●「グランド・ランゲ1」と「ランゲ1」

開発というとムーブメントに目が行きがちだが、ケースの開発にもかなりのコストがかかる。そこでメーカーとしては、できることなら同じ金型を活かして量産し、単価を安くしたいと考える。
この41.9mmというサイズが、以後のランゲ・ウォッチの拡張性そしてコスト減にいかに貢献したは、その後の発表作を見ていくとよくわかる。
すなわち、ランゲ1ファミリーの発展モデルである、「ランゲ1タイムゾーン」(2005年)、「ランゲ1トゥールビヨン・パーペチュアル」(2012年)、さらには別ファミリーとなる「ツァイトヴェルク」(2009年)、「リヒャルト・ランゲ・トゥールビヨン"プール・ル・メリット"」(2011年)まで、「グランド・ランゲ1」から始まった41.9mm径というキーワードは、その後のランゲの開発を支えたと言ってよいだろう。


●2012年時点のランゲ1ファミリーの"家族写真"、写っている9モデル中、半数以上の5モデルが41.9mm派閥

しかしこの初代「グランド・ランゲ1」は、ランゲ1と同じサイズのムーブ(L901)を使っているので、ケースサイズに合わせた大きなダイヤルを被せると、サブダイヤルが重なってしまう。



ダイヤルをランゲ1と同じサイズにすると、下のようにダイヤルの外周をケースで大きく埋める必要がでてくる。


●特別な仕様のために「グランド・ランゲ1」のケースに「ランゲ1」を収めたモデル

個人的には、天空を巡る衛星の軌道のよう感じていた「ランゲ1」のダイヤルとパワーリザーブの半円の関係が、「グランド・ランゲ1」に至っては、それがついに交錯するという、さらなるスリリングが盤上に描かれ、そこから生まれるテンション感がとても気に入っていた。


●秒針がパワーリザーブ針のカシメのギリギリを指し長針とパワーリザーブ針が直列する

●長針と秒針が相対方向で交差

デザイン面でも、当初はバイカラーのデザイン・ヴァリエーションを多用し、「ランゲ1」との差別化を意識していた。

●バイ・カラー・ダイヤルのオリジナル「グランド・ランゲ1」


絶対的アイコンの"フェイス"へ

ところが、ランゲが三大ブランドに続くような注目のされ方をし始めた頃からファンとなった人々の一部が、黄金比率に基づくという「ランゲ1」のデザインを信奉するあまり、「グランド・ランゲ1」の重なりのあるデザインが、ランゲ1への冒涜であるかのようなことを言い始めた。特にアメリカからはそうした声が多く、ある有力ファンサイトには"Odd Lange"とまで書かれたことを記憶している。

そこでランゲは、サブダイヤルにレコード盤のような同心円を幾重にも刻んだアジュラージュ仕上げを施し、さらに全モデルにアプライド・インデックスを採用するといった高級感志向で存在感を残そうとするも、「グランド・ランゲ1」の"陰キャラ"的イメージを変えることは難しかった。
そんなネガティヴな声を受けて、ついにランゲは「グランド・ランゲ1」をリニューアルする。2012年のことだ。「ランゲ1」の拡張性を解決するために生まれながらも、その「ランゲ1」を絶対視する声のために"顔"を変えざるを得なかったのである。


●2012年にリニューアルされた新「グランド・ランゲ1」

このリニューアルにあたり、ランゲがデザインのことをいかに気にしていたかは、その当時(2012年)のプレスリリースにも滲んでいる。少し引用する。

『レイアウトとサイズを変更し、新しい内部機構を備えたグランド・ランゲ1 は、真の大型モデルとしてランゲ1の歴史を塗り替えます。ムーブメントを基礎から新しく開発することで、均整のとれたランゲ1 のダイヤルデザインを、ひとまわり大きなグランド・ランゲ1 にそのまま移しかえることに成功し、同時に薄型化も実現しました。(中略)。今回まったく新たに開発された手巻きキャリバーL095.1 では、部品の配置を調整することで、ランゲ1 のバランス良いダイヤル構成を、そのままサイズの大きいモデルに移しかえることを可能にしています。その結果、シルバー無垢のダイヤルにあしらわれている時、分、秒、アウトサイズデイト、パワーリザーブの各表示が、どこも重なり合うことがなくなりました。美しい表示のバランスを完全に再現するため、アウトサイズ表示もダイヤルとまったく同じ比率でサイズが大きくなっています』

今読むと、ブランドがデザインの問題を非常に気にしていたことが良く伝わるだろう。
こうしてランゲ1と同比率のデザインを最優先にしたことで、サイズは40.9mmとなった。さらにこの2012年は世界的にデカ薄がブームとなっていたこともあって、薄さを意識した8.8mmのケース厚(オリジナルのグランド・ランゲ1は11mm厚)とし、それと引き換えに見えない内側でのこだわり、例えばツインバレルは放棄された。

ちなみに、この新「グランド・ランゲ1」のキャリバーL095は2009年からの開発開始で2012年のデヴューとなったが、同じ年に薄型の「サクソニア・フラッハ」(2011年)の開発も始まっている。さらに言うと、キャリバーL095とは2009年の5番目に開発がスタートしたことを意味しており、前述した「フラッハ」、「グランド・ランゲ1」の他に「リヒャルト・ランゲ・ジャンピングセコンド」、「テラルーナ」などの新機構の開発がスタートした年でもある。
年間に5モデル以上の開発が行われたのは、いまのところこの2009年が最後で、CEOのファビアン・クローネ氏が退陣したこの2009年が、いわば、開発重視ブランドとしてのランゲのラストイヤーでもあったといえる。

