カール F. ブヘラ 「ヘリテージ バイコンパックス アニュアル ジャパン」インプレッション・レポート~矜持ある時計製作

 By : KITAMURA(a-ls)

最近よく、1950~70年代のアイテムを復刻やオマージュしたモデルを目にする。
思うにこの数年の間に大いに増えた時計ファンの、中でも20代・30代の若い愛好家にとって、その時代の古いデザインはかえって新鮮に映っているようで、各ブランドからも概ね好評と聞いている。

ただ、自分のような"ひと回りくらいしちゃった古い世代の"人間からすると、現代の技術で復刻したりオマージュしたモデルは確かに素晴らしいのだが、頭のどこかで、"この価格だったらヴィンテージマーケットでオリジナルを探された方がイイんじゃね?"とか、老害極まりない歪んだ囁きが聞こえたりもする…。
しかしまぁ、円安やら物価高や人件費の高騰やらで仕方ないのかもしれないけれど、買う身からするとね、最近の時計はホント高い、おいそれと買えないくらい高い、切に何とかして欲しいくらい高いのだ。。。

で、そんな中、前世紀のオマージュ・モデルでありながら実に良心的プライスなモデルがある。今日はそんな有難いモデルのご紹介および試用レポートを紹介したい。

それが、今月の18日に発表されたカール F. ブヘラからの
「ヘリテージ バイコンパックス アニュアル ジャパン」だ。



最近ではあまり使わなくなっている用語のようだけれど、"バイコンパックス"というのは戦後に流行したスタイルで、インダイヤルが2つ水平に並んだレイアウトを指す。
たいていの場合、クロノグラフ積算計とスモールセコンドが並ぶパターンなので、バイコンパックスといえばクロノグラフという認識でOKなのだが、このカール F. ブヘラの「ヘリテージ バイコンパックス アニュアル ジャパン」は、そのクロノグラフに、年次カレンダーをつけて、さらに日付表示はビッグデイトという、3つのコンプリケーションを搭載している。



ケースはステンレススティールだがブレスレット仕様で、しかもD-バックル付のレザー換えベルトを標準付属。そのうえジャパンリミテッド88本限定という希少性を加味して、さぁお幾らでしょう ......なんて話を引っ張りつつ、最近稀なほどの経済性に優れたこのモデルの分析を進めていくのだが、もしもこの段階で、答え(=お値段)がもう待ちきれないという方は、"お幾らでしょう"のリンクをお先に踏んじゃってください(笑)。


やや長い概要
カール F. ブヘラの「ヘリテージ バイコンパックス アニュアル ジャパン」は、日本とスイスの国交締結(日瑞修好通商条約)160周年を記念する作品である。



今から160年前の1864年2月6日、エメ・アンベール=ドロー率いるスイス政府代表団と幕府の外国奉行だった竹本甲斐守が修好通商条約に署名し、スイスと日本は正式に国交を結んだのだけれど、日米修好通商条約から遅れること6年だし、150年でも175年でもない160周年だし、"なんでまた160年?"と思われる方も居るだろう。
それは、スイスと日本の関係のはじまりにとって"時計"が欠かせない存在であり、時計のおかげで国交が始まったと言ってもよいくらい、切っても切れない関係にあるからなのだ。
こういう"プチ時計うんちく"を避けて通れない時計馬鹿な性分のため、少しばかり長くなるのを我慢していただいて、まずはこのあたりの話から始めたい。

この条約締結のためはるばるスイスからやって来たスイス政府代表団だが、その代表者で、特命全権大使の肩書を持っていたのがエメ・アンベールという御方だった。そのアンベール氏の本業はというと、なんと彼は「スイス時計製造業者連盟会長」で、スイス政府の代表でありつつも、とどのつまりは日本と通商を結ぶイコール、スイスの時計を日本に売り込むという大目的のため、6000マイル離れた日本に海を越えてやって来た"代表団"だったのである。もっというと、この4年前の1860年には、ジラール・ペルゴの創業者、コンスタン・ジラールの義理の弟(妻マリーの弟)であるフランソワ・ベルゴが、いち早く横浜に上陸、時計販売のための事務所を開設していたり、ともかく、日本とスイスとの関係の端緒は"時計"を通じて始まっていると言っても過言ではないので、こういうキリの良い年をスイスと日本の時計業界はいろいろお祝するのが慣習になっているのだ。

