パネライのマニュファクチュール責任者 ジェローム・カヴァディーニ氏インタビュー~「ルミノール パーペチュアル カレンダー GMT プラチナテック」など2025年新作を解析

 By : CC Fan



マニュファクチュール チーフ オペレーティング オフィサー(マニュファクチュール責任者)、ジェローム・カヴァディーニ氏に聞く、パネライ2025年新作



アイコニックな意匠に加え、様々なコンプリケーション・テクノロジー、そして新素材の開発にも積極的だったパネライのWatches & Wonders 2025新作。なかでも「ルミノール パーペチュアル カレンダー GMT プラチナテック™」は注目の作品といえます。特徴的な歯車ベースのパーペチュアルカレンダー機構やプラチナテック素材について、マニュファクチュール責任者のジェローム・カヴァディーニ氏にインタビューする機会をいただきました。※インタヴュー中、機構や専門的な内容を解かりやすくするため、註釈もしくはコメントを[註]という形で発言後に付記しています。
インタヴューはまず、2025年度のパネライ新作全体のテーマや方向性からスタートしました。


――最初に、今年度の新作のテーマについて教えて下さい。
『今年のパネライのテーマは、”機能的なデザイン、技術革新、そして永続的な伝統への取り組みを強化しながら、現代の時計製造の限界を突破する”ことです。今年の新作は、当社の最も象徴的なコレクションであるルミノール マリーナの進化を強調し、パネライを一目で認識できる本質を維持しながら、パフォーマンスと快適性を高める現代的な改良を取り入れています。
この進化における重要なマイルストーンは、ルミノール マリーナ コレクションで初めて、防水機能が500 メートル (50気圧) に向上したことです。この重要なアップグレードにより、過酷な条件に耐える堅牢な精密機器を製造するというパネライの伝統が強化され、耐久性と信頼性が増します。』

『もう一つの特徴は、パネライ独自のチタンに関する専門知識です。チタンは、ブランドの最先端の時計に長年使用されている素材です。新しいルミノール マリーナ チタニオ PAM003325 は、グレード 5 チタン ケースを採用し、スチール同等の強度を保持しながら44%軽量化して、優れた装着性と耐久性を実現しています。オリーブ グリーンのサンブラッシュ ダイヤルと組み合わせたこのモデルは、パネライの歴史的なミリタリールーツを反映しながら、最先端の素材を取り入れて現代的な多用途性を実現しています。』


『また、ルミノール パーペチュアル カレンダー GMT プラチナテック™ では、素材と機構のさらなる革新を披露し、高度な複雑機構を日常的に着用できる直感的で機能的な設計です。これらの斬新な技術がパネライの未来をかたちづくり、ブランドの DNAに忠実でありながら時代に合うようにしています。』

――ジェロームさんが勤めている「マニュファクチュール チーフ オペレーティング オフィサー」とは、どのような職務ですか。
『私の役割は、開発から工業化、生産、組み立て、そして最終的には顧客サービスに至るまで、無駄のない構造化された業務フローを監督することです。しかしその中にあっても、人材が依然として重要な成功要因であることを強調したいと思います。適切な人材を適切なポジションに雇用し、育成することは、生産のすべての段階で効率性と卓越性を維持するために不可欠です。』


ジェローム・カヴァディーニ(Jérôme Cavadini)氏
ローザンヌ連邦工科大学(EPFL) で物流システム管理の修士号取得後、ヌーシャテル大学で学士課程を修了し政治学を専門とする経済学の学位を取得。1995年から 2003年までカルティエでさまざまな役職やヴィルレの製造ディレクターを務めた後、ジラール・ペルゴでマニュファクチュアリング・ディレクターを務め、2010年にパネライに入社。
2010年9月から2018年6月まで、パネライのマニュファクチュアリング・ディレクターを務め。マニュファクチュール・プロジェクトを管理しながら、高級時計のムーブメントとケース開発および製造に貢献。
2018年からは現職であるマニュファクチュール チーフ オペレーティング オフィサーに就任し、5年以上にわたってオペレーションを監督。ブランドの製造プロセスと業務効率の合理化と強化において、極めて重要な役割を担っている。また、2020年以降はスイス時計産業連盟の顧問も務め、2021年から2023 年にかけては、リシュモンの代表としてアリアネの戦略委員会メンバーも務め現在に至る。


Watches & Wonders2025 注目の新作、「ルミノール パーペチュアル カレンダー GMT プラチナテック™」を解析!

