メティエ・ダール・コペルニク・スフェール・セレスト 2460 RT ~ヴァシュロン・コンスタンタンからの至宝

 By : KITAMURA(a-ls)

今年のSIHHにおいて、工芸時計のナンバー1を選ぶとするならば、おそらく多くの人がこのメティエ・ダール・コペルニク・スフェール・セレスト 2460 RTの三連作を挙げるに違いない。



その大きな理由として、この3本は、工芸時計が満たすべき3つの理想的な条件を、圧倒的な完成度でクリアしているからだ。すなわち・・・、

①表現すべき主題(テーマ)を持っていること。
②伝統に裏打ちされた高い工芸技術が注がれていること。
そして、
③ユーザーの想像力を掻き立てるような機構的発明が組み込まれていること。


まずは①の「テーマ性」に関してであるが、見てわかるように3本共センターに太陽のモチーフを持ち、その周囲を地球のモチーフが周回する形をとっている。これすなわち、地動説の象徴なのである!



つまり、偉大なるニコラス・コペルニクスによる天文学の重要な発見が、そのテーマとなっている。


ここでちょっと寄り道(笑)・・・・。

数学者で哲学者のニコラス・コペルニクスは、1543年に、ヨーロッパの宗教的世界観にも大きな変革をもたらす先駆けとなった著書『天体の回転について』を 出版し、古代からアリストテレスやプトレマイオスらが提唱し、当時の一般科学常識ともなっていた地球中心説(=天動説。地球は不動で宇宙の中心にあるという考え)に反する考えを示した。
その著書の中でコペルニクスは、地球が地軸に沿って回転するだけでなく、月という衛星を持ち、太陽の引力で周回していることを論証し、太陽中心説(地動説)を唱えたのであった。

後のガリレオのように異端審問によって迫害されたりするようなことはなかったが、彼の死後数十年を経て、太陽中心説がケプラーらの観測によって科学的にも完成すると、それまで信じられていた宇宙観が、まさに天地がひっくり返るような概念によって覆されたこととなり、それは人間の認識についての哲学思想にも大きな衝撃を与えることとなった。

哲学者カントは、このように物事の見方が180度変わってしまうようなことを、"コペルニクス的転回”と呼ぶなど、このコペルニクスの発見は、科学史上や天文学史上のみならず、人類史上で最も重要な発見のひとつとされているのだ。

ヴァシュロン・コンスタンタンは、この2017年の新作で、世界の実相を決定的に変えたこの象徴的な発見を讃えたというわけなのである。まさにこれほど壮大なテーマ性はない!!

次に、条件②に挙げた高い工芸性についてだが、その点の素晴らしさは実機の画像を見ればもはや一目瞭然である。
しかも、さらにすごいことは、この三連作の文字盤が、コペルニクスという同一のテーマを持ちながらも、3本が3本ともまったく異なるメティエ・ダール表現で描かれていることだ。


まずこの文字盤の意匠デザインだが、これはドイツに生まれ17世紀のオランダで活躍した地図製作者、アンドレアス・セラリウスが、天空をバロック様式で色彩豊かに描いた星図書『大宇宙の調和』から着想している。
3本に共通するのは、中央にある手彫りされたピンクゴールドに燃える太陽のモチーフと、それを楕円上に取り囲む微細な溝で、これはもちろん地球の太陽周回軌道を表してる。

そして、その溝の外側のディスク部分、ここに3種類それぞれ異なった超絶的メティエ・ダール装飾が施されているわけである。



その他の特筆点として挙げるべきは、3本中2本で採用されている、緩やかに盛り上がった6.8mmの小さなゴールドのディスクに彫られた地球だろう。ランベルト正積方位図法に基づき北極から見た海と大陸とが、海の波しぶきまで精緻に描かれている!



では、1本ずつそのメティエダールを見ていこう。


グラン・フー・エナメルのアート
まずはエナメル・アートのピースから。


この文字盤は、各種のエナメル技法に焦点が当てられている。
まず見て欲しいのは、グラン・フー(高温焼成)によるシャンルべ・エナメルで仕上げられた地球。青い海や大陸が地図通りに再現され、しかもこのような小さなスケールで表現できるのは、まさしく技術の快挙といえる。背景を成す天空図は、ゴールドの上にパステルカラーのエナメルで描かれ、さらにまた天空は5つの惑星の軌跡をなぞらえた細いラインで区切られ、星として表現された各天体にはラテン語の名称が(手書きで!)付されている。



文字盤の周縁に配された黄道12星座は多色エナメルで描かれ、それらのモチーフはステンシルで形作られ、羽ペンで仕上げてから細いブラシで描かれている。



忍耐強い入念な作業のみならず、失敗のリスクさえともなう職人技によって作り出されるこの文字盤は、エナメルを摂氏850度の窯で何度も焼いては砥石で滑らかにし、研磨盤にかけ磨き上げて、全行程が完成するまでに 1か月以上を要するという。





彫金のアート
次は手彫りによるエングレービングが施されたピース。



ここでは、黄道12星座のモチーフがホワイトゴールドのディスクの上で絡み合い、重なり合い、彫金職人はラモライェ(パウンス装飾)でディテールまで豊かに描きあげている。


実は、今から一年ほど前、わたしはヴァシュロン・コンスタンタンのメティエダール工房を見学する機会があったのだが、その時彫金のマイスターが彫っていたのが、まさにこの文字盤で、「これは、たぶん来年の新作になるだろうね」と気安く言いながら、実際に彫っている現場とそのクォリティーの高さを顕微鏡のような拡大鏡でみせてもらい、ホントに驚愕した思い出がある。



傾斜や深みを微妙に交えて素材に対するボリューム感を形成し、そのモチーフを際立たせる手法。
たとえば射手座のケンタウルスの隆々とした筋骨や、山羊座のヤギの流れるような毛並みなどは、ルーペで見ると驚くほどリアルなことがわかる。さらに地球のモチーフがもの凄いことは、前述したとおり。


レーザー・エングレービングと手彫りの彫金
そして最後の超絶技巧は、レーザー・エングレービングという革新的な技法を含むいくつかの新しい装飾技法を駆使したピースである。

地球と太陽に組み合わされた黄道12星座のモチーフは、3D効果を演出した星が点在する空を囲み、透明のサファイアクリスタルの下には手塗りでミッドナイトブルーに彩色された文字盤が重ね合わされている。このサファイアクリスタルは、裏面から彫りが施され、文字盤全体に浮かぶ、まさに宇宙的・神話的ともいえる独特の存在感を漂わせてくれる。

ヴァシュロン・コンスタンタンは、これらのモチーフを描くためにレーザー・エングレービングという技法を用いた。
まず、彫金職人が手作業で加工に取り組み、モチーフをより立体的に際立たせ、サファイアクリスタルにオパール調の効果をもたらした後に、レーザー・エングレービングでそれらをさらに彫り、スーパー・ルミノヴァRを施した星座とともに文字盤に配したのである。




広大無辺の夜空に通じるこの天空図の魅力的な眺めは、明暗相半ばする形でその全貌を鮮やかに浮かび上がらせる。またこの効果によって、手彫りで作られた地球の、繊細に波立つ海と目映い輝きを放つ大陸とのコントラストが、より際立って見える。

細部まで行き渡る熟達の技
さらには、時計のケースバックから眺められるムーブメントのゴールド製ローターにも、楕円軌道に囲まれて光線を放つ太陽という、同じテーマに即した彫金が施されている。


 


そして、工芸ピースの用件の③番目である、「ユーザーの想像力を掻き立てるような機構的発明が組み込まれていること」に関しては、3年の歳月をかけて完全に自社で開発、設計、製造されたこの新ムーブメント"2460 RT”そのものが該当する。


太陽系を再現した天空の魅力的な眺めを巧妙に演出するため、時刻は文字盤の外周に置かれた4Nゴールド製の 2本の三角形ポインターで表示されている。



カットアウトされたほうは時間、カットアウトされていないほうは分を指し、これらがムーブメントの外縁部に位置する専用の大型歯車によって動き、この二つのポインターは文字盤の縁を移動するよう設計されている。

地球が太陽を回る楕円軌道は、この時計の際立った特徴の一つになっているが、それは、存在感を力強く放っているだけでなく、日々の経過に合わせて連続的な情報を提供する役割も演じている。

つまりこの時計のコンプリケーション機能のひとつは、平均太陽時に合わせて24時間周期で自転する地球の姿をとらえた複雑機能でもあるのだ。

そして二つめの複雑機能が“回帰”輪列だ。回帰輪列とは、地球が太陽の周りの楕円軌道を一周するのにかかる"回帰年"をシミュレートしたもので、われわれの常識では365日か366日ですませていいるものなのだが、宇宙的な正確さから言うとそれは、365.2421898日 となり、この時計はその地球の実際の動きをほぼ正確に文字盤上に再現している。その精度たるや、8000年で 1日分の誤差修正が生じる精度(!)、つまりは永遠に修正は不要だということを意味している。


ヴァシュロン・コンスタンタンが 260年以上に渡って培ってきた熟達の時計製造技術をベースに、さらに大胆な創作を加えた機械式時計。名門ならではの重厚な存在感はさすがである!
もちろん、ジュネーブ・シールも取得している。



では最後に動画をどうぞ!!






スペック&技術データ
メティエ・ダール・コペルニク・スフェール・セレスト 2460 RT

リファレンス・ナンバー
7600U/000G-B212 (グラン・フー・エナメル)
7600U/000G-B211 (ハンドエングレービング)
7600U/000G-B226 (サファイア)
※すべて取り扱いはヴァシュロン・コンスタンタンのブティックのみ

ジュネーブ・シール取得
キャリバー・ナンバー Cal.2460 RT
ヴァシュロン・コンスタンタン自社開発・製造
駆動方式機械式自動巻き
ムーブメント・サイズ 直径 37.0mm ×厚さ 6.7mm
パワーリザーブ約 36時間
振動数 4Hz(毎時 2万 8800回振動)
部品数 352
石数 27
表示時、分(文字盤外縁の針による)
太陽を公転する地球の軌跡と地球の自転
ケース 18Kホワイトゴールド
サファイアクリスタルのシースルーケースバック
ケース・サイズ直径 43.0mm ×厚さ 12.9mm
防水機能 非防水
文字盤 18K(5N)ピンクゴールドに太陽のモチーフをスタンピング

B212: 22Kゴールド、グラン・フー・エナメル、シャンルべ・グラン・フー・エナメルによる地球
B211: 18Kゴールド、ハンドエングレービングによる文字盤と地球
B226: 18Kゴールド、手塗りによる文字盤(空);レーザー・エングレービングと手彫りによるサファイアクリスタル(黄道 12星座);レーザー・エングレービングとスーパー・ルミノヴァR(星座);手彫りによる地球


ストラップブラックのミシシッピ・アリゲーターレザー、
アリゲーターレザーによるライナー、手縫いサドルステッチ
ラージ・スクエア・スケール
クラスプ 18Kホワイトゴールド製クラスプ
ポリッシュ仕上げの半マルタ十字
付属ボックス高級仕上げウッド製ボックス
アクセサリー ルーペ




ヴァシュロン・コンスタンタン オフィシャル
http://www.vacheron-constantin.com/jp/