「WATCH MEDIA "OFF"LINE サロン#5」フェルディナント・ベルトゥー・イベントで チェーンフュゼ、コーンパワーリザーブ、月齢表示を見る!

 By : CC Fan

先頃、「WATCH MEDIA "OFF"LINE サロン#5」として、フェルディナント・ベルトゥーの作品を見る会が行われました。

その素晴らしさはWMOでも幾度と取り上げてきましたが、やはり"実機を見てこそわかることがあると、作り手が込めた情熱を直接伺いたい!"という事で、プロジェクトを率いたカール・フリードリッヒ・ショイフレ共同社長を招いてのイベントの予定…でしたが、昨今の状況を踏まえてジュネーブを離れるわけにはいかない!と、苦渋の選択で来日がキャンセルとなり(そのあとの大騒ぎを考えると本当に大変な状況だったんだろうなとは思います)、ショイフレ氏の来日は叶わなくなってしまいましたが、なかなか見られる機会のないフェルディナント・ベルトゥーの実機という事で、素晴らしい愛好家の方々が集まりました。



ショパールジャパンのトーマス・ドベリ氏よりフェルディナント・ベルトゥーの復活にまつわるエピソードが語られます。
もともと、ヒストリカル・ウォッチのコレクターとしてベルトゥーのマリンクロノなどを集めていたショイフレ氏、ある時ベルトゥーの名前を商標登録しETAのエボーシュを使った時計ブランドとして販売しようとしている人物の存在を知り、ベルトゥーの名前を守るため、その商標権を買い取ります。

その後、フェルディナント・ベルトゥーをブランドとして復活させることはあまり考えていなかったそうですが、ベルトゥーの生家がL.U.C ムーブメントの製作拠点であるフルリエから徒歩5分ほどの近さにあったことや、その当時に入手したベルトゥー作品の素晴らしさに運命的なものを感じたショイフレ氏は、優秀な時計師を雇ってプロジェクトをスタートさせ、マリンクロノメーターをイメージした鎖巻きトゥールビヨン、FB.1を完成させます。
部品製造などでショパールマニュファクチュールとの協力は得ているそうですが、組み立ては完全に別、L.U.Cよりもさらに厳しい基準で組み立てられ、COSCは最低条件のクロノメーター精度を実現しているそうです。



航海がメインの時代は、正確な時計とそれをもとにした天測航法はそれだけで航海の安全度を飛躍的に高めたため”兵器”と同等の扱いの国家機密で、正確なマリンクロノメーターは値千金の技術だったことなどが語られます。



そしていよいよ、お店に置いてあるわけではないので、通常ではほとんど見ることのできない実機登場!
今回は、レギュレーターのFB.1Rと高精度月齢表示のFB.1Lが二つ。
残念ながらレギュラーのFB.1は無し。
また、ショイフレ氏がハンドキャリーで持ってくるはずだった"✕✕✕✕"も無しでした。



その代わり、バーゼルやSIHHで使用していた構造模型は届いていたので、これで機構を説明しましょう! という事に。



まずはベルトゥーといえばこれ、チェーン(鎖)とフュゼ(円錐)を用いたコンスタントフォース(コンスタントトルク)装置です。
左側の円筒状の香箱にゼンマイが入っており、そこに巻きつけられた極小のチェーンがフュゼによって巻き取られることで巻き上げが行われます。
ゼンマイが解けるにつれ香箱の出力トルクが下がりますが、その分フュゼの直径が大きくなることで変速比が変わり、フュゼ出力のトルクは一定になる仕組みです。



香箱の上にはゼネバ歯車による巻き止め機構も備えられ、フュゼ自体は香箱7回転分ありますが、巻き止めで5回転に制限することでチェーンのテンションが完全になくなってしまう全開放とトルクが急激に上昇する全巻きの領域を使わないようになっています。
真に”おいしいところ”だけを使うのでパワーリザーブは53時間ですが、クロノメーターは毎日巻くことが必須なのでこれでも十分すぎるほどのパワーリザーブです。