ちなみに、今年の2月6日(160年前とぴったり同じ日)には、スイス大使館で、"スイス・日本国交樹立160周年記念、アンドレアス・バオム駐日スイス大使主催祝賀会「160 years?Precisely!」"と題された祝賀会が開催されたのだが、「160 years?Precisely!」という表現からもわかるように、これも"時計用語"っぽくシャレているのでる。
全然本題に入らなくて申し訳ないけれど、あと少しだけ、この祝賀会当日のスイス大使(かなりの時計通で私自身も大使の袖口にアンデルセンやオーデマ ピゲがご着用されている姿を何度か拝見している)、アンドレアス・バオム大使のご挨拶の冒頭部分を引用させていただきたい。


アンドレアス・バオム大使。着用時計のセレクトがこれまた渋い(ヒント=我が陣営)!


「スイス・日本国交樹立160周年記念祝賀会に皆さまをお迎えできますことは、この上ない喜びです。ちょうど160年前の1864年2月6日、正確には午前10時に、時計製造業者のエメ・アンベール=ドロー率いるスイス政府代表団と幕府の外国奉行だった竹本甲斐守が修好通商条約に署名しました。この条約締結に至る基礎を築いたのが、その4年前に横浜に事務所を開設した時計輸入業者フランソワ・ペルゴです。このように、正確さ、最新技術、起業家精神が両国関係の基盤となり、今日でも、スイス・日本両国は高品質で信頼性の高いサービスで広く知られています。そこで、この祝賀会を時計製造技術に捧げる夕べとすることにしました。ジラール・ペルゴが日本で販売したオリジナルの時計2点を展示することができて嬉しく思います。庭に設置している時計をテーマとしたイルミネーションもモダンな装いにしました。この条約締結後まもなく、スイスと日本の関係は単純な交易を超えたものへと発展していきました。アンベール=ドローが日本滞在中に集めた絵図は後に「日本図絵」という書籍にまとめられ、ヨーロッパ全土で日本の芸術や文化への関心を巻き起こすことになりました。」(傍線筆者)


デザイン/装着感
先に書いたように半世紀前のアーカイヴに基づいたデザインなのだが、ステンレススチールの素材感やダイヤルの質感がとてもコンテンポラリーなため、"ザ・復刻"という感じはない。むしろ、顔つきやインデックスの字体が醸すヴィンテージ感に対して、ブレスレットのスポーティさやファインブルーで彩られたダイヤル・デザインの現代性が程よくマッチしている印象が強い。



個人的には、この文字盤のように部分的に色が配されているダイヤルの時計は手持ちには珍しいので、バリエーション的に全然ありだ。また、数年前に「ホームタウン エディション」という16都市に異なるカラーを配した限定シリーズを出しているのに、その際に人気色であるハズのこの清々しいブルー(ブランドはロイヤルブルーと命名)を使わずに、あえて「日瑞160周年」用として残しておいたという配慮、それはちょっと心に沁みる。

逆に言うと、この色がピンとこない方には、同じ「バイコンパックス」コレクションのヴァリエーションから別の選択肢(色)を選ぶことも可能だし、そのうえブレスレットも要らないとなればさらに(モデルよっては40万近く)お求めやすいセレクションだってある。
だがしかし、ここではブレスレット標準の「ジャパンエディション」を強くお勧めしたい。装着した印象としては、非常に"しなやか"かつ"スムーズ"で、どうだろう、この価格帯よりも2~3ランク上のモデルのクォリティと言ってもよいかもしれない。



