大塚ローテックの機械式腕時計「7.5号」、国立科学博物館で保存へ

 By : CC Fan

WMOでもニュースをお伝えした大塚ローテックの7.5号
。実は「私も買いました」だったりするのですが、まだ書けてなくて申し訳ないです。
それはさておき、この度、国立科学博物館にて科学・技術史資料として保存が決まったそうです。

個人的には「古き良き独立時計師」の手法だと考えている汎用ムーブメントに自社表示モジュールを取り付けてユニークな表示を実現する、と言う方法。
汎用ムーブメントの信頼性とユニークな表示を両立できる優れた方式と思いますが、意外と現在では例がありません(アンデルセンなどが行っている)。
それを時計師ではなかった片山氏が行っている、と言うのが面白いポイントだと思います。
また、モジュール設計だけではなく外装プロダクトも「同じ人物」が行っている例と言うのは少なく、何かのリバイバルではなく独自の世界を作っている、と言うのも珍しいでしょう。

ジャンピングアワーモジュールはベースから見れば「大きな分針」であり、ベースムーブメントから分針相当の回転を受け取って動作します(秒はベースムーブのスモセコに取り付けられたディスクがモジュール開口部から見えている)。



分の回転は分ディスクと分スネイルカムに分岐され、分ディスクは分を表示します。
中心の歯車が二重に見えるのはスネイルカム駆動歯車と分ディスクの高さが異なること、スネイルカムが通るためのスペースを避けているためのようです。

スネイルカムはバネに位置エネルギーとして力を蓄え続け、読み取っているレバーが1時間に1回落ちることで時ラチェットを送り、時間を進めるジャンピングアワーです。
時合わせはムーブ側で行うので、分を逆回転させることもできますが、そのままだとスネイルカムの落ち込み部分を乗り越えることができないためレバーが破損する危険性があります。
そのため、レバーの読み取り部には逆回転時の力をバネで逃がすための安全機構が設けられています。



通常時はバネで押さえられている読み取りレバーがスネイルカムの逆回転に引っかかり過剰な力がかかるとバネが縮んで力を逃がします。

これらを適切に設計・製造して調整して組み立てることで信頼性の高いジャンピングアワー表示が実現できます。

それではニュースを引用します。



大塚ローテックの機械式腕時計「7.5号」、国立科学博物館で保存へ
技術的価値を認められ、理工学研究部の科学・技術史資料として


この度、大塚ローテックの機械式腕時計「7.5号」が、その技術的価値を認められ、国立科学博物館で保存されることが決定いたしました。理工学研究部の科学・技術史資料として保存されます。理工学研究部は国立科学博物館の研究関連組織の一つで、日本の科学技術に関する資料の調査、保存および研究を行い、そのコレクションは3万点超に及びます。大塚ローテックの創業者である片山次朗は、自身の作品が国立科学博物館で保存されることについて関係者の皆さまに感謝するとともに、「後世の人にも『面白い時計を作っていた人がいた』と思ってもらえれば嬉しい」とコメントしています。

大塚ローテックは片山次朗が2012年に東京・大塚で創業した時計ブランドです。片山はカーデザイナー/プロダクトデザイナー出身でありながら、ネットオークションで卓上旋盤を手に入れたことをきっかけに機械式腕時計製作を始め、自身の製作した時計に「大塚ローテック」というブランド名をつけました。

7.5号は時が正時になると一瞬で数字が切り替わるジャンピングアワーウォッチであり、ケース上面の3つの窓はそれぞれ時分秒を表しています。片山が設計し、自身の指揮のもと組立を行っています。時計のエンジンにあたるムーブメントは国産のMIYOTA製ムーブメント82S5をベースに自社製モジュールを付加しています。自社製モジュールは歯車やバネなど約30点の部品で構成されます。7.5号は2021年に誕生しましたが、今回、国立科学博物館で保存されるのは2023年製造の現行仕様品です。


自社製モジュール



【仕様】
7.5号


<機能>
ジャンピングアワー、分ディスク、秒ディスク
駆動方式:自動巻

<ムーブメント>
MIYOTA82S5+自社製ジャンピングアワーモジュール
(自動巻、24石、毎時21600振動、パワーリザーブ約40時間)

<ケース>
ケース径:40mm
ケース厚:11.2mm(最大部14.8mm)
素材:ステンレススチール(316L)
ケース仕上げ:ヘアライン仕上げ、サンドブラスト仕上げ
ケースバック:シースルーバック
防水性:日常生活防水

<風防>
サファイアクリスタルガラス(無反射コーティング、指紋防止コーティング)
サファイアクリスタル製魚眼レンズ(無反射コーティング、指紋防止コーティング)

[歴史]
2021年発売
2023年仕様変更 
国際時計博物館(MIH)の収蔵品となる
国立科学博物館の科学・技術史資料となる


ウォッチビルダー 片山次朗



カッコいいクルマに憧れ、デザイン学校を卒業後は自動車デザインの仕事に就く。その後プロダクトデザイナーとして独立し、乗り物やヘルメット、家電製品などのデザインに携わる。そんな中、たまたまネットオークションで卓上旋盤を手に入れ、見様見真似で金属加工を始める。思いのほか楽しくなってきたが、自宅台所に置いてある旋盤でクルマは作れない。「そうだ、腕時計のケースを作ってみようかな。」と、時計作りを始めたのが2008年頃、30代半ばであった。時計は道具でありながらも身に着けて使う事ができることが楽しく、置いてあるだけでも嬉しいことを発見。このころから自然と腕時計にもクルマと同じような魅力を感じるようになっていった。日々プロダクトデザイナーという本業をこなす傍ら、黙々と機械加工の本を読み始める。そして世界の独立時計師の素晴らしい作品を見つけては、その部品、機構、工具、手法などを独自に調べ真似し始め、いくつかの腕時計を完成させる。2012年にはその販売を始めるまでになり、今に至る。


大塚にある片山のアトリエ

[関連サイト]
国立科学博物館 理工学研究部:
https://www.kahaku.go.jp/research/department/sci_engineer/index.html




【お問い合わせ】
大塚ローテック
https://otsuka-lotec.com/
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