香箱芯から巻き上げて香箱外周から出力する通常香箱と違い、チェーンフュゼは巻き上げも出力も香箱外周で行います。
香箱芯は組み立て・分解時に初期テンションの設定と開放に使いますが、通常固定です。
このことが意味することは、巻き上げるときはどこかで力を遮断して、巻き上げの力が香箱家に伝わるようにしないと、輪列全体が逆回転してしまうという事です。
それを担うのが青色のパーツの遊星歯車によるワンウェイクラッチで、このパーツは香箱が解ける方向に力がかかっている時だけ輪列に力を加え、香箱を巻き上げる方向では空回りします、これにより巻き上げの時の力は香箱のみに伝わり輪列には伝わりません。

続いてはこれ、コーンとウォームギアを使ったパワーリザーブインジケータの計測装置です。
チェーンフュゼなのでチェーンを可視化しておけばパワーリザーブは見えるのですが、それだけだとわかりにくいよね…という事で針表示のパワーリザーブを実現するものです。



中央のウォームギアが固定されており、下側の黒い歯車から伸びた2本の柱でコーンが回転されるとウォームギアに沿ってコーンが上下します。
コーンが上下することで直径が変化するので、側面からレバーで読み取ることで、レトログラード式のパワーリザーブインジケーターを駆動します。



黒い歯車は香箱外周に直結しており、香箱は巻き上げも開放も外周から行うのでその回転を見ればパワーリザーブを計測可能です。
この機構自体の元ネタは古典にあり、古典ではウォームギア側も動かすことで差動装置として使っているのですが、チェーンと組み合わせているのでこのような方法になっているようです。



最後はこれ、初代ベルトゥーの均時差表示機構から着想を得たという月齢表示です。
ムーブメント外周部に配置された大型カムプレートをリニアに動くレバーで読み取り、月齢約29.5日を新月から満月、そして新月へと折り返して表示します。
この表示は月の形ではなくより正確な月齢を表現することを目的にしており、”577年で1日”の誤差とされています。

調整も直感的で、4時位置にある”モードスイッチ”をL(月齢)に切り替えた状態で竜頭を引くと外周のカムを直接リュウズで連続的に動かして調整することができます。
プッシャーのように1回の送り量が決まっておらずより直感的です。

この機構を備えたモデルではパワーリザーブ表示はムーブメント側に動かされておりより月齢表示に集中することができます。



裏からの世界ももちろん素晴らしく。
レギュレーターモデルはパワーリザーブ計測機構の部分がスケルトナイズされておりコーンを直接見ることができ、ムーンフェイズモデルはパワーリザーブ表示の針がムーブメント側にあることがわかります。

また、これだけは文章では絶対に伝わらないので実体験してほしいのは巻き味です。
絶妙な感触でカリカリを巻けるのは本当に楽しい、毎日巻けるのは幸せです。。



”OFFLINE”というスタンスなので、後半はOFF会的なご歓談となり、皆様の時計での集合写真も!
クロノメーターという事で、天文台デテントクロノメーター君も久しぶりに登場。
”初代”ベルトゥーの”後輩”なので、トータルでは”先輩”!?
パテックの凄い奴も…

ベルトゥー、仕様上は44mm径ですが、8角形のケースで1辺をベルト取り付け部にしてラグがない構造なので、数字ほどは大きく見えませんし、チタンであればかなり軽くて使いやすいと思っています。
このサイズに関しては、クロノメーターとして考えたときの耐久性や精度、”大きさは全てを解決する”ではないかと思っています。



GPHG金の針賞(大賞)クロノメトリー賞のトロフィー(本物)。
デヴュー作品にして大賞の「金の針賞」を受賞するという快挙を成し遂げた際のもの!



イベント終了後も話は尽きず…
最後に残ったレアな時計でもう一枚。


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