オーデマ ピゲ ブランド・アンバサダー、クローディオ・カヴァリエール氏 インタヴュー

 By : KITAMURA(a-ls)

時計の世界でブランド・アンバサダーといえば、思い浮かぶのは、F1などの一級レーサーやスポーツ界、それもテニスやサッカーなどの人気種目のトップ・アスリート、もしくはハリウッドのレッドカーペットを歩くような女優・男優など、ともかく、その人物の持つ知名度や実力、もしくは華やかなスター性がブランドの広告塔として適合するキャラクターが選ばれるイメージがある。

実際、何人かのスター・アンバサダーと紐づいたブランド名はすぐに思い浮かぶに違いない。

 オーデマ ピゲはアンバサダーに関しては先駆的ブランドであり、レーサーのルーベンス・バリチェロを起用したオフショアが大ヒットしたことも記憶に新しいし、過去にはアーノルド・シュワルツネガーやサッカーのメッシ、現在もテニスのセレナ・ウィリアムズをはじめ、ヘンリック・ステンソンら10名ものスター・ゴルファーがアンバサダーとしてその名を連ねている。また、各国の現地法人にアンバサダーの認定を委任していることもあって、ローカルスターのモデルも多い。
 
ではそれを踏まえたうえで質問である。

オーデマピゲには、こうした数多のアンバサダーの最上位とも言うべき、グローバル・ブランド・アンバサダーという役職があるのだが、現在それを務めるクローディオ・カヴァリエール氏はどのジャンルの第一人者かご存知だろうか。

 一見すると俳優のようなお名前ではあるが、実は彼のキャリアは以下のようなもの、つまりガチガチの時計のプロフェショナルなのである!



クローディオ・カヴァリエール(Claudio Cavaliere
1972年、ジュネーヴ生まれ。機械工学と経営学を専攻した後、1997年モヴァド・グループの製品開発製造プロジェクトマネジャー職を皮切りに、数々の時計ブランドのプロダクトマネージャーを経て、2007年にオーデマ ピゲに入社。プロダクト開発製造のトップ、続いてマーケティングのトップを歴任した後、2014年より“グローバル・アンバサダー”としてオーデマ ピゲの魅力を顧客に伝える活動を行っている。

アンバサダー・システムの先駆的ブランドでありながら、その中心には時計を知り尽くした人物を配するオーデマ ピゲ、その真意やアンバサダーの業務内容など、SIHHのジュネーヴで会ったクローディオ・カヴァリエール氏に直接ぶつけてみた。


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――通常アンバサダーといえば、スポーツ選手とか、ムービースターとか、ブランドの広告塔的なキャラクターというイメージがあるのですが、グローバル・ブランド・アンバサダーという役職について教えて下さい。
クローディオ・カヴァリエール(以下C ):例えばスポーツ選手はTVで見ることはできても、それほど簡単に会えるような人ではない。でも私なら気軽に電話で話せます(笑)。プロダクトの話をしたり作品のメッセージを伝えたり、そして、こういうふうにインタヴューを受けることもできます。ですので、この役割というのは大切で、オーデマ ピゲというブランドと顧客との本当に素晴らしい関係を築く、パートナーであるということが、私、グローバル・ブランド・アンバサダーの役割なのです。

――具体的な仕事の内容はどのようなものですか。
C:アンバサダーというのは、まずそのブランドについての話ができる人です。そのブランドの主要なメッセージを伝えるということですね。そして、世界中で催されるオーデマ ピゲの様々なイベント、ブランドのプロモーションですとか、プロダクトの商品化を発表する場など、そういった一連のイベントを準備し、それに参加します。

――担当は全世界ですか。
C:そう。去年は、アメリカ、メキシコ、日本、シンガポール、台湾、香港、もちろんヨーロッパ各地で仕事をしました。

――この業務に就任したいきさつを教えて下さい。
C:もともとはエンジニアでしたが、会社経営ということも学びました。まず自動車産業で働き始めて、その後に時計業界に入り、時計業界の経験は今年で20年になります。様々なブランド、モバド、コンコルド、グッチなどの開発部署で働きましたが、10年前からオーデマ ピゲに勤務しています。プロダクトとマーケティングに従事していたのですが、7年それをやって、この間に様々な知識を得ることが出来ました。プロダクトと同じくらいに時計ブランドの知識を得ることができたわけです。それはオーデマ ピゲだけではなく、他の競合他社の知識も得ることができました。そしてその自然な進化として、お客様に会ってオーデマ ピゲのプロダクトを最善の形で見ていただく、よりわかりやすい切り口で説明する、そういう新しい方法に協力してほしいということで就任しました。

――アンバサダーは、製作などにはどの程度関わっていくのですか?
C:いまはクリエーションには関わっていません。プロダクトマネージャー時代はその責任者でしたのでクリエーションにも関わっていたのですけど、今のアンバサダーとしての役割は、全体的な業績に貢献することです。その戦略というのは、どちらかと言えば、ブティックや代理店のネットワークを使って、もっと時計をお客様のお手元へお届けしていく、それが私の主要な活動です。

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実は、このインタヴューは、本サイトのレギュラー・ブロガーであるAy&Tyさんが紹介してくれている、「AP dinner」の場で行われたもの。(参照→ https://watch-media-online.com/blogs/423/

Ay&Tyさんも本文に書かれていたが、この夜は単なる食べて飲んでの会ではなく、参加されるメンバーにワイン通が多いということを知ったうえで練られた企画ディナーでもあった。

70年代、クオーツショックに見舞われたスイス時計産業が復興し今日に至る時の流れを、主にオーデマ ピゲの歴史になぞらえて、10年から5年区切りで語られ、そしてそれと同じ時代を今度はワインという視点から、ボルドーのシャトー、コス・デストゥルネル(Chateau Cos d'Estournel) の現オーナー一族のディミトリ・オーゲンブリック(Dimtri Augenblick)氏が語り、さらにその年代のワインを味わうという、ふたつのテーマの歴史が重なり合い、そこに不思議な共通点が見いだせたり、感動的な共感が生まれたりという、とても考えられた構成のイベントだった。

その、時計部分の語り部となったのが、誰あろうグローバル・ブランド・アンバサダーのクローディオ・カヴァリエールその人だったのだ。

●オーデマ ピゲを通して時計を語るクローディオ・カヴァリエール(右)と、ワインを語るミッシェル・レィビエ(左)

●ディナーにはコンプリケーション界の至宝、ジュリオ・パピ氏も参加。上下さかさまのグラスで貴腐ワインを飲み干し盛り上がる。


このインタヴューはそのディナーの合間を縫ってのもので、まさにアンバサダーとしてのクローディオ氏の腕前を拝見しながらの取材となったわけである。そしてインタヴュー後半へ。

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――エンドユーザーの声が一番届きやすい立場にいるわけですから、そうした顧客声や要望などを製作現場に届けたりするのですか?
C:はい。ですから、こういった特別なディナー・イベントに招かれるわけです。さらにはアートバーゼル、SIHH、そうしたイベントに参加しながら、私たちとお客様の素晴らしい出逢いの場を、あらゆる国で作っていくのです。

――どういう点をイメージして、そのプロダクトの伝え方を考えるのですか。
C:最初に、なぜこのプロダクトがあるのかという理由を考えます。そしてその”金のメッセージ“は何なのか、伝えたいメッセージは何なのかを問いかけます。それからはもう自然に発想が生まれてきます。

――ひとつの時計が生まれて、世界中でそのイベントをする際に、どういう見せ方をしたらいいかなどは、すべてあなたが考えるのですか。
C:そう、確かに。コンプリケーション機能が付く新作では、特にそうなります。例えばスーパーソヌリ。エンジニアと一緒に、時計の歴史から始まって、その時計の持つメッセージ考え、どういう説明をするべきなのかを考えました。そういう意味では関連しています。

――今年の新作で、ジュール オーデマのスーパーソヌリが出てくるとは予想できなかったのですが、当然のことながら、あなたは前からわかっていらしたわけですよね。
C:このスーパーソヌリのイノヴェーションで、ソヌリの付いた将来的なコレクションを考えたとき、わたしたちは、デヴューはジュール オーデマという、まずはクラッシックなケースに、スーパーソヌリのテクノロジーを最初に入れようと思っていましたから。

――去年、「なぜクラッシックなケースに入れないのですか?」と訊いたのに(笑)。
C:確かにそうだったね、覚えてるよ(笑)。

――オーデマ ピゲのロードマップというのは、もう何年先くらいまで出来上がっていのですか。
C:もちろん、たいへん先まで。数年、・・・3~4年は考えてあります。

――今年のオーデマ ピゲの新作を見た印象ですが、各社が最近の経済情勢に添って、大作を減らして売りやすい価格帯に力を入れている中、オーデマ ピゲにはそうした情勢では揺るがない確固たる自信や、ブレのない信念のようなものを感じたのですが。
C:オーデマ ピゲの信念、精密なコンプリケーションに最高のデコレーションという製作哲学は、創業時からなにも変わっていません。これを維持・継承するために、いかなる資本グループにも属さず、独立した企業であり続けることに大変重要な意味があると思います。すべてを自分たちで考え、すべてを自分たちで決断できること、その環境と実績とを私たちは持ち続けているのです。


――時計マーケットとしての日本市場についての印象を教えて下さい。
C:日本は重要で成熟した市場だと思います。高級機械式時計に対する知識も深く、ディテールへのこだわりを評価して下さいます。アートとしての時計づくりの背後にはどのような作業が行われているかという事も非常によく理解されていますね。また、日本では、様々なブランドが展開する技術的な選択肢を比較検討することを楽しんでいて、どれが自分にとって最適な選択かを理解するために、スタッフにも積極的に質問されます。これは他国ではあまり見られないことで、とても印象的です。

――最後に、日本のエンドユーザーの印象とエンドユーザーの方々へのメッセージをお願いします。
C:日本のお客様は、とても短期間のうちに、前項に述べたような内容とオーデマ ピゲとの間の繋がりを見出しました。つまり、オーデマ ピゲの時計が正統な長い歴史を持ち、常に前に進むブランドという立ち位置をより深く理解されるようになりました。非常に複雑で細部に至るまでハイエンドな仕上げが施された、時計を作る限られたブランドという事実も含めてです。ですから、日本のエンドユーザーの方々とは、できるだけ頻繁にお目にかかる機会を持って、私たちの時計づくりへの情熱とその価値を共有して行きたいと思っています。 

 

オーデマ ピゲが時計を通じで伝えること、それらは決して変わらず、そして決してブレることもなく、彼らの歴史の中に、確かな威厳をもってずっと存在している。だからこそ、世間的な耳目を惹きつけるアンバサダーの他に、そのブランドと時計を知り尽くしたクローディオのような存在がブランドには必要だったのだ。

そして今日も彼は世界のどこかで、ユーザーとブランドを繋いでくれているに違いない。