ランゲ1をめぐる25年の軌跡 【#2】~25周年モデルの幻のオリジナル作品と個人的ランゲ1妄想

 By : a-ls

【連載】ランゲ1をめぐる25年の軌跡 ・第2回


第一回目 https://watch-media-online.com/blogs/2327/ を書いてから、
かなり間が開いてしまいましたが・・・・ここからちょいハイペースで書き上げていく所存ですので。。。。

さて、ずは10ヶ月連続新作発表の件。
前回の掲載時までに発表されていた「ランゲ1・25周年記念モデル」は、

①ランゲ1 250本 2019年1月(SIHH)
②グランド・ランゲ1・ムーンフェイズ (以下はすべて各25本のブティック限定) 2019年2月
③リトル・ランゲ1 2019年3月
④ランゲ1・トゥールビヨン・パーペチュアルカレンダー 2019年4月
⑤ランゲ1・タイムゾーン 2019年5月

の5モデルだったが、現時点までに新たに以下の3モデルが発表となっている。

⑥ランゲ1・ムーンフェイズ 2019年7月


⑦グランド・ランゲ1 2019年7月


⑧ランゲ1・デイマティック 2019年8月



ということなので、連載第一回目で下した予測はほぼ正解だった、と思う。


つまり、「ランゲ1」、「リトル・ランゲ1」、「グランド・ランゲ1」という、ランゲ1の3つの基幹モデルに、それぞれのムーンフェイズ・モデルを加えた6種。
そしてこれにランゲ1ファミリーに区分される「タイムゾーン」、「ランゲ1・トゥールビヨン・パーペチュアル」、「デイマチィック」、そして「ランゲ1トゥールビヨン」を加えた、計10モデルが"月刊ランゲ1"の全貌ではないか、という予測だ。

ということで、これから後は、9月に「リトルランゲ1・ムーン」が出て、最後の10月は大作の「ランゲ1・トゥールビヨン」がこの企画の大トリを飾るとみて、ほぼ間違いないだろう

またデザインに関して、ここまでの8モデルのデザインがすべて、WGケース+白文字盤+青焼き針という基本を踏襲しているので、最後の2本もその流れとなることも、間違いないと思う。

これは後述もするのだが、ランゲ1の大きな魅力のひとつに、ダイヤルやケースのバリエーションで、その表情がまったく変ってみえるということがあるので、10本全部が違うデザインというのも面白かったようにも思う。


だが、今回のこの"月刊の"10モデルに関しては、SIHH段階で10本収納のコフレ(coffret=小箱/化粧箱)・セットの予約も受け付けていたため、まずは統一感ありきということが、その背景にあらかじめ意識されていたようだ。


そしてこの10本の原型となったランゲ1、つまり「WGケース+白文字盤+青焼き針」というデザインだが、これにもなかなか面白いストーリーがある。このデザインのオリジナルとされるランゲ1は、「101.027X」というリファレンスを持つもので、2000年代の前半に世に出されたものである。



注目すべきは、このモデルのリファレンス(製品番号)の末尾、"X"のアルファベットだ。
A.ランゲ&ゾーネのリファレンスは、基本的に6つの数字のみで構成されている。たとえば旧ランゲ1の場合、頭3文字は101で、その後に任意の3文字の数字が加えられて製品番号となっている。
有名なPTケース+シルバーダイヤルの俗名ステルスは「101.025」、同じく黒ダイヤルの"ダース"は「101.035」というふうにである。

ところが、四半世紀におよぶA.ランゲ&ゾーネの歴史の中で、リファレンス内にアルファベットを、それも末尾に"X"などという意味深な番号を与えられているのは、唯一この「101.027X」だけなのである。

では、末尾に"X"のない「101.027」はどういうモデルかというと、WGケース+青文字盤+シルバー針というモデルで、つまり、「101.027」と「101.027X」、その関係は、文字盤上のデザインと針色において、青と白が入れ替わったデザインなのある。


●リファレンス101.027のランゲ1

「101.027」は1997年に発表され2002年頃に製造中止となったランゲ1だが、末尾"X"の「101.027X」は、その直後の2004年頃に市場に出たらしい。"らしい"と書いたのには理由がある。不思議なことに、この「101.027X」、A.ランゲ&ゾーネの公式カタログにも、公式の価格表にも、一切掲載されたことがないのだ。だから正確な発売年が不明で、2005年発表説をとる研究者もいるし、限定モデルで、およそ600本が作られたという具体的な数字を挙げる方もいるが、今となっては正確なところはわからない。

間違いないのは、先行していた「101.027」を意識し、その青・白反転モデルとして、限りなく非公式な形で世に出たことだ。ということで、発売までの経緯や理由は不明なのだが、ヒントとなりそうなのは、この「101.027X」には"Blaues Wunder=ブラウズ・ブンダー=青色の奇跡”という俗名が与えられている点だ。

ランゲ本社のあるグラスヒュッテ/ドレスデン地域で、"青色の奇跡"といえば、1893年に作られたロシュビッツ橋を指す。
なぜに"青色の奇跡"なのかというと、ドレスデン情報ファイルというサイトにはこう書かれている。

1935年にドレスデンのある新聞が、『当初はコバルトブルーとクロームイエローを使って緑色に塗装されていたが、次第に淡い空色に変色したため、Blaues Wunderと呼ばれるようになった』と書いたことから、この愛称で親しまれ、現在にいたるまでこうした由来が好んで伝えられている。しかし、この呼称は建造年の1893年に発行された硬貨にもすでに使われており、緑色から空色になったというのは単なる物語である。
パリのエッフェル塔と同じ年に造られたこの橋は一見したところ吊り橋のように見えるが、実際は鉄骨構造体である。Claus Kopkeの設計によるもので、建築物の傑作のひとつとされる。当時の人々は橋脚間の長さが150m近くもあるこの橋自体が自らの重さに耐えるとは信じることができなかったが、重量物を通してもびくともしないのに驚き、それが「Wunder(奇跡)」の背景のひとつになったのではないかと考えられる。


●今年の7月に撮影した"青の奇跡橋"

それ以外にも、奇跡と呼ばれるに至った理由には諸説あって、第二次戦争中の1945年、当時のナチス親衛隊が連合軍のベルリン進行を妨害するために、エルベ川周辺の橋の破壊を試みたのだが、それに気づいた市民たちが生命の危険を賭して爆弾を無力化したことで、この橋はドレスデンで爆破を免れた唯一の橋となった。このことが"奇跡"として伝えられたという説もある。

で、「101.027X」と"青の奇跡橋"の関係なのだが、これはあくまでも個人的な推測なのだけれど、この幻のランゲ1は、幻の世界遺産となったもう一つの幻、ドレスデン・エルベ渓谷地域の出来事と関係しているのではないのだろうか・・・。

実はこの橋を含むドレスデン・エルベ渓谷地域は、2004年に世界遺産に登録されている。それだけならただの目出度い話なのだが、この橋は老朽化も進んでいて、そのため橋を通過していた市電を廃止(1985年)したり、通行の重量制限を設けたりしているのだが、それでも今後30年しか持たないといわれていた。また、橋は2車線しかないため交通渋滞の原因ともなっており、市民は2005年2月の住民投票で新しい橋の建設を決めた(そのヴァルトシュレスヒェン橋は2013年8月に開通)のであるが、ひとたび世界遺産に指定されるとその景観を変えることが厳しく制限される。




●ドイツでは切手にもなっている"青色の奇跡橋"

世界遺産を統括するユネスコは、新橋建設は景観の破壊につながるとして、2006年に危機遺産に登録し、2009年、信教の工事が進行する中、ついに世界遺産登録から抹消したのである。過去、世界遺産を抹消されたのは、このドレスデンを含めわずか2例しかない。

つまりこの「101.027X」は世界遺産登録を記念するランゲ1となるはずだったが、世界遺産指定当時から新橋建設と景観の関係は取りざたされ、世界遺産指定を重視するドレスデン市議会が、交通の実利を重視するザクセン州政府ならびにザクセン州裁判所と対立、最後には憲法裁判所をも巻き込む騒動となった当時の状況を考えると、華々しく宣伝することも憚れたので、こうした裏モデル的な存在になってしまったのではないか…という推測である。

ただ面白いことに、カタログにも不掲載で積極的なセールスが行われなかったにもかかわらず、この「101.027X」は、なんと我が国のファンの心を掴んだという事実である。簡素なデザイン、鮮やかなブルースティール針、どうもこれはとても日本人好みのスタイルらしい。作品自体はすぐにディスコンになってしまったが、このモデルを賛美し、これを求める声は多く、その結果、2007年5月に、日本橋三越の限定モデルとして25本の「101.027X」が復刻製作されたのである。

「A.ランゲ&ゾーネのスタンダードはアプライド・インデックスであり、プリント・インデックスのモデルは随時ディスコンにしていく」という当時の方針もあって、もともとこのデザイン・パターンをそれほど評価していたわけでもなかったA.ランゲ&ゾーネ本社にとって、この日本からのラブコールは意外なものであったに違いない。
結果として、その後のいくつかのブティック限定などの大事なモデルにこのデザイン・パターンは採用され、ついには25周年記念モデルの基盤デザインを飾るにまで至ったのである。
「101.027X」を愛した日本ユーザーからの声は、間違いなく、A.ランゲ&ゾーネのデザイン史を変えたのである!!


さて、ここからが前回の続きとなるのだが、ひよんなことから初めてのA.ランゲ&ゾーネの時計、「ドレスデン・セット」という限定モデルを手にしてしまったわたしだったが、購入してわずか数日の後には、どうしてもランゲ1が欲しくてしかたなくなる。
先にも書いたが、「ダイヤルやケースのバリエーションで、その表情がまったく変って見える時計」、こんな時計が存在するという驚きと、その最たる例として、同じホワイトゴールドケースながら、針とダイヤルの関係が「ブルー」と「シルバー」とで、まったく逆転の関係にある2本のランゲ1、「この2本の“対称性”を並べて見たい!」という欲求をどうしても抑えることができくなったのである。

それがまさに、「101.027」と「101.027X」の2本だった。

そんなことを思った私が“変”なのか、
思わせたランゲ 1が“凄い”のか(笑)…

当時撮った写真がこれ。



なにせ「ドレスデン・セット」を購入してからまだ1週間も経ってないのに、同じ店にまた時計を買いに行くなど、当時の自分の感覚としては、「かなりおかしくアブない人物とみられてしまうのでは」という、恥ずかしさが先に立ってしまい、都内の数店を行脚して同じ日に2本のランゲ1を手に入れた。そしてこれがわたしのファースト・ランゲ1となった。

あれから13年・・・・久々にこのツーショットを撮ってみた。




前回の連載の最後に"次回は、この日までのいきさつと、この日からの10数年についてまとめようと思っている”とは書いたものの、まだ全然そこまで進まない・・・・。

なので今回は、当時ランゲ1について妄想していたことを個人ブログにしたためた文章、それを再録することと、ファーストランゲ1の2本から今日まで、プライベート・コレクションに加わったランゲ1を撮影してみたので、その画像などで、お許し願いたい。













【ランゲ1妄想】

わたしにとってランゲ1は、まず第一には出逢いの時計という想いが強いです。
生涯の最初にして最後の1本となるはずだった高級機械式時計、カラトラバを買いに出かけた自分が、結果としてそこに過度にのめり込むこととなる、つまり時計という趣味に出逢わせてくれた時計であり、さらにはこの趣味を通じて非常に多くの、それも世界中の方々との出逢いを導いてくれた時計でもあるからです。ですから自分にとって、まったく別格の存在であることは間違いありません。

特筆すべきは、まずそのプロポーションでしょうか。丸い時計の円の中に、それぞれ直径の異なる円(または半円周)が同居しつつ、時計のデザインとして完成している。非対称なのに、これ以上ないほどバランスがとれ、調和を感じさせる。それは実に衝撃的で、何かそこに言葉では言い表せない宇宙的な調和を感じたのです。
なおかつ、ダイヤルやケースのバリエーションで、その表情がまったく変わることも驚きでした。
たとえばパテックで、同じリファレンスのケース違いを複数本所有するなどということは、今ですら思いもよらないことですが、ランゲ1を買った後、すぐにまた次なるランゲ1が欲しくなるという、我ながら信じられない欲求を体験させてもくれたのです。

さて、「ランゲ1の何がいいのか?」と問われるならば、
繰り返しになりますが、わたしは“そこに宇宙を感じるから”と答えるでしょう。
ここから先はどうか笑って聞き流してください。

わたしが妄想しますに、ランゲ1の存在には何か、もっと後世に明らかになるはずの、宇宙の秘密というか宇宙を司る大事な物理法則が、偶然にもバランスされ、そして世に出されてしまったように感じるのです。
たとえば黄金比というものがありますが、その理論的なことや縦横比が約5:8(近似値は1:1.618)だとか、そんな理屈は知らずとも、多くの人がその比率を美しいと感じる感覚、ランゲ1はそういう感覚に近い…何か宇宙的な法則の一端を偶然に言い当ててしまっていて、それ故にそこにおのずと単なる時計とは異なる調和の感覚が生まれているではないかとさえ思えるのです。
思えば“時間”という概念は宇宙のサイズを基準としていますし、宇宙はそれこそ無数の円(軌道)の迷宮的な集合から成り立っています。もっと言えば、時計という機構もそのダイヤルの下に径の異なる様々な歯車を潜めており、われわれが見ているのは、それらの調和がダイヤル上に刻んでいる時刻という現象です。
暗く閉鎖された約半世紀の共産党支配が終わり、グラスヒュッテが取り戻した自由と希望、そして何より、過去100年にわたり欧州に名を馳せた名門ブランドを復興するのだという矜持、これらたくさんのポジティヴなパワーの集積が、ランゲ1という名の、何か特別な調和を感じさせる奇跡の時計を創造し得たのではないかと、わたしは妄想するのです。

1972年、数学者ヒュー・モンゴメリーと物理学者フリーマン・ダイソンというまったく異なる専門分野を究める学者が大学のカフェテリアで偶然に同席し、ふたりの何気ない会話から、素数の分布数式が原子核のエネルギー間隔を表す式と一致することを、お互いが“発見”しました。こうして一見無秩序でバラバラな数列にしか見えない素数と核物理現象との関連性が明らかとなり、以降、素数の規則性(いわゆる「リーマン予想」)の解明は、宇宙を司る全ての物理法則をおのずと明らかにする可能性があるともいわれています。わたしはこの逸話が好きで、ランゲ1の歯車の径はすべて素数なのではないかなどと疑ってみた…というのは冗談ですが、このように人類の叡智が人と人との出逢いから育まれていくのは本当に素晴しいことです。

わたしにとってこのランゲ1という存在は、時計を契機としてわたしに与えられた多くの「出逢い」と、そしてその多くの方々への、本当に素直な感謝の気持ちを常に思い起こさせてくれる「初心」の時計でもあるのだと思います。

長々とした拙文にお付き合いいただきありがとうございました。

2010年04月15日
「Web Chronos コミュニティ」への投稿






次回は、これまで秘匿してきた秘密のランゲ1(発売15周年記念モデル)について書けるかもしれません。。。。
以下次稿に続きます。


※ランゲ1についてのご質問などありましたら、下記のコメント欄に残してくださいませ、
次回以降、可能な限りお答えしていこうと思います。