ウォルター・ランゲ氏のご葬儀

 By : KITAMURA(a-ls)


先日、ウォルター・ランゲ氏の悲しいお知らせを報じましたが、そのご葬儀が27日に執り行われることになりました。


御本人のご遺志として、現地の新聞などに、次のような告知がされているようです。

Die Beisetzung findet am 27. Januar 2017, ab 14:30 Uhr, auf dem Friedhof Glashütte statt. Wenn es Ihnen ein Bedürfnis sein sollte, dann bitten wir im Sinne von Walter Lange statt Blumen um eine Spende zu Gunsten des Kinderheimes „Haus Gottessegen“ in Glashütte „PANTA RHEI e. V. – Integrative Jugendhilfe“, Kontoinhaber: Panta Rhei e. V. / IBAN: DE23 4306 0967 6000 9605 00 / BIC: GENODEM1GLS (GLS Gemeinschaftsbank eG) oder zu Gunsten des Glashütter Friedhofes, Kontoinhaber: Kassenverwaltung Pirna / IBAN: DE11 3506 0190 1617 2090 27 / BIC: GENODED1DKD (Bank für Kirche und Diakonie) Verwendungszweck:  Walter Lange für Glashütte.

(日本語訳)
葬儀は1月27日14時30分から、グラスヒュッテ墓地にて執り行われます。亡くなったウォルター・ランゲの為に皆さんが何かされたいとお考えならば、花ではなく、グラスヒュッテにある児童ホーム(註:孤児院の意味です。一時的に両親から離れて暮らす子供のための施設も含まれます)Haus Gottessegen、またはグラスヒュッテ墓地へのご寄付をお願い申し上げます。

振り込み先は下記です。
児童ホーム: 口座名Panta Rhei e. V.  IBAN: DE23 4306 0967 6000 9605 00  BIC: GENODEM1GLS (銀行名GLS Gemeinschaftsbank eG) 用途:  Walter Lange für Glashütte

グラスヒュッテ墓地:口座名Kassenverwaltung Pirna  IBAN: DE11 3506 0190 1617 2090 27  BIC: GENODED1DKD (銀行名Bank für Kirche und Diakonie) 用途:  Walter Lange für Glashütte

 (このお知らせならびに翻訳は、ドイツ在住で“ランゲと日本との懸け橋”となってご活躍されていた通訳の宮田さんから頂きました。)


ウォルターさんはご生前から、恵まれない子供たちを援助するこの施設への支援を続けてられておられたそうです。
日本でランゲ・ブティックがオープンしたときにも、「限られた期間の店頭を飾るためだけに胡蝶蘭などのとても高価な花を贈られるお気持ちがあるのならば、その分を子供支援の財団に寄付して下さるようお願いします」というウォルターさんのメッセージが届き、メディアの何社かはその希望に応えたというエピソードもあるそうです。 

日本で言うところの、「香典・供花の儀はかたくご辞退申し上げます」という意味に近いかたちのようですが、ドイツでは葬儀に出席できない方がお悔やみの気持ちを書き添えたカードを送る習慣があるそうです。
 
わたしにとって、ウォルターさんはとの出逢いは自分の人生を懸けたものとなりました。
SIHHから戻ったばかりですが、グラスヒュッテへ行き、あらためてウォルターさんとの思い出を心に刻んでまいろうとおもっています。
もし、お悔やみのメッセージを送りたいと思われる方がいらっしゃいましたら、お預かりしてご遺族にお渡しできますので、この記事のコメント欄にお気持ちをお残しください。コメントは公開でも非公開でも、日本語でも英語でも独語でも構いません。1月26日の朝10時までにいただいたコメントを印刷してドイツにお持ちします。





また、1月18日の投稿では英語で掲載した訃報の日本語訳が配信されておりますので、
以下に掲載いたします。



ウォルター・ランゲ(1924~2017 年)

現役を退き隠居しようとする年齢になってから一念発起して起業する人は、多くありません。
第二次大戦後の東西冷戦が終結し、ドイツの東西分断の歴史が終わった1990 年、ウォルター・ランゲは一瞬たりとも躊躇しませんでした。途絶えていた時計工房の伝統を復活させようと決心したのです。この時、ウォルター・ランゲは66 歳になっていました。ドイツ再統一という歴史的な出来事によって、ザクセン高級時計産業の創始者であるフェルディナント・アドルフ・ランゲの曾孫に、時代を隔絶していた扉が開かれたのです。1845年創業の伝統を誇るA.ランゲ&ゾーネは、第二次大戦後、東ドイツによる接収によって40年もの長きにわたって事業の中断を余儀なくされ、伝説のブランドとなっていました。そ
のブランドをウォルター・ランゲが復活させ、スイスの強豪ブランドが居並ぶ檜舞台に返り咲かせたのです。ドイツ随一とうたわれた時計ブランドを蘇らせるという大胆な発想には、実現に至る道を切り開こうとするエネルギーがみなぎっていました。

ウォルター・ランゲと、その良きパートナーであったギュンター・ブリュームラインは、才能豊かな設計技師と時計師からなる小さいながらも意欲溢れるチームと共に、「A.ランゲ&ゾーネは20 世紀末にどのような時計を作っただろうか」という問いを立て、その解となる時計を作り上げました。そして、グラスヒュッテで再び世界最高の時計を作るという大きな目標を達成するには、周囲の人々を説得して納得してもらわねばならないという認識を共有していました。ウォルター・ランゲが曾祖父の例に学んだことは、極端に不利な状況下であっても会社を興して成長させることは可能であるということでした。そして、とりわけ、最後の最後まで考え抜いて練り上げた計画の成功を信じ、計画の実行にあたっては協力者の熱意と能力を信頼することが肝要だということも学んでいました。それは、世代から世代に語り継がれてきたメッセージであり、ウォルター・ランゲはそれが正しいことを確信していたのです。

時計師の職業教育を受けた彼は、第二次世界大戦後の最悪の状況の中で家業を再建するために自らも汗を流しました。ところが、東ドイツ政府に会社を接収され、工房再建の希望は潰えてしまいます。この経験はその後の彼を形成することになりましたが、決して世に背を向けることはありませんでした。ウォルター・ランゲは1970 年代半ば以降、生まれ故郷の人々との親交が途絶えないようにと、定期的にエルツ山地を訪れています。A.ランゲ&ゾーネを復活させる夢を実行に移す決意をしたとき、彼は郷里の人々の生活基盤を守りたいと考えていました。

品質を見極める確かな目を持つウォルター・ランゲは、伝統的な手工芸技術の維持・継承だけでなく、革新技術の開発にも力を入れました。彼の援護のもと、理想とする昔ながらの手仕事で、技術的には時代の最先端をゆく時計が製作されました。当時は機械式時計が再び注目されるようになったばかりでしたが、新生A.ランゲ&ゾーネの時計はまさに、その時代の要請に応えるものでした。それを如実に物語るのが、ランゲ1 です。この時計は、復活初コレクションを発表して以来、ブランドを代表するモデルとなっています。アウトサイズデイトと、時・分をそれぞれオフセンターに配置したダイヤルデザインは、発表当時まさに画期的なものでした。

発表するモデルが次々に好評を博し、A.ランゲ&ゾーネは現在約60 カ国で最高級時計ブランドとして定着しています。少人数で再出発したA.ランゲ&ゾーネですが、今では社員770 人を数えます。そして、4 モデルでスタートしたコレクションも、個性豊かな5 つのモデルシリーズを擁するまでに成長しました。これまでにA.ランゲ&ゾーネの時計は、その品質およびデザインに対し250 を超える国際的な賞を受けています。このような目を見張る躍進は、ウォルター・ランゲの開拓精神と尽力がなければ達成し得なかったことでしょう。ウォルター・ランゲのその功績を讃え、1998 年にドイツ・ザクセン州功労勲章、そして2015 年にはドイツ連邦共和国功労勲章が授与されています。

ウォルター・ランゲは、経営の第一線から退いてからも長い間ブランド・アンバサダーとして、そして相談役として自ら設立した会社とともに歩んできました。彼は、折にふれて「私自身が、過去と現在を結ぶ架け橋なのです」と口にしていました。実際のところ、ウォルター・ランゲは、それ以上の存在でした。彼はその勇気、先見の明、批評精神、そして周囲の人々に対する誠実さで、長く親しまれ続けるA.ランゲ&ゾーネの表象であるだけでなく、会社という一家を率いる父親像でもありました。ウォルター・ランゲによって蘇った会社は、もう何年も前から創業者の元から巣立って独自に事業を営み、その真価を発揮するように、成長し続けています。しかし、本分をまっとうし2017 年1 月17 日に92 歳で永眠した博愛の人ウォルター・ランゲの精神は、私たちの模範としてA.ランゲ&ゾーネの企業理念の根底にこれからも生き続けます。