ジャケ・ドロー グラン・ウール GMT

 By : CC Fan
ジャケ・ドロー(Jaquet Droz)のイベントレポートなどで少し触れた、"最初の時計はカンタロス(Kantharos)ではない"ということで、高級時計の道に足を踏み入れたジャケ・ドローのグラン・ウール GMTについて改めて振り返ってみます。

当時は時計に対する情報収集をしてなく、理屈っぽくもなく、ネットで見かけた"OPUSシリーズ"や、某漫画の影響で"ブランパンのグランドコンプリケーション1735"、NHKの番組の影響で"独立時計師"とか断片的なキーワードを覚えているだけでした。
そんな中、何かの用事でニコラス・G・ハイエックセンターに行き、各ブティックを覗いていた時に、めぐり逢い、ほぼ一目惚れで惹かれ、紆余曲折がありながらも購入しました。

貴重だと思うのは、カンタロス(Kantharos)を含め、それ以降にご縁があった時計は収集したある程度の知識を基に判断しているのに対し、グランウールだけはほぼ感性のみで決めたことです。
"指名買い"が多いというお話も分かる気がしますし、私の嗜好はかなりこの時計に由来している気もします。

ではまず外観を。



グラン(大きな)・ウール(時間)という名が体を表している通り、時針のみの究極のミニマルさを持つ時計です。
更に、時間は24時間表示で、"1日を24分割したものが1時間"という、時間の流れそのものを複数の針に分割して薄めることなくダイレクトに表現しています。

ローズゴールドケース、ジャケ・ドローが得意とするグラン・フー(高温焼成)のホワイトエナメルダイヤル、針はローズゴールドとブルースチールで後述するGMT機能を担います。

グラン・ウールは元々2008年にホワイトゴールドケース、ホワイトエナメルダイヤルで88本の限定バージョンが発売され、好評だったことからローズゴールドケース、ブラックエナメルダイヤルが非限定でレギュラー化、その後ステンレススチール、ブラックオニキスダイヤルが同じく非限定で追加され、4作目としてGMT機能を追加したグラン・ウールGMTが追加されたという経緯があります。
後知恵で調べると、色とダイヤルのデザインが一番好みだったのはホワイトゴールド(レールウェイインデックス)の初代グラン・ウールだったのですが、その時にはすでに完売だったこと、ダイヤルに大きく限定を表すレターと番号が入っているのがマイナスだったので、GMTで良かったと思っています。



さて、GMT機能について。
ツートーンの針に見えるシングルハンドは2つの針に分割することができ、ブルースチールのホームタイム針に対し、ローズゴールドのローカルタイム針を1時間単位でセットすることができます。
ブルースチールとローズゴールドのコントラスト差から容易にホームタイムとローカルタイムを見分けることができ、"機能を針色で分ける"という好みの基になったと思います。

針の形は重なったときはリーフっぽい形状ですが、分割すると測量機器のコンパス(ディバイダー)をイメージしたデザインになり、測量にディバイダーを使う船による旅をイメージさせるデザインになります。
また、このデザインにより重ねたときに完全に覆うのではなく、上側のローズゴールドの一部から下側のブルースチールが見えることで魅力的なツートーンの針になります。

調整はリュウズ1段引きでローカルタイムの修正、2段引きでホームタイム(と連動したローカルタイム)の修正で、調整機構もちゃんと機能に合わせて作られており無駄なポジションはありません。
ストップセコンド機能はベースムーブメントから無いですが、この時計では不要でしょう。



針はインデックスギリギリまで伸ばされ、文字盤と針と針のクリアランスも詰められています。
これにより、針を見る位置で指している位置が異なって見える視差が最小にまで抑えられているため、正確に読み取ることができます。
使った感覚ですが、10分ごとに補助インデックスが打たれているため、3分程度の精度で読み取ることができ、この形態の時計としては十分な精度だと思っています。

同じコンセプトでクオーツを使った比較的安価な時計を買ってみたことがありますが、"汎用ムーブメントのGMT機能を使って他の針をつけない"という方法で24時間表示を実現していたため、針の取り付け位置が高く、文字盤のクリアランスが大きすぎ、視差で正面以外からはまともに読めませんでした。



オプションのゴールド製Dバックルをつけています。
初めは安価な社外品を求めたのですが、色見の違い(そもそもメッキ)で、やはり純正が良いということで…
時計本体が重いのでDバックルの方がバランスが取れているように感じます。



ベルトは純正ではなく、Dバックルに合わせてジャン・ルソー(JEAN ROUSSEAU)のオーダーで製作したもの。
厚めにし、ブレスレット状にして安定感を出しており、結果的にカンタロスに近い考え方です。



だいぶ指紋がついていますが…
バックルは尾錠に見えるタイプ、つく棒の逆サイドにベルトを押さえる部分が設けられているのでベルトからは定革を省きました。



ジャケ・ドローの2つの星の意匠が設けられたボタンによって解除するロック付きなので不用意に開いてしまうことはありませんでした。



これだけ余白が多いデザインを破綻なくまとめ上げるのは相当凄いのでは…
ケースはジャケ・ドローに共通する懐中時計を腕時計にしたような丸っこいケースです。



ムーブメントはフレデリック・ピゲ(現在はブランパンのムーブメント部門)のFP1150をベースにした、ジャケ・ドロー 5N50.4です。
ジャケ・ドロー的には"スモール・コンプリケーション"のカテゴリーに入れられるムーブメントです。
GMTがないグランウールはGH24で、"ベーシック"のカテゴリーなので少し複雑という扱いのようです。

この時計が登場した付近でジャケ・ドロー(というかスウォッチグループ全体)は脱進機のシリコン化を推し進めていましたが、グラン・ウールは非シリコン脱進機で、個人的にはシリコンはあまり好みではないので良かったと思っています。
サービスセンターによる測定結果を見ても、実に優秀で良い個体のようです。



このレポートの構想を練っている時、購入してから4年半ぐらい経ったのでオーバーホールに出すか…と思い、銀座のジャケ・ドローブティックで見積もりを取りました。
GH24搭載型のグラン・ウールは国内でできるというのは伺っていたので、特に問題ないだろうと思っていたら…

まさかのスイス送りになるとのこと。
これは、サービスセンターの担当者はムーブメント単位で研修を受けるため、5N50.4のコンプリートサービスはまだ研修を受けておらず、スイスでないと触れないからとのことでした。
なので、いったん精度だけ見てもらいもう少し様子を見ることにしました(正直、いいネタができた!と思ってWMOに載せていいか許可をもらいに行ったのも大概だなと)。

ただ、価格表キャリバーリストがちゃんと用意されており、サービスの値段がわかること、スイスに送る場合でも通関や保険・送料全て込みで、一律10,800円でOKというのはさすがの大手だと思いました。
某社(バレバレ)なんて送料だけで自分(または代理店のだれか)が行った方が安いのでグレーなハンキャリばかりです。



初めがカンタロスではない(=そこまで変ではない)という記事のつもりでしたが、グラン・ウール GMTも大概、1本目に買う時計ではないような気がしてきました、まあそれはそれとして…
"指名買い"が多いという話でも分かるように、熱狂的な支持はあるそうですが、いかんせん数は少ないようです。

最近のジャケ・ドローはSSのラインナップが充実しているので、GMTのSSバージョンとか出ないかなと思い続けてもう数年経ちました…
超飛び道具では分以下は音で知るというグラン・ウール ミニッツリピーターとか!



改めて、時間と時差をここまで端的に表現したのは素晴らしいと思います。

最後に公式の動画を。



お問い合わせ先
ジャケ・ドロー ブティック銀座 03-6254-7288 
WEBSITE:www.jaquet-droz.com