――特徴的なシースルーの文字盤について、あえて日付と曜日のディスクを少し見えるようにしたデザインの狙いは何でしょうか。
『ルミノール パーペチュアルカレンダー GMT プラチナテック™ のシースルー サファイア ダイヤルは、着用者と内部の複雑な機構とのより深いつながりをもたらすように設計されています。日付と曜日ディスクを微妙に見せることで、このデザインは技術革新と機能の明瞭さをダイナミックなビジュアルで表現し、複雑機構を魅力的かつ直感的にするパネライのアプローチを強化します。この半透明の美しさは、ルミノール コレクションを特徴付けるクリーンな視認性の高さを維持しながら、パーペチュアル カレンダーの複雑な動きを際立たせます。』



――GMT針がかなり控えめな理由はあるのでしょうか。
『針と文字盤のコントラストを強調するのではなく、主要な表示が際立つようにしつつ、GMT機能をダイヤルのレイアウトにさりげなく統合しました。ブルーオンブルーの仕上げは、パネライの海事のアイデンティティと伝統への敬意を表しています。』

――プラチナテックについて、具体的に教えてください。
『プラチナテック™は、パネライが開発した独自の高性能プラチナ合金で、標準的なプラチナより40%硬くなるように設計されており、耐傷性と耐久性が大幅に向上しています。これは真空アーク再溶解 (VAR) プロセスによって実現され、合金の構造的完全性と純度を高めながら、プラチナ独特の重量感と光沢を維持します。95%の純プラチナで構成されたこのフォーミュラは、より長い耐用年数を可能にし、ルミノール パーペチュアル カレンダー GMT プラチナテック™ のような日常的に着用できる高度な複雑時計に最適です。』

――パーペチュアルカレンダーの月末送りが両方向で可能ということは、月末の送りはレバーではなく、歯車の噛み合わせのみで行われいるということでしょうか。
『はい、パネライのパーペチュアルカレンダー機構は、レバーを使用せずに、完全にホイールベースのシステムで動作します。カムによって制御される常時回転するホイールが特徴で、毎日の終わりに短時間作動して日付ディスクを進めます。月の長さに応じて、システムは日付を 1日、2日、3日、または 4日進めます。』

【註1】:古典的な「レバー」式永久カレンダーは月末処理の早送りのためのレバーとカムは通常の進み方向しか考慮しない仕組みのため時間を逆戻ししても安全装置で空回りするだけで日付を戻すことができません。

歯車の噛み合わせと制御カムで早送りする「歯車」式は適切に設計すれば進み方向に加え、戻り方向でも噛みあうような構造にすることができ、時間に合わせて進み戻しできるようにでき、両方向で月末処理が矛盾なく動作します。

ーーGMT機能に統合されたカレンダーによって、月を跨いだ長期の海外出張でも、便利に使えるのですね。
『その通りです。数か月にわたる出張を含む、長期の海外旅行に最適なパートナーとして設計されています。パーペチュアルカレンダー機構により、曜日、日付、月、閏年サイクルが自動的に正しく調整されるため、異なる月や年をまたいで旅行する場合でも手動で修正する必要がありません。さらに、GMT機能により、着用者は第2タイムゾーンを簡単に追跡できるため、複数の地域にまたがるスケジュールを管理する人にとって特に便利です。
また、日付は、前後に自由に調整できますが、1日進めると、日付ディスクと曜日ディスクの両方が一緒に移動します。従来の永久カレンダーウォッチと同様に、使用していないときはウォッチ ワインダーに保管して動かし続けることをお勧めします。そうしないと、長期間着用しない場合は、着用者が手動で時計を正しい日付に進める必要があります。』

[註2]:カレンダーを制御する基準をホームタイムの時分針ではなく、1時間単位でクイックに修正できるローカルタイム針にすることによって移動によるタイムゾーン変更に連動する形で日付も追従し、使い勝手を向上させることができます。
[註3]:このカレンダーは年月日と曜日は全て時分表示からの24時間ごとの「位上がり・下がり」のみで動作し、プッシャーなどの追加要素によるカレンダー単体の調整機構を省いています。これにより設計がシンプルになり、ケースに穴をあけなくていいため堅牢さも向上します。1時間単位のローカルタイム針に連動しているためリュウズで1時間単位で送って針を2回転させるだけで1日分を進めることができ、通常の分針を24回転させるのに比べて調整のやりやすさにも配慮しています。