複数ブランドのブレス・モデルを使っていると、クラスプは右が先か左が先かブランドによってちょっとごっちゃになってくるが、これは観音開きで、留め具がフラットに締まるところも良い。

サービスとしてブラックのレザー・ストラップ(側面はブルーでライトグレーのステッチ入り)が付属している。当然だが、ブレスだとスポーティ感が強調されコンテンポラリー・ウォッチ寄りとなり、ストラップだとヴィンテージのDNAが映えてくる。なので、ストラップのカラーを変えれば、風合いを様々に拡張できるポテンシャルを持つ時計だと思う。たとえば、褪せ気味のブラウンのストラップなどと合わせれば、さらに前世紀的な表情を見せてくれたりするに違いない。



また、クイックリリースシステムを採用しているので、ブレス/ストラップは実に手軽に付け替え可能だ。ラグの関係からか、同じブランドの「マネロ」よりもラクに付け替えられた。ただ、レザーがやや硬めで、同じく付属しているD-バックルに馴染ませるまでにかなり時間を要するように感じた。正直言うと、ストラップはピンバックルでいいから、もうちょいでも安くなってくれた方が嬉しいし、レザーではなくラバ―ストラップにしてくれたらもっと嬉しい。



躯体のバランスも悪くないと思う。もうちょい薄いほうが良いという意見もあるかもしれないが、ヴィンテージ感を添えるダブルドーム型サファイアクリスタルとの対比を考えると、この14.15mmくらいの厚みあってこその、この存在感なのではとも思う。



使用してみると、取り回しも楽だし、ブレス時の重量感も重すぎず軽すぎず、ちょうどよい具合。もちろん視認性については優等生クラスだ。




機能/精度
そして話題は最初に戻って搭載機能の話だ。
クロノグラフ、年次カレンダー、ビッグデイトを搭載し、ブレスレット標準仕様で換えベルトも付属するモデルの価格帯を、まず予想していただいたうえで、この「ヘリテージ バイコンパックス アニュアル ジャパン」の価格を見て欲しい。 価格は税込み1,485,000円。

現在の時計業界のコスト環境の中で、正直、この仕様のモデルをこの価格を出すのはとても難しいと思うし、そのための様々な企業努力を織り込んでの価格である。搭載ムーブメント CFB 1972は ETA 2894-2ベースで、アニュアルカレンダーも他社モジュールで載せている。だがその分、ムーブの安定(壊れにくさ・精度・直しやすさ)と共に経済効率が得られ、気軽に普段使いできるコンプリケーション・ウォッチという方向性がブレることなく貫ぬかれた作品となっている。
たとえば、カレンダーの月だけを送ることはできない。月の送りのための輪列を加えたらこの価格は絶対に出来ないからだ。ちょっと手間でも日付を送り続ければ望む結果は得られるのだから、月送りはバッサリ割愛。胸を張って、やらないと諦めた上でのこの価格なのである。
しかしその一方では、C.Fブヘラは歴史の長いブランドで、もともとは高級機械式時計のディーラーとしてスタートした経緯もあるので、高級品のなんたるかを熟知しているに違いなく、作り込み、仕上げなど、ひとつ間違えば作品が安っぽくも見えてしまう部分の、絶対に間違えてはいけない(ケチってはいけない)ツボみたいな点は、この価格帯の中でもキッチリと押さえようという気構えが滲んでいる。
どこもかしこも値上げ値上げという風潮の中でのこの姿勢、わたしは好きだ。


「ヘリテージ バイコンパックス アニュアル ジャパン」に関するブランドからのプレスリリース、
ならびに詳細なスペックに関しては、下記参照。

(参照: https://watch-media-online.com/news/8226/ )





ブヘラの限定って、たいがい88本とか888本なんだよなぁ。
昔その理由を聞いた覚えがある。うろ覚えだけど確か…
1888年から時計製造を始めたからとか、なんとか。
にしても、今回ばかりは限定160本で良かったっしょ。
今度もう一回きいておこう。



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