パテック フィリップ 5236P インライン表示の永久カレンダーを「推測」する

 By : CC Fan

W&W2021期間中に発表されたパテックフィリップの新しい永久カレンダーを備えたグランドコンプリケーション5236P、古典からインスピレーションを得たインライン(in line:直線)表示の永久カレンダーが特徴です。



機構的にも興味深く、編集長からの「フリ」もあったので、さっそく「推測」してみたいと思います。

機械の都合で文字盤上に散らばっていた永久カレンダーの各種表示を、12時位置のロゴの下というもっとも読み取りやすいポジションに直線状に集約したことが最大の特徴で、これは古典からのインスピレーションとされています。


元になったのはパテックフィリップミュージアムに収蔵されているNo P-1450です、しかしスペースに比較的余裕のある懐中時計用の機構をそのまま腕に使う事は出来ないでしょう、画像からも分かるようにNo P-1450では10の桁と1の桁を1枚のディスクで表示していましたが、5236Pではそれぞれの桁を独立したディスクで表示するいわゆるビッグデイト機構になっています。

公式の動画から切り抜いたCGでムーブメントの構造を探っていきましょう。



インライン表示を実現するための大きな2枚のディスクと2つのリングが配されています。
ムーンフェイズとスモールセコンドの軸と同軸に日付を示す31日車が配置されており、ここから10の位と1の位がそれぞれコントロールされています。

動作を理解するために月末処理を行う永久カレンダー本体とその情報を2桁表示カレンダーに送る部分に分けて見ていきましょう。
まずは、永久カレンダー部分です。



月表示と同軸に12か月カムが配置されており、このカムの深さを読み取りレバーで読み取ることによって大の月(31日)・小の月(30日)・閏年の2月(29日)・平年の2月(28日)を区別します。
12か月カムが1周すると伝え車が閏年表示を1つ進め、3年の平年と1年の閏年を区別します、これもNo P-1450にはない要素でより使いやすさを向上させています。

31日車はその名前の通り、31日で1周する歯車で、月末以外は1歯ずつ送られることで日付を示します。
これを行うのが通常1日送り爪レバー、そして月末だけ月末カムに噛み合って最大3日分の追加送りを行うのが月末追加送り爪レバーです。
これは月末を「早送り」する古典永久カレンダーに準じた動作です、順を追ってみていきましょう。



24時間で1周する24時間車は、2つの爪を持っており、片方が日送りレバーを押し、もう片方が曜日を示す曜日スター(星車)を押します。
日付は月末処理で「早送り」する必要がありますが、曜日は常に1つずつ進むため、別立てにする必要があるからです。
日送りレバーと曜日送りレバーは高さが異なるように作られており、片方に噛み合うレバーはもう片方は素通しするようになっています。

日送りレバーは常に4日分(月末3日+通常1日分)動く量を爪によって与えられ、毎夜4日分の送り動作をします。

永久カレンダーは逆回しすると破損することもありますが、このレバー機構は逆回しにも対応しており、逆回しした場合曜日は戻り、日付はワンウェイクラッチのような動作によって素通しさせ破損を避ける機構になっているようです。



レバーは常に4日分動きますが、月末以外は最初の3日分は月末カムに噛み合わないため空振りし、最後の1日分だけが通常送り爪で31日車に噛み合って1日分送ります。
この動作は通常カレンダーと変わりません。



月末になると追加送りレバーの爪が月末カムに噛み合うようになります。
噛み合う位置は12か月カムの深さによって変わるようになっており、12か月カムが深いほど手前(=少ない日数)で噛み合います。
これにより、通常送りの前に追加送りが行われます。

閏年の2月は29日で噛み合うようになり、追加の2日+通常日送り1日で、29日→30日→31日→1日と送ります。



29日から追加送りレバーが押すことで30日に。



更に押して、31日に。



最後の1日は通常送り爪の方が噛み合って1日送ります。
つまり、このカレンダーは月末の通常送りの前にあらかじめ31日にしておくことで月末を処理していると言えます。



31日→1日の動きによって月送りレバーが動作し、12か月カムを1月分進めます。
月送りカムが回転しているときは読み取りレバーは送りレバーが動くことで退避しているので、12か月カムは遮られることなく回転できます。



12か月カムだけでは閏年と平年の2月末の区別を行うことができません。

この区別を実現するのが2月遊星カムで、このカムは中央に固定された太陽歯車とかみ合う遊星歯車によって公転しながら自転しています。
ギア比を適切に設定することにより、12か月カムが1回転(公転)したときに、遊星カムの回転(自転)が1/4回転することができ、これにより3年の平年と1年の閏年を区別することができます。
平年は28日なので最も深くなり、閏年の29日はそれよりも少し浅くなっているのが分かります。



ここまでの「推測」で31日車が日付を表現し、「早送り」を行う事で月末処理も行えることが分かりました。
あとは、この31日車が持っている角度情報を10の位と1の位に分配してやればよいという事になります。

これを実現しているのがそれぞれの位のプログラム車で、必要な時だけ送ることで2桁に変換します。



この機構はEP3786723A1 DISPLAY MECHANISMという直球の名前の特許が取得されています。
この機構は二つの表示リングと入力の31日車にのみ規制バネが入れられており、中間のプログラム車は特に規制しなくても良いという機構になっています。

表示リングの規制はどちらかと言えば表示をキッチリとさせる意味合いで、噛み合わせだけでプログラム車の遊びを何とかしようとしていることが分かります。

これを実現しているとが特に1の位の特殊な歯形で、ガタツキが1日以上にならないように規制しています。



1の位プログラム車は基本的には1:1の伝え車相当ですが、31日から1日(01日)の時だけ回転しないことで1の位を1のままに保つ役割を担います。
駆動車(52)と従動車(7)は両方とも31歯相当の歯車ですが、月末の歯を一部欠けさせまた歯形も工夫することで、駆動車が停止している場合は従動車が1日分(1歯以上)は動かないような組み合わせになっています。
これにより、従動車が衝撃でずれても表示のズレには至らないため従動車には規制バネが要らなくなります。
31日→1日の時にわずかに従動車が進んで戻るという動作になりますが、それは後述する別の特許で吸収しています。



動作頻度が少ない(1か月で4回だけ)の10の位プログラム車はより保守的なゼネバ機構を応用した機構になっています。
ゼネバ機構によって駆動タイミングの時以外は従動車からの力の伝達がブロックされるため、こちらもプログラム車に規制バネはありません。



上記特許と組み合わされて使われているのが、EP3786724A1 SHOCK-ABSORBING ANDOR ANTI-DOUBLE JUMP MECHANISM FOR A TIMEPIECE、ショック吸収と2重ジャンプ防止車と言ったところでしょうか。
これはプログラム車からディスク駆動車の間の中間車に2枚の歯車を重ねたものを使い、その2つの歯車にばねであらかじめ予圧を与えておくことで遊び(バックラッシ)の抑制と衝撃を吸収してずれを抑制する特許です。
また、この歯車によって前述した1の位プログラム車が31日→1日でわずかに進んで戻るような動きも吸収されると考えられます。

「3件の特許」と謳われているため、最後の一つも探してみたところおそらくこれだろうという特許が見つかります。


EP3734373A1 DEVICE FOR ACTUATING A CALENDAR STAR OF A SEMI-PERPETUAL OR PERPETUAL CALENDAR MECHANISM、先に「推測」した、12か月カムに遊星カムの2月カムを追加することで永久カレンダーを実現する手法の特許です。

古典的ないわゆる4つ目の永久カレンダーは機械(ムーブメント)の都合に合わせた表示で人が読み取ることを強いられていました、対して今回のインライン永久カレンダーは人が読み取りやすくするために機械側に様々な工夫が凝らされてインラインを実現していることが「推測」できます。
上記の仕組みを理解した後、改めて公式の動画を見てみると新しい発見があるかもしれません。


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