――永久カレンダーと言っても、月、閏年、西暦などは常時確認する必要はないので、それらの情報はケースバック側に配置されているのですか。
『ルミノール パーペチュアル カレンダー GMT プラチナテック™ では、月、閏年、カレンダーの表示をケース裏に配置することで、表の文字盤レイアウトのすっきりとした非常に読みやすい形を維持しつつ、重要なカレンダー情報へのアクセスも提供しています。パネライの高度な複雑機構へのアプローチは、明瞭性と使いやすさを優先し、主要な計時機能 (時間、分、秒、日付、GMT) が時計の前面ですっきりと瞬時に読み取れるようにしているのです。』




――西暦カウンターについて、部品交換無しで表示できる範囲を教えてください。
『P.4100 キャリバーは、部品を変更することなく 2399年までの日付を計算できるように設計されています。ただ世紀の変わり目(次は2099年)には、時計職人がムーブメント ブリッジを分解し、百の位のディスクを90度回転させて、時計が正しい年を追跡し続けるようにする必要がありますけれどもね(笑)』

[註4]:これは西暦表示の十の位から百の位への機械的な桁上がり機構は無く、千と百の位の変更には分解が必要…と言う事のようですが、設計のバランスとしては良い構造だと思います。

――ムーブメントにおいて、パーペチュアルカレンダー機構が占める割合はだいたいどれぐらいでしょうか。
『正確な割合を計測したわけではありませんが、パーペチュアルカレンダーは専用のムーブメントに統合された機能であるため、ムーブメント全体のスペースの約25〜35%を占めると推定されます。』

――大の月・小の月・2月の月末で、日付が変わるタイミングはズレますか。
『はい、日付の移行期間はスキップする日数によって異なります。おおよその内訳は次のとおりです。
31 日から 1 日まで → 約 20 分。
30 日から 1 日まで → 約 60 分・
29 日から 1 日まで → 約 90 分・
28 日から 1 日まで → 約 130 分。
スキップする日数が多いほど、移行にかかる時間は長くなります。』





――特許を取得している部分があれば、教えてください。
『パネライは、P.4100 パーペチュアル カレンダー ムーブメントに関連して、2つの重要な特許を保有しています。まずひとつは、クイック設定付きGMTスプリングです。このシステムは、トラベラーGMT 機能の動きを最適化し、分針に影響を与えることなく、ローカル時針を1時間単位で独立して調整できるようにします。日付はローカル時間に合わせて自動的に調整されますが、24時間GMT 針はホーム時間と同期されたままです。正確な 1 時間ごとのジャンプを保証するために使用されるメカニズムの特定の形状は特許取得済みであり、使いやすさと長期的な耐久性の両方が向上しています。
もうひとつは、日付衝撃保護ですね。パネライは堅牢なツール ウォッチとしての定評があるため、パーペチュアル カレンダーのような高度な複雑機構であっても、ブランドの厳格な耐久性基準を満たす必要があります。従来の設計では、偶発的な衝撃により日付表示の位置がずれることがあります。これを防ぐために、パネライは日付ディスクを所定の位置に固定し、衝撃や振動による意図しない進みを防ぐ特許取得済みの安全機構を開発しました。
これらの機能によって、機械的な信頼性とユーザーフレンドリーな機能性の両方を保証しています。』

                ◆
開発から工業化、生産、組み立て、そして最終的には顧客サービスに至るまで、無駄のない構造化された業務フローをディレクションする業務についているジェローム・カヴァディーニ氏へのインタヴューということで、「ムーブメントにおいて、パーペチュアルカレンダー機構が占める割合」など、通常とは少し違った面からの質問も含めて、今年度のパネライ新作中の注目モデル「ルミノール パーペチュアル カレンダー GMT プラチナテック™」を中心にお話を伺いました。
表示する情報量が多いため文字盤上が騒がしくなりがちな永久カレンダーにおいて、伝統的なフェイスを最大限に考慮した「パネライらしい」シンプルさを実現したこの作品は、ハイ コンプリケーション・モデルでありつつ、GMT機構に融合した歯車式の両方向合わせという、使いやすさにも配慮した永久カレンダー機構を採用していることから、複雑さのための複雑さではなく「使うため」の機構であることが、よく理解できました。

ブランドのパワーをバックグラウンドにコンプリケーションに果敢に取り組むパネライ、これからもユニークなコンプリケーションで驚かせてほしいと思います。

[註5]:「ルミノール パーペチュアル カレンダー GMT プラチナテック™」のプレスリリースならびにスペック等はこちらを参照してください:https://watch-media-online.com/news/9688/  


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