新生グランド・ランゲ1の出だしは順調だった。
翌2013年にはヒット企画ルーメンの採用モデルとなり、2014年にメインダイヤルにムーンディスクを載せた「グランド・ランゲ1・ムーンフェイズ」が登場。2016年にはその「グランド・ランゲ1・ムーンフェイズ」がまたもルーメンに採用された。まさに順風満帆で、一時期は「ランゲ1」の位置に取って代わるかもしれない勢いもあった。



ところが、本家「ランゲ1」が2015年にリニューアルされると、少し風向きが変わる。
さらに2016年に、デイ&ナイトも表現できる新機軸のムーンディスクが、オリジナルな定位置である秒針ダイヤル位置に燦然と輝く「ランゲ1ムーンフェイズ」が登場すると、たちまちヒット・モデルとなり、「グランド・ランゲ1」や「グランド・ランゲ1・ムーンフェイズ」の勢いをも吸収し、グランド勢はまたも陰キャラ化してしまった感がある。


新生「グランド・ランゲ1」の"新使命"

しかしこれで話は終わらない。「グランド・ランゲ1」は次なる使命を担い、新たなチャレンジを開始することになる。
それは2019年、ランゲが「オデュッセウス」として初のステンレス・スティール・ケースのスポーツ・モデルを出し、ラグジュアリー路線にも参戦、結果的に確かな成功を収めたことによる。


●「オデュッセウス」これは今年の新作チタン製の実機

旧東ドイツの職人的時計メーカーに始まり、開発力と精緻な技術力に富んだジャーマン・ウォッチ・ブランドとして名を馳せ、そして今やランゲは次なる展開――華やかなグラン・メゾンの道へと進もうとしている。
しかしその路線には欠かせない要素がある、「高級感」、「ファッション性」、「装着感」だ。
かつての開発力重視期のランゲ作品、たとえば名作として名高い「ダトグラフ」の、その機械は確かに素晴らしく裏スケからの見栄えは芸術的でさえあるが、ムーブの重心が片側に拠っているため、腕に載せた時の座りが安定しないという欠点があった。
いずれにしても初期のランゲの技術はギアやカムやヘアスプリングが優先で、ファッションやフィットのための技術はその後塵を拝していたに違いない。
しかし「オデュッセウス」を出したことで、さらに高まった富裕層顧客からの注目度をより強固にするには、かつてのランゲの中でのプライオリティはさほど高くなかったであろう人間工学的なアプローチ、つまり装着時のラグジュアリー感やフィット感といった要素も高めていかざるを得ない。
つまりその先兵としてチョイスされたのが、今年のマイナス0.6mmの「グランド・ランゲ1」なのである。


●オリジナル(右)と最新作(左)との厚みの差

複雑機構を搭載するための、拡張性の重視から誕生し、ブランドアイコン絶対視のためにリニューアルされ、そして今度は新たなる使命――ドレス・ウォッチとしての究極のフィット感と文字盤の高級感を実現するための進化と改良――それこそがマイナス0.6mmに込められた真実なのだ。


●19年間の"進化"

実際、実機を腕に載せてみた安定感は、かつてのランゲ・ウォッチのどれとも比べることのできないフィット感があり、前述したサブダイヤルのアジュラージュ仕上げとマットに仕上げられたメインダイヤルの風合いが醸す高級感、41mm径・8.2mm厚ケースの安定感のある収まりの良さ、これぞまさに現時点におけるランゲ・スタイルによる究極のドレス・ウォッチなのだろう。


●サブダイヤルのアジュラージュ仕上げと文字盤メインのマット仕上げ


もちろん、将来的な拡張性も併せ持っているモデルであることに変わりはないが、個人的には、よくぞ波乱万丈の20年を生き抜いた「グランド・ランゲ1」が ついに獲得した新しい戦略的な居場所を、今は大いに祝福してあげたい気持である。







【仕様】
グランド・ランゲ1
Ref.137.038/137.033

Ref.137.038
ケース:18Kホワイトゴールド
ダイヤル:シルバー無垢、グレー
針:ホワイトゴールド
ベルト:手縫いレザーベルト、ブラック
バックル:18Kホワイトゴールド製 ピンバックル



Ref.137.033
ケース:18Kピンクゴールド
ダイヤル:シルバー無垢、グレー
針:ピンクゴールド
ベルト:手縫いのレザーベルト、 レディッシュブラウン
バックル:18Kピンクゴールド製 ピンバックル

以下共通
[ムーブメント]
ランゲ自社製キャリバーL095.1(自社製ヒゲゼンマイ)、手巻き、ランゲ最高品質基準準拠、手作業による組立ておよび装飾、五姿勢調整済み、素材の特性を生かした洋銀製の地板および受け、ハンドエングレービング入りテンプ受け
ムーブメント部品数:397
石数:42
ビス留め式ゴールドシャトン:7
脱進機:アンクル脱進機
調速機:耐震機構付きチラネジテンプ
振動数:毎時21,600振動、スワンネック形バネと側面にある調整用ビスにより微調整可能な速度調整装置



パワーリザーブ:完全巻上げ状態で72時間
機能:時、分およびストップセコンド機能搭載スモールセコンドによる時刻表示/パワーリザーブ表示/ランゲ・アウトサイズデイト
操作系:巻上げおよび時刻調整用リューズ、アウトサイズデイト用ワンタッチ調整ボタン
ケース寸法:直径41.0 mm/高さ:8.2 mm
ムーブメント寸法:直径34.1 mm/高さ4.7 mm
風防ガラスおよび シースルーバック:サファイアクリスタル(モース硬度9)

予定価格:5,896,000円(税込)
※PG・WGともに発売予定時期:2022年5月



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