ペキニエ ダニ・ロワイエ氏 エムリック・ベルオル氏 インタビュー センターシャフトドライブの優位性について

 By : CC Fan
2019年6月23日:イベントの日時について修正しました

当サイトでもL’Hiroさんのレポートが掲載されたペキニエ(PEQUIGNET)のダニ・ロワイエ氏とCEOのエムリック・ベルオル氏が新作を携えて来日したイベント、私も参加したのですが掲載が遅れてしまいました。
ちょうど7月2日まで行われている伊勢丹のイベントにペキニエも出展しているということでタイミングが良いだろうと思い掲載いたします。



新作のレポートはL’Hiroさんが記載してくれましたので、私は特に興味のあったセンターシャフトドライブについて工学的な見地からとペキニエの制作体制について伺ったものをレポートします。



センターシャフトドライブというのは、伝説的な設計者バン・トランの集大成で、既存の香箱が香箱芯から巻き上げ、香箱外周から動力を取り出していたものに対し、香箱外周から巻き上げ、香箱芯から動力を取り出すペキニエ独自の方法です。
以下のようなメリットがあります。
  1. 香箱出力を石で支えることができ、香箱の摩耗による偏りが起きない
  2. 巻き上げが軽くなる
  3. 香箱サイズと1番車のサイズを独立して決められる
  4. シンプルである
ひとつずつ見ていきましょう。
まず、1番目は旧来の香箱と比較することでメリットがわかります。
形式によって細部は異なりますが、通常の香箱では香箱芯と香箱は両方金属で作られ、香箱の回転軸は香箱芯との摩擦で支えられています。
両方とも金属であるので石受けに比べると摩耗しやすく、長年使うと香箱が傾いてしまい、駆動効率が落ちてしまうという問題が発生します。
また、ゼンマイの回転力のほかゼンマイ外端から外に押し出す力もかかっているため、香箱に無駄な力がかかっています。
センターシャフトドライブでは出力軸は強固な石で支えられた香箱芯であり、軸の精度が高く、摩耗もしずらいというメリットがあります。


2番目は香箱のサイズが大きく、香箱外周が大きいということは巻き上げ輪列からの減速比を大きくとることができるということでもあり、巻き上げを軽くすることができます。
これは手巻き・自動巻き両方に有効な性質で、88時間パワーリザーブのシングルゼンマイとは思えない軽さでした。

3番目は少し詳細に話しました、通常の香箱では香箱外周に直接歯を切ることで1番車を兼ねた構造になっています。
これはこれで理に適っているように見えるのですが、時分針を中心に取り付けないといけない都合上、2番車を中心にすると香箱のサイズはムーブメントの半径以上にはできないという制約に繋がります。
中間車で別のレイヤーに2番車を逃がすという設計もありますが、部品点数の増加は避けられません。



センターシャフトドライブではあれば、1番車は通常の設計でいう角穴車と同じなので自由なサイズに設定することができます、これにムーブメントの半径を超える大型の香箱と、中間車なしで2番車をセンターに配置するというデザインを両立することができました。
部品点数も入出力を入れ替えたのみで、余計な部品が増えていないので、同じ複雑さです。

最後はシンプルという点、同様にパワーリザーブを伸ばすダブルバレルなどの方法に比べ、シングルバレルのセンターシャフトドライブはシンプルな構造です。
これは、部品点数が少ないほど信頼性が高いという実用的な点のほかに、"シンプルが美を作る"というフランス的な感覚が根底にある…ということを伺いました。
考え方としては高級な実用機という考えで、長いパワーリザーブと等時性を確保し、使いやすく美しいという機械です。
これはムーブメントを絞り、バリエーションで差別化を行い、手の届く実用ピースを目指しているペキニエ社の姿勢にもつながるのかと思いました。



すべてを手作業で行うのではなく、工業的な生産方法と手作業の良いところを考えながら生かしていくのが制作体制です。
部品はすべて社内で設計、図面もすべて社内にあり、それを各種サプライヤーに発注したものを社内で検品・仕上げる体制をマニュファクチュールと呼んでいます。
正直にどこまでは自分・どこまではサプライヤーと言っているのは個人的には好印象です。



設計段階でなるべく調整を省くことができるように慎重に図面を作り上げ、サプライヤーから供給された部品は光学測定機によって基準を満たしているか厳密な受入検査を行います。
その後の組み立て・調整でもムーブメント カリブル・ロワイヤル専用の治具・測定器を用いて高い品質を一定に保ちながら組み立てを行い、QC(品質保証)の体制もきちんと構築されています。



この方式は極めて工業的で、精度と信頼性の向上につながるでしょう、私がちょうど身に着けていた"工芸的な時計"(バレバレ)との対比でよりぶっちゃけた話もありました。

特に印象に残ったのは精度へのこだわり、私は精度に偏執したパラノイアなのでよく聞きますが、ペキニエはなんと一般的な高級機を凌ぐ6姿勢で調整しています。
最大日差は数字が独り歩きしてしまうのを危惧して公開していないそうですが、基準値は十分に高精度な値で、6姿勢の合計と平均(本質的には同じもの)がなるべく0になるように調整しているそうです。
しかも、これをわざわざ謳ったりせず、あくまで実用機なら当たり前というスタンスで行っているのが素晴らしい。
私の"工芸的な時計"は5姿勢調整とムーブメントにドヤ顔で書いてあるのがちょっと…と、明らかに1姿勢やばいのがいるので…



1形のムーブメントをここまでこだわり、熟成してきたペキニエ、その姿勢は本当に素晴らしいと思います。
2011年にデビューして8年、2021年には十周年を迎えるそうで、いろいろなアニバーサリーも?

お問い合わせ先

カリブルヴァンテアン株式会社
03-6206-2333
www.calibre21.jp