パテック・フィリップのバーゼル工芸新作より~Rare Handcrafts timepieces collection

 By : KITAMURA(a-ls)

毎年のバーゼルワールドで発表されてはいるものの、多くが一点モノや限定モノのためカタログには載らず、一説によれば、世界中のディーラーの入札を集計して抽選、つまりとてつもない倍率から選ばれた幸運な正規店へデリバリーされるという、手作業による工芸レアピース。

パテック・フィリップ・ブースの内部に展示されるそれらは、ブース壁面を飾る新作群とはまた違った華やかさと彩りとを持って、訪れるゲストを迎えてくれる。

ここまでの文章、実はほぼ去年のブログの引用であるのだが(笑)、ま、それほど、パテック・フィリップの"鉄板名物”。
すでにオフィシャルHPに動画があがっているので、ご覧になった方も多いとは思うが、各作品のバックグラウンドなどもわかりやすいので、まずはそちらから。



昨年はレディースを意識したジェム・セッティングや工芸・細工が目立っていたが、今年の特徴は、世界各地の工芸手法や有名画家の作品コラージュなど、パテック・フィリップの工芸セクションが積み重ねてきた技術力の高さを、さりげなく誇示する作品が多い印象を受けた。

それでは作品ごとに見ていこう。
まずは動画に登場しないコンプリケーション。ブース壁面に飾られていた「Eagles in Flight」から。
実はこれ、絵柄の異なる3本のセットものなのだ!

5538G‐001、5538G‐010、5538G‐011。特別なのはクロワゾネ・エナメルの文字盤だけでなく、機械としてミニッツ・リピーターとトゥールビヨンを搭載していること!


鷲の羽の先端のクロワゾネなど、なんと繊細なことか。20~25色の釉薬を用いた15~18回の焼成を行い、ミニュアチュールに近いニュアンスを醸し出している!
ムーヴはR TO 27、1本でも畏れ多い時計が3本セットだと・・・価格はいったい何桁なのかなど下世話な疑問が湧くところだが、次に行こう(笑)。


続いても"鳴り物”!
昨年に引き続くポルトガルのタイル製法であるアズレージョ技術を文字盤に応用した作品。


5539G‐014。これが5539の枝番製品というのが驚きだ!!  ※制作過程の画像は©Patek Philippe

グランフー・エナメルのミニュアチュールを文字盤とする最初のミニッツ・リピーター腕時計と謳われている。
ついでと言っては何だが、昨年にパテック・フィリップが公開した、"アズレージョ風文字盤”の製作工程の動画も貼っておく。



次はレディースの"鳴り物"。  
※下の2本が映っている画像は4月19~28までジュネーブ・サロンで開催されたRare Handcrafts / Exhibition - Geneva時での画像。©Patek Philippe



7000/50R-001(ローズゴールド)と7000/50G-001(ホワイトゴールド)。
グランフー・クロワゾネ・エナメルの文字盤を用いた初の女性用のミニッツ・リピーター。ホワイトゴールドの下地にギョウシェを施したのちにクロワゾネ・エナメルで鳥と枝を描いている。約750度で10回の焼成。ケースサイドにはハンド・エングレーヴィングによる紋様が彫り込まれている。


そして「フローラル・スクロールズ」と名付けられた"アラベスク”紋様のカラトラバ。5077/101R-001。
繊細なヴァーティカルのハンド・ギョウシェの下地に、アプライドのオーナメントを合わせたもの。見落とされがちだが、時分針までもエングレーヴィングされている。

同製法による青い5077/101G-010「バーズ&クラウズ」と、グリーンの5077/101G-001「フォーリーフ・クローヴァー」も同時に発表されている。



技法的な観点から言うと、今年のパテック・フィリップが力を注いだひとつは、Wood Marquetry(寄木細工)ではないだろうか。寄木細工と言えば日本では箱根細工が有名だが、スイスでは時計の故郷でもあるヌーシャテル州が高名で、パテック・フィリップも特別な時計の収納箱などに、このヌーシャテル名物のWood Marquetry技巧を採用してきたのだが、先年それを文字盤にも応用して話題になったのは記憶に新しい。まずはその際の動画を紹介しておく。



まずはバード・シリーズの「ゴールドフィンチ」5089G/071。
この絵が木片の組み合わせとは、言われない限りちょっと思い当たらない。


そして今年はスイス・アルプスにまつわる連作で"寄木細工”をフィーチャーしている。スイスを代表するアルプスを、スイス固有の寄木細工で表現したわけである。5089G-059と5089G-060、この2本はセット販売のみとのこと。

ちなみに、5089G-059では27種の木から採られた、40層のインレイを含む262ピースのチップでできている。
また、これらと同じモチーフで製作された懐中時計もあった。

※これもRare Handcrafts / Exhibition - Genevaでの画像。©Patek Philippe


会場には、絵柄を形作る細かなチップ(木片)も一緒に展示されていた。

ではここで、懐中時計のほうに目を向けておこう。
興味深かったのは、「Whirling Dervishes」と題されたエングレーヴィング作品。

不勉強だったので、このタイトルを調べてみると、
『〔イスラム教〕 旋舞教団(員)。ぐるぐる回ったり激しく踊ったり歌ったりして法悦に至るトルコのスーフィー教団の一つ、もしくはその成員(ランダムハウス英和辞典より)』とのことであった。パテック・フィリップが扱う世界はあまねく広いのである!
このエングレーヴィングとダマスカンには総計500時間が費やされているという。
その他のエングレーヴィング作品に大航海時代のガレオン船を彫り込んだ「ザ・ガレオン」があったが、光の加減でうまく撮れずだったので、記事頭の動画で確認してくだされ。


タイトルは「Leopard」。つまりは“豹、パンサー”の意味だが、ある意味ではチャレンジングな作品(笑)。


これはオーストリアの画家、フリードリッヒ・ゲアーマンの絵画をモチーフにしたものとのこと。しかし不勉強でよく存じ上げない作家さんなのだが、一方こちらは超有名作家の作品。

フェルメールである。グランフー・ミニアチュールで40回もの焼成。
言わずもがなだが、懐中時計ではすべてケースバックに作品が配されている。時間を読む表側はシンプルなホワイト・エナメル文字盤で、だいたいこんな感じ。


では腕時計に戻ろう。
テキスタイル作品で興味深かったのは、こちらの2本。あの"微笑みの国"ブータンからの伝統的なテキスタイル・パターンをクロワゾネ・エナメルで描き上げている。5077P-102、5077P- 103。プラチナケースの2本セット。


こうした工芸手法をはじめ、宗教や文化、そして芸術作品などをモチーフに、世界各国のカルチャーをパテック・フィリップ・ウォッチと"マリアージュ”していくコンセプトを、今年はより鮮明に打ち出している感がある。
文字盤表現の、たとえばインデックスひとつをとっても、おそるべき仕上げの完成度を実感させる最近のパテック・フィリップにあって、これらの工芸ウォッチはその一本一本がさらに溜息を催す出来栄えで、もはやそれ自体がアートの域に至っているともいえる。お、お値段的にもね(笑)。

ブランド自身もこうした方向性を重視しているようで、文中にも書いたが、Rare Handcrafts / Exhibition - Genevaといったイベント展示なども積極的に行っているのも今年の傾向だ。

ブータンテキスタイルと同コンセプトのドームクロック。Rare Handcrafts / Exhibition - Genevaより。©Patek Philippe

興味ある方は、オフィシャルHPのニュースをどうぞ。
https://www.patek.com/en/company/news/rare-handcrafts-exhibition




「イタリアの光景」、カラトラバの3本セット。

タイトルは「Leopard in Sunset」。これもクロワゾネ。金線は0.1㎜×0.4㎜という細密なもの。



花と魚のトロピカル・シリーズ。

植物、魚ともに2本で1セット。

タイトルは「The Chart of Caribbean」。文字までがクロワゾネの金線で描かれている!



さてさて、この調子で技法やコンセプトや来歴の紹介を続けていくと、わたしのGWはパテック漬けになってしまうので、ここから先のドームクロックは写真メインで許されたい。



ドームクロックもそれぞれに素晴らしく、触れるべき点も多々あるのだが、ひとつだけ特筆モノを挙げるとするならば、知る人ぞ知るフランスの窯、ロンウィ焼きのドームクロックが初登場したことだ!


※この展示画像は©Patek Philippe
陶器からはじまったロンウィ焼きも、名高いのはエナメル(クロワゾネ手法)で、青の深い色味とオリエンタル風のデザイン、そして発泡感のあるデコラティヴな装飾が特徴。酸化錫の釉薬を使用すること(ファイアンス)によって得られる独特の質感だが、錫の焼成にはグランフー以上の高温の窯が必要とされるため、難易度の高いエナメルのひとつ。この作品も745度から1020度で5回の焼成がおこなわれたとある。


さて、最後は日本風味のドームクロックでお別れしましょ。

タイトルは「The Golden Pavilion in Kyoto」、すなわち"金閣寺”がモチーフ。文字盤が漢数字というのも珍しいが、惜しむらくは傘が・・・!!

これらの作品は数に限りのある希少作品のうえに、バーゼル後に世界中に納品されていくため、このように一堂に会した光景を見られる機会はほぼ皆無といえる。なので、画像の質などで少し落としてはいるが、できるだけ多くを網羅したつもりだ。
工芸と時計が織りなす精緻な世界、一見まったく異なるようでも、どちらも職人技の極みという点で根源的には非常に近しい世界といえる。そして、機構・素材の開発などと同様に各ブランドがしのぎを削る、時計業界のもうひとつの最前線であるともいえる。
だがしかしパテック・フィリップのすごいところは、ミニット・リピーターにしても、こうした工芸時計にしても、業界の現在のムーブメントとは無関係に、昔からずっと絶やすことなくトライし続けてきた歴史があり、現在もその過程に過ぎないする点である。

これらはすべて先代社長、フィリップ・スターン(現名誉会長)の取り組みと挑戦の成果ともいえる。興味のある方は是非、名誉会長のインタヴュー動画をご覧ください。






【問合せ先】
パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター
〒101-0047 東京都千代田区内神田3-6-2 アーバンネット神田ビル19F
TEL: 03-3255-8109

公式サイト
 https://www.patek.com/jp/