シリル・ブリヴェ-ノド エセントリシティにウォーム&コーンによるパワーリザーブ表示を追加したエセントリシティ リザーブ・ド・マルシェ

 By : CC Fan

2019年のバーゼルワールドのAHCIブースで出会ったフランスの時計師、シリル・ブリヴェ-ノド(Cyril Brivet-Naudot)氏
Manibus Factum(ラテン語で"手作り")というスローガンを掲げ、CNC(コンピュータ数値制御)を使用しないNo-CNCという体制で、伝統的な時計製造の技法を引き継いだ技法を用いた作品作りを行っています。

バーゼルワールドでオリジナルのリブレ・エキセントリック(libre excentrique)脱進機の模型を見ながら、これはロビン脱進機?デテント脱進機?としつこく聞いていた日本人を覚えていてくれたのか、ありがたいことに新作のプレスリリースを送っていただけたので抄訳とブログで紹介します。

古典をリスペクトしたウォーム&コーンによるパワーリザーブ表示を備えたエセントリシティの新作、エセントリシティ リザーブ・ド・マルシェ(Eccentricity Réserve de Marche)です。



オーナーのリクエストに応える時計作りを信条とする氏とコレクターの会話から生まれ、精度(クロノメトリー)の向上を目指すためのコンプリケーション、パワーリザーブ表示と巻き止めを兼ねた機構をエセントリシティに追加しています。

6時位置に追加された扇状のサブダイヤルがパワーリザーブ表示で、10時位置にある巻き上げ量と放出量の差を計算する差動装置からのレバーによってパワーリザーブ表示を駆動しています。
このレバーは天真ギリギリを通過するというなかなかエキセントリックな構造になっています。
脱進機本体は地板を貫通したムーブメントの逆側にあります。



角型の香箱真に取り付けられた歯車(巻き上げ量)とその下の香箱の回転(放出量)の回転が、同軸で重なった中間車を経て、10時位置の差動装置に到達します。
差動装置が巻き上げ量と放出量の差を計算してレバーを動かし、パワーリザーブ表示を駆動します。
更に、差動装置が一定以上の差が発生した場合回転しないようにブロックすることで巻き止めの作用も兼ねています。



古典に範を取ったウォーム&コーン(円錐)による差動装置。
この機構については同様の機構を用いたフェルディナント・ベルトゥーのFB1の記事もご覧ください、アーミンシュトロームのデュアルタイムレゾナンスも同様の機構です。

入力が二つあり、片方の回転がコーンの中心にあるウォームギアを回し、もう片方の回転が二つのピンを経由してコーンを回します。
二つの回転はどちらもコーンを上下させる動きになり、同じ方向に同じ分だけ回った場合はコーンは動かず、回転数に差が発生するとコーンが上下します。
コーンが上下することで断面の直径が変化するため、それをレバーで読み取れば、それは回転の差、すなわち巻き上げ量と放出量の差、パワーリザーブです。

リブレ・エキセントリック脱進機のブリッジのデザインと調和するようなスプリングでレバーにテンションがかけられています。



巻き上げと時合わせはリュウズではなくダイレクトに回すカギ巻きで、香箱真を回すのが巻き上げ、ダイヤル直下にあるのが時合わせです。



ダイヤルは外周のインデックスとブルースチールのポインターで分を表示し、分のディスクの上に55分から60分の間に1時間分進むセミジャンピングアワー表示が載ったエセントリシティと同様の表示方式ですが、時刻表示の一部をローマ数字にすることによって読み取り性を向上させています。

百聞は一見に如かずだと思うので動画で動作をどうぞ…



分表示(外周)が55分から0(60分)に近づくと、ディスクの上に載っているセミジャンピングアワーが1時間進んでいます。

特徴的なリブレ・エキセントリック脱進機も動画で見た方が分かりやすいでしょう。



ガンギ車が直接天真に衝撃を与えるダイレクトドライブによる高効率駆動と、アンクルの左右振り分けによる二状態を交互に取ることで「すっぽ抜け」が起きないようにしてスイスレバーと同様の安全を確保していることが分かります。



動画のモノと比較し。土手ピンや調整ネジが追加されているようで細かい改良が加わっているようです。



このピースはPièce d'essai(テスト機)ということで、ここから良いオーナーに巡り合って作品を作り上げてほしいと思います。
このケースは38.5mmと古典的なサイズです。

いただいている写真をいくつか…









「手の感覚」によって作り出されるパーツ群の写真もいくつか…



大型のテンワ。



リブレ・エキセントリック脱進機のガンギ車。





香箱も削り出しで。



アイコニックな歯車。

この他、部品の写真はいっぱいあるので、「メイキング編」に分けた方が良いかも?!

自身の2019年のレポートを読み返しましたが、こういうのをフラッと発見できたのは展示会のメリットでしたね…


関連Web Site
Cyril Brivet-Naudot Manibus Factum
http://brivet-naudot.com/index.php/